制作スタイルを変えて見えたお互いの表現
──これまでより2人の共同作業が多くなってきた?
角田 そうですね。今までは僕が歌詞も曲もかなり決め込んで作っていたんですけど、最近はどっちが作っているのかわからない曖昧な状態で完成まで持っていくことが多くなりました。そのほうが沙良が考えていることが見えてくるような気がして曲の作り方を変えたんです。
吉田 去年、コロナの影響でライブができないから、とにかく曲を作ろうということになって。曲を作っていく中で、ライブができないうっぷんを曲作りで爆発させていたんです。そのときの曲作りにおける2人のバランスがこれまでとは違って面白かったというか、今までとは違った曲ができたような気がしたんです。
角田 僕1人で曲を書き上げると、沙良の持つ個別性だったり本当に思っていることが薄まってしまう側面もあるねという話になって。やっぱり、歌っている本人の中から出てきた言葉を聴きたいじゃないですか。時代もそう変わっているように感じるし、僕自身もそう思うようになってきて、そんなことを考えたときに自然と作風が変わっていきました。
──歌詞だけではなく、曲作りの面でも沙良さんが参加するようになっているのでしょうか。
角田 沙良は最近DTMについても理解をかなり深めていて、曲作りやトラックメイクの面でもしっかり参加しています。そこで沙良の音楽の捉え方や感じたことが曲にダイレクトに出てくるようになったので、これまで僕が作っていた曲と全然違うものになるのが面白いんですよね。
吉田 私が夢の中で聴いたメロディを曲にしてもらうこともあります。起きてすぐに忘れないうちに角田さんに伝えて、改めてギターを弾いてもらいながら、そのメロディを再現してもらったり。
──そんなふうに作り方を変えたことで、何か新たな発見はありました?
角田 それぞれをパーソナリティ的に見ると意外だと思うんですが、僕は表現の上では明るく振る舞いたい、逆に沙良は表現の上では暗い側面を伝えたい。そういう違いがあることに気付きましたね。
吉田 そうそう。それに気付いて楽になりました。これまでみたいに、明るい人として明るい曲を歌わなくてもいいんじゃないかなと思うようになったんです。暗い曲を歌いたいわけじゃないんですけど、「もっと自然体で歌ってもいいんだ」と思えるようになった。先頭に立って人のために何かをするのは私には難しいけど、「あなたと一緒にいるよ」と言うことはできる。そういう立場で歌っていけたら楽しいだろうなって、これからの目標ができたんです。そういう気持ちの変化はありますね。だから早くライブがしたい。
コロナ禍で痛感した観客の存在の大きさ
──昨年、ひさしぶりに観客を入れてBillboard Liveでライブをされましたが、手応えはどうでした?
吉田 人前で歌うのは1年ぶりくらいで、第1部は「ライブってどうやるんだっけ?」みたいな感じでした。「お客さんとコミュニケーション、どうやって取るんだっけ?」みたいな。これまでライブが1年も空くということがなかったから、ひさびさの感覚でドキドキしながらやりました。でも第2部はリラックスしてきて、お客さんに「ライブの感覚を思い出させてくれてありがとう!」みたいなことを言ったのを覚えてます。
──アーティストにとって1年のブランクは大きいんですね。
吉田 それにお客さんの存在というのも大きいんですよ。お客さんがいるだけで、会場の空気感もエネルギーも全然違う。
角田 お客さんがいることによって、物理的に音も変化するんですよ。音楽は空気の振動だから、お客さんそれぞれの呼吸もその場の音楽の一部だし、観測されることによって音楽は全く違うものになる。だから無観客ライブは最初掴みづらかったですね。この1年でお客さんの数を制限したライブを6、7本やったんですけど、最近になってようやくコロナ禍の中でのライブのやり方がわかってきたような気がします。
──観客として観ていても最初は慣れませんでした。声を出すという単純なリアクションが、アーティストとコミュニケーションを取るうえで重要な役割を果たしていたことに気付かされたりもして。
角田 今思い付いたんですけど、おもちゃのボイスレコーダーがあるじゃないですか。あれに自分の「イエーッ!」っていう声を録音して、ライブ中にそれを再生してもらうっていうのもいいかもしれないですね(笑)。
吉田 それ、かわいい! 自分の好きなときに再生してもらってね。
それぞれの役割
──3月には東京・WWW Xで「salvation」の発売を記念したワンマンライブが開催されます。当日はuP!!!での生配信も予定されていますが、どんな内容になりそうですか?
角田 今回はドラムとギターを入れて、シンプルなバンドスタイルでのライブになります。
吉田 シングルのリリースパーティなのでシングル曲はもちろんやるんですが、ライブでやっていない新曲がいっぱいあるので、そういうものも織り交ぜながらモノンクルの新しい面をお見せしたいなと思ってます。
──それは楽しみですね。最新作はアニメのエンディングテーマですが、2020年以降、CMソングを作ったり、カバー曲を発表したり、コミックとコラボしたりと、外部の刺激を受けて作られた楽曲が続いています。それも新しい変化の要因になっていますか?
