上坂すみれインタビュー|「ライブ空間はコミュニケーションの集大成」2年半ぶり有観客ライブの裏側 (2/2)

「ギリギリ意味のわかることをしてください」

──今回のツアーは2020年に行われるはずだったアルバム「NEO PROPAGANDA」リリースツアーを下敷きに構成し直したのでしょうか。

はい。その後新曲も増えたのでセットリストは新しく組み直しました。「NEO PROPAGANDA」の曲は歌えてなかったし、定番曲もあるけどおおむね満を持しての新曲祭りという感じで。曲調はバラバラなので、「こういう曲もあるよ」と1曲1曲を丁寧に表現できるよう心がけました。

──以前はプロデューサーの須藤孝太郎さんが持っているカオティックな感性が上坂さんのライブ演出にも反映されていたかと思いますが、新体制になった今は上坂さん自身が演出面で関わる部分も増えた?

そうですね。今は「ギリギリ意味のわかることをしてください」という雰囲気なので……。

──(笑)。

前は何も言われなかったようなことが「ここちょっと意味がわからないので」と言われるようになって、世の中に出してもギリ恥ずかしくない何か、というのを心がけるようになりました。

上坂すみれ
上坂すみれ

──衣装も上坂さん自身でラフ案を考えたとお聞きしました。

衣装については以前から、毎回棒人間みたいなイラストで何かしら自分の希望を伝えていて、今回もそうでしたね。と言っても、なんとなく「制服っぽく」とか「アイドルっぽい衣装」とか、そういう簡単な絵を描いているだけで、スパンコールをこう付けてとか、チェックの色合いだとかはスタイリストの佐野(夏水)さんに任せています。猫耳は自分で描いたのかな……。そういう盛り付けもほぼ佐野さんがやってくださるので、私が描いたラフは全然違うものだと思います。

──そういうパフォーマンス以外のことを考えるのは楽しいんですか?

そうですね。まずはセトリを決めて、このブロックはどういうキャラクターで……とだいたい3パターンくらい考えて。そういうキャラクター作りをするのは楽しいですね。

──あと今回の幕間には「ドラゴン菫」という、タイトルから想像できるタイプのショートドラマが挿入されていました。幕間映像には毎回同業の声優さんたちがコント的なものに巻き込まれていますが、今回は鈴木愛奈さんと徳井青空さんが登場します。この人選も毎回上坂さんが?

その年に特にお世話になっている方ですね。お願いしてスケジュールが合えば、という感じなのですが、今回はまさかお二人ともOKをもらえるなんて。楽しかったですね。

──なぜ学園モノの設定に?

この設定にすればゲストの制服姿が見られる、という強い意向です。ギャルになってほしかったので。

体力が付いた理由

──ライブ映像を観ていて、以前よりも歌がうまくなっているというか、ライブパフォーマンスにおける歌の表現力が上がっているように感じました。ご自身で自覚はありませんか?

体力が付いたかなと思いますね。コロナ前はいつも常に残り5ポイントぐらいで生きていたのが、コロナ禍で1回チャージされたというか……。

──体力の問題だと言われるとすごく腑に落ちます。以前よりもパフォーマンスに余裕がある感じで。

前とは少し、気持ちの違いもあるかもしれません。ボイトレにもたくさん通わせてもらったし、練習する時間が多かったのもあるのかな。無理をしなくていいやり方が身に付いたんだと思います。あとはMCが短いからというのもあるんじゃないですかね。

──これまではMCで体力を使っていた?(笑)

いつもMCで汗だくになっていたので。

──客席を回ってマンガを配ったり、同志の服装をチェックしたりする時間がなくなったことで体力が温存できたと。

原因の70%くらいはそれだと思います。MCに上限を設ければ体力が保つという物理的な気付きがあったようですね。

上坂すみれ
上坂すみれ

何事も楽しめる30代に

──声優デビューから10年、アーティストデビューから9年という経験や年齢を重ねたことで、気持ちに余裕ができたり、考え方に変化が生まれたりということはありませんか? 上坂さんは先日30歳の誕生日を迎えたばかりですが(取材は2021年末に実施)、30代になったことでの気持ちの変化はあります?

