音楽ナタリー Power Push - 多田慎也×MADOKA(たんこぶちん)
「Yamaha Music Audition」特集 Vol. 1
経験者の言葉から読み解くイマドキのオーディション事情
ヤマハミュージックパブリッシングが主催するオーディション「Yamaha Music Audition」が8月1日にスタート。音楽ナタリーではこのオーディションを盛り上げるべく連載型の特集を展開する。
連載第1回目では「Yamaha Music Audition」内で行われるオーディションのうち、「The Songwriter STAR」で審査員を務める音楽プロデューサーの多田慎也、かつてヤマハグループが主催していたオーディション「Music Revolution」をきっかけにメジャーデビューを果たしたたんこぶちんのMADOKA(Vo, G)へのインタビューを実施。インタビューの現場にはヤマハミュージックパブリッシングで制作ディレクションを担当する岡田純氏にも立ち会っていただき、アーティストによるオーディションの経験談だけでなく、審査する側の視点から見たオーディションの力の入れどころ、スタッフが求める“熱の入った音源”というものがどういうものなのかなど、さまざまな話題について語り合ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 上山陽介
オーディションに親近感
──多田さんとMADOKAさんはこれまでどういうオーディションを経験してきたんですか?
多田 昔はアーティストとしても、作曲家としてもありとあらゆるコンペやオーディションに参加させてもらいました。そんな中でも音楽のお仕事につながるきっかけになったのが、「ミュージックゴング」っていうオーディションで。そのとき驚いたのが、オーディションって音楽業界の偉い人が仕切ってるようなイメージがあったんですけど、そのオーディションを立ち上げたのは僕と同い年の方だったんです。それを知ったとき、なんだか親近感が湧いたというか「ああ、オーディションってやっぱり人間が作ってるんだな」という実感があったのを覚えています。それに僕は今でもコンペとかに参加してますから、常にオーディションを受け続けているような人生を送っています(笑)。
──MADOKAさんはどうですか?
MADOKA たんこぶちんを結成したのが小学6年生のときだったんですけど、その頃からヤマハがやってたオーディション(「Music Revolution」)には毎年応募してました。小6で応募したときは同じ学校の別のバンド・Victory(現・がんばれ!Victory)が、九州大会でいい成績を残したんです。それがすごく悔しくて、毎年ヤマハのオーディションにチャレンジし続けていました。
──たんこぶちんが「Music Revolution Japan Final」に出場したのは、MADOKAさんが高校2年生のときでしたよね。
MADOKA 毎年欠かさず出てたので、6年目ですね(笑)。
岡田 僕はたんこぶちんが「Music Revolution Japan Final」に出場した年の九州大会の審査員だったんです。
──当時のたんこぶちんの印象はどういうものでしたか?
岡田 正直に言うと“制服を着た女子高生による、やたら元気なバンド”って、どこのオーディションにも、必ず1組は出てくるんですよね。だから「またこういうバンドか」っていう第一印象だったのを覚えています。ただほかのバンドと比べてたんこぶちんはとにかく明るくて“陽のオーラ”がすさまじかった。1個も悩みがないんじゃないの?っていうくらい(笑)。
MADOKA そんなことはなかったです(笑)。
岡田 その突き抜けた明るさが気になって、僕はそのとき「〇」を付けたんですよ。デビューしても彼女たちの一番の持ち味は変わらずその明るさだと思ってるから、当時から個性がちゃんと出てたんだなって印象がありますね。
MADOKA 私たちは小学校の先生に楽器を教えてもらってたんですけど、初めて「Music Revolution」に出るとき、その先生に「とりあえずニコニコ笑っときゃいいよ。手元とか見なくていいから、とりあえずお客さんに向かって笑え」ってアドバイスをもらったんです。そのアドバイスがずっと頭にあったので、それが伝わったのかもしれないですね。
王道でありながら、裏道にもつながっている
──多田さんとMADOKAさんにとって、オーディションでの経験はどういうものでしたか?
多田 オーディションを受けるまで、僕はただ「いい音楽を書けばいいものだ」と思っていたんです。例えばデモテープをものすごい作り込んでいた反面、プロフィールのところに載せる写真には全然気を配っていなかったり。オーディションって音楽はもちろん、そのアーティストがどういう格好をして曲を表現しようとしているのかっていうのも大事だったんだなって思っています。
MADOKA 私にとってオーディションは人前で演奏する貴重な機会だったんですよね。私の出身地が佐賀の唐津っていう田舎なんですけど、ライブハウスもほとんどないし、バンドをやってる人も少なくて。人前で演奏できる機会は漁港で行われる「港祭り」くらいしかなかったんです。オーディションだと私たちのことを全然知らない人も観てくれるので、ステージ慣れできるいいチャンスだなって思ってました。
多田 実は僕、オーディションでグランプリっていうものを獲ったことがないんです。1次審査を通過したあと最終審査までは進めなかったけど、審査員の方が「いいものを持ってるから」って感じで声をかけてくださったりして、そこからお仕事をいただいたり。僕だけじゃなくて、賞を獲らなくても音楽の仕事につながった人ってたくさんいます。だからオーディションってデビューまでの王道のように捉えられがちかもしれないですが、実は裏道にもつながっているのがオーディションの魅力だと実感していますね。
岡田 審査する側からすると、今は音源を審査するときの視点が本当に増えたなと感じています。例えば「この子は曲が作れるかわからないけど声はいい。シンガーとしていけるかも」とか、「ギターの演奏がうまいからプレイヤーとしていいかも」とか。オーディション自体もたくさん種類が増えましたけど、僕ら聴く側の人間もいろんな視点を持って、「この子がどこで活躍できるのか」っていうのを常に考えるようにしています。
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- 「Yamaha Music Audition」
- ヤマハミュージックパブリッシングが主催する多角型音楽オーディション。北海道在住者を対象とした「AREA CIRCUIT AUDITION in 北海道」といった地域を限定したオーディションや、歌モノのオリジナル楽曲を制作するソングライターを探す「The Songwriter STAR」といったオーディションなど、さまざまな切り口の音源募集を随時行っている。
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- Yamaha Music Audition ヤマハミュージックパブリッシングが主催する多角型音楽オーディション
- YamahaMusicAudition (@audition_yamaha) | Twitter
各種オーディション
多田慎也(タダシンヤ)
シンガーソングライター、作詞作曲家、音楽プロデューサー。2007年2月に発表された嵐のシングル「Love so sweet」の収録曲「いつまでも」で作家デビューを果たす。このほかAKB48、アイドリング!!!、ももいろクローバーZ、天月-あまつき-といったアーティストの楽曲制作に携わる。2009年には自身もシンガーソングライターとして活動を開始し、2013年1月には東京・赤坂BLITZにて単独公演を開催した。
たんこぶちん
2007年、MADOKA(Vo, G)、YURI(G)、CHIHARU(Key)、NODOKA(B)、HONOKA(Dr)らが小学校の課外活動の一環として佐賀県唐津市で結成したガールズバンド。九州を中心にライブ活動を行うかたわら、ヤマハ主催の「Music Revolution」など、さまざまな音楽コンテストで各賞を受賞する。2013年7月「ドレミFUN LIFE」でメジャーデビュー。2014年1月には1stアルバム「TANCOBUCHIN」をリリースした。2015年1月に2ndアルバム「TANCOBUCHIN vol.2」を発表し、同年3月に実施したアルバムのリリース記念ワンマンライブでは全公演ソールドアウトを記録した。
2016年9月27日更新