山﨑彩音|新たな挑戦を重ね 自信を持ってメジャーへ

曲のために今までとは違う歌い方に挑戦

──歌い方に関して、今回意識したことはありますか?

山﨑彩音

今回はけっこう考えて、意識的に変えたところもあります。前は突き放す感じで歌うことが多かったけど、今回は曲によってそうじゃなくしたり。曲のためにどういう歌い方をするのがいいかって考えて歌いました。今までと違う歌い方をするのは、初めはちょっと抵抗があって「うーん」って感じだったんですけど、慣れてきたらいい感じになってきました。

──歌い方を変えるにあたって、誰かのアドバイスがあったりしたんですか?

6曲目から9曲目のボーカル録りをしたときに、みなとくんとちょっとやりあう感じになったんですよ。この4曲は音に関してみなとくんが仕切ってくれたんですけど、ボーカル録りをしているときに「もうちょっとちゃんと歌ったほうがいいんじゃないですか?」みたいに言われて、私としては「は?」って感じで。歌い方について言われるのって嫌じゃないですか。それでちょっと喧嘩腰になったところもあったんですけど、今思うとそれをきっかけに歌い方が変わったんですね。それで、あとから録った前半の曲については、新しい歌い方がすんなり出せたところがあって。今思うと、あのアドバイスはありがたかったなあと。

──アルバムタイトルは「METROPOLIS」ですが、どの曲にもこの言葉は出てこないですよね。どうしてこのタイトルに?

1920年代のドイツ映画で「メトロポリス」という作品があって。あれって未来の都市を描いた映画ですけど、今回のアルバムの中で「世界の外のどこへでも」「恋は夢の中」「ナイトロジー」とかが自分で特に気に入っていて、そのへんの曲って全部SF感と言うか未来感と言うか、そういうイメージが自分の中にあったので、いいなあと。あと「都市」という意味で、例えば「ナイトロジー」はパリだなとか、「Nobody Else」は現代の東京だなとか、それぞれの場所のイメージにも合うなと思って付けました。

──アルバムタイトルもいろいろイメージさせるところがありますが、各曲のタイトルもみんなそうですね。タイトルを見ると、どういう内容の歌なのかが気になってくる。

タイトルだけ先に浮かんで、そこから歌詞を書いたり曲を考えたものもけっこうあったので。「アフター・ストーリーズ」も「世界の外のどこへでも」も「FLYING BOYS」も「メェメェ羊とミルクチョコレイト」も「ナイトロジー」もそう。これをタイトルにしたいという言葉があって、そこに登場させたい人物像とかモノとかのストックがあって、そこから書いているので。

──映画のタイトルっぽいですよね。「メェメェ羊とミルクチョコレイト」なんて、それだけで物語が頭の中に広がっていくような。

まさにそのタイトルは3年くらい温めていたんですよ。いつ使おうかってずっと思っていた。

初めて自信の持てるものができたのかな

──「世界の外のどこへでも」はこれまでになくポップで、スローな曲が得意な彩音さんにしては珍しく疾走感もある。コーラスがまたいいですね。初めのほうは別の人ですけど、最後のほうは自分でコーラスを入れてますよね。

あ、よくわかりましたね。最後の「フーウー」ってところは自分でやっているんですけど、以前はコーラスを自分でやるなんて小っ恥ずかしくて無理だったんですよ(笑)。今はだいぶできるようになりました。

──この曲の歌詞に「ニューヨーク69を乗りこなして」というフレーズが出てきますが、「ニューヨーク'69」というのは草間彌生さんの本のタイトルですよね。

そう。作詞中にその本が近くにあったので付けたんです。この曲はタイトルが先にあって、それに沿っていろんな歌詞が出てきたんですけど、どれもしっくりこなくて。最終的にあんまり深く考えずに、リズムにのせてポンポンと言葉を置いていったら、これが一番よかった。

山﨑彩音

──それから「ロング・グッドバイ」もポップなサウンドの曲で。歌詞がほかの曲に比べてストレートですね。

そう、ストレートなんです。2年前くらいからある曲なんですけど、まさに自分に正直に書いた曲です。嘘は何もない。

──熱い思いがまっすぐに書かれていて、「アフター・ストーリーズ」のちょっと冷めた感覚とは真逆ですよね。

確かにそうですね。

──「Nobody Else」からは十代ならではのリアリティを感じますし。

うん。リアルですね、これ。

──感情を込めすぎるわけではなく、かといって冷めているわけでもないこの歌い方に彩音さんらしさが表れている。

こういう曲は自分としては歌いやすい。このぐらいゆっくりしたテンポが一番好きなんですよ。居心地がいいと言うか、歌っていて落ち着くんです。

──「恋は夢の中」はレトロなムードのサウンドが特徴的ですね。60年代のロックっぽい感触がある。

最初は「アフター・ストーリーズ」みたいにシンプルにしたかったんですけど、いい意味でどんどん派手になってきて。これもSFっぽいイメージが頭の中にあったので、みなとくんにそう伝えて、結果的にこういう仕上がりになりました。

──「ナイトロジー」は珍しくレゲエのリズムで歌っています。このリズムにしたのは誰のアイディアなんですか?

これ、私が指示したんですよ。もともとライブでもやっていた曲で。フィッシュマンズが好きなので、音源もそういうアレンジにしたくて。「フィッシュマンズみたいな感じで」って言ったら、バンドのみんながフィッシュマンズを知らなくて、「ありえない!」って思ったんですけど(苦笑)。まあそんなこともありつつ、自分のイメージする理想の音をがんばって形にすることができたかなと。

──そしてアルバムはスローな「海へ行こう」で余韻を残しつつ終わります。歌詞がとてもシンプルですが、その中で「運命も奇跡も嫌いな言葉 だけど体験するんだ、言葉を」というフレーズがありますね。ここに彩音さんの言いたかったことがすべて集約されているんじゃないか、このフレーズこそが今作のテーマなんじゃないかと思ったんですよ。

そこを読み取ってもらえてうれしいです。まさにそうです。私は運命とか奇跡とか、あとは夢とか、そういう言葉がずっと好きじゃなかったんですよ。だけど実際に自分がこうして音楽の活動をしていけばいくほど、そういう言葉に向かっていってる感じがするのも事実で。

──そうした言葉の感覚を実感する機会が増えている。

そうですね。体感すると言うか。

──こうしてフルアルバムを作り上げて、新しい世界へ踏み込んでいってる感じはしますか?

うん。作ったことによって、次はこういうのがいいなとか、新しいアイディアも浮かぶようになりました。いろいろ発見がありましたね。自分自身のこともそうだし、歌い方もそうだし。

──新しい歌い方を発見してワクワクしている感じが、曲を聴いていると伝わってきました。

あ、伝わりますか? よかった(笑)。そう、なんか自分にとって初めて自信の持てるものができたのかなって思いますね。だからいっぱい聴いてもらいたいし。「いい!」って言ってもらいたいし。本当に素直にそう思うんです。

山﨑彩音