高橋諒(Void_Chords)×梶浦由記|「プリンセス・プリンシパル」が引き寄せた2つの異端

“ボイド領域”と“無法地帯”

梶浦 Void_Chordsっていう名前はどういう意味合いでつけられたんですか?

高橋 宇宙の中には星も銀河もまったく何もない“ボイド領域”というものがあるんですよ。ひたすら何もない場所。でも、そこにも実はいろいろなエネルギーが溜まっていて、いろいろなものが生まれる可能性もあるんですよね。それを自分に重ね合わせてみると、僕の中にある王道ではない部分、ちょっとひねくれた部分……キラキラしていないところからも何か面白いものが生まれてくるんじゃないかなと思えたんです。だから新たに自分1人でプロジェクトを始めるならば“Void”ってワードを使いたいなと。

梶浦 へえ、そうなんですか。

──高橋さんはこれまでポピュラリティのある楽曲も多数生み出してきていますけど、一方にはそういったマイノリティ的な感覚も持ち合わせているんですね。

高橋諒

高橋 そうですね。メジャー感やポピュラリティみたいなところに憧れる一方で、そこに染まりきれないと言うか、ちょっとドロドロしたマイノリティ的な部分が並列に存在しているところは絶対にあるんですよ。だったら、歌モノやサウンドトラックで自分のいろんな音楽性を出させていただいているうえで、そのドロドロした部分を出すチャンネルも作ってしまおうと。だからVoid_Chordsは、ほとんど趣味の領域なんですよね(笑)。あんまりお仕事としてやっている感覚がないというか。「カッコいいだろ?」みたいなところを集約するとこうなった、みたいな。それだけ自由にやらせてもらえることがほんとにありがたいんですけど。

梶浦 その感覚はすごくわかりますよ。私の場合はわりとシングルのカップリングがそういう場なんですよ。カップリングはもう、“梶浦無法地帯”(笑)。もちろんシングル的な明るいポップスを書くのもすごく好きなんですけど、そういう“無法地帯”が同時に存在してることでストレスを溜めることなくお仕事ができている部分は確実にあって。

高橋 あー、まさにVoid_Chordsは梶浦さんにとってのカップリング的な場所ですね。オープニングテーマにしてもらっておいてこんなこと言うと怒られそうですけど、「The Other Side of the Wall」は自分的B面の位置付けですからね。本来、A面ではやっちゃいけないタイプ(笑)。まあ、今回はそれを制作サイドから求められたっていうのはあるんですけど。

梶浦 そうですよね(笑)。私はこういうエッジの利いたカッコいい曲を作るのがなかなか苦手なので、本当に痺れまくって聴いてますから。だからもうどんどんやってっていう感じですよ。これがB面だというならB面集をぜひ作ってください!

高橋 ありがとうございます! でも本当に、1つのことだけをやってるといろいろ溜まってきますよね。いろんなチャンネルで吐き出させていただけるほうが、音楽家としては精神を健全に保てるなってすごく思います。

梶浦 ね。インストを30曲くらい書いてると、「歌モノ書かせろや、コラ!」って気持ちになってきますから(笑)。で、歌モノばっかり続くと「インスト書かせろや!」って思うし、わがままな生き物ですよね。

高橋 ほんとそうですね(笑)。

“自分らしさ”は結果でしかない

──劇伴や歌モノなどさまざまなアウトプットの場があるお二人の楽曲には、それぞれの個性が色濃くにじんでいると思います。いわゆる音楽家としての“自分らしさ”に関しては、制作の段階で常に意識されているものなのでしょうか?

梶浦由記

梶浦 私の場合、本当は“梶浦サウンド”って言われたくはないんですよ。そもそも自分で“梶浦サウンド”を作るつもりもないし。常に自分の殻を破った音楽を作りたいなとだけ思っているというか。過去を振り返ってみると、自分で「自分らしい曲」って言った場合は、できることしかやらなかったことに対しての言い訳でしかなんですよ。今思うとほんとに殴りたくなるんですけど(笑)。大事なのはかかわる作品のために、今の自分が作りたいと思う音楽のためにベストを尽くすことだけ。自分らしさっていうのはその結果でしかないんですよね。そこを忘れないようにがんばっていたいなっていうことは常に思っていますけど。

高橋 ……いやー、勉強になります。梶浦さんの音楽には確固たるカラーがあるので、ご自身がそう思ってらっしゃったのは意外でした。僕の場合は劇伴をやらせていただくようになったタイミングで自分らしさを意識するようになったところがあって。そこを出さないと「誰に頼んでも一緒」ってことになっちゃうんじゃないかなと思ったんですよね。でも、自分のカラーを意識せずとも、それが結果としてついてくるっていうのはすごく納得できるところもありますね。

梶浦 私もアニメのお仕事をさせていただくようになって3作目くらいまでは「なんとか自分らしさを出さなきゃ」と思っていたんですけれど、あとから考えると当時持っていた「自分らしさ」なんて本当に矮小なもので。そのあと、周囲からの助言もあって当時の自分から見たら「自分らしくない」にチャレンジしてみたことが、結果サウンドの幅をわずかでも広げてくれる実感があったんですよね。振り返ってみればすべて糧になっているなと。だから敢えて自分から幅を狭めることはやめて、常にベストを尽くすことだけを考えていたいな、と今は思っています。

高橋 いやー、もう首の骨が折れるんじゃないかってくらいうなずいちゃいました(笑)。ホントにその通りだと思います。いいお話が聞けてよかったです。ありがとうございました。

