ナタリー PowerPush - yanokami
rei harakamiへの思いを乗せて 矢野顕子が語る「遠くは近い」
「この球受けてみろよ」という感覚
──今回はカバー曲も面白いですね。特にオフコースと荒井由実さんのカバーは意外でした。
そうなんですよ。ユーミンもオフコースも、私がやりたいって挙げたんですけど、そしたらハラカミさんも実は大好きだっていうことで。
──そのあたりの趣味が合うんですね。
わりとねえ、そうですね。
──実際カバーしてみていかがでした?
結局アレンジはハラカミさんが作っていて、それに私がピアノとギターを乗っけたんですが、とにかく「瞳を閉じて」も「Yes Yes Yes」もコードの複雑さ、コード進行の激しさっていうのがすごくって。聴き取りだけで2晩か3晩かかったかな。非常に難しかったです。
──原曲はそれほど複雑な曲ではないですよね。
「瞳を閉じて」とか、かなりシンプルな曲のはずですけど。
──ハラカミさんのセンスでコードを付け直しているわけですね。そういうファイルが届いたときは、どういう気持ちで聴かれるんですか?
まあ、非常に複雑なときは多少腹も立ちますねえ。
──あはは(笑)。
っていうかね、私たちの間でやはり「この球受けてみろよ」っていう感覚もありまして。もちろんお互いに対する敬意があってのことですけれども、ハラカミさんとしてはトラックを作るときに「このトラックに矢野顕子がどう反応するか見てみたい」というのはかなりあったと思うんです。その応酬を楽しめるのは、一緒に作業してないやり方のいい点ですよね。
即興演奏が自分の音楽の大きな部分を占めている
──今回に限らず矢野さんが何かの楽曲をカバーする場合、メロディも譜割りも原曲からずいぶん離れるケースが多いと思うんですが、こういったスタイルになるのはなぜなんですか?
そうですね。奇をてらってるわけではないし、複雑にするほうが面白いと思ってるわけでもないんです。ただ私にとって、即興演奏っていうのが自分の音楽の大きな部分を占めてますから、「元の曲を聴いて私はこう反応した」という感覚が私のアレンジになるわけですね。その曲が私をそうさせた、ということなんです。
──しかもyanokamiでは、ハラカミさんも自分なりのアイデアを加えてくるから、両者が合わさった際の面白さもありますしね。
これは本当にyanokamiならではのものだと思いますね。
──矢野さんとハラカミさんが気持ちいい方向、面白いと感じる方向に引き寄せられた結果、このカバーができあがるということなんですね。
もちろん。私たちはそういうものを作ろうと思ってやってるわけですから。
rei harakamiの音楽を絶やすわけにはいかない
──矢野さんはソロを始め、いろいろな形で活動されていますが、yanokamiというのは今の矢野さんにとってどういう存在なんでしょうか?
“健康”みたいなものですかね。失って初めてわかる大切なもの。rei harakamiがいなくなるっていうのは誰も考えてませんでしたからね。世の中の誰1人として考えてなくて、それはそこにあって当たり前って思ってたわけです。だから、なくなっちゃったらね、どうしたらいいの?っていう感じ。
──そうですね。
ただ、このアルバムは「yanokamiの最終アルバム」っていうふうに言われてますけど、「なんとか最終アルバムにしないようにできないかしら」って思ってます。具体的に何かあるわけじゃないんですけど。でもrei harakamiの音楽を絶やすわけにはいかないのよ、本当に。宝なんだから。
──最後に、yanokamiの今後についてファンの皆さんにメッセージをいただけますか?
はい。yanokamiはこれからも存在します。ハラカミさんはなかなかステージには出てこないですけど、音楽は存在してますし、このアルバムにハラカミさんが込めた気持ちっていうのをぜひみんなで共有したいと思っています。私もyanokamiの半分として、今は母親と父親両方を兼ねてるような状態ですが、本当は2つで1つのサウンドですから、ぜひそれを感じ取ってほしいです。それで、みんなで歌って楽しんでほしいなって心から思っています。
CD収録曲
- Don't Speculate
- 曇り空(荒井由実カバー)
- See You Tomorrow
- Yes Yes Yes (オフコースカバー)
- Don't Speculate (rei_nuki U-zhaan_mori version)
- Bamboo Music (坂本龍一&David Sylvianカバー)
- yanokamintro
- 瞳を閉じて(荒井由実カバー)
- Ruby Tuesday (The Rolling Stonesカバー)
CD収録曲
- yanokamintro
- Don't Speculate(inst.)
- 曇り空(inst.)
- Bamboo Music(inst.)
- Ruby Tuesday(inst.)
- Yes Yes Yes(inst.)
- 瞳を閉じて(inst.)
- See You Tomorrow(inst.)
オンエア情報
-
yanokami SPECIAL
スペースシャワーTV
2011年12月21日(水) 24:00 ~ 24:30[リピート放送]スペースシャワーTV
2011年12月26日(月) 22:00 ~ 22:30[リピート放送]スペースシャワーTV
2012年1月1日(日) 23:30 ~ 24:00
ほか<出演者>
yanokami / U-zhaan -
レイハラカミ・トリビュート
NHK-FM 2011年12月17日(土) 21:00~23:00
<出演者>
矢野顕子 / U-zhaan / 山口一郎(サカナクション)/ 砂原良徳<コメント出演>
細野晴臣 / 原田郁子(クラムボン)/ 菊地成孔
yanokami(やのかみ)
矢野顕子とrei harakamiによる音楽ユニット。2003年、harakamiが手がけた「ばらの花」(くるり)のリミックスに矢野が感銘を受けたことをきっかけに交流が始まり、ライブでの共演を経て、細野晴臣「恋は桃色」のカバーを共同制作。2007年4月発売の「細野晴臣トリビュート・アルバム -Tribute to Haruomi Hosono-」に「yanokami」名義で参加する。その後も水面下での制作活動を続け、2007年8月に1stアルバム「yanokami」、2008年3月に英語版アルバム「yanokamick」を発表する。harakamiが2011年7月に脳出血のため急逝。2011年12月に、2ndアルバム「遠くは近い」とインストゥルメンタルアルバム「遠くは近い -reprise-」をリリースした。