山﨑彩音|新たな挑戦を重ね 自信を持ってメジャーへ

Mac Proで生まれた新しい曲たち

──ではアルバム「METROPOLIS」について話を聞いていきますが、初めの段階でどんなアルバムにしたいと考えていたのでしょうか。

このアルバムは2つのバンドでレコーディングしているんです。6曲目から9曲目まではさっき話したみなとくんやロクローくんたちとやっていて、1曲目から5曲までと最後の曲は湘南で活動していたバンドとレコーディングしたんですけど、初めは2つのバンドで録るつもりはなくて。作り始めるときはアルバムの全体像が見えていたわけではなかったんですけど、ライブでやってなかった新しい曲がいくつかできたときに、2つのバンドを使って録るのがいいのかなって思い始めたんです。

山﨑彩音

──サウンドは実際にスタジオでバンドと鳴らしながら固めていったんですか?

そうですね。自分なりに妄想していたイメージがあって、それを伝えて。言葉で伝えるのは難しかったけど、なんとかがんばって伝えました(笑)。スタジオで音を出してもらいながら、「もっとこうかなあ」とか言いながら。

──弾き語りのライブをやっていた頃に作った曲と、バンドでやるようになってから作った新しい曲とでは、作り方も違う?

違いますね。以前は歌詞が先だったけど、曲から作ったものも今回はあったので。「世界の外のどこへでも」なんかは最初のフレーズから膨らませて作るやり方をしたんですよ。自分のパソコンでデモみたいなものを作って、それをバンドの人に聴いてもらいながら膨らませていった。そういう作り方は初めてでしたね。

──デモはGarageBandを使って作ってるんですか?

そうですそうです。アルバムを作るにあたって、そういうこともやるようになったんですよ(笑)。Mac Proを買って使い始めたら楽しくて。そんなに複雑なこととかはまだできないけど、単音をピーっと鳴らしたりするだけでも伝わればいいかなと。で、ドラムも入れてみて。「世界の外のどこへでも」はけっこうそのデモのまんまの音ですね。

──Mac Proを買ったことで、自分なりに新しいタイプの曲を作るモチベーションが上がったと。

うん。違う方法で作らないと、アコギで作ってるときの手癖が出ちゃうんで。

──それ、すごく大きいことですよね。それによって新しいところに踏み出すことができたとも言えるでしょ?

そうですね。言われてみれば確かに。

想像力を働かせて歌詞を書くのが楽しい

──聴いてまず思ったのは、内省的なところがあった「キキ」に比べるとかなり開かれた作品になったなということで。

うん。

──ただ、オープンになったとは言え、彩音さんの温度感がそのまま表れている。とても正直なアルバムだと思ったんです。

ああ、うれしい。思ってないことは書けないですからね。嘘っぽくなるのが嫌で。ムズムズしてきちゃうから。自分に正直なんです(笑)。

──どこまで書いて、どこから書かないか。どこまでならファンタジーとしてありで、どこまで書くと嘘っぽくなるか。そういうところにすごく注意しながら歌詞を書いているという印象を受けました。

本当にそうなんです。

──あと、弾き語りのライブでは突き放すような歌い方をしていたこともあって、けっこうクールなイメージを抱いている人が多いかもしれないけど、歌詞やWebマガジンの「Rock is」で連載中のコラム(山﨑彩音の「その時、ハートは盗まれた」)を読んでわかるのは、彩音さんはすごく情に厚くて、思いやりのある人だということで。

いや、そうなんですよ。自分で言うのもなんですけど、情に厚いんですよ、私(笑)。なんかイメージでは、もっと暗くて、社交性がまったくない人だと思われてるみたいで、インタビューとかで初めて会う人にもよく「意外と人間味があるんですね」って言われるんですけど、あるんですよ、人間味。意外とコミュ力もあるし(笑)。

──ですよね。だけど、作品においては決してコミュ力を全開にしたりはしないですよね。以前、連載コラムにコートニー・バーネットの新作「Tell Me How You Really Feel」の9曲目「Walkin' On Eggshells」について「歌詞カードを眺めながら聴いていると自分に近いものを感じた。勘が鋭くて相手を思いやるあまり自分は目を瞑って感情は抑える、そういうところに共感できた」と書いていて。

うん。まったく自分と同じだって思って、びっくりしたんですよ。

──だからこそ言葉に対して慎重になる。

そうですね。

山﨑彩音 山﨑彩音

──さらにコラムの中で、「コートニーの歌詞は気持ちも言葉もあくまで個人的なもの。だから押しつけがない。“私はこう思うけど、みんなはどう?”っていう、そのくらいのニュアンスなのがすごくクール。だけど現に私は彼女のメッセージに共感したり考えさせられている」と書いていましたけど、彩音さんの書く歌詞もそういうものだと思うんです。

そうですね。そこは自分でも意識します。ストレートに言うことが響く人もいるだろうし、それは好き好きだと思うんですけど、私は直接的じゃない表現の仕方が好きなので。

──だけど、それでもちょっとしたフレーズや行間から彩音さんのリアルな感情がどうしようもなくこぼれ落ちてくる。

出ちゃいますね。だからみんな、聴きながら共感できる部分を見つけてくださいって感じですかね(笑)。

──歌詞で使う言葉は以前と変わりましたか?

どうなんですかね。今回は自分のことばかり歌っているというふうには認識してないんですよ。主観的じゃなくて、あくまでも客観的でいたかった。

──どうしてですかね。

自分のことを歌うと重たくなっちゃう気がして。それよりも想像力を働かせて歌詞を書くのが楽しいということに気付いたので。100%自分の歌だというふうに思われないようにしたかったんです。

──自分のことや考え方はコラムでしっかり書いているから、そういうところでバランスがとれているのかもしれないですね。

ああ、そうかもしれないですね。なんか「キキ」を出してから、言葉に対する向き合い方が変わってきたんですよ。なんて言うんだろ……例えば誰かが言った名言とか、好きな人の自伝に書いてあった言葉とか、私はそういうものからものすごく影響を受けるんです。ハッとさせられたら、そうありたいな、そうなりたいなって素直に思うんですね。その言葉のように生きようって思ってしまう。そういうところがあって。だから、自分のことをどうこう書くよりも、そういう言葉から自分が何を受け取ったかが大事で、それを直接的じゃない言葉で書きたいんですよ。難しいんですけどね。