ナタリー PowerPush - うみのて
もはや平和ではない! 笹口騒音×たけうちんぐ対談
普通にこういうこと思うだろって感じです
──竹内さんから見て、うみのての魅力はどこにあると思いますか?
竹内 世界観が具体的でわかりやすいところとか。最近「社会派」って言われたりもしてるみたいだけど……。
笹口 あはは(笑)。
竹内 でも「東京駅」とか特にそうですけど、曲の登場人物の視点で世の中を描いていて、あんまり笹口くん自身の視点で書いてるように見えないところが面白いんですよね。
──主人公がいて物語があるみたいな。
竹内 そうですね。一歩離れた感じの歌詞なのに、エモーショナルに叫んでる。
──普通、絶叫系のボーカルの人は自分の感情を歌にぶつけるものですが。
竹内 そういう人も好きなんですけど、笹口くんはいい意味で冷めてるというか、どっかでドライなんですよ。それなのに熱くガッと吠える。そのバランス感覚が魅力だなと。
──と、言われてますが、笹口さん自身はどう思いますか?
笹口 あの、とにかく僕、自分があんまりないんですよね。空っぽな感じで。だから昔は「夕暮れがきれいだな」とか「季節が変わって切ないなあ」みたいなことばっかり歌ってて。でもあるとき「ほかのことも書いてみよう」と思って、そしたら今みたいな歌詞になりました。僕、テレビすごい好きで、「もはや平和ではない」も完全にテレビを観ながら、観たものをそのまま出してるような歌詞なんです。やっぱり自分があんまりないまま歌詞を書いてるっていうか。
──じゃあ自分では社会派という意識はない?
笹口 はい、思想があんまりない。
──歌を通して何かメッセージを伝えたいといった気持ちもないですか?
笹口 いやあ、例えば「もはや平和ではない」に関しては、秋葉原の事件、あれがきっかけではあるんですけど。そのニュースを観て、なんか普通にこういうこと思うだろって感じですね。
──普通に思う?
笹口 まあ僕はテレビを観てるだけなんですけど。
──ことさら過激だとか社会派だとか言われるほどのことじゃない、普通に感じたことを歌ってるだけ、という感覚ですか。
笹口 そうですね。僕としては見たまんまを出してるだけなんです。
具体的で簡単でちょっと過激
──普通に見たままを歌っているだけとのことですが、笹口さんのそうした世界が多くの人に受け入れられていることについてはどう感じていますか?
笹口 「もはや平和ではない」とか竹内くんに動画アップしてもらって、反応がすごいいっぱいあったんですね。それでなんかまあなんていうかあの……、こういう曲がウケるんだって(笑)。
──こういう曲というのは?
笹口 なんていうか、具体的な内容で、簡単な言葉で、ちょっと過激なことを言ってる。そういうのが伝わりやすいっていうのがわかったっていうか。ウケるって言っちゃうとあれだけど、そういうものにすごい反応が返ってくるっていうのがわかって、で、それからちょっと意識的にそういう曲を書いたりしました(笑)。それが「New war(in the new world)」っていう曲で、それはもう竹内くんの影響っていうか、竹内くんの動画がアップされて反応があったから作った曲なんですけど。
──「もはや平和ではない」がウケたから味をしめて?
笹口 まあ悪く言っちゃえばそうです(笑)。この曲自体はネットのことを歌った曲なんですけど、それも竹内くんの影響ですね。
得体のしれないものになりたい
──今回リリースされた「もはや平和ではない EP」の制作にあたって、何かコンセプトなどはありましたか?
笹口 ここに入ってるのはほとんどが5年くらい前に作った曲なんですよ。だからもう自分の中で完結してる曲っていうか。本当はこういうバーン!っちゅうかメロディアスで盛り上がる曲より、もっと無機質なやつをやりたくなってる。どんどん無機質にしていきたいっていうのがありまして、自分の中では。
──無機質とは?
笹口 単純に言うと、音をあんまり大きくしたくないっていうか。音数も減らしたくて。なんか機械みたいにしたくて。
──こういうエモーショナルなロックではなく、もっと音響系のミニマルな音楽をやりたいということでしょうか。
笹口 そうかもしれないです。僕、RADIOHEADになりたくてバンドやってるんで。
──今の笹口さんの発言について竹内さんはどう思います?
竹内 無機質にってことですか。
──はい。
竹内 そこは僕わかんないですね(笑)。
──(笑)。
竹内 でもわかんなくてもいいっていうか、笹口くんの思惑とか世界観を全て理解して撮影しなきゃ、とは思ってないんですよね。出てきたものを僕は受け取ることしかできないので。そこはもうあまり考えずにやってます。
笹口 そこはほんとにそうっていうか、僕の中にも理解されたくないっていうのがありますね。得体のしれないものになりたいっていうか、「ああ、こういう感じね」って言われるのはいやなんです。
──でも、多くの人にウケる、伝わりやすい曲を書こうとしてたわけですよね。
笹口 だから実際はそういう具体的なことを歌うのやめたいんですよ。だけど……。
──だけど?
笹口 反応が返ってくるのがすごくうれしいんですよね。エゴサーチとかも好きなんで、なんにもないと悲しいんです(笑)。
──理解されたくないのに反応があるとうれしいとか、無機質な音楽をやりたいと言いながらこんなに情熱的な歌を歌っていたりとか。ちょっと矛盾しているようにも見えますが……。
笹口 んー、ゆくゆくはそうなりたいっていうことですね。本当はもっとでっかいことを歌いたいなっていうか(笑)。よくわからないことをとにかく歌いたい。今日「ヱヴァンゲリヲン」観てきたんですけど、全く意味わかんなくて(笑)。
──「Q」は特に説明が少ないですしね。
笹口 でもよくわかんないけど圧倒的だった。RADIOHEADとかもそうじゃないですか。早くそんな感じになりたいんです。
- タワーレコード限定シングル「もはや平和ではない EP」 / 2012年12月12日発売 / 525円 / DECKREC/UK PROJECT / DCRC-0078
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CD収録曲
- もはや平和ではない
- 東京駅
- 四角い部屋
- Words Kill People(COTODAMA THE KILLER)
うみのて
笹口騒音ハーモニカ(Vo, G)、高野P介(G)、早瀬雅之(B)、キクイマホ(Dr)、neki(Glocken, Key)からなる5人組ロックバンド。笹口騒音ハーモニカの楽曲をバンドで演奏すべく2010年に結成。2012年12月にタワーレコード限定シングル「もはや平和ではない EP」をリリース。2013年3月にはAxSxE(NATSUMEN)をエンジニアに迎えた1stフルアルバム(タイトル未定)のリリースを予定している。