4人組ロックバンド・URCHIN FARMが10月4日にミニアルバム「ワイヤードテレグラフィー」をリリースした。煌びやかなバンドサウンドとロマンティックなメロディを軸にした「星空とリバース」、切ない恋心を描き出したアッパーチューン「眠れぬ夜の症状」など5曲を収録した本作には、“スタンダードミュージック”を掲げる彼らの質の高いポップセンスと表情豊かなバンドサウンドが存分に発揮されている。
音楽ナタリー初登場となる今回はメンバー全員にインタビューを実施。2014年の再始動からの活動、2016年6月から12カ月連続で新曲が無料配信された“Webアルバム企画”「CALENDER FILMS」、そして本作「ワイヤードテレグラフィー」の制作について聞いた。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 後藤壮太郎
4年間の活動休止を経て元サヤに
──URCHIN FARMは2009年に活動休止し、2014年に再スタートを切りました。活動を再開した当時は、どんなことを考えていましたか?
矢澤壮太(Vo, G) メンバーそれぞれにいろんな思惑があったと思いますね。僕は(バンド活動休止後)ボーカルではなくなって、back numberのサポートでギターを弾いていたんです。(back numberの清水依与吏が)歌っているのを横で見ていて「うらやましいな」という気持ちもあったし、歌える場所を探していたところもあって。でも新しくバンドを組むことに対しては、ピンと来てなかったんですよ。その後、弾き語りなどの活動をしているときに、この2人(師崎洋平、SHITTY)から「もう1回URCHIN FARMをやらないか」と声をかけられて。まさに渡りに船でしたね。
SHITTY(B) 活動休止後はモロ(師崎)と一緒に、(URCHIN FARMとは)違うバンドで活動していたんです。URCHIN FARMに対しては「やり切った」という感じもあったんですけど、4年間ほかのバンドで経験を積んだことで「まだ先に行ける余地があるな」と思うようになって。「今なら面白いことができるな」と感じたタイミングが2014年だったんですよね。
師崎洋平(G, Cho) バンドが止まったときは、音楽的にも人間関係も限界でしたからね。URCHIN FARMは音楽の方向性、活動方法の両面でいろんなことを試してきたバンドで。2009年の段階では「何をやればよくなるのかわからない」という状態だったし、そのせいでメンバー同士もギクシャクしていて。活動を休止したときは、ちょっとうれしかったくらいなんですよ。
矢澤 うん。
師崎 でも人間って面白いもので、時間が経つと「URCHIN FARMでこういうことをやればよかったのかな」って新しいことを思い付くようになって。曲を作っていても「これはURCHIN FARMのほうが合ってるな」と思うこともありましたからね。壮太(矢澤)が歌ってるところが思い浮かぶんだけど「もうバンドはないしな」って思ったり……その後、SHITTYとやっていたバンドを抜けることになって、「URCHIN FARMをもう1回やってみよう」と。ドラムの智基(浅野)に出会えたことも大きかったですね。
浅野智基(Dr, Cho) 前に僕がやっていたバンドをモロさんが観てくれて「URCHIN FARMのサポートをやってくれないか?」と声をかけてもらったんです。僕にとっては大先輩だし、「これはやらねば!」と思いました。
──メンバーそれぞれの事情や思いがありつつ、4年間の中で少しずつ機が熟したと言うか。
師崎 そうですね。僕が「こういう曲をURCHIN FARMでやりたい」と思うようになったことと、壮太が「もう一度バンドで歌いたい」と思い始めたタイミングが合っていたのも必然じゃないかなって。お互いに大人になってきて、認め合えたり、乗り越えられる部分も増えてると思うんですよ。「もう二度とやらない」と思っていたメンバーと一緒に楽しくバンドをやれてるのはすごいことだし、全員が音楽をあきらめなかったからこそ、今があると思っていて。乗り越えた修羅場も相当ありますし、ほかのバンドには負けない自信もあります。
矢澤 そうだね。以前は嫌なところが目に付いてたんですけど、離れるといいところを思い出したりして。
師崎 気持ち悪い話になってるな(笑)。でも、一度離れたバンドマン同士の“元サヤ”率って、かなり高いですからね。
back numberの王道感に刺激
──活動再開にあたって、音楽的なビジョンは明確だったんですか?
