ナタリー PowerPush - YAPAN
廣山陽介ソロプロジェクト、ついに本格始動
去る8月27日、横浜アリーナで開催された「WIRE 11」での初ライブにて本格始動を果たしたYAPAN(ヤーパン)。これはRYUKYUDISKOの双子の弟、廣山陽介による新プロジェクトだ。テクノと琉球音階の融合をフィーチャリングボーカルでポップに広げてみせた近年のRYUKYUDISKOに対して、YAPANのデビューアルバム「Hello World」は国境やジャンル、ダンスフロアという枠組みを超え、開けた空間に向けて、エレクトロニックミュージックの可能性をカラフルに広げてみせた作品だ。
RYUKYUDISKOとしての彼はよく知られているが、YAPANでの彼は知られざる廣山陽介その人のフレッシュな音楽世界を構築。このアルバムには彼が伸びやかに追求するエレクトロニックミュージックの可能性と驚きが広がっている。2011年10月12日をスタート地点に、彼が描き始めるサウンドスケープとは果たしてどんなものなのだろうか? まさにその第一歩を踏み出したばかりの彼に話を訊いた。
取材・文 / 小野田雄
YAPANで重視したのは究極的には自分自身
──RYUKYUDISKOのアルバム「pleasure」から2年経ちましたけど、ツアーが一段落して以降、2人を取り巻く状況はどのように変化していったんですか?
RYUKYUDISKOとしては「次どうしようか?」ってところで、ツアー後の単発ライブをやりながら、ライブ用の新曲も作りつつ、次回作は半分くらいできている、そんな状況だったんです。ただその時点で「このまま活動を続けるのはどうなんだろう?」っていう疑問が生まれて。
──どういうことでしょう?
RYUKYUDISKOでの共同作業を通じて、2人の間でしっくりこない部分が出てきたんですよね。次の作品についてのビジョンが共有できていなかったというか。そういう状況を踏まえて、まあ僕らは兄弟として長く付き合ってきたわけだから、ここであえて急ぐ必要もないし、途中まで作っていた作品は置いといて、それぞれソロ活動をしていくことにしようかって。そういう話になったのがちょうど1年くらい前ですね。
──そして、その時点からソロをスタートさせるにあたって、陽介くんの中にはソロ活動についてのアイデアはありました?
実は以前から「ソロで活動するならこういうことをやってみたい」っていうアイデアはあったし、RYUKYUDISKOの活動期間中にそれを形にしてみたこともあって。RYUKYUDISKOとは違うもの、今まで手を付けていなかった新しいものが頭の中にあったので、ソロでそれを実践してみようと思ったんです。
──近年のRYUKYUDISKOというのは、テクノをベースに、それをいかにより多くのリスナーに届けるかというテーマのもと、ボーカリストをフィーチャリングすることが多かったと思うんですけど、YAPANではアプローチが異なると。
そうですね。ポップさは必要だと思うんですけど、YAPANで一番重視したのは、究極的には自分自身なんですよね。そして今回はその第一歩なので、フィーチャリングも沖縄っぽさもなく、自分自身をとことん追求してみたんです。
不協和音が入ってるくらいが自分にとってはちょうどいい
──ダンスミュージックというのはダンスフロアでの機能性を考えて、ミニマルならミニマル、テックハウスならテックハウスと、枠組みが先に立つことが多いと思うんですけど、今回の「Hello World」はそういう枠組みありきで作られていないというか、自由にはみ出している部分が非常に魅力的に感じました。
そうですね。ダンスミュージックのフォーマットに則ってる曲は半分くらいしかないですしね。RYUKYUDISKOの場合だと、4つ打ちで琉球音階からスタートすることが多いんですけど、YAPANは僕1人だし、フォーマットも決まってない全くの白紙状態から曲を作り始めるので、最初の取っかかりが自由に決められるんですよね。もっともそういう自由な曲作りの作業は、調子が悪かったりするとかなり難航するんですけど。今回はドツボにハマることもなく完全に自分1人の世界で自由を楽しみながら作ることができましたね。
──YAPANにおける曲作りはどういうところから始まったんですか?
元々描いていたビジョンとか作ってみたかった音楽の妄想……そういう漠然としたものを1つひとつ思い出しながら、手を動かしながら形にしていったので、作業としては抽象的な感じですよね。ダンスビートの曲は4つ打ちのシーケンスから始めていくやり方に慣れているので、自分の中では形にしやすいんですけど、今回はそれ以外のやり方にチャレンジしたくなったんですよ。だからこそ作業は大変だったし、同時に面白くもありましたね。
──収録曲の半分はビートアプローチも既成のフォーマットを外れた変則的なものですしね。
そうですね。外のスタジオやフロアを意識したら、今回とは違うものが生まれたと思うんですけど、家で作るものはフロアとかライブハウスの現場感覚とは違うし、“家聴き”できるビートを構築しようとすると、自然と凝ったものになっていくんですよね。まして今回は自宅のプライベートスタジオ空間での作業だったんで、より凝った方向に向かっていったんだと思います。
──じゃあ、あえて変則的な作品を狙ったわけではなく?
自分の傾向として、新鮮な刺激を求めると、既成の音楽フォーマットを外れていく傾向にあるというか。そういう新しいチャレンジを形にした音源は、自分で聴き返しても面白いんですよね。だから、あまり細かいことを気にせずはみ出して「これホントに音楽なのか?」っていうようなものも出てきたりするんですけど、歌だったら音痴くらいがちょうどいいというか、不協和音がいくつか入ってるくらいのものが自分にとってはちょうどいいみたいです。
──ただし今回のアルバムはリスニング指向の作品ではありつつ、沖縄のレギュラーパーティ「metaphorik」や全国でのDJ活動など、そういう現場からのフィードバックも当然ありますよね。
それはありますね。リズムを作るときはDJでかけてる曲のグルーヴが体に残っているうちに作業することももちろんあって、ミニマルな9曲目の「Metaphor」なんかはまさにそんな感じで作りました。ただ、YAPANはまた始めたばかりだし、ダンスミュージックシーンとどうかかわっていくかはこれからの広がり方次第。その辺は徐々にやっていくことになると思います。
CD収録曲
- China Talker
- Party People
- Yapclap
- Sunshine World
- Beauty
- Naha City Hotel
- CT2.Edit
- Simple Girls
- Metaphor
- Into the Wild
- Dormitory Dream
- Past Days
廣山陽介(ひろやまようすけ)
沖縄県出身のトラックメイカー、DJ。双子座左利き。2002年に双子の兄・廣山哲史とテクノユニットRYUKYUDISKOを結成し、地元沖縄のクラブで活動をスタートさせる。2004年6月に1stミニアルバム「LEQUIO DISK」をインデ ィレーベルPlatikから発表。同年「WIRE04」に出演し、注目を集める。2007年にはKi/oon Recordsに移籍し、これまでに5枚のシングルと2枚のフルアルバムをリリース。並行してDJ活動も行っている。
2011年よりソロ活動をスタートさせ、沖縄でレギュラーパーティ「metaphorik」を始動。さらにYAPAN(やーぱん)名義で8月の「WIRE 11」にて初ライブを行い、同年10月に1stアルバム「Hello World」をリリースする。