角田 言われてみれば、それはあるかもしれないですね。第三者の視点が入ってくることで新しい見方が生まれる。最近、意識的にこれまでとは違った作り方をするようになった、と言いましたが、過去のノウハウとかを忘れて作るたびに全く違う制作の仕方で一から始めるのが理想だなと思っているんです。
──そういえば、最近は歌詞を先に書くようになったそうですね。
角田 そうなんです。でも、そのやり方にこだわるのもよくないねという話を、一昨日くらいにしていて(笑)。今は別のやり方のほうが風通しがいいような気がするんです。
──そういう話し合いは常にしているんですか?
吉田 話し合いは、昔からめちゃめちゃしています。1つのバンドを続けていくと、だんだんそれぞれが見ている風景が変わっていく。だから今、相手がどんな風景を見ているのか、何に興味を持っていて、何を面白いと思っているのかは、常に共有しておこうと思っているんです。例えば角田さんは仏教に興味を持っているということを知っていると、それが歌詞に影響を与えていることもわかったりするし。
──それを知って自分でも仏教のことを調べてみたり?
吉田 それはあまりしないですね。私は調べても覚えておくことが苦手で。しかも聞いたことの9割9分、右から左へ流れていく。そこでちょっと残ったものが自分を形成するんだ、ってことにしています(笑)。
角田 沙良はミックスするのが得意なんです。料理を作るにしても、和のものと洋のもの、東南アジア的なものを1つのスープにしたりするんです。そしてそれがちゃんとおいしい。僕はものすごくシンプルなものを作りたがるというか、1つの完成された世界観を目指す。沙良にいろんなことを吹き込んでおくと、面白い形になって出てくるんですよね(笑)。
吉田 へえ! そんなふうに思ってたんだ(笑)。
角田 だから、僕の役割はいろんな素材を的確に沙良に渡すことなんです。
どうやって変化を作って、それを面白がるのか
──先ほど話に出た表現の方向性も正反対でしたが、2人はお互いを補い合うような関係なんですね。
吉田 そう、真逆なんですよね。角田さんは左脳の人で、私は右脳の人だと思っていて。私は過去と未来がないんです。すべてを忘れていくし、未来のために動けない。角田さんは未来のことを考えているし、過去も覚えてる。その差が面白いものを生むのかなと思ってます。
──角田さんは仏教に興味を持っているそうですが、沙良さんが今興味があるものはなんですか?
吉田 昆虫食です。ヤバいっすよー。
──仏教と昆虫食という組み合わせもヤバいですね(笑)。沙良さん、昆虫を食べてるんですか?
吉田 私は食べないですよ! 虫、大嫌いなんです。
角田 怖いもの見たさもあるのかもね? よくYouTubeで観てるよね。
吉田 おろちんゆーさんというYouTuberがいるんですよ。もともとはビートボクサーっていう噂なんですけど、自分で昆虫を捕まえて食べるんです。魚とか爬虫類とかも捕まえて食べるんですよ。「地球をいただく」という概念を持っている人で、けっこうエグいんですけど観ていて面白いんです。
──エグいのに惹かれる理由ってなんでしょうね。
吉田 苦手なものを克服したいのと、自分が知らない世界を知りたいっていうのがあるんですよね。見たことがないものを見せてくれる人に惹かれるというか。
──そういう点では、角田さんは沙良さんにとってそういう存在なのかも。
吉田 そうですね。すごく刺激をもらっているし、いつも、面白いなと思えるからありがたいです。
──ずっと2人だけでやってきて、今でも面白いと思えるというのもすごいですね。
吉田 確かに!
角田 そのために、常に更新していくことが必要なんだと思います。どうやって変化を作って、面白がっていくか。それが何かを続けていくうえで大事なことなんだと思いますね。
ライブ情報
モノンクル "salvation" RELEASE PARTY
2022年3月10日(木)東京都 WWW X
配信日時
2022年3月10日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
アーカイブ配信期間
2022年3月11日(金)0:00~3月17日(木)23:59
プロフィール
モノンクル
吉田沙良(Vo)と角田隆太(B)によるソングライティングデュオ。2020年10月にシチズン「クロスシー」のCMソングとして「Every One Minute」を提供。2021年3月にはモーニング娘。の「抱いてHOLD ON ME!」をカバーして話題を集めた。2022年2月にテレビアニメ「ヴァニタスの手記」第2シーズンのエンディングテーマ「salvation」を収録したシングルをリリース。3月には東京・WWW Xで「salvation」のレコ発ワンマンライブを開催する。
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