師崎 2016年にミニアルバム(「By Blue」)をリリースしたんですけど、その頃から少しずつ明確になってきて。必要ない角が取れてきたと言うか、目立つためのフックを作るよりも、純粋に「これがいいよね」と思うことをストレートに伝えられるようになってきたんです。以前は「もっとフックを作らないとダメだろう」という気持ちが強くて、歌詞の流れに沿わないような強い言葉を入れることもあって。サウンドにもそういう傾向があったし、結果としてバランスが悪くなることもけっこうあったんですよね。まず頭で「こうありたい」ということを考えて、そこに自分たちをハメ込んでいたと言うか。
矢澤 最近はどんどんナチュラルになってますね。例えば僕が書く歌詞にしても、昔はモロに推敲してもらってたんですよ。今はそのまま通ることがほとんどなので、自分自身が「これがいい」と思ったことを素直に出せてる感覚があって。
師崎 彼がサポートしているback numberの影響もあるかもしれないですね。ほかのバンドが「環八は混んでるから、脇道や裏道を探そう」という感じで活動しているところを、堂々と環八を走ろうとしていると言うか。
──back numberは一貫して“王道の歌モノ”であろうとしてますからね。
師崎 そうなんですよね。それって勇気だと思うし、素直に「カッコいいな」と感じるところで。自分たちがいいと感じていることをまっすぐにやって、それを継続することの大切さを教えてもらったし、その姿勢が今のURCHIN FARMの軸になっているんだと思います。
SHITTY 素材のまま出すのではなくて、しっかり料理したものをできたての状態で提供するという感じだと思います。活動再開後は、それをちゃんと意識しながらやれてるんじゃないかなと。
浅野 ドラムも同じで、やっぱり王道の8ビートが中心になってるんですよね。ほかのメンバーからいろいろな知識を吸収しながら取り組んでいるんですけど、結局は王道のビートで勝負できないとダメだと思ってるので。そこで勝てないと音楽を続けていけないと言うか……バンド全体がそういう方向に進んでいるのは、すごくうれしいですね。
──中心になるのはやはり歌?
師崎 だと思いますね。いい歌ってずっと残るし、若いリスナーも昔のヒット曲を意外と知ってたりするので。
矢澤 うん。例えばフェスでも、最後に大御所のバンドやアーティストが出てきて、みんなが知っている歌が聴こえてくると「やっぱりすごいな」って感動しますからね。そのカッコよさというのは、バンドのメンバーが自分たちを信じて、ずっと貫いているから生まれているんじゃないかなと。自分たちも徐々にそういう姿勢になれてると思うんです。焦る必要もないし、逆に「ゆっくり行こう」という気持ちもなく、僕らのサイクルでしっかり進むことが大事なんですよね。
- URCHIN FARM「ワイヤードテレグラフィー」
- 2017年10月4日発売 / Blue Phrase Music
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[CD]
2052円 / BPMR-1002
- 収録曲
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- 星空とリバース
- 眠れぬ夜の症状
- 下北モノノ怪さん
- 君の街まで
- 人生謳歌
公演情報
- URCHIN FARM Release Tour FINAL ONEMAN
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- 2017年11月19日(日)東京都 TSUTAYA O-WEST
- URCHIN FARM(アーチンファーム)
- 1999年に結成された4人ロックバンド。リリースやライブを重ね、精力的に活動を行うも、2009年に活動を休止する。2014年にオリジナルメンバーの矢澤壮太(Vo, G)、師崎洋平(G, Cho)、SHITTY(B)に新メンバー・浅野智基(Dr, Cho)を加えた4人で再始動。同年10月にアルバム「LIVESRAVE BEST」を、2016年2月にミニアルバム「By Blue」を発表する。2016年6月からは12カ月連続で無料配信を行い、2017年7月に12曲を集めたwebアルバム「CALENDER FILMS」を完成させた。2017年10月にミニアルバム「ワイヤードテレグラフィー」を発売。