ないですね。声や服装が変わることもないし、30になったら給料が上がるということもないので。

──なるほど(笑)。20代を終えることに身構えるようなこともなかった?

それもなかったです。26歳くらいのときに、なんとなく肌が乾燥しやすくなったなと感じてスキンケア製品を変えたり、体質改善的なことは20代後半から考え始めていたので、その頃から30代を迎える気持ちの準備ができていたんです。だから今は33歳くらいの気持ちで。少し前から階段を上り始めて、上ってみたら意外と何もなかった、みたいな。

──「30代からはこう生きたい」みたいな、節目としての目標を定めるようなこともしなかったですか?

20代は大変だったので、30代は大変だった分を回収していきたいというか。「10年前の毎日泣きながら1人でランチパックを食べてた君、大丈夫だから」っていう。いろんな物事の楽しみ方がわかってきたことを踏まえて……「何事も楽しめる」というのができる30代になれたらいいなと思いますね。

上坂すみれ

上坂すみれ

──次のツアーは4月10日にスタートします。まだ時間はありますが、どのようなライブにしたいですか?

ツアーがとてもひさしぶりというのもありますし、特に引っさげるアルバムなどもないのでセトリも自由ですし。定番曲もありマイナーな選曲もあり、またバンドアレンジが初めてという曲もあると思うので、新旧織り交ぜた、余裕のある上坂さんが織りなす、安心して楽しめるいいライブにしたいという目標があります。

──年々レパートリーが増えたことで、例えば1980年代アイドルポップを彷彿とさせる楽曲のみを披露する特別なライブを組むことも今後はできるんじゃないかと。

そうですね。私はセイントフォーが大好きで「こういう曲が歌いたい」と少しずつそういう曲が増えてきて。「歌謡曲だけライブ」は私もやってみたい気持ちがありますが、客席をくまなく確認すると、そのあたりを楽しんでいるのはだいたいおじさんで、学生さんたちは微妙な顔をしているという統計結果が私の中で出ているので……「歌謡曲おじさんナイト」はいつか設けたいと思っています。「歌謡曲おじさんナイト」と、「タイアップしかやんないナイト」と、「ドラマー死んじゃうBPM高いナイト」と。そういう共通点のある曲が増えてきたので、いつかやりたいなと思いますね。

「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2021」の様子。(撮影:鈴木健太[KENTA Inc])

「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2021」の様子。(撮影:鈴木健太[KENTA Inc])

公演情報

上坂すみれ「SUMIRE UESAKA LIVE TOUR 2022 超・革命伝説」

  • 2022年4月10日(日)千葉県 千葉県文化会館 大ホール
  • 2022年4月16日(土)愛知県 刈谷市総合文化センター 大ホール
  • 2022年5月1日(日)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2022年5月4日(水・祝)東京都 昭和女子大学人見記念講堂

プロフィール

上坂すみれ(ウエサカスミレ)

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。2012年にテレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。主な出演作品は「スター☆トゥインクルプリキュア」(ユニ / キュアコスモ役)、「アイドルマスター シンデレラガールズ」(アナスタシア役)、「うる星やつら」(ラム役)など。2013年4月にはシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。ソ連・ロシア、昭和歌謡、メタルロック、戦車、ロリータなど、多方面に興味を示し知識を持つことでも知られる。2020年1月に4thアルバム「NEO PROPAGANDA」をリリース。同年3月から4月にかけて開催を予定していたアルバムリリースツアー「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2020」は全公演中止となったが、2021年10月に千葉・舞浜アンフィシアターでワンマンライブ「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2021」が2日間にわたって行われた。2022年2月には舞浜アンフィシアターでのライブの模様を収めたライブBlu-ray「上坂すみれのPROPAGANDA CITY 2021」をリリース。4月から5月にかけて全国ツアー「SUMIRE UESAKA LIVE TOUR 2022 超・革命伝説」が予定されている。