ナタリー PowerPush - やけのはら
キーワードは「ドリーミーミュージック」
「ああ、誰かにインタビューしたい!」って
──ジャケットにもそれは感じますね。「この音ありきの、この写真」という必然性を強く感じます。
その感想は本当にうれしいですね。これはアートディレクターの信藤(三雄)さんがプライベートで撮っていた沖縄の米軍ハウスの写真をお借りしたものなんです。もともと信藤さんの写真やお仕事は大好きだったので、感無量ですね。……やっぱり自分の声が入っているアルバムに関しては、僕は自分でディレクションしたいんですよ。ジャケットを決めるのは1曲目のサビを決めるのと同じぐらい大切だと思ってます。それでぜんぜん聞こえ方が変わっちゃいますからね。音楽産業も調子悪いですし、データでのリリースも多いと、即物的に音楽を楽しむことが恒常化しちゃうと思うんですけど、やっぱり僕は「なんでこの音にこのジャケなんだろう」とか「この無駄な余白はなんなんだろう」みたいに、聴くときに想像したり考えたりする面白さというのも残していきたいんです。それこそ紙質とか匂いから伝わる情報……、それはすごくまどろっこしかったり、直接的にドンと伝わるものではないのかもしれないけど……。
──よくわかります。
僕、高校生の頃にカセットテープを自主リリースしたことがあるんですけど、そのときにやろうとしたアイデアというのが、カセットとは別に7inchの形に切り出したプラスチックの板をオマケにつけるというものなんですよ。要はそれをターンテーブルに乗せて回しながら聴いてもらうと、まるで音がレコードから鳴っているように聴こえるっていう(笑)。
──手間!(笑)
ですよね(笑)。伝わらないし、無駄が多すぎますよね。でも、CDやレコードで音楽を聴くというのが好きですし、物質に音が記録されるということや、アートワークにはこだわりがあります。
──アートワークに限らず、やけのはらさんからは「全体が見えていたい」というこだわりや意思を感じますよ。やけのはらさんの肩書きを羅列すると、DJ、トラックメーカー、ラッパー、プロデューサー、文筆家と、すごく多岐にわたるわけじゃないですか。
それは全部応用というか、自分の中ではあんまりいろんなことやっている意識はないんですけどね。
──皆さんそうおっしゃいます(笑)。中でも「文筆家」というのは問題で、正直、インタビュアーにインタビューするのって、すごくやりにくいんですよね。
(笑)。僕も自分が答えるよりは人に聞くほうが好きなので、その気持ちはわかります。去年の秋までいろんな人に話を聞くWEBの連載もあったりしたので、僕も毎月誰かにインタビューしてたんですけど、アルバム制作タイミングでそのサイトがなくなって。それで、ずっと篭って作業してたら、こないだふと、「ああ、誰かにインタビューしたい!」って思って。
──(笑)。
そういう感情って、たぶん珍しいですよね。僕はもともと人の自伝を読んだりするのも好きだし、自分よりも他者に対しての興味が強いほうなんですよ。でもそれは、ポップミュージシャンとしての弱点でもあるんですよね。他者より自分に対して興味がある人のほうが絶対に強いわけです。例えば今日みたいにインタビューをしてもらっていても、どこかでバランスを取ろうと自主規制してしまったり、丁寧に言葉を選びながら話していくと、意外と重要なことを言い忘れてしまったり……だから、「俺はこれだ」ってドンと打ち出せる性格の人はうらやましいなといつも感じてますね……。
──そもそもそういう資質というのは、どこから育まれたものだと思いますか?
