ナタリー PowerPush - 上坂すみれ

「七つの海よりキミの海」に見る すみぺの闘争と革命の日々

21歳女性声優、ラ・ムーを語る

──それはそれで1つの青春の形ですよね。「人は人、自分は自分」と割り切って我が道を楽しく進みつつ、でもぼっちではない。ちゃんと同好の士がいる。

上坂すみれ

今思い返すと確かになかなか実りあるものだった気もしますけど、当時はちっっっとも楽しくなかったんですよ!

──あはははは(笑)。

何もかもイヤでしたねえ(笑)。すぐにニキビができるのもイヤだったし。今もそんなにあるわけじゃないんですけど、その頃はホントに自分に自信がなくて。それがロリータに出会ったことで「オシャレしなきゃいけない!」「洋服に負けないようにメイクしなきゃ!」って思い始めて。そのあたりからやっと自我みたいなものが伴ってきて、友達もできたんじゃないかなって思ってます。

──当時は筋肉少女帯以外にはどんな音楽を聴いていました?

全部、今も聴いてるんですけど、戸川純さんとか、YMOとか、P-MODELとか、ヒカシューとか、あとはテクノ歌謡とか。YMOの皆さんがアイドルのために作った歌謡曲であったり、そういうトレンディドラマっぽい感じというか、キラキラした曲も好きでしたね。C-C-Bとか、ラ・ムーとかもそうですし。

──ラ・ムーって活動当時は、アイドルの菊池桃子が突如バンドマンに転身したことばかりに注目が集まって、音楽的側面についてはあまり語られなかったけど……。

アイドルならではのかわいらしい歌声にブラックミュージック的な音がすごくハマっててカッコいいんですよね。私が生まれる前に活動していたバンドだし、私は逆にラ・ムーで菊池桃子さんを知ったので、当時の人たちみたいな先入観なく聴けたのがよかったんだと思います。あと聴いてたのはコンピレーションかