家主「石のような自由」インタビュー|aiko、岸田繁、草野マサムネらが称賛する4人組バンドに迫る (2/3)

イリエくんに借りたCDが礎になっている

──そもそもこのバンドはどういうふうに始まっているんですか?

ヤコブ 2013年に大学のサークルの先輩後輩で結成しました。もともと私は1人で曲を作って演奏して録音する活動をずっとしていたんですけど、その中でバンドで演奏したほうが映えそうな曲ができ始めて。それがちょうどこの2人(悠平、岡本)が大学を卒業したくらいのタイミングで、何もしてなさそうだったんで声をかけました。最初は谷江さんはまだいなくて、スリーピースで。

岡本成央(Dr) もともと自分は彼の作る曲のファンみたいな感じだったので、喜んで誘いに乗りました。サークルの中でドラムをやる人があまりいなかったので、ドラムに関しては私以外の選択肢がなかっただけかもしれませんが(笑)。

悠平 私は今ベースを弾いているんですけど、このバンドに誘われるまではそんなに弾いたことがなくて。「田中さんはベースで」と言われて「えっ? 俺がベース?」と何回も聞き返したのを覚えてます(笑)。

岡本成央(Dr, Cho)

岡本成央(Dr, Cho)

田中悠平(Vo, B)

田中悠平(Vo, B)

ヤコブ ただ、結成はしたもののしばらくは大した活動もしておらず、「誘われたら出演する」くらいの感じで細々とライブ活動を続けていました。そしたらあるとき谷江さんがライブを観に来てくれて、「バンドに入れてほしい」と言われたので「いいですよ」と(笑)。それで4人組になって。

谷江 ヤコブとはけっこう年齢が離れていて、同じサークル出身といっても在籍時期は被っていないんですよ。とはいえ小さなコミュニティなので、部員のことは全員知っているような感じで。だからこそ、僕は当時32歳になっていたんですが「もう1回バンドやりたいから入れてよ」と軽々しく言えたというのはありますね。確実に断られると思ったんですけど、あっさり「いいっスよ」と言われたので逆に反応に困りました(笑)。

ヤコブ 谷江さんが学生時代に組んでいたバンドの音源がサークル内に受け継がれていて、そこで聴いた谷江さんの曲がすごくよかったんですよ。それもあって、谷江さんがギターを弾けていい曲を作れる人だというのはなんとなく知っていたんです。

──なるほど。さらにさかのぼって、4人がそれぞれ音楽を始めたきっかけについても教えてください。

ヤコブ 私は親がもともとバンドをやっていて楽器ができたこともあって、音楽を聴くことや歌うことには小さい頃から自然と触れてきてはいました。ギターを始めたのは中学2年生のときなんですけど、それまでずっとやっていた野球を辞めて、することがなくなっちゃって。それで、家にあったギターで当時めちゃくちゃ好きだったTHE BLUE HEARTSの曲を弾いてみたら意外と弾けたんで、「自分、ギター弾けるのかも」と思ったのが最初ですね。

──自分で曲を作り始めたきっかけは?

ヤコブ 高校に入って、くるりとかを聴くようになってからですね。「自分もこういう曲を作ってみたいぞ」という気持ちが出てきて、ちょこちょこ作り始めて……ただ、周りに音楽をやっている人がほとんどおらず、メンバーを探す外交力みたいなものもなかったんで、バンドを組むには至りませんでした。それで「自分でやったらどうなるんだろう?」と思ってベースやドラムを演奏してみたらこれまた意外とできたんで、そこから1人で曲を作ることにのめり込んでいった感じです。

田中ヤコブ(Vo, G)

田中ヤコブ(Vo, G)

谷江俊岳(Vo, G)

谷江俊岳(Vo, G)

──谷江さんがギターを始めたのは?