うーん、実は母親からの影響が大きいのかもしれませんね……。子供って親とけんかするじゃないですか。そのときの母親の言い分というのが、「私はこの暮らしに未練がないし、物質には興味がない。なんならあなたを畑に連れていって、その日その日の収穫で育ててもいいのよ!」っていう(笑)。それって子供にとってはものすごくショックというか、友達も大切だし学校も楽しいし、それを言われちゃうともうダメだっていう(笑)。うちの母親は、ザックリ言うと、すごく固い人なんですよね。流行モノは全部ダメ、みたいな人だったから、そこに反発する部分もありつつ、実はかなり影響を受けていたというのが、最近になってようやくわかってきましたね。今回のアルバムを作り終えたときも「なんだか晴耕雨読感のあるアルバムになったなあ」って思いましたね。あんまり道徳的になるのもダサいし、正論ばかりでもアレなんですけど、大人になるにつれ、そういう根本的な部分というのは小さいときの教育や環境に影響されるなというのは感じます。
ずっと機材の話をしていたいくらい
──特に終盤の「D.A.I.S.Y.」には、とても大らかな視点というのが感じられますよね。母性的というか。僕は聴き終えて、「やけのはらさん結婚した? 子供できた?」みたいに思いました(笑)。
それは鋭い! いや、まだ扶養家族は1人もいない状態ですけど(笑)、実はこの曲の制作途中に、友達の結婚式でライブをする機会があったんですよ。で、それ用にレパートリーを増やそうと思ってこの曲の歌詞も書いて。結局そのタイミングでは完成しなかったんですけど、人間の絆であったり、生命の誕生みたいなものを意識した部分も含まれています。
──「何かを嫌うにはあまりにも一瞬で 何かを愛するにもあまりにも一瞬で 朽ち果てて消えるまでの長い長い夢」というラインは、かなり人生の本質に迫っていますよね。ライフサイズ観の究極というか。そこに平賀さち枝さんのフックが入ることで、アルバムの中でも1、2を争う多幸感につながっている。平賀さんはどういう経緯で参加することになったんですか?
女性に歌ってもらう曲を作りたいというのは2~3年前からあって、女性シンガーを探していたんです。平賀さんは、下北のライブハウスの共同企画イベント(「Shimokitazawa Indie Fanclub 2012」)の打ち上げで一緒になったんです。で、そのときに「りんご音楽祭でのライブよかったです」と言ってもらって、「あ、この人は敵じゃない!」と思って友達になって(笑)。最終的に冬くらいにこの曲で歌ってもらうのに適しているなと思ってオファーして。まず自分の音楽を好きであってくれると作業もしやすいですし。莫大な予算があるわけではないので、楽しんで参加してもらわないと、申し訳ないことになるし。
──相思相愛ありきのオファー、大事ですよね。
もちろん僕も平賀さんの音楽が好きだったし、シンガーとして、余白のある感じが面白いなと思っていて。この曲のこのメロディ、歌詞で歌ってもらったら、面白いことになるという直感があったんです。平賀さんからのデモが、iPhoneのボイスメモで録音されて届いたんですが、ものすごく唇の近い、ボソボソした声が送られてきて(笑)。でもそれが「あまり感情を前面に出さない、なんとなくロボットっぽい無垢な歌」という僕のイメージにぴったりだったんです。
──いわゆるシンガーとして活動している人だと、「ロボットっぽく」というオファーでもう叱られる(笑)。ちなみに平賀さん以外に気になる女性シンガーはいますか?
なんですかね、もちろんいろいろいますし、ソウルっぽい歌とかも好きなんですが……。急に思い出したのですが、ねごとさん、いいなと思いました。CDをたまたまいただいて聴いて、すごくポップスとしての完成度を感じました。
──あ、さっきの肩書きの話でいえば、「リミキサー」というのを忘れてました。
リミックスは本当に大好きです。コンセプトとかアイデアを考えるのは本当に楽しいし、自分のアルバム制作とはぜんぜん違った達成感があるんですよね。1曲をとことん突き詰めるというやり方も、自分にはしっくりくるし。……実はこういうインタビューでも、僕は、自分がどうとかよりずっと機材の話をしていたいぐらいで(笑)。長渕(剛)さんがギターのシールドにものすごくこだわってるとか、永ちゃん(矢沢永吉)が打ち込みの名人だとか、そういう話のほうが好きなタイプです(笑)。
川勝正幸さんが亡くなったことがきっかけ
──もう少しリリックの話を聞かせてください(笑)。曲順が前後しますが、「BLOW IN THE WIND」。ceroの高城晶平さんが歌うフックも印象的ですが、この曲は何より「普通じゃないものに今でも夢中さ」というリフレインが耳に残りますね。
