音楽ナタリー Power Push - 多田慎也×MADOKA(たんこぶちん)

「Yamaha Music Audition」特集 Vol. 1

経験者の言葉から読み解くイマドキのオーディション事情

音楽もコミュニケーションの1つ

岡田 もう1つ、「自分の頭の中で鳴っている音楽って思っているより他人はわかってくれない」ってことも応募者の方には覚えておいてほしいですね。

多田 それはプロの世界でもあると思います。作り手は気付きにくいんですけど、伝わってないことって往々にしてあるんですよね。

──それはどういうことですか?

岡田 極端に言えば、音源の応募は鼻歌でもいいんです。でも鼻歌の場合は、僕たち審査する側の人間ががんばって想像して曲の完成形をイメージしないといけない。これってもったいないことだと思うんですよね。DAWソフトとかいろんなツールが増えている以上、簡単な打ち込みでもいいから自分の頭で鳴った音楽を再現する努力はしてみてほしい。たぶんその努力が曲に込められる熱量にもつながりますし、僕ら聴き手も応募してくれた方のイメージを共有しやすくなりますから。

多田慎也

多田 作り手ってどうしても頭の中で完成形を描いちゃうから、目の前にある曲が本当にそれを再現できてるか、冷静に考えられないんだと思います。特に作った曲を聴きすぎちゃうとわからなくなっていくことが多い。オーディションに参加する方にアドバイスするとすれば「余計なプレイバックはしないこと」ですね。「こんなカッコいい曲書いちゃった」って自分を褒める時間は必要だと思うんですけど、必要以上に何度も聴いてるとどんどん冷静ではなくなってしまう。だから僕は目的を持って曲を聴くようにしています。詞のハマりが悪いところをチェックする回、楽器がちゃんとフォーカスされているかを考える回、全体の楽曲のプロポーションを確認する回、自分を褒める回、みたいに(笑)。

岡田 「初めてその曲を聴く人がどう思うか」って視点は、必ずキープしたほうがいいですね。それはプロだろうとアマチュアだろうと全部同じだと思うんです。初めて曲を聴く人はアーティストのバックボーンとか、そういう行間を知らないまま聴くんだと思って、なるべく聴き手にわかりやすいようにある程度サービスをしてあげるっていうのは大事だと思いますね。ある意味音楽もコミュニケーションですから。

多田 客観視はものすごく大事です。あと僕は曲を聴いてるときにワクワクする感じも大事だなと思ってます。イントロでまずどんな曲か期待させないと、聴き手の気持ち的にはマイナスからのスタートになってしまいますから。イントロがよくてAメロで「けっこういい声してるな」って印象を持たせて、Bメロでちょっと手法を変えて、みたいなセクションごとにちょっとずつ気になる要素があると集中して曲に向かえるんですよね。サビに入って飛び道具を「バーン」と使うんじゃなくて、ちょっとずつ気になる要素をつないでいくのはテクニックとして有効だと思います。

岡田 もちろん送ってもらった音源は最後まで聴くんですけど、途中で気持ちが萎えてしまうことはありますからね。気になる要素があると、気持ちをつないで曲を聴くことができるのは確かです。

お互いが歩み寄るのがオーディション

──8月1日より展開されているヤマハのオーディション企画「Yamaha Music Audition」の1発目が、北海道在住者を対象とした「AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道」でした。今後もこういった地方を対象としたオーディションが展開されるようですが、「Music Revolution」の地方予選に毎年出ていたMADOKAさんから何かアドバイスはありますか?

MADOKA

MADOKA 私たちは小学校の頃から出てたので、周りはみんな演奏が上手な大人ばかりだったんですよね。「自分たちより上手な人ばっかりだ」って思いがちなんですけど、怯まずに強気でステージに立ってほしい。

多田 劣等感みたいなのが逆に光るときもありますから。上手なバンドが勝つとは限らなくて、観てる人は欠点があるけどなんか気になるバンドに気が向くこともあると思うんです。だから欠点を気にして隠しちゃうよりかは「欠点も含めてこれが自分たちです」って思いっきり出してもらったほうがいいのかなって気がします。

MADOKA 私たちも「たんこぶちん」って名前が最初すごい浮いてるなって気にしてたんですけど、回数を重ねるうちに「この名前なんか目立ってない? 逆にいいかも」って思うようになりましたから(笑)。何が自分たちのプラスになるかはわからないんだなって思ってます。

──多田さんが審査員を務めるオーディション「The Songwriter STAR」では、ソングライターやトラックメーカーを募集しています。このオーディションはどういうものなんですか?

