URCHIN FARM|紆余曲折を経て出た答えは「本気でカッコいいと思う歌を届ける」

12カ月連続で無料配信して完成させた「CALENDER FILMS」

──2016年6月からは、12カ月連続で楽曲を無料配信し、1年間かけてアルバムを完成させるという“Webアルバム企画”「CALENDER FILMS」を実施しました。このリリース方法を選んだのはどうしてですか?

URCHIN FARM

師崎 普通にフルアルバムを出すというやり方がしっくりこなかったんですよね。もちろん新曲は出したいんですけど、いきなりフルアルバムをリリースするのではなくて、しっかり届ける方法はないかと考えて、12カ月連続で無料配信というアイデアを思い付いて。カレンダーを英語で書くと語尾は“AR”(CALENDAR)なんですけど、このアルバムは“ER”(CALENDER)にしているんです。“暦の上を歩く人”というコンセプトで、1年間通していろんな思いを込めた曲を発表したら面白いんじゃないかということです。毎月配信することで、聴いてくれる人と一緒にアルバムを完成させるような感じもあったんですよ。リスナーの方から「10年後も思い出せるような1年になりました」と言ってもらったんですけど、こういうリリース方法じゃなかったら、その言葉はもらえなかったと思うんですよね。春夏秋冬、全部の季節を通して楽しんでもらえたんじゃないかなって。

矢澤 「発表した新曲はライブでやります」って言ってたから、かなり大変でしたけどね。

師崎洋平(G, Cho)

師崎 そうだな(笑)。「先月の曲はワーッと盛り上がったけど、今月はそんなに聴かれてない」ということもあったし。

矢澤 シビアだよね、そこは。

師崎 でも、それがリアルな反応ですからね。そこから逃げないで「何がダメだったんだろう?」と考えないと。そういう経験も含めて、リスナーとのいい距離感をつかめた気がしていて。聴いてる人たちに響く曲、音、歌詞、届け方があることがわかったし、本当に会話しているように曲を作っていけたので。それは今回のミニアルバム(「ワイヤードテレグラフィー」)にも影響していると思います。今の自分たちにとって大事なものがようやくわかってきたと言うか。

どんな音が鳴ってるかよりも、どんなヤツが鳴らしているか

──“大事なもの”とは、具体的にどういうことなんですか?

師崎 今は音楽性やスタイルが重視されることが多いですけど、本来はそうじゃないと思うんです。どんな音が鳴ってるかよりも、どんなヤツが鳴らしているかが大事。そのことにやっと気付いたんですよ。例えばドラムにしても、フレーズのことを考えるだけではなくて、スネアの一発に思いを込めることが大切だったりするので。実際、レコーディングもそんな感じなんですよ。その場の空気を大事にすると言うか。

矢澤 「空気でOK」ってあるよね。「今のテイクは流れがよかった」とか「気持ちが宿ってる」とか。“宿る”がキーワードですね(笑)。

浅野智基(Dr, Cho)

浅野 デモを受け取って「これをどう表現するか?」って考えるんですけど、最後はひたすらドラムに気持ちを込めて、よし!という気持ちで演奏するので。

師崎 1人で向き合うタイプですからね、うちのドラムは(笑)。

──“何をやるかよりも、誰がやっているかが大事”というのは、確かに1つの真理かもしれないですね。Mr.Childrenやスピッツも、あのメンバーがやっているという事実が重要なので。

師崎 そうなんですよね。この3人(師崎、矢澤、SHITTY)は高校生のときから知り合いで、ハイスタ(Hi-STANDARD)をきっかけにバンドを始めたんですけど……。

矢澤 全員、金髪、短パンでした(笑)。

師崎 URCHIN FARMでやっている音楽はハイスタと全然違いますけど、精神的な部分、バンドの在り方にはすごく影響を受けていて。リスナーの目線から見ても、今のハイスタはいろんなことを乗り越えてきてるじゃないですか。その姿に感動するし、今だに背中を追っているところはありますね。

自分が本気でカッコいいと思ってる曲じゃないとリスナーに届かない

──では新作「ワイヤードテレグラフィー」について。5曲収録されていますが、1曲1曲のキャラクターがまったく違いますよね。

矢澤 そうですね。作曲はすべてモロなんですが、「またこんな感じか」とか「こういうテイストの曲、前にもやったことがあるな」とは一度も感じなくて。いつもすごいなって思ってます(笑)。

師崎 (笑)。

矢澤壮太(Vo, G)

矢澤 以前はもう少し流行りを意識してたと思うんですけど、今はそうじゃなくて「これがカッコいいと思う」というところを押し出してきていて。ボーカルとしても歌い甲斐がありますね。

SHITTY このバンドの楽曲だけではなく、世に出ているモロくんの曲はすべて聴いてますけど、いつも「ここでこんなことやってるんだ?」という発見があるんですよ。すごくスタンダードなんだけど、何度聞いても新しい驚きがあるというか。あと、とにかくギターのリフがカッコいい! 僕はライブハウスの経営もやってて、勢いよく上がっているバンドも近くで観てますけど、モロくん以外のギターリフにやられたことはないので。そこもぜひ聴いてほしいですね。

師崎 今回のアルバムの楽曲に関しては、“ほかのことをやっていてもスッと入ってくる”ということを意識していたんです。音楽って、集中しないと聴けないものと、何かやっていても聴けるものがあると思っていて。後者は“聴き流せる”とか“軽いリスニング向き”ということではなくて、リスナーになじみやすい音楽だと思うんですよね。そのほうが毎日楽しんでもらえるんじゃないかなって。歌詞に関しては、さっきも少し言いましたけど、壮太が歌いたいことを歌えばいいと思っていて。僕が歌詞を読んで「よくわからないな」と思ったとしても、本人が納得して歌ったほうがいいんですよね。

矢澤 今回は「星空とリバース」以外の4曲で歌詞を書いたんですけど、任せてもらったぶん、不安もありましたね。以前は「まずメンバーを納得させる」というハードルがあったんですが、今は自分が納得できるものを書くことが第一になっていて。「自分が本気でカッコいいと思ってる曲じゃないとリスナーに届かない」というのが今のURCHIN FARMのテーマですからね。

URCHIN FARM「ワイヤードテレグラフィー」
2017年10月4日発売 / Blue Phrase Music
URCHIN FARM「ワイヤードテレグラフィー」

[CD]
2052円 / BPMR-1002

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収録曲
  1. 星空とリバース
  2. 眠れぬ夜の症状
  3. 下北モノノ怪さん
  4. 君の街まで
  5. 人生謳歌

公演情報

URCHIN FARM Release Tour FINAL ONEMAN
  • 2017年11月19日(日)東京都 TSUTAYA O-WEST
URCHIN FARM(アーチンファーム)
URCHIN FARM
1999年に結成された4人ロックバンド。リリースやライブを重ね、精力的に活動を行うも、2009年に活動を休止する。2014年にオリジナルメンバーの矢澤壮太(Vo, G)、師崎洋平(G, Cho)、SHITTY(B)に新メンバー・浅野智基(Dr, Cho)を加えた4人で再始動。同年10月にアルバム「LIVESRAVE BEST」を、2016年2月にミニアルバム「By Blue」を発表する。2016年6月からは12カ月連続で無料配信を行い、2017年7月に12曲を集めたwebアルバム「CALENDER FILMS」を完成させた。2017年10月にミニアルバム「ワイヤードテレグラフィー」を発売。