「CDを買ってよかった」という気持ちはどうやったら作れるか
──そしてこの作品はリリースのタイミングにひと工夫あって、フィジカルのCDが9月27日にまず発売されて、テレビアニメの放送が10月2日からで、配信は日付が変わった3日から。その順番にも意図があると聞いてます。
田淵 それはずっとやりたかったことですね。今はCDの発売の前に、先行配信はあるわ、ミュージックビデオが出るわで、「発売日って何?」という、そこに誰も疑問を持っていないのが不思議だったので。せっかく心を込めて作ってるんだから、「買ってよかった」という気持ちをどうやったら作れるだろう?という考えで、CDを先に出すことはいつかやれたらいいなと思っていたんですよね。でもそれを実現できるのはアニメ側の協力もあってのことなので、感謝でしかないです。
──そうですよね。
田淵 これがどれだけ喜ばれるかはわからないですけど、せっかく心を込めて作ったものを、せっかくお金を出して買ってくれる人たちがいるんだから、それをイベントとしてもっと楽しみたいなと思うんですよ。「先に聴ける」って、いい言葉じゃないですか。「どこよりも早く」とか、音楽業界だけじゃなくてもよくあるし、それができればどういう印象になるのかな?と。
──というような話し合いを、いつもしているわけですね。メンバー間でも。
斎藤 いや、あんまりしてないです(笑)。
田淵 僕が勝手に考えてます(笑)。自分たちで言うのもなんですけど、ずっとCDを買う人のことを考えてきたというか、買う人が一番いい思いをしてもらいたいんです。ちょっと値段の高い商品を作るときも「買ってよかった」さえあれば誰も文句は言わないだろうし。前に僕らの作品を買ったことがある人に「前回がすげえよかったから今回も買うわ」って思ってもらうには、商品のよさとバンドの力があればできるのではないかと思ってて。それは、ライブの動員でも作品の売り上げに対しても、ずっと感じてきたことなんです。あと、CDの発売日にカップリングも楽しんでもらうためにも、CDを先に出すのはいいんじゃないかと思います。
「リフとかAメロぐらいなら作るからいつでも言って」
──今回のシングルのカップリング曲「あまりに写実的な」はリード曲とはがらりと変わって、3人の音で作るダイレクトなバンドサウンドが印象的な曲です。これは書き下ろしですか?
田淵 そうです。
斎藤 制作が始まったのはアルバムができた直後だったので、田淵が曲を作る大変さを軽減できるならと思って「リフとかAメロぐらいなら作るからいつでも言って」と言ったら、「頼む!」って(笑)。4つぐらいリフを投げたのかな? その中から(鈴木)貴雄(Dr)が「これがいい」と言ったのがイントロのリフで、それにドラムを付けて、田淵に曲にしてもらったという流れです。けっこうすぐできたよね?
田淵 2週間で作りました。バンドとして史上初めての作り方で、それを面白がりたかったというのが最初の動機です。カップリングは自分だけでも作れたと思うし、ストックもあったんですけど、どれもあんまりしっくりこないと思ってるときに「リフなら作るよ」と言われて、面白そうだなと思って。なんなら鈴木くんも作曲に参加して3人で作りましたというのが、“カップリング大喜利”としてはめちゃくちゃ強いかもと思ったんですよ。「これはファンのみんなが喜びそうだぞ」と思って作り始めたら、すごく面白いリフが届いて。それをパズルのように組み合わせて作っていったという、僕らとしてはめちゃめちゃ新鮮な制作でしたね。ユニゾンの最近のカップリング曲はCDを買った人だけが聴けるので、そこにいつもの僕らっぽい曲を入れるというのは、前作(シングル「カオスが極まる」)のカップリング「放課後マリアージュ」で完璧な黄金パターンをやりきったので。あれ以上いい曲はないなと思ったときに、斜め上の「なんじゃこりゃ!」という曲のほうが、「ユニゾンのカップリングシリーズは飽きないね」となれるかなと、作っててワクワクしました。
──いい曲です。3人のセンスが均等に詰まっていて。
田淵 Aメロも鈴木くんのドラムリフありきで、整えていったので。2人が作った大枠のイメージがある中で制作が進んでいったので、僕がやることはあまりないというか。レコーディングの日は本当にやることがなくて楽しかった(笑)。ただ見てるだけ。
斎藤 プリプロをやらなかったのも初めてかもね。
田淵 確かに。
──このやり方、今後もありですね。
斎藤 僕的には全然ありです。リフならいくつでもポンポン渡せるので。
田淵 素晴らしい。
──この「あまりに写実的な」って、歌詞はどんなイメージだったんですか? 2番の「きっと恋とは違ったよ」「知らない気持ちに名前はつかないまま」といったあたりに、甘酸っぱい青春の何かを感じたりもしますが。
田淵 2番で突如、日常感が出るという。
──そうなんですよね。そこの切なさとはかなさがとても好きです。
田淵 これはストーリーというよりも作詞の技法的な話で。基本は抽象的な言葉で構成しているから、2番の1行目に急にリアルな文章が出てくると意味深になるという、そういう技法ですね。そうすると、ほかの抽象的な言葉の解像度が上がるというか。みんなによくわかるシーンが1つ入るだけで、そのほかの抽象的な言葉が「もしかしたらこういうことを歌っているのかも」って、想像がしやすくなるかもしれないという感じです。あくまで技法です(笑)。
──そうですか? 感情もだいぶ入ってると思いますけどね。
田淵 これはもう、「写実的な」と言いたかっただけの曲ですね。