音楽ナタリー Power Push - ひとしずく×やま△
壮大な物語を生み出すコラボレーションの裏側
ひとしずく×やま△は、楽曲制作を行うひとしずくとやま△のボカロP2人と、イラストレーターの鈴ノ助、動画制作を担当するTSO & VAVAを主要メンバーとして活動するユニット。鏡音リン・レンをメインに多くのVOCALOIDキャラクターをモチーフにしたストーリーを創作し、ニコニコ動画では4つのミリオン再生曲をはじめ多くの人気楽曲を発表している。中でもひとしずく自らの手によるノベライズやコミカライズも行われた「Bad ∞ End ∞ Night」4部作は絶大な人気を誇る。
メジャー2ndアルバムとなる今作は既存曲13曲に加え新曲5曲を収録。さらに初回限定ノベル同梱盤には、ひとしずくによる全256ページの書き下ろし小説が同梱される。音楽ナタリーではひとしずくとやま△へのインタビューを実施。2人による新曲の詳細解説に加え、意表を突くコラボレーションの手法やボカロキャラクターへの思いまで存分に語ってもらった。
取材・文 / 田口こくまろ
「嫌だ、死にたい」という負の感情を心の底から大声で叫んでいるような
──今回リリースされた2ndアルバム「ミスルトウ~神々の宿り木~」には、ニコニコ動画でミリオンを達成した「Twilight ∞ nighT」など既存曲13曲に加え5曲の書き下ろし曲が収録されていますが、まずはその5曲について聞かせてください。「Re:birthed」は人気曲「からくり卍ばーすと」の続編ということですが、これは完結編と考えていいのでしょうか?
ひとしずく はい。完結編です。ネット上には公開していませんが、同人誌のほうでも関連楽曲を発表しているので、これが4曲目になります。
──やま△さんがTwitterでつぶやいてらっしゃいましたが、やはり聴きどころはベースソロでしょうかね?
やま△ いやいやいや、それは個人のエゴが入ってるんで……。
ひとしずく この曲はリンとレンが敵同士として戦い続けるというシチュエーションなので、どうしてもわかりあえない2人の悲壮感をテーマにしています。作り方としてはまず、やま△に「『嫌だ』『死にたい』という負の感情を心の底から大声で叫んでいるような雰囲気で」とだけ伝えて仮のオケを作ってもらい、それを聴いて「もうちょっとこうしてほしい」みたいな要望を伝えて完成したフルのオケに、私がメロディと歌詞を乗せていくというちょっと変わった方法をとっています。
──どういう要望を伝えたんですか?
やま△ サビのところが最初はもう少しゆったりとドラマチックな感じだったんですが、「疾走感を保ったままのほうが勢いがあるので、意図する悲壮感が伝わるんじゃないか」との要望をもらって、サビを作り直しました。作ってみてやっぱり自分もそのほうがいいと思いましたね。
──「からくり卍ばーすと」のMVでは、ラスト近くでリンとレンの2人がお互い昔の知り合いだと気付いたようですが、やはりこれからも敵味方として戦い続けるのでしょうか?
ひとしずく 実は今この曲と連動した小説を書いているんですが、そこでは気付いたあとのことも描写していこうと思っています。小説とMVをお楽しみに、ですね。
このシチュエーションをどれだけグチャグチャに絡ませられるか
──「ミスルトウ~魂の宿り木~」「ミスルトウ~転生の宿り木~」の2曲は初回限定ノベル同梱盤に入っている小説についての曲ですね。小説はCDの特典とは思えないほどボリュームも内容も充実しており、楽しく読ませていただきました。完結していないようですが、このシリーズはこのあとも続くのでしょうか?
ひとしずく はい。今回は起承転結で言うと承までですね。ここから転に向かいます。
──率直な感想として、この2曲だけではもったいないなと思ったんです。ほかのキャラの曲も聴いてみたいな、と。
ひとしずく とりあえずこのシリーズでは完結編としてもう1曲作るつもりです。でもそれはやっぱりリンとレンの2人をメインにしたイメージですね。ほかのキャラも設定は作り込んでいるので、気持ちとしては(初音)ミクちゃんやKAITOさんといった別のキャラ視点の曲も考えてみたいなというのはありますけどね。
──この小説で読者に伝えたいテーマはなんでしょうか?