多田 僕、けっこういろんなところで「この人、作曲家になったらいいのに」って思うことがあるんです。例えば飲み屋で友達が「こんな曲があったらいいよね」って鼻歌を歌ってくれたりしたときとかに思うんですけど、そういう人って歌が歌えなかったり、DTMができないからあきらめてるケースが多いんですよね。それってすごくもったいないことだなと思っていて。「The Songwriter STAR」では歌はあってもなくてもよくて、それこそボイスレコーダーでメロディを録っただけのものでもいいですし、膝やテーブルを叩いてリズムを入れて録ったメロディでもいいんです。そんな中からすごいパワーを持ったメロが書ける人を見つけたいと思っています。打ち込みができないからとかで怯まないでほしいっていうのはありますね。

──「The Songwriter STAR」は仮歌でもシンセメロでも可、歌詞もなくて構わないというところが変わっていますよね。

多田 スーパーで流れているシンセ音みたいな感じで送ってもらってもいいですし、メロディがオルゴールでも大丈夫です(笑)。いいメロディを探すには正しい募集要項かなと思っています。

岡田 オーディションで一番大事なのは熱量だなってことを、今日は僕も再確認できました。僕たちも皆さんが作ったメロディや歌詞の魅力をすくい取ろうと音源を聴きますから、皆さんも僕らに自分の音楽が伝わるように熱を入れてほしいですね。いい音楽を世に出すために、お互いが歩み寄るのがオーディションだと思いますから。

「Yamaha Music Audition」
ヤマハミュージックパブリッシングが主催する多角型音楽オーディション。北海道在住者を対象とした「AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道」といった地域を限定したオーディションや、歌モノのオリジナル楽曲を制作するソングライターを探す「The Songwriter STAR」といったオーディションなど、さまざまな切り口の音源募集を随時行っている。
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各種オーディション
  • MUSIC BASH
    受付期間 2016年8月1日~9月30日
    MUSIC BASH
    音楽ジャンル、演奏形態、コピー、オリジナル問わず誰でも参加できるオーディション。ライブ審査の模様が全国に配信される。
  • The Songwriter STAR
    受付期間 2016年8月1日~9月30日
    The Songwriter STAR
    歌モノのオリジナル楽曲を募集。グランプリ受賞者は音楽プロデューサー・多田慎也による楽曲ディレクションを受けることができる。
  • 黒髪ギター少女選手権
    受付期間 2016年9月12日~11月13日
    黒髪ギター少女選手権
    応募資格は18歳以下の“黒髪ギター少女”。グランプリ受賞者はレプロエンタテインメントへの所属の可能性がある。
  • AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道
    受付終了
    AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道
    音楽ジャンル、演奏形態、コピー、オリジナル問わず、北海道在住であれば誰でも参加できるオーディション。
多田慎也(タダシンヤ)
多田慎也

シンガーソングライター、作詞作曲家、音楽プロデューサー。2007年2月に発表された嵐のシングル「Love so sweet」の収録曲「いつまでも」で作家デビューを果たす。このほかAKB48、アイドリング!!!、ももいろクローバーZ、天月-あまつき-といったアーティストの楽曲制作に携わる。2009年には自身もシンガーソングライターとして活動を開始し、2013年1月には東京・赤坂BLITZにて単独公演を開催した。

たんこぶちん
たんこぶちん

2007年、MADOKA(Vo, G)、YURI(G)、CHIHARU(Key)、NODOKA(B)、HONOKA(Dr)らが小学校の課外活動の一環として佐賀県唐津市で結成したガールズバンド。九州を中心にライブ活動を行うかたわら、ヤマハ主催の「Music Revolution」など、さまざまな音楽コンテストで各賞を受賞する。2013年7月「ドレミFUN LIFE」でメジャーデビュー。2014年1月には1stアルバム「TANCOBUCHIN」をリリースした。2015年1月に2ndアルバム「TANCOBUCHIN vol.2」を発表し、同年3月に実施したアルバムのリリース記念ワンマンライブでは全公演ソールドアウトを記録した。


2016年9月27日更新