梶浦 いや、こちらこそ。なんか説教くさくなっちゃってすみません(笑)。

左から高橋諒、梶浦由記。
Void_Chords feat.MARU
「The Other Side of the Wall」
2017年7月26日発売 / Lantis
Void_Chords feat.MARU「The Other Side of the Wall」

[CD]
1296円 / LACM-14624

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収録曲
  1. The Other Side of the Wall
    (テレビアニメ「プリンセス・プリンシパル」オープニングテーマ)
  2. Drive My Fate
  3. The Other Side of the Wall(Instrumental)
  4. Drive My Fate(Instrumental)
アンジェ(CV:今村彩夏)、プリンセス(CV:関根明良)、ドロシー(CV:大地葉)、ベアトリス(CV:影山灯)、ちせ(CV:古木のぞみ)「A Page of My Story」
2017年8月2日発売 / Lantis
アンジェ(CV:今村彩夏)、プリンセス(CV:関根明良)、ドロシー(CV:大地葉)、ベアトリス(CV:影山灯)、ちせ(CV:古木のぞみ)「A Page of My Story」

[CD]
1296円 / LACM-14629

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収録曲
  1. A Page of My Story
    (テレビアニメ「プリンセス・プリンシパル」エンディングテーマ)
    [作詞:Konnie Aoki / 作・編曲:高橋諒]
  2. Shoot Your Heart Out!
    [作詞:Konnie Aoki / 作・編曲:高橋諒]
  3. A Page of My Story(Instrumental)
  4. Shoot Your Heart Out!(Instrumental)
V.A.「TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』キャラクターソングミニアルバム 5 Moving Shadows」
2017年8月30日発売 / Lantis
V.A.「TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』キャラクターソングミニアルバム 5 Moving Shadows」

[CD]
2484円 / LACA-15664

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収録曲
  1. Take Me Up Higher / アンジェ(CV:今村彩夏)
    [作詞:Konnie Aoki / 作・編曲:高橋諒]
  2. Under the Moonlight / ドロシー(CV:大地葉)
    [作詞:Konnie Aoki / 作曲:高橋諒 / 編曲:村山☆潤]
  3. 閃光刀歌 / ちせ(CV:古木のぞみ)
    [作詞:Konnie Aoki / 作曲:高橋諒 / 編曲:藤田宜久]
  4. リトルブレイバー / ベアトリス(CV:影山灯)
    [作詞:Konnie Aoki / 作曲:高橋諒 編曲:酒井陽一]
  5. Into the Sky / プリンセス(CV:関根明良)
    [作詞:Konnie Aoki / 作曲:高橋諒 編曲:福富雅之]
梶浦由記
「TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』オリジナルサウンドトラック」
2017年9月27日発売 / Lantis
梶浦由記「TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』オリジナルサウンドトラック」

[CD]
3564円 / LACA-9540~1

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テレビアニメ「プリンセス・プリンシパル」
テレビアニメ「プリンセス・プリンシパル」
2017年7月9日(日)よりTOKYO MX、KBS京都、サンテレビ、BS11、AX-Tで放送中
スタッフ
監督: 橘正紀
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクター原案:黒星紅白
キャラクターデザイン・総作画監督:秋谷有紀恵
総作画監督:西尾公伯
コンセプトアート:六七質
メカニカルデザイン:片貝文洋
リサーチャー:白土晴一
設定協力:速水螺旋人
プロップデザイン:あきづきりょう
音楽:梶浦由記
音響監督:岩浪美和
美術監督:杉浦美穂
美術監修:池信孝
美術設定:大原盛仁 / 谷内優穂
色彩設計:津守裕子
HOA(Head of 3D Animation):トライスラッシュ
グラフィックアート: 荒木宏文
撮影監督: 若林優(T2 studio)
編集: 定松 剛(サテライト)
アニメーション制作: Studio 3Hz / アクタス
キャスト
アンジェ:今村彩夏
プリンセス:関根明良
ドロシー:大地葉
ベアトリス:影山灯
ちせ:古木のぞみ
Lエル:菅生隆之
7セブン:沢城みゆき
ドリーショップ:本田裕之
大佐:山崎たくみ
ノルマンディー公:土師孝也
ガゼル:飯田友子
Void_Chords(ボイドコーズ)
Void_Chords
音楽集団・ONE III NOTESの一員として一躍脚光を浴びたサウンドクリエイター高橋諒によるソロプロジェクト。テレビアニメ「プリンセス・プリンシパル」のオープニングテーマ「The Other Side of the Wall」で2017年7月にデビューを果たす。1stシングル「The Other Side of the Wall」ではDREAMS COME TRUEをはじめとするさまざまなアーティストのライブやレコーディングで活躍するボーカリスト・MARUをフィーチャーしており、今後も作品ごとに異なるアーティストを招きながら活動していく。
梶浦由記(カジウラユキ)
1993年にユニットSee-Sawでデビュー。約2年の活動ののちソロ活動を開始し、テレビ、CM、映画、アニメ、ゲームなどさまざまな分野の楽曲提供、サウンドプロデュースを手がける。2002年にはボーカル石川千亜紀とSee-Sawの活動を再開し、テレビアニメ「NOIR」「.hack」関連の楽曲を担当した。2003年7月にはアメリカで1stソロアルバム「FICTION」を発表。同年よりFictionJunction名義のプロジェクトをスタートさせ、2008年からはボーカルユニットKalafinaの全面プロデュースを手がけている。2017年夏にはテレビアニメ「プリンセス・プリンシパル」の劇中音楽を担当。9月にはサウンドトラックアルバム「TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』オリジナルサウンドトラック」がリリースされる。