ナタリー PowerPush - 鬱P

ボカロ×ラウドの先駆者が語る、それぞれのシーンの今

鬱Pが、初の全国流通盤CD「悪巫山戯」をリリースした。パンク、ハードコア、メタル、スクリーモをルーツに持つボカロPの彼は、ラウドロックの音楽性をボーカロイドで追求する「VOCALOUD(ボーカラウド)」シーンのパイオニアの1人。アルバムにも、ヘビーに歪んだ重低音サウンド、叫び唸る過激なボーカロイドの歌声という彼の持ち味が、随所に展開されている。

今回ナタリーではアルバムのリリースを記念して、彼にインタビューを実施。自身の作風だけでなく、ボカロとラウドロック双方のシーンの過去と現在についても語ってもらった。

取材・文 / 柴那典 撮影 / 佐藤類

 
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校内放送のときの衝撃がずっと続いてる

──そもそもボーカロイドでラウドロックの曲を作るという今のスタイルはどういうところから生まれたんでしょう?

鬱P

もともと高校生ぐらいのときに組んでたバンドがラウドな方向性だったんです。ルーツとしてもラウド系の曲が好きで。でも、高校3年のときにそのバンドが受験で活動を休止して。もともと曲を作るためにDTMもやってたんで、その延長線上で、1人だし暇だし、ボカロで曲を作るようになったという。

──バンドをやりたいって思ったのは?

中2のとき、よくある話ですけど、友達がギターを弾いてて、そいつに「お前はベースをやれ」と言われまして。それが楽器を始めたきっかけです。

──ありがちなパターンだ。

そうなんです(笑)。で、そのギターのやつと共通して好きなものがB'zだったんですけど、そこからAEROSMITHとかMR.BIGとか洋楽のハードロックを聴くようになって、そこからどんどんコアな路線に行って。中3のときに給食のときの校内放送でSYSTEM OF A DOWNが流れたんですよ。それで「なんだ、この曲は!?」ってなって。ギターのやつが流してたんですけど(笑)。基本的には、その校内放送のときの衝撃がずっと続いてる感じです。今でもSYSTEM OF A DOWNが一番好きですし、それを軸にいろんな邦楽ロックも聴きますし。どんどんいろんなものを取り入れていった感じですね。

最初は見事なまでに「可もなく不可もなく」

──最初にボーカロイドを使ってみた感触はどんな感じでした?

正直、これはイケる!って感じでした。その頃はkzさんがlivetuneとして初めてメジャーからアルバムをリリースした頃だったんで。

──2008年の夏くらいのことですね。

そこで「よーし、俺も!」って思って。今考えたら、だいぶ時間かかりましたけどね。

──当時のボーカロイドの潮流って、livetuneにしてもsupercellにしても、打ち込みが前提のポップソングが多かったと思うんです。でもその時点から鬱Pさんはメタルやラウド系にこだわってた。その理由は?

鬱P

単純に人がやってないことをやったほうが注目されるだろうっていう。当時もボカロでメタルをやってた人がいたんですけど。これを自分なりにポップなものにしたいなと思ってまして。それで最初の曲を作って投稿したんです。ソフトを買ったのが2008年の5月で、その次の曲に投稿しました。

──どういう反響がありました?

インタビューでこういうこと言うのあれですけど……見事なまでに「可もなく不可もなく」だったんですよ(笑)。まあまあ伸びたし、それなりにいい反応はあったんですけど、そこまでグイッと伸びたわけでもなく、感想も届かなくて。

──そうだったんだ。ボカロPのインタビューだと、「再生数が伸びて、コメントが次々と集まって感動した」みたいなエピソードも多いですけれど。

それが「まあ、こんなもんだろうな」って感じでしたね。そのへんがほかのボカロPの方とはだいぶ違うところじゃないですかね。でも、熱があるうちに何作も投稿してて、6曲目に投稿した「アンチ・デジタリズム」っていう曲がそれまで以上に伸びて、そこで手応えをつかんで、今もその流れが続いてる感じです。

──その手応えはどういうところで感じたんでしょう?

その曲はかなりポップにしたんですよ。そしたらグイッと伸びたんで「やっぱこういう感じなんだな」って。シャウトをガンガン使ってた曲をやめて、メロディのある曲、テクノをギターで再現したような曲を作ったら、やっぱりそれがハマって。「こんな感じなんだ」って思って。

──そこでより受け入れられるような曲を作るようになった?

いや、というよりも「真逆のことをやろう!」っていう感じでした(笑)。もともとの自分のルーツと違う曲が伸びたんで、じゃあ自分の本来のテイストの曲でも伸ばしたいなと思って、その後もガンガン投稿するようになった感じです。

ニューアルバム「悪巫山戯」 / 2013年8月7日発売 / 2300円 / Due. RECORDS / DGSA-10077
ニューアルバム「悪巫山戯」
収録曲
  1. ニャン黙の了解
  2. 馬鹿はアノマリーに憧れる
  3. 害虫
  4. Ghost under the Umbrella
  5. コロナ
  6. オトナのオモチャ
  7. B-CLASS HEROES
  8. 看板娘の悪巫山戯
  9. 骸Attack!!
  10. 風邪
  11. THE DYING MESSAGE
鬱P(うつぴー)

ラウドロックによるボーカロイド曲“VOCALOUD(ボーカラウド)”の第一人者として知られるボカロP。2009年に初の音源「DOLL」を投稿したのを皮切りに、ヘビーなサウンドのオリジナル曲を動画サイトで発表し続けている。スクリームやグロウルといった、いわゆるデスボイスをボーカロイドで表現するのが特徴。またベースの演奏力にも定評があり、「演奏してみた」動画の投稿やほかの奏者とのライブ活動もしている。2013年8月に初の全国流通アルバム「悪巫山戯」(わるふざけ)をリリースする。