音楽ナタリー Power Push - 多田慎也×MADOKA(たんこぶちん)

「Yamaha Music Audition」特集 Vol. 1

経験者の言葉から読み解くイマドキのオーディション事情

コピーか、オリジナルか

──MADOKAさんはオーディションに応募するとき、どんなことにこだわっていましたか?

左から多田慎也、MADOKA。

MADOKA 私たちは「ビデオ審査」というパターンが多かったので、毎回メンバー同士で目を合わせるところとかを練習して、決めの部分の動きとかを合わせるように気を付けてました。あとはちょっとでも観ていただく方の印象に残るように衣装を合わせたり。

──毎年オーディションを受け続ける中で、手応えを感じるきっかけのようなものはありましたか?

MADOKA オリジナル曲を作るようになったことだと思います。バンドを始めた当初はコピーバンドだったんですけど、その頃はあまりいい成績を残せなかったんですよね。中学2年生の頃からオリジナル曲を作り始めたんですけど、その頃からオーディションで賞をいただけるようになって。だからやっぱりオリジナルって大事だなと思いました。

──現在ヤマハで展開中のオーディションの多くは「コピーでもオリジナルでも可」と募集要項に書かれていますが、オーディションではオリジナルが強いような印象があります。

岡田 コピーとオリジナル、どちらが有利ということはなくコピーでもグランプリを獲る可能性はあります。さっきの視点の話と重なるんですけど、審査する側からしたらコピーとオリジナルで見る観点が違うんですよね。例えばコピーの場合だと、より単純に応募者のポテンシャルが浮かび上がってくる。応募者のバックボーンとか、将来どういう存在になりたいかが判断しやすい場合もあります。

多田 ライブでよく途中にカバー曲を披露するアーティストさんがいますけど、けっこうカバーを披露するのってセンスが必要なことだと思うんです。どういう曲を選んだかはもちろん、原曲との距離感をどうしているか、といったところから音楽に対する姿勢とか、アーティストさんのキャラクターが見えてくるというか。

岡田 もちろんオリジナル曲を送ってくれれば作家としての技量が見られるので、どちらも違った視点で審査をするわけなんです。

──たんこぶちんはどちらかと言えばオリジナルのほうがしっくり来たわけですよね。

MADOKA オリジナルをやったほうが自然と個性を出せたんだと思います。自分たちで作った歌詞だから気持ちが入りやすいし、決めたい部分の呼吸を合わせやすかったり。自分たちの音楽が一番伝わりやすい方法がオリジナルだったんだと思います。

音に熱を込める

──多田さんはオーディションを受ける際、どういうところに気を使ってましたか?

多田 前時代的な話かもしれませんが、僕が工夫してたのは封筒ですね(笑)。デモテープを送るとき、当時は茶封筒が多かったと思うんですけど、僕はカラー封筒を買ってきて「このレーベルさんに合うのはこの色かな」みたいなことを自分で考えてましたね。

──手に取ってもらうところから気を使っていたわけですね。

左から多田慎也、MADOKA。

多田 そうです。たくさん封筒が届く中で、どれから手に取ってもらえるかなってことをイメージして。それと常に意識していたのは、熱量というか「こいつがんばったんだな」って思ってもらうことですね。審査をする側に立って感じるんですけど、熱を感じるか感じないかっていうのは、もしかしたらオーディションで一番大きなポイントかもしれないですね。

──より作り込んでいるデモテープを用意するってことですか?

多田 単純に音だけで感じることではないんですよ。ちゃんと試行錯誤されているかどうか、と言うか。例えば再生ボタンを押してからどれくらい間があって曲が始まるかとか、細かい部分だと歌モノのオーディションだったら歌がちゃんと聴き取れるような適切なボリュームになっているかとか。聴き手の視点に立って、冷静に音源という1つのパッケージをプロデュースできてるか、そこを試行錯誤してるかどうかは1つポイントになると思います。審査する側に立つと、この音に熱が入っているか入っていないか、聴いた瞬間にわかったりするんですよ。

岡田 熱が入っているかどうかは、音源だけじゃなくてライブ形式のオーディションでもすぐわかるんです。「ああ、真面目にやってるんだな」「こいつ気合い入ってんな」って思うと、審査員としては彼らのいいところを探すようになっちゃうんですよね(笑)。聴くときの気持ちが変わってくる。

多田 こういう熱って完璧すぎても伝わってこないものなんですよ。人間と同じで完璧すぎるとちょっと冷たい印象があるというか。

岡田 そうですね。僕らの手を出す余地がない方もたまにいらっしゃいます。例えばライブもたくさんやっている上に、自分たちですべてミュージックビデオまで作り上げて活動している人たちに対して「このままやったほうがいいかもしれないな」って思うときもありますから。多少粗削りのほうが興味をそそられるっていうのはあるかもしれないです。

多田 デモテープとは違ってデジタルで音源を送るようになったから、今は音をピッタリ合わせられるようになっているんですよね。もしかしたら作り手の熱量がちょっと伝わりづらくなったのかもしれないって思うところもあるんですが、熱を込めるところは随所にありますから。

岡田 ツールとかメディアは変わりましたけど、メロディと言葉自体は変わっていないと思うんです。音質とか録音環境については、実はそこまで重視していないんです。僕らは音楽を求めていてそこに込められているメロディや歌詞で判断していますから。それこそアプリのボイスメモで撮った音源で十分なので、どんどんいろんな人にオーディションに参加してほしいですね。

自分の魅力を確認する場

──これからオーディションに応募する参加者に、何か具体的なアドバイスはありますか?

