友希×サウンドプロデューサーRyo'LEFTY'Miyata|“シンガーソングライター友希”の大きな可能性を語り合う

声優アイドルユニットi☆Risに所属しながらソロシンガーとしても活動する友希が、1stフルアルバム「Main Dish」をリリースした。

15歳から本格的に音楽活動を行い、シンガーソングライターを目指していた友希。2021年に念願のソロデビューを果たし、30歳を迎える今年、ついに1stフルアルバムを完成させた。アルバムにはこれまで音源化されていなかった4曲に、Kanata Okajimaとのコライトで生まれた「THIS IS ME」、黒木渚が作詞提供した「遺言」、クラウドファンディングを通してファンと作り上げた「WA!」など8曲の新曲を加えた全12曲が収録されている。

音楽ナタリーでは友希に加え、本作をはじめとした彼女のすべての楽曲にサウンドプロデューサーとして携わっているRyo'LEFTY'Miyataにインタビュー。アルバムの制作過程について語り合ってもらった。

取材・文 / はるのおと撮影 / はぎひさこ

今日からサウンドプロデューサーとしてお願いします

──お二人の最初の接点を調べたのですが、2019年10月の友希さんの1stライブ「友希 1st Live -Hello! My Dream-」の前後から、ということで合ってますか?

友希 そうです。当時「カフェラテ」とかそれまで作り溜めていた楽曲をワンマンライブ用にアレンジする必要があったんですが、そもそも私はアレンジができない。それでライブ制作でお世話になっているスタッフさんがレフティさんを紹介してくれて、レフティさんが全部アレンジしてくださったんです。私にとっては救世主でした。

Ryo'LEFTY'Miyata あのときはデモの状態でいろんな曲があって。それをアレンジして形にしていくという作業をしていました。音楽的な骨組みがしっかりしていて、こんなに曲を作れる子がアイドルをしているのは不思議だなと思っていたのを覚えています。

友希 そのワンマンライブで、レフティさんは今みたいにバンドとしてサポートしてくれたわけではなく、“見守り”みたいな立場で。

LEFTY 確か、総合演出兼音楽監督な感じでアサインされていたのかな。

友希 サポートとして入ってくださるようになったのは、2020年3月のオンラインライブからですね。

左から友希、Ryo'LEFTY'Miyata。

左から友希、Ryo'LEFTY'Miyata。

──その後の友希さんのソロ活動において、レフティさんはすべての曲になんらかの形で関わっていますね。

LEFTY 基本的にはうちのスタジオで友希さんと一緒に曲を作ったり、友希さんが持ってきた曲の原型をブラッシュアップしてアレンジしていくみたいなことをしています。いわゆるサウンドプロデューサーとしてジョインさせていただいています。

友希 サウンドプロデューサーと言っていいんですか? これまで確認したことなかったけど。

LEFTY サウンドプロデューサーでしょ、どう考えても(笑)。

友希 レフティさんってすごいツンデレだから「俺はプロデュースしてるとか、そういうんじゃないから」とか言いそうだし。では今日からサウンドプロデューサーとしてお願いします。

女版ジェイコブ・コリアーを目指せば?

──アイドルや声優と並行しながらのソロアーティスト活動を、レフティさんはどう見ていましたか?

LEFTY 大前提として、声優をして、アイドルをしながらシンガーソングライターもするというバイタリティはすごいです。ただ、アイドルや声優として忙しい時期があって、その合間にシンガーソングライターとして活動するという感じにどうしてもなってしまうのがあまりよくないと思っていました。シンガーソングライターって隙間にやるものではなく、持続的に、まるで息をしているかのように活動するものじゃないですか。

友希 その悩みは本当に尽きず。年に1回、友希としてライブツアーをするだけで、そのあとにまた何もないのは本当にもったいないし。もっと言うと、“i☆Risの友希ちゃん”のソロ活動と“シンガーソングライター・友希”としての活動をどう差別化していくか、ここ数年ずっと葛藤がありました。

友希

友希

──ただ、そういったほかのシンガーソングライターにはない経験が武器になることもあったのでは。

LEFTY 今回のアルバムの新曲で、そういった経験も少し乗せられました。でもシンガーソングライターとしてはアルバム1枚目で、まだまだ1年生。圧倒的に経験が足りないんですよ。説明する必要もないでしょうけど、友希さんは本当に歌がうまい。これは間違いないけど、特に歌詞なんかは実体験の集積から生まれる等身大のブルースが重要です。だからもっといろんな経験をして見聞を広め、1人のアーティストとしての世界を成熟させていってほしいです。

友希 シンガーソングライター1年生というのは本当にそうで。シンガーソングライターって常に路上ライブしたり、いろんな方と対バンしたりしていますよね。

LEFTY 高円寺の高架下で、全然人が止まらない中で弾き語りしたりね。

友希 そういう経験から来るブルースみたいなものがシンガーソングライターの味につながるはずなのに、私は小さい頃から恵まれているんです。オーディションに受かって、i☆Risでデビューして、武道館のステージに立って……めちゃくちゃ恵まれている。そんな自分が嫌と言ったら変ですけど、もっとすごく苦労しないとって。

LEFTY 苦労していないことにコンプレックスを感じている?

