音楽ナタリー Power Push - ひとしずく×やま△

壮大な物語を生み出すコラボレーションの裏側

モダモダしてる中学生

──ちょっと脱線しますが、以前ブログで「いつか女装やショタのレン君もやってみたい」と書かれていました。

ひとしずく もちろんそういうのが好きな方や、そういう曲をやってる方もたくさんいらっしゃいますし、自分の中でも「どうなるんだっ?」という興味はあるんですが、なぜか思い切れませんね(笑)。

──期待している人も多いと思いますが。

ひとしずく はい。でも私にとってレンとリンの声は「大人になろうとしてるんだけどまだ体は発達しきっていない、思春期のところでモダモダしてる中学生」というイメージがあって。年齢を上げて大人っぽくすることはできるんですが、設定を中学生以下に下げることはできないんですね。

──では女装のほうは?

ひとしずく 女装はやりようによってはあるかな?という感じですね。美しい女性の姿でミッションをこなすスパイものなんかだったら、カッコいい感じに収まる気はするんですが。アイドルの格好をさせられ今にも泣きそうな表情で「女装させられたよお」みたいなのは自分にはできないかなあ。

打楽器は楽しいですよね

──やま△さんが最初に発表したのはインスト曲でしたが、ボカロを使うことになったきっかけは?

やま△ 巡音ルカが出たばっかりのときに、動画を作ってくれてるTSO(とさお)くんから勧められて、「じゃあボカロで曲作ってみよっか」と思ったのが最初ですね。自分で作ったものをネットにアップすることで、多くの人に聴いてもらえるというのが面白くて。

──ゲーム音楽やアイドル曲も制作していますが、投稿を始めたときから音楽の仕事をされていたのですか?

やま△ いえ、投稿し始めた頃はまだです。ひとしずくさんとやり始めた頃から少しずつという感じです。

──バンドの経験などは?

やま△ ないですね。

──好んで参考にする音楽ジャンルなどはありますか?

やま△ 昔のゲーム音楽や映画音楽なんかをモチーフにさせてもらうことは多いですね。そういった音楽をポップスに反映できないだろうかというのはよく考えます。

──ストリングスアレンジやギターソロはもちろん、打楽器の使い方も面白いですよね。

やま△ はい。僕ドラムは叩けないんですが、打楽器は楽しいですよね。映画音楽で有名なハンス・ジマーの打楽器音源というのがあるんですが、ひとしずくさんの民族調楽曲なんかとすごくマッチするんですよ。

──やま△さんの曲は、ヘッドフォンで聴いたら定位が面白いなと思いました。

やま△ はい。かなり細かくいじってますね。やはりボーカルがクリアに聞こえるのが大事なので、オケが邪魔にならないよう気を使っています。特に同時に複数の声が入ると混乱するんですよね。このへんに配置するとちょうどいいみたいなのはしっかり見てます。

──VOCALOIDが10人くらい出てくることもありますもんね(笑)。

やま△ 10人のときはホント大変でしたね。誰とは申しませんが、声が似てて判別できない人たちがいるんですよ。そういう意味でもやっぱり配置やボリュームは神経質に見ていますね。完璧にというのはなかなか難しいのですが。

音階はインスパイアの邪魔になる

──ではお2人が共作を始めたきっかけや理由を教えてください。

ひとしずく もともと音楽仲間だったんですね。「ひさしぶりになんか一緒にやんない?」というときに、ちょうどVOCALOIDを使い始めた時期がかぶっていたという。

やま△ 「やらない?」と誘われて、「じゃ、やる」っていう。

──最初から役割は決まっていたんですか?

ひとしずく はっきり決まっていない部分もあるんですが、歌詞とメロディの制作はどの曲も全部私、ミックスとマスタリングはやまちゃんです。これだけはどんなに天地がひっくり返っても揺るがないですね。もしこれが崩れたらみなさんの耳が大変なことに……。ね? やまちゃん。

やま△ 得意なところに特化し、できないところを補い合ってるという感じですね。僕は文章作るのとか苦手ですし。

──それ以外の役割は曲によってバラバラということですか?

ひとしずく 3パターンありますね。パターン1は、まず私が「やまちゃん、こんな曲を頼むよ」とおおまかな説明をして、それを基にやまちゃんがメロディも歌詞もナシのオケだけを作る。そこに私が物語の内容と歌詞を乗せていく。時間がないときはこのパターンが多いですね。なんだかんだあっても最終的には満足のいくものができてくるので意外とあってるのかな、と思います。今回のアルバムでは「Re:birthed」とかがそうですね。パターン2は、最初に私が大体の曲調とメロディライン、コードを決めてワンコーラスだけ作ってやまちゃんに渡します。そのときにアレンジの分担はだいたい見極めていることが多いですね。ストリングスやピアノは自分でやって、ドラムやベース、ギターといった迫力を出す部分はやまちゃんが入れる。比較的時間に余裕があるときはこのパターンです。「オネガイセカイ」「海賊Fの肖像」がこれにあたります。

やま△ パターン3は、テンポやこんな感じという大体の概要を聞いてから、彼女のインスパイアを引き出すために、まずドラムだけ打ち込みます。音階はインスパイアの邪魔になるのでベースラインも入れません。純粋にグルーヴだけ。こうして作った1分くらいのパターンを何種類か渡す。それを彼女が自由に組み合わせて曲の形を作っていくといった感じです。