岡田 だいたいオーディションのときって、プロフィールを書くところに「好きなアーティスト」を書く欄があるんです。そこにみんなものすごい数のアーティストを書いてくることが多いんですけど、それってちょっと逆効果なときもあって。書きたくなる気持ちもわかるけど、たくさん挙げすぎて「結局君は何が好きなの?」って思ってしまうことがあります。

──数が多いと逆に見えなくなってしまうことがあるんですね。

岡田 極端に言えば1つだけアーティスト名が書いてあるほうが、どういう影響を受けているか、どうなりたいかがわかりやすいパターンもありますから。

MADOKA うわ、私たちすごくいっぱい書いてた気がする(笑)。

多田 確かにみんないろんなアーティストが好きですからね。ついつい書きたくなってしまうと思います。

MADOKA 書類を書く側の人間からすると「自分たちのいいところは?」っていう欄があったりするんですけど、そこが難しいんですよね。正直今でも「たんこぶちんのいいところってなんですか?」って聞かれたらちょっと困ってしまうくらいですから。

MADOKA

──オーディションを受けているときはなんて書いてたんですか?

MADOKA たぶん「明るくて元気なバンドで、ドラムとベースが双子」みたいなことを書いてました。あまり凝ったことは書けなかったなあ。

──でも「明るく元気」というバンドの魅力は、岡田さんが審査員としてたんこぶちんを観たときに感じたものと一致してますよね。

MADOKA あ、ホントだ。

岡田 今でも僕は彼女たちの最大の魅力が明るくて元気なことだと思っていますから。

多田 アーティスト自身より、審査員というか、ディレクターさんのほうがその魅力を把握していることってあると思います。例えば僕は曲を送ったときに「今回も多田節だね!」って言われることが多いんですけど、自分では多田節がなんなのかよくわかってないんですよ(笑)。そう言われるのは大変光栄なことで、うれしいんですけど、自分のよさってなかなか言葉にできないというか、説明できないんだなって今でも思いますね。

──アーティストの持つ魅力を言語化するというのも、オーディションの1つの役割なのかもしれませんね。

多田 10人が聴いて1人にしか認められない曲があったとしても、それって10万人が聴いたら1万人が認めてくれるってことだと思うんです。曲を書いているといろんなことを言われますけど、聴いてくれた方の意見は素直に受け取ったほうが自己分析につながるのかもしれないですね。

岡田 いきなり何万人もの人が曲を聴いて意見を出していったらアーティストは混乱してしまうかもしれませんけど、オーディションでは限られた人が曲を聴いて、引っかかるものがあればフィードバックがあるわけですから。客観的な話が聞ける場だと思ってオーディションを受けてみるっていうのはいいことだと思います。

「Yamaha Music Audition」
ヤマハミュージックパブリッシングが主催する多角型音楽オーディション。北海道在住者を対象とした「AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道」といった地域を限定したオーディションや、歌モノのオリジナル楽曲を制作するソングライターを探す「The Songwriter STAR」といったオーディションなど、さまざまな切り口の音源募集を随時行っている。
「Yamaha Music Audition」特集TOP
各種オーディション
  • MUSIC BASH
    受付期間 2016年8月1日~9月30日
    MUSIC BASH
    音楽ジャンル、演奏形態、コピー、オリジナル問わず誰でも参加できるオーディション。ライブ審査の模様が全国に配信される。
  • The Songwriter STAR
    受付期間 2016年8月1日~9月30日
    The Songwriter STAR
    歌モノのオリジナル楽曲を募集。グランプリ受賞者は音楽プロデューサー・多田慎也による楽曲ディレクションを受けることができる。
  • 黒髪ギター少女選手権
    受付期間 2016年9月12日~11月13日
    黒髪ギター少女選手権
    応募資格は18歳以下の“黒髪ギター少女”。グランプリ受賞者はレプロエンタテインメントへの所属の可能性がある。
  • AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道
    受付終了
    AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道
    音楽ジャンル、演奏形態、コピー、オリジナル問わず、北海道在住であれば誰でも参加できるオーディション。
多田慎也(タダシンヤ)
多田慎也

シンガーソングライター、作詞作曲家、音楽プロデューサー。2007年2月に発表された嵐のシングル「Love so sweet」の収録曲「いつまでも」で作家デビューを果たす。このほかAKB48、アイドリング!!!、ももいろクローバーZ、天月-あまつき-といったアーティストの楽曲制作に携わる。2009年には自身もシンガーソングライターとして活動を開始し、2013年1月には東京・赤坂BLITZにて単独公演を開催した。

たんこぶちん
たんこぶちん

2007年、MADOKA(Vo, G)、YURI(G)、CHIHARU(Key)、NODOKA(B)、HONOKA(Dr)らが小学校の課外活動の一環として佐賀県唐津市で結成したガールズバンド。九州を中心にライブ活動を行うかたわら、ヤマハ主催の「Music Revolution」など、さまざまな音楽コンテストで各賞を受賞する。2013年7月「ドレミFUN LIFE」でメジャーデビュー。2014年1月には1stアルバム「TANCOBUCHIN」をリリースした。2015年1月に2ndアルバム「TANCOBUCHIN vol.2」を発表し、同年3月に実施したアルバムのリリース記念ワンマンライブでは全公演ソールドアウトを記録した。


2016年9月27日更新