友希 小さい頃からすごくハッピーに生きてきたことがコンプレックスなんですよ。それと、自分がまったくやってこなかったことを当たり前にやっているシンガーソングライターがたくさんいる中で、そちらに思いきり足を踏み入れる怖さもあったし。恵まれてるからこそ、知らない世界が、怖くって……(涙を流す)。

LEFTY すぐ泣くー!(笑)

友希 こんなふうにすぐ泣いちゃうし(笑)。ずっとシンガーソングライターになりたかったはずなのに、経験が足りてないから恐れもあり、自信が持てない期間も少なからずありました。でも、アルバムを作る合宿でレフティさんがくれた「女版ジェイコブ・コリアーを目指せば?」という言葉で少し光が見えたんです。

LEFTY i☆Risの友希ちゃんを応援しているファンに「こんなことをやっているんだ。すごいね」と言われるのをゴールにするなら、元のままでもよかったんでしょう。でも彼女の存在を知らない人にも「この友希ってマジやばくない?」と驚かれたいなら、相当な変化をしなければいけない。彼女にはそれを実現するためのポテンシャルはあるんですよ。ピアノも弾けるし、ギターも弾けるし、歌もうまいし、ダンスもできる。それらのパラメータを全部ブレイクスルーさせれば絶対世界は振り向いてくれるだろうと考えて、「女版ジェイコブ・コリアー」という言葉を出しました。

Ryo'LEFTY'Miyata

Ryo'LEFTY'Miyata

友希 その言葉で自分もやっと腑に落ちたというか。シンガーソングライターなら誰でもできるような曲を30歳になってもやるのは違うなと思っていたけど、今後成長したい方向が見えました。レフティさんはいつも厳しいけど、きちんと育ててくれるお父さんみたいな存在です。

ファンの皆さんと記念のアルバムを作りたい

──クラウドファンディングを通して作られた今回のアルバムは、そうした成長途上でどんな位置付けの作品でしょう?

友希 30歳の節目にファンの皆さんと記念のアルバムを作りたいと思ったのが制作のきっかけですが、作っていく中で、それだけで終わりたくないという気持ちが芽生えました。これから友希というシンガーソングライターが活動し続けることを示す作品にしたいと。

LEFTY 僕が記憶してる限り、「アルバムを出したい」と言ってきたときに、初めて彼女の能動的な意思のようなものを感じたんです。アーティストとしての自覚が生まれたのかなと感じ、それにふさわしいものを一緒に作ろうと覚悟を決めました。でも、どんなアルバムにしたいかという話をしたときに、最初は「30曲入れたい」ってわけのわからないことを言われて(笑)。

友希 30歳だから(笑)。

LEFTY 「それは意味ないからやめろ」って止めたんですけど。

友希 30曲入れることはできなかったんですが、私はこれまでファンの方々にたくさん助けられてきたので、皆さんと一緒に面白いことができないかなと考え、クラファンを使ってのCD制作を選択しました。CDという形でアルバムが欲しいという人も多かったし、前にさき様(i☆Risの山北早紀)がクラファンをやっていたので、私もやってみようかなと。「達成率が100%いかなかったらどうしようかな」とマジでビビっていましたが……。

──まさかのクラファン開始5分で達成、しかも最終的な達成率は388%までいくという。

友希 本当にびっくりしました。ファンの皆さんへの特大の感謝の気持ちがあります。「それだけみんなアルバムを待っていてくれたんだ」とわかってうれしかったです。

友希

友希

──クラファンのリターンとしてアルバム制作合宿やレコーディングへの参加権があるのがユニークでしたが、あれはどなたのアイデアだったのでしょうか?

友希 レフティさんです!

LEFTY そもそもクラファンを通じてアルバムの制作過程をファンに見ていただこうというコンセプトはありました。でも、それならいっそミュージシャンも呼んで合宿をして、そこで曲をガーっと作る様子をドキュメンタリーとして見てもらうのも面白いかなと。そこからドラマが生まれるかもしれないし、ミュージシャンと同じ空間で作るからこそ生み出せるものがあるというのは自分の経験上わかっていたので。

友希 ナイスアイデアでした。電波もなかなかつながらないような場所での合宿でしたけど(笑)。おかげで制作に集中できたし、楽しかったです。アルバムの最後に収録された「WA!」の歌詞は事前にある程度決めていましたが、曲自体は合宿の最終日にファンの方々が来てから作る予定でした。「時間が足りなかったらどうしよう」といった不安もなく、実際に1時間くらいで全部できあがって。あのスピード感は合宿がないと生まれなかったはずです。

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