──それはちょっと斬新ですね。ヒップホップみたいだ。

ひとしずく これは時間があるときにしかできないんですが、「Bad ∞ End ∞ Night」シリーズのような、人がいっぱい歌っているのはだいたいこのやり方ですね。

やま△ 僕がサビに使おうと思って作ったパターンが間奏に使われていたりとか、予想外の結果になることが多いんですが、そういうのも楽しいですね。こういう作り方してる人はあんまり聞いたことがない。

ひとしずく このアルバムには3つのパターンがまんべんなく入ってますね。

今までやってきたことにひと区切り付いた

──やま△さんにアレンジを任せたことによって変わったことはありますか?

ひとしずく 1人でやっていたのがはるか昔なので「どうなんだったっけ?」ってなるんですけど、影響を受けた部分はけっこうあると思います。私は音楽理論が全然わからないんですが、彼はしっかり身につけているので、コード進行とかおかしいところをしっかり指摘してくれます。なるほどねとは思うので最近は気にして作るようになってきたと思います。多少ですが(笑)。

やま△ シンプルにまとめられたメロディの組み立ては見ててすごいなと思っています。複雑なことにこだわらなくても、しっかりとメロディを作れば十分気持ちを伝えられるんだなというのは教えてもらった気がします。

──最後に今回のアルバムについてもう一度PRをお願いします。

やま△ 音楽好きって好みが偏よりがちじゃないですか。このアルバムにはロック、バラード、民族、メタル、とにかくいろんな要素が詰まってますので、1枚でいろんな楽しみ方ができると思います。

ひとしずく このCDを手にとってくださる方はVOCALOIDのシーンが好きな方だと思うんですが、ボカロを通してキャラクターを楽しみながら、普段聴いているジャンル以外の音楽を楽しんでいただけたらと思います。

──分厚い特典もありますしね。

ひとしずく 普段小説なんて読まないって人もけっこういらっしゃると思うんですが、せっかく自分の好きなキャラが出てることだし、たまには読んでみるのもいいんじゃないかと思います。クオリティは保証しませんが(笑)。

やま△ いや、俺はすごいと思うぞ!

──すごいなんてもんじゃないですよ! 堂々たるヒロイックファンタジーですよ!

やま△ あとさっきも言ったんですが、ラストの「Memories」で今までやってきたことにひと区切り付いた感じはあります。間違いなく僕たちの節目になるアルバムだと思いますので、そのあたりも感じていただければな、と思います。

ニューアルバム「ミスルトウ~神々の宿り木~」2015年9月30日発売 / Warner Music Japan
初回限定ノベル同梱盤 [CD+小説] 3402円 / WPCL-12242 / Amazon.co.jp
初回限定ラバーストラップ同梱盤 [CD+グッズ] 2808円 / WPCL-12243 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 2376円 / WPCL-12244 / Amazon.co.jp
収録曲
  1. Twilight ∞ nighT
  2. EveR ∞ LastinG ∞ NighT
  3. オネガイセカイ
  4. 蝶と花と蜘蛛
  5. 四季折の羽
  6. Re:birthed
  7. 箱庭の夢
  8. 海賊Fの肖像
  9. ミスルトウ~魂の宿り木~
  10. ミスルトウ~転生の宿り木~
  11. 十三番目の黙示録
  12. 怪盗Fの台本~消えたダイヤの謎~
  13. 星織り唄
  14. 赤と白と黒の系譜
  15. いつか、シンデレラが ~Ballad arrange ver.~
  16. Party×Party
  17. 亡国のネメシス
  18. Memories
「Re:birthed」特製ステッカー(非売品)を全員プレゼント!10月3日(土)HMVエソラ池袋「ミスルトウ~神々の宿り木~」発売記念イベント

2015年10月3日(土)
東京都 HMVエソラ池袋
START 13:00
(集合・入場整列案内 12:30)

<内容>
ひとしずくP、やま△、鈴ノ助によるトークショーを開催。イベント参加者全員に3人の直筆サイン入りB2ポスターと、「からくり卍ばーすと」完結編「Re:birthed」特製ステッカー(非売品)をプレゼントする。
このイベントの参加券は、HMVエソラ池袋にて「ミスルトウ~神々の宿り木~」の初回限定ノベル同梱盤、初回限定ラバーストラップ同梱盤、通常盤のいずれかを購入した人に、予約者優先で先着で配布される。

ひとしずく×やま△(ヒトシズクヤマサンカッケー)

鏡音リン・レンをメインに、VOCALOIDを使った楽曲を発表しているボカロPユニット。音楽担当のひとしずく、やま△、イラスト担当の鈴ノ助、動画担当のTSO&VAVAを主要メンバーとして活動している。ボーカロイドキャラクターをモチーフにした自作の物語をもとに楽曲を制作し、中でも4部作にわたる「Bad ∞ End ∞ Night」シリーズは小説化、コミック化もされ絶大な人気を誇る。2015年9月にはWarner Music Japanからアルバム「ミスルトウ~神々の宿り木~」を発表した。