「普通」という言葉は、かなり危険だと思うんですけど、あえてこれはそのままにしました。これは川勝正幸さんが亡くなったことをきっかけに書き始めた歌詞なんです。例えば音楽とか映画っていうものは、1つの娯楽であって、人間の衣食住に直接結びついているものではないわけじゃないですか。不毛なことといえば不毛なことなわけで、大きな視点で見れば「普通じゃないこと」だと思うんです。川勝さんはその「普通じゃないこと」にとことん入れ込んでいた方だと思うので、去年のあの事件のあとに、ふとこの言葉が出てきたんですよね。
──「視点を変えて 目線を変えて 何か違うことをやってみようぜ」という呼びかけは、川勝正幸さんの遺産であるわけですね。
そうですね。自分もずっと文化が好きで生きてきて、これからも携わっていきたいし、文化の歴史や、文化を愛するということ、そして生きていくということとかに思いを馳せて作りました。
──「HELTER-SKELTER」はどうですか? ここで聴ける混沌とした自由というのは、このアルバムの中ではかなり異色ですよね。僕は実際に具体的な敵であったり危機が出てこない不安という意味で、(楳図かずおの)「漂流教室」なんかを思い出したんですよ。子供たちだけでどこかに隔離されてしまった際の、自由すぎる自由というか。
うまくまとめていない感じというのはありますね。実際、この曲だけは他の曲とアプローチが違っていて、リリックの整合性や意味性というよりも、一筆書きのように作りました。固有名詞を引用した曲を作ろうというテーマもあったし、流れの中で無意識に出てきた言葉も多いし。で、そういう書き方をすると、おのずと複数の視点がぶつかってしまったりするんですけど、あえてそれもそのまま打ち出すことで、何が楽しくて何が楽しくないのかすらもわからない感じ、ある種の群像感、危機感が出ればいいな、と思って。……あと、もともとこの曲はキセルさんとの共演(「felicity live 2011」)でキセルさんの曲に参加させていただいたときに書いた歌詞が原型で、キセルさんの言葉を僕なりに分析して、なるべくその世界観に入り込むようにして書いたものなんですね。
──曲の成り立ちからして、1つの視点じゃない。
そうですね。僕はキセルさんの曲から、漠然とした喪失感というものを受け取ったので、そこに震災後の自分の気分であったり、世の中の混乱というものを書き足していって。
収録曲
- INTO THE SUNNY PLACE
- HELTER-SKELTER
- RELAXIN'
- I LOVE YOU
- SUNNY NEW DAYS
- IMAGE part2
- TUNING OF IMAGE
- CITY LIGHTS
- JUSTICE against JUSTICE
- AIR CHECK
- BLOW IN THE WIND
- D.A.I.S.Y.
- where have you been all your life?
Erection presents YAKENOHARA 「SUNNY NEW LIFE」 Release Party supported by felicity
2013年5月3日(金・祝)
東京都 代官山UNIT
<出演者>
LIVE:やけのはら
(ゲスト:VIDEOTAPEMUSIC、Dorian、MC.sirafu、LUVRAW、高城晶平、平賀さち枝) / LUVRAW & BTB / THE OTOGIBANASHI'S
DJ:高城晶平 (cero) / shakke
やけのはら
DJ、ラッパー、トラックメイカー。「FUJI ROCK FESTIVAL」「METAMORPHOSE」「KAIKOO」「RAW LIFE」「Sense of Wonder」「ボロフェスタ」などの数々のイベントや、日本中の多数のパーティに出演。数多くのミックスCDを発表している。またラッパーとしては、アルファベッツのメンバーとして2003年にアルバム「なれのはてな」を発表したのをはじめ、曽我部恵一主宰レーベルROSE RECORDSのコンピレーションにも個人名義のラップ曲を提供。マンガ「ピューと吹く!ジャガー」ドラマCDの音楽制作、テレビ番組の楽曲制作、中村一義、メレンゲ、イルリメ、サイプレス上野とロベルト吉野などのリミックス、多数のダンスミュージックコンピへの曲提供など、トラックメイカーとしての活動も活発に行なっている。2009年に七尾旅人×やけのはら名義でリリースした「Rollin' Rollin'」が話題になり、2010年には初のラップアルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」を発表。その後Stones Throw15周年記念のオフィシャルミックス「Stones Throw 15 mixed by やけのはら」を手がけ、2012年にはサンプラー&ボーカルを担当している、ハードコアパンクとディスコを合体させたバンドyounGSoundsでアルバム「more than TV」を完成させた。2013年3月、新しいラップアルバム「SUNNY NEW LIFE」をリリース。