ナタリー PowerPush - yanokami
rei harakamiへの思いを乗せて 矢野顕子が語る「遠くは近い」
矢野顕子とrei harakamiによるユニット、yanokamiが2ndアルバム「遠くは近い」とインストゥルメンタルアルバム「遠くは近い -reprise-」を2枚同時リリース。ナタリーではこれを記念して、矢野顕子にインタビューを実施し、今年7月に急逝したrei harakamiとのエピソードや、アルバムに込めた思いについて話を訊いた。
なお、このインタビューはスペースシャワーTVの特別番組「yanokami SPECIAL」公開収録の会場で行われた。番組は12月21日(水)24:00からオンエアされる。
取材・文 / 大山卓也
今までに聴いたことのないyanokamiを
──「遠くは近い」と「遠くは近い -reprise-」完成おめでとうございます。2枚ともに素晴らしいアルバムになりましたね。
ありがとうございます。私たちがこのアルバムを作ろうと思ったときから目指してたのは“新しいyanokami”なんです。今までに聴いたことのないyanokamiを作ろうって。ですから、私にとってもハラカミさんにとっても非常に意欲的なアルバムになりました。
──ハラカミさんと一緒に作り上げた最後の作品ということになりますが。
そうなんですけど、ハラカミさんは、このアルバムが自分のyanokamiとしての最後のアルバムになるとは思わずに作ってるわけですし、私たちもいいものを作ろうという気持ちだけで作っています。だから感傷的な思いもありますが、とにかく“音楽”を聴いていただきたいと思いますね。彼自身が完成をすごく楽しみにしていましたから、ぜひぜひ皆さんにしっかりと、そしてなるべく多くの方々に聴いていただきたいです。
──「遠くは近い -reprise-」は歌のないインストゥルメンタルアルバムですね。
ハラカミさんのトラックだけのアルバムは、今までrei harakami名義ではありますけど、yanokamiでは初めてですから。yanokamiでどういうふうに音を組み立てているのかっていうのが今回初めてわかりますし、私自身もそれ単体で聴くっていうことはあまりなかったんで、非常に新鮮ですね。
──「歌がないほうが良い」というわけではないですが、「歌がなくても良い」と感じました。
私も本当にそう思います。だから皆さんちゃんと2枚お買い上げになって(笑)。それで歌を歌ったり、自分でタブラ叩いたりとか、そういうのを一緒にやってみたらどうかなと思うの。皆さんがそれをやったものをすごく聴きたいし、ハラカミさんだって「えー! こんなんなるんだ!」って絶対面白く思ってくれると思いますね。
制作はファイルの解析から始まる
──「遠くは近い」というアルバムタイトルは、どういう意味なんでしょうか?
rei harakamiの音楽は、今遠くにあるようだけど、実は私たちのそばにあるということですね。ハラカミさんの新曲を聴くことは当分ないわけですが、彼が遠くに行っちゃったからもう忘れていいんだ、ということじゃなくて、逆にこう、皆さんの手元に引き寄せていただきたい。私はそうしてるつもり。ここまで来たからには「離すもんか!」と思ってます。
──アルバムの制作自体はいつ頃から?
去年からやってましたけど、私たちはそれぞれが独立したミュージシャンなんで、それぞれの仕事があって、その合間を縫ってスケジュールをとり、しかも実際に一緒に机を並べて作ってるわけではないので、片方が録音しているときにはそれを待って、到着したファイルを元にもう片方ががんばるという。だからどうしても時間がかかるんです。
──たいへんな作業ですね。
送られてきたファイルの解析から始まりますからね。コードネームも譜面も存在しませんから、それを全部聴き取って「ここにどんな歌とピアノを乗せようか」っていうのを考えていくという。
──矢野さんが歌とピアノを入れた音源に、ハラカミさんが再度手を加えていくんですか?
そうですね。何か足したりとか引いたりとか、それをミックスするのも彼の役割ですから。私としては渾身の「この音に魂込めたのよ!」みたいな音が「あ、入ってない……」ということもありました(笑)。
予測だけで物事を運ぶわけにはいかない
──アルバム収録曲のうち「Don't Speculate」は、バージョン違いで2回収録されています。やはり特別な思いがあるんでしょうか?
この曲は歌詞が付いてない状態で、ハラカミさんのトラックが先にできたんですけど、そのすぐあとに、震災が。
──なるほど。
それでメッセージというか、そういう感じが強くなりましたね。
──歌詞には力強い言葉が並んでいますが、「Don't Speculate」というのは日本語に訳すとどういうニュアンスになりますか?
「Speculation」っていうのは、……予測? 例えば株価っていうのは、今この株がいくらで、次の日いくらになるかっていうのを誰かが決めてるわけではなくて、あの会社は今度新製品が出るらしい、だったらこの会社は儲かるなってみんなが思うことによって株価が高くなったりするわけですよね。
──そこに根拠がなくても物事が動いていく。
そう、だから「Speculation」で物事を運ぶわけにはいかないっていう気持ちを込めて。予測だけで「どうしようどうしよう」って思ってたら楽しくないじゃん?みたいな歌です。
CD収録曲
- Don't Speculate
- 曇り空(荒井由実カバー)
- See You Tomorrow
- Yes Yes Yes (オフコースカバー)
- Don't Speculate (rei_nuki U-zhaan_mori version)
- Bamboo Music (坂本龍一&David Sylvianカバー)
- yanokamintro
- 瞳を閉じて(荒井由実カバー)
- Ruby Tuesday (The Rolling Stonesカバー)
CD収録曲
- yanokamintro
- Don't Speculate(inst.)
- 曇り空(inst.)
- Bamboo Music(inst.)
- Ruby Tuesday(inst.)
- Yes Yes Yes(inst.)
- 瞳を閉じて(inst.)
- See You Tomorrow(inst.)
オンエア情報
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yanokami SPECIAL
スペースシャワーTV
2011年12月21日(水) 24:00 ~ 24:30[リピート放送]スペースシャワーTV
2011年12月26日(月) 22:00 ~ 22:30[リピート放送]スペースシャワーTV
2012年1月1日(日) 23:30 ~ 24:00
ほか<出演者>
yanokami / U-zhaan -
レイハラカミ・トリビュート
NHK-FM 2011年12月17日(土) 21:00~23:00
<出演者>
矢野顕子 / U-zhaan / 山口一郎(サカナクション)/ 砂原良徳<コメント出演>
細野晴臣 / 原田郁子(クラムボン)/ 菊地成孔
yanokami(やのかみ)
矢野顕子とrei harakamiによる音楽ユニット。2003年、harakamiが手がけた「ばらの花」(くるり)のリミックスに矢野が感銘を受けたことをきっかけに交流が始まり、ライブでの共演を経て、細野晴臣「恋は桃色」のカバーを共同制作。2007年4月発売の「細野晴臣トリビュート・アルバム -Tribute to Haruomi Hosono-」に「yanokami」名義で参加する。その後も水面下での制作活動を続け、2007年8月に1stアルバム「yanokami」、2008年3月に英語版アルバム「yanokamick」を発表する。harakamiが2011年7月に脳出血のため急逝。2011年12月に、2ndアルバム「遠くは近い」とインストゥルメンタルアルバム「遠くは近い -reprise-」をリリースした。