ひとしずく テーマは「自分が行動を起こした結果ではなく、生まれたときから決まっている環境に抗っていく2人」ですね。本人たちの思いと関係なく、生まれたときから完全なる敵対関係にある2人。このシチュエーションをどれだけグチャグチャに絡ませられるかと考えるのが楽しかったです(笑)。
リスナーさんへの感謝の気持ちをリンとレンの気持ちとして代弁させる
──レンくんのソロによるバラード「いつか、シンデレラが ~Ballad arrange ver.~」は切ない展開ですね。
ひとしずく いろいろあるけど最後は幸せになる、いわゆる“シンデレラストーリー”ではなくそれとは反対の、たとえ自分の思いが叶わなくても相手の幸せを願い、見守る愛をテーマに詞を書きました。サウンドも切なく悲しい感じではなく、逆に祝福された結婚式のような明るい感じにして歌わせたらいいんじゃないかなと思ってアレンジしました。静かだけど最後にはブワッと盛り上げていくような。
──ギターソロが熱いですよね。
やま△ はい。そこはちょっと時間かかりました。きれいなメロディだけじゃダメで、複雑なニュアンスを出したくてけっこう練りました。
──ラストの「Memories」は、歌うために生きているVOCALOIDのリンとレンがリスナーに感謝するストレートな歌詞ですね。
ひとしずく はい。それに加えて、自分たちからのリスナーさんへの感謝の気持ちをリンとレンの気持ちとして代弁させるという意図もあります。今回のアルバムの中で1曲はそういう曲を入れてみたいと思ってたんですよ。
──それはなぜですか?
ひとしずく 以前からリスナーさんへの直接的なメッセージが入った曲を作りたいとは思っていたんです。けど自分たちはあくまでキャラクターソングを作るという意識でやっているので、自分たちの日常とか普段思っていることとかをストレートに出すのはちょっと抵抗があったんです。なので一旦リンとレンの力を借りて伝えることはできないかなという思いで作ってみた曲です。で、その曲を入れるなら2ndアルバムの最後かなと。
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- ニューアルバム「ミスルトウ~神々の宿り木~」2015年9月30日発売 / Warner Music Japan
- 初回限定ノベル同梱盤 [CD+小説] 3402円 / WPCL-12242 / Amazon.co.jp
- 初回限定ラバーストラップ同梱盤 [CD+グッズ] 2808円 / WPCL-12243 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2376円 / WPCL-12244 / Amazon.co.jp
収録曲
- Twilight ∞ nighT
- EveR ∞ LastinG ∞ NighT
- オネガイセカイ
- 蝶と花と蜘蛛
- 四季折の羽
- Re:birthed
- 箱庭の夢
- 海賊Fの肖像
- ミスルトウ~魂の宿り木~
- ミスルトウ~転生の宿り木~
- 十三番目の黙示録
- 怪盗Fの台本~消えたダイヤの謎~
- 星織り唄
- 赤と白と黒の系譜
- いつか、シンデレラが ~Ballad arrange ver.~
- Party×Party
- 亡国のネメシス
- Memories
「Re:birthed」特製ステッカー(非売品)を全員プレゼント!10月3日(土)HMVエソラ池袋「ミスルトウ~神々の宿り木~」発売記念イベント
2015年10月3日(土)
東京都 HMVエソラ池袋
START 13:00
(集合・入場整列案内 12:30)
<内容>
ひとしずくP、やま△、鈴ノ助によるトークショーを開催。イベント参加者全員に3人の直筆サイン入りB2ポスターと、「からくり卍ばーすと」完結編「Re:birthed」特製ステッカー(非売品)をプレゼントする。
このイベントの参加券は、HMVエソラ池袋にて「ミスルトウ~神々の宿り木~」の初回限定ノベル同梱盤、初回限定ラバーストラップ同梱盤、通常盤のいずれかを購入した人に、予約者優先で先着で配布される。
ひとしずく×やま△(ヒトシズクヤマサンカッケー)
鏡音リン・レンをメインに、VOCALOIDを使った楽曲を発表しているボカロPユニット。音楽担当のひとしずく、やま△、イラスト担当の鈴ノ助、動画担当のTSO&VAVAを主要メンバーとして活動している。ボーカロイドキャラクターをモチーフにした自作の物語をもとに楽曲を制作し、中でも4部作にわたる「Bad ∞ End ∞ Night」シリーズは小説化、コミック化もされ絶大な人気を誇る。2015年9月にはWarner Music Japanからアルバム「ミスルトウ~神々の宿り木~」を発表した。
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