独立して新章突入!オーバーグラウンドシーンを見てきたVIGORMANのこだわりを堪能できる「FULL COURSE」 (2/2)

独立はずっと視野に入れてた。今がそのとき

──そのままコラボ曲について伺っていくと、「明け方の迷子 Feat. Dexus Ogawa」のDexus Ogawaは、GOODMOODGOKU(ex. GOKU GREEN)ですね。

GOKUさんは個人的に一方的に好きで、ずっと聴き続けてたアーティストで。このアルバムの制作の最終段階でリリースを伸ばすことになり、ポコっと空白の時間が生まれたんです。そこで改めてアルバムの構成を考えて、雛形はもうできていた「明け方の迷子」を収録することになったんですけど、この曲に誰か参加してほしいなと思ったときにGOKUさんのことが頭に浮かんで。ただ、リリースの締切としてはギリギリのタイミングだったんで、本当にダメ元でDMを送ったら「トラック次第ですけどやりますよ」って答えがすぐ返ってきて。それで仮の音源を送ったら、もう2日後ぐらいにはこのデータが戻ってきました。

──そのスケジュールでこの内容はすごいですね。

「天才とはこのことか……」って感じですよね。GOKUさんのファンは熱狂的なファンが多いと思うんですよね。俺もそうやし。すでにDexus Ogawaとして動いていること(※2022年12月にDexus Ogawaとして「虚像」をリリース)を知ってるファンの方にも喜んでもらえると思うし、まだその動きを知らない人にも届いてほしいですね。

VIGORMAN

──「MMM Feat. Mion & HAEIN」は、YoungBeat's Instrumentalとして「明け方の迷子 Feat. Dexus Ogawa」をプロデュースしたMionと、関西のレゲエアーティストHAEINを迎えて、お金について歌った曲です。あまりこういった内容をVIGORMANさんは歌われてこなかったので、意外にも感じる曲であり、アルバム後半のテーマである“VIGORMANのマインド”を歌うためには、必要なテーマだとも思いました。

「Neon」みたいにクラブでお酒を飲むのも、「On & On」みたいに好きな女に好きなもんを買ってあげるのにも、結局はお金がいるし、生きていくためにはやっぱり切っては切れないものなので。

──だからその人の“価値観”を如実に映すものでもあります。

自分が作った曲は、やっぱり1人でも多くの人に聴いてほしいという思いはあります。でも聴いてもらうために曲調を変えたり、歌詞を変えたりし出したら、それはもう“アート”ではなく“商品”になってしまうと思うし、自分は絶対に曲を“商品”にはしたくない。別に破壊的なほどの金持ちになりたいという欲望もないし。だからお金より大事なのはアートの部分だということをちゃんと表明したくて。一方で、そこで「お金じゃない」と言い切るのも自分にとっては等身大じゃないんですよね。口座に1円も金がないのも困る(笑)。

──そもそもの回転資金がなければ、自由を得ることもできないですからね。

そうそう。今回のアルバムも自主でのリリースなので、基本的な制作経費は自分たちのポケットマネーなんですね。人にタカらないで自分のやりたいことを自分で実現するためには、お金が当然必要で。もちろん金銭面以外にもGeGやスタッフ、チームの協力があってこそですが。

──今のお話の通り、バランスが必要であり、アンビバレンスな存在としてお金について書かれていますね。

そういう温度差みたいな部分を、MionとHAEINと一緒にうまいことリスナーに伝えられたらなと思いましたね。

──ちなみに、今回のアルバムは自主レーベルVIGORMANからのリリースですね。

遅かれ早かれ、メジャーレーベルは辞めるものやと思ってて。ずっとメジャーにいて、おっちゃんになってメジャーをもし離れたときに、右も左もわからないようなことにはなりたくないと思ったし、そのためにも独立はずっと視野に入れてた。そして、今がそのタイミングやなって。自分としてもこのアルバムで新章を開くことができたという自信があるし。

VIGORMAN

オーバーグラウンドを見てるからこそ歌えること

──アルバムのラストとなる「Wonder Land」での「嗚呼、女子は解からんでいいよ」という言葉には少し驚きました。もちろん、曲の言葉や文脈を読み取ればそこに差別的な意味はないことはわかるのですが、メジャーだったらこのフレーズがスムーズに通ったかはわからないとも思います。

これも時代に逆行したリリックだというのはわかってるんですよ。もちろん、女性に対しては本当にリスペクトをしてるし、女性にお任せしないといけない部分はたくさんあるし、このフレーズをもって軽んじるつもりはまったくない。でも、この曲に関しては、男に響いてほしいと思ったし、男性だからこそ任せてほしい部分もあるから、あえてこういう表現を使ったんです。

──「Wonder Land」というタイトルですが、決して明るい内容ではないですね。もっと懊悩が隠されている。

だから引っ掛けのタイトルですよね。自分はやっぱりストリート出身なんで、アンダーグラウンドを大事にしたいし、裏切るつもりはない。だけどそこにいる人たちが「アンダーグラウンドにいる俺たちのことを理解できない世間はセンス悪い」とか「時代が悪い」みたいなことを言うのは、言い訳じみた一種の諦めのように聞こえるし、「ポップスのやつらは」「J-POPは」みたいに言うのは好きじゃないんですよね。仕事そっちのけで毎晩のように遊んで、たまに思い出したように曲作るやつより、日々スタジオにこもって制作やレコーディングをしたり、自分を自分で高める行動をしたりしてる人たちのほうがよっぽど音楽にしっかり向き合ってると思うし。一方でオーバーグラウンドな世界に感じることもたくさんあって。でも夢はデカくがテーマなので、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドを超越した「Wonder Land」を目指したいですね。

──変態紳士クラブとして、明確にオーバーグラウンドの世界を見てるからこそ、この曲には意味があると思います。オーバーグラウンドの世界を見ないでこの曲を書いたら、それは単なるひがみに見えてしまうし、その世界を見たからこそ、そこでのフラストレーションを含めた、感じたことがこの曲には落とし込まれているなって。

間違いないです。その世界を知らんのに、「Wonder Land」を歌ったら、それは自分でもジェラスやと思うし。俺は自分のやりたいことをやって、それを世間に届けたいけど、そこに迎合したくはないんですよね。そういう葛藤を残したまま、アルバムを終わりたくて。だから超葛藤ソングなんです。

VIGORMAN

お前のセンス、間違ってないよ!!

──「あとどれくらい」ではVIGORMANさん自身がプロデュースを手がけられていますね。

これはジャマイカ在住で、現地のアーティストもたくさん録ってるサウンドエンジニアの尾形(文明)さんと一緒に作った感じですね。尾形さんからもそう薦めていただいたのでプロデュース表記としては僕の名前になってますけど、フルでお力をお借りしながら作りました。もう、さまざまな面でいろんなアーティストや裏方さんに関わってもらってるので、そういうクレジットもなんとかリスナーの皆さんが確認できるようにしたいですね。本当に助けられまくってるんで。

──ビートメイクも含め、今回はVIGORMANというアーティストの新しい側面、コアな側面が出たアルバムだと思うし、“現在においてのフルコース”を提示した作品になったと思います。

歌詞としても、コロナも含めて激動だった3年間が反映されてると思いますね。メジャーレーベルを離れたことも含めて、VIGORMANというアーティストにとって、新しいステージに登ってる最中を表現できたのかなと。

──そして前述の通り、そのメインディッシュにレゲエが置かれているのが、非常に興味深くて。

レゲエ好きって言ってる人にこそ、今回のアルバムを聴いてほしいと思うんですよね。やっぱり「レゲエは下火」と言われることもあるし、この3年はそれに拍車がかかった時期だとも思うんです。「ホンマはレゲエが好きやけど、友達みんなヒップホップ聴いてんな……」みたいに思ったこともあるだろうし、「昔流行ったな」とか言われて「俺のセンス間違ってるのかな……」と思ってるやつらに、このアルバムを通して「間違ってないよ!!」と言ってあげたい。自分自身に関して言えば、「SOLIPSISM」で俺にハマってくれた、「YOKAZE」でハマったみたいに、いろんな形で聴いてくれるようになった人がいると思うんですけど、毎月何かをリリースするようなガツガツしたペースではなかったから、もしかしたらVIGORMANという存在が、頭のプレイリストから離れてしまった人もいるかもしれないとは思っていて。

──海外も含めて、本当に今はリリースペースの速さが求められますからね。

でも、そういう人にこそ「FULL COURCE」を聴いてほしいし、取り戻したいと思うんですよね。そして、ずっと聴いてくれてるやつらには、その期待にしっかり応えたい。そういうアルバムができたと思いますね。そして「YOKAZE」を超える曲をソロでも出したい。それは俺もTAKAもGeGも常に思ってることなんですよ。それをあえて狙うのはまた違うとも思うんですけど、まずはソロで「YOKAZE」を超える、それができたらまた状況は変わると思いますね。

──そしてリリース後の5月にはワンマンライブ「LIVE JUNKIE」が、東京と大阪で行われます。

ソロのライブとしては3年半ぶりぐらいになるんですよね。前回のワンマンは自分のことだけで精一杯で、照明や演出という細部にこだわる余裕がなくて。でも、この3年半の間に例えばONE OK ROCKのライブを観て、こんなにアーティストが細かい部分までこだわってるのかと感銘を受けることも多かったし、今回は細部に至るまで自分のイメージを反映させて、ライブ全体通して自分の歌をどう伝えるかを、ちゃんと提示できるようなライブにしたいと思います。規模も前回のライブより大きくなっているし、G.B.'s Bandによるフルバンドでのライブになるので、今回初めて俺のライブを観る人には食らってほしいし、前の記憶がある人には、ちゃんとグレードアップした姿を観てほしいなと。

──「LIVE JUNKIE」はシリーズ化していくのでしょうか?

そうですね。今のところですが、自分のソロライブには「LIVE JUNKIE」という名前を冠していこうと思っていて。やっぱりライブが満足にできなかった3年間はずっとウズウズしてたし、それぐらい自分はライブジャンキーなんですよね。同じように、観に来てくれる人も、ライブでしか満足できないものを感じに来る、ライブジャンキーなんだと思う。だから中毒同士ですよ(笑)。そんな状況でライブができることにワクワクしてるし、テーマパークに遊びに行くような感じで来てほしいですね。

VIGORMAN

ライブ情報

LIVE JUNKIE

  • 2023年5月19日(金)東京都 Spotify O-EAST
  • 2023年5月24日(水)大阪府 なんばHatch

プロフィール

VIGORMAN(ビガーマン)

3人組ジャンルレスユニット・変態紳士クラブに所属する1998年生まれ、大阪府堺市出身のレゲエディージェイ。15歳の頃に地元のクラブイベントで歌い始める。RUB A DUBの現場に精力的に足を運んでスキルを磨き、どんなジャンルでも自由に乗りこなすメロディアスでエモーショナルなフロウと固めのライムを武器として厚い支持を集めている。2019年8月に1stアルバム「SOLIPSISM」をリリースし、全国ツアー「SOLIPSISM CLUB TOUR 2019」と 追加公演「SOLIPSISM CLUB TOUR + 2020」を開催。2023年3月15日に2ndアルバム「FULL COURSE」を自主レーベルからリリースした。