谷江 高1くらいのときですね。小4からピアノを習ってたんですけど、周りがみんなうますぎて「もうピアノは無理だ」と中3の段階であきらめて(笑)、「ギターならなんとかイケるんじゃないか」と考えてギターを買ったのが最初です。それで雑誌の「ヤング・ギター」を買ったらエディ・ヴァン・ヘイレンが特集されていて、記事の中で彼が「1日8時間練習した」と言ってたんですよ。「ということは1日8時間練習すればヴァン・ヘイレンになれるんだ!」と思って、高校時代は毎日4、5時間欠かさず練習してました。まあヴァン・ヘイレンにはなれなかったですけど。

──それもなかなか珍しい逸話というか……「エディのプレイに衝撃を受けてギターを手にした」とかだったらわかるんですけど、「たまたま本に載ってたからエディを目指した」という話ですよね?

谷江 そうです。

──ハードロックはもともと好きだったんですか?

谷江 いえ、全然。もともと音楽はあまり聴かないほうだったので。

──そうなってくると、なぜ「ヤング・ギター」に手を伸ばしたのかもだいぶ謎ですけど(笑)。その後、音楽を聴くことも好きになっていく感じですか?

谷江 そうですね。ギターを始めてからはメロコアとか、当時の流行りものを中心に聴くようになりました。あと、学校にイリエくんという洋楽好きの友達がいたので、Oasisとかを貸してもらったり。イリエくんに借りた数々のCDが僕の音楽的な礎になっていますね。

家主

家主

楽器を買うのが嫌でドラムを選んだ

──悠平さんは、最初に持った楽器がベースではないというお話でしたが。

悠平 はい、最初はギターでした。高校のときに同じクラスのスズキくんに誘われて始めた感じですね。もともと姉が音楽好きだったので、NirvanaとかRed Hot Chili Peppersとかがよく家で流れていて聴いてはいたんですけど、自分でやりたいとは一切思ったことがなかったんです。でもスズキくんが声をかけてくれたんで、まあスズキくんが言うならと思って。

──それでいざ始めてみたら面白くなっちゃって?

悠平 基本的にはそうですね。でもうまくなりたい欲はそんなになくて、それよりも曲を作れる人がカッコいいなと思ってたんで、大学に行ったら自分で曲を作りたいなと思ってました。特に、大学で入った私たちのサークルは基本的にオリジナル曲を演奏することが前提みたいなところだったんで。

ヤコブ 「コピバンはダサい」みたいな謎の価値観が蔓延してましたよね。

悠平 拙くてもいいから、とにかく自分たちで作った曲を演奏しようっていう。

田中悠平(Vo, B)

田中悠平(Vo, B)

──なるほど。岡本さんがドラムを始めたのは?

岡本 高校で軽音部に入ったときに始めました。入学当初、クラスで席が近かったコジマくんに「軽音部に入ろうと思うんだけど、一緒に入らない?」と誘われて、それもいいなと思って入部したんですけど……いざ入部届を出してみたら、言い出しっぺのコジマくんはなぜかフットサル部に入っていて(笑)。

──あらら。そこでドラムという楽器を選んだ理由は?

岡本 ギターとかを買うのが嫌だったからです。ドラムは部室にセットが置いてあるので、自分で楽器を買わなくてもやれますから。

岡本成央(Dr, Cho)

岡本成央(Dr, Cho)

──確かに(笑)。なんというか、ヤコブさん以外は皆さん入り口が極めてぼんやりしてますよね。のちの名プレイヤーのエピソード0には到底聞こえないというか。

一同 はははは。

──ところで、谷江さんにはイリエくん、田中さんにはスズキくん、岡本さんにはコジマくんというキーパーソンが登場しましたが……。

ヤコブ 私にとっては、それはヒグチくんですね。自分が今までに出会ってきた中で一番うまいギタリストです。中学時代の同級生なんですけど、同時期に野球部を辞めた同士でもあって。で、私が「ギター始めたんだよね」と話したら「俺も家に姉貴のギターがあるから始めてみる」と言い出して、めきめき上達していったんですよ。大いに切磋琢磨した間柄です。

谷江 ヒグチくんは、僕ら界隈では有名人で(笑)。

ヤコブ そのヒグチくんが当時使っていた“姉貴のギター”を、実は今回のアルバムで多用しておりまして(笑)。HISTORYの赤いストラトキャスターなんですけど……。

谷江 1曲目「SHOZEN」の1発目のギターからいきなりそうだよね。

ヤコブ あのイントロをはじめ、アルバムの至るところでヒグチ姉ギターのサウンドを堪能できます(笑)。