2024年に6作ものシングルをリリースしたVaVaが、その最後の作品として11月末に発表した「再周回」。この曲では真部脩一が共同プロデューサーを務め、楽器演奏やコーラスで参加している。
真部といえば相対性理論の元メンバーであり、集団行動、進行方向別通行区分、Vampilliaなどのバンドでも活動しているアーティスト。最近ではanoの「ちゅ、多様性。」「許婚っきゅん」といったヒットソングの制作に携わったことでも知られている。
ラッパー / ビートメイカーとしてヒップホップシーンで存在感を示しているVaVaとは一見交わらないように見える真部だが、完成した「再周回」は彼らの個性が混じり合い、抜群の相性を見せていた。この意外性のあるコラボはなぜ実現したのだろうか。本稿では2人への取材を通して「再周回」制作の裏側に迫りつつ、異なるポジションで活躍する2人の共通項を探る。
取材・文 / 橋本尚平撮影 / Jun Yokoyama
「会って話そう」の歌詞から受けた衝撃
──まずは、どういう流れでお二人がコラボすることになったのか教えてください。
VaVa 3年くらい前に、自分の所属するSUMMITの社長の増田(岳哉)さんから「VaVaちゃん絶対好きだと思うよ」って、相対性理論とか集団行動、進行方向別通行区分を教えてもらったんですよ。それで聴いてみたら「めちゃくちゃいいじゃん!」って驚いて。
真部 ありがとうございます(笑)。
VaVa 歌詞に、ヒップホップにはないユニークさを感じたんですよね。それで真部さんの歌詞を掘り下げて調べるうちに「同じ意味の言葉でも、言い方や表現方法によってこんなに変わるんだ」と考えるようになって。真部さんは答えを書きすぎないから、言葉にすごく普遍性がある。それだけでなく、メロディやコード感も好きです。自分はサンプリングメインで曲を作るので理論的なことはあまりわからないんですけど、真部さんが作る音楽って、入り口は広いのにめちゃくちゃ奥が深いというか。
──わかります。
VaVa そういうことを考えれば考えるほど、この人めっちゃすごいなって尊敬していました。それで増田さんに「真部さんと曲作りとか、できないもんですかね?」みたいな話をしてたら、ダメ元でオファーしてみましょうかということになって、引き受けていただいたというのが経緯です。
──VaVaさんが特に惹かれたのはどの曲ですか?
VaVa 集団行動の「会って話そう」が大好きです。男女の会話がそのまま歌詞になってるのがすごく面白くて。海外のヒップホップとかを聴いていて「この曲めっちゃヤバいわ」と思っても、リリックの和訳を読むと「俺はお前の女を寝取ったぜ」みたいな内容だったりして(笑)、あんまり共感できなくて「そういうのはいいよ」ってなることが多いんですけど、「会って話そう」の歌詞にはかなり衝撃を受けましたね。
真部 褒められすぎていたたまれないです(笑)。僕も今回のお話をいただく前から、VaVaくんの存在は存じ上げていたんですよ。THE OTOGIBANASHI'S「Pool」のミュージックビデオのエンドロールで流れてたトラックも当時聴いてましたし。
VaVa めちゃめちゃ昔ですね(笑)。
真部 すごく巧みな人だなって思っていたんですけど、まさか同じ現場で一緒に何かを作ることになるとは思ってませんでした。というのも、VaVaくんはビートメイクもラップも、1人でなんでもできちゃう人なんで。
VaVa でも自分はサンプリングベースで曲を作るタイプなので、イチから曲を作るというときに、「こういう曲を作りたい」というイメージ通りには絶対作れないんですよ。
真部 僕は以前、SUMMITの「AVALANCHE」というイベントにDJとして呼んでもらったことがあるんですよ。
VaVa 2016年ですよね。たぶんそのとき同じ空間にいたと思うんですけど、ご挨拶できてなかった気がします。その頃はまだ真部さんについて無知だったので……。
真部 その日は増田さんから「もう好きにやってください」って言っていただいたので、プリンスをかけました(笑)。ただ、そのときの経験があったからこそ、VaVaくんと曲を作れたというのはあると思います。もともとヒップホップは大好きなんですけど、ヒップホップアーティストと一緒に何かをするとしても、僕にできることは少ないだろうって、それまでは思っていたので。
「うわ! 音楽!」ってシンプルに感動しましたね
──曲作りはどう進めたんですか?
真部 VaVaくんに主導してもらいつつ、せっかくなので生楽器も入れようかという。ドクター・ドレーの「2001」みたいな作り方ですね(笑)。
VaVa 真部さんのスタジオにお邪魔してセッションしながら「こんな感じはどうでしょうか?」と提案しつつ、最初は真部さん主導で進めていただきました。というか、お互いに遠慮して主導権を譲り合っているような状況でしたね(笑)。でも、その時点でびっくりするほど真部さんのサウンドになっていたので、僕と増田さんは「めっちゃヤバいです! めっちゃヤバいです!」しか言っていなかった。3、4時間ほどスタジオで作業してから、それぞれの楽器の音源をパラでもらって。帰ってから「ここの音だけ変えてみよう」と思った部分を、自分なりに編集させてもらったり、アレンジを加えたりしました。真部さんと一緒に制作させていただいたのは、その日を含めて2日間だけなんです。自分にとっての理想の展開とかを頭で整理したうえで、今度は自分の家に来ていただいて。
真部 ギターとベースを持って行ってね(笑)。
VaVa その演奏をサンプリングの素材にさせていただきました。自由にどんどん弾いてもらって、僕は「それ、めっちゃヤバいですね!」みたいな感じで(笑)。本当にありがたかったです。
──真部さんは普段あまりこういうタイプの曲を作っていないと思いますが、作るにあたって何か参考にしたものはありましたか?
真部 今回は特にリファレンスを決めずに、自分の中から出てくるものをそのまま出しました。最初にVaVaくんと作業したときも、エレピを弾きながら「こういうのどう?」と自分が得意なフレーズや好きな音像を提案して。それに対してVaVaくんが「これいいですね」「声を乗せてみたいです」と反応してくれる。そのラリーの中で自然に形になっていくことを楽しみましたね。何かコンセプトを決めるのでなく、「素の自分がいるだけでVaVaくんの音楽がどう変わるのか」ということを考えて。結果、自分1人では絶対に作れないものになったと思います。あんまりひねったり、こねくり回さなくてよかった。まあ最悪、プロデュースはVaVaくんがやってくれるだろうっていう気持ちもありましたし(笑)。
VaVa いやいや、僕はそんなに器用じゃないですよ(笑)。
真部 本当に楽しかったですね。
VaVa 楽しかったです! 自分の場合、ビートメイカーとしてラッパーと一緒に曲を作ることが多いので、生楽器とのセッションってなかなかないんですよ。だから楽器を持った瞬間に真部さんのサウンドになるのを眼の前で聴いて、すごく憧れました。自分にはできないことなので。「うわ! 音楽!」ってシンプルに感動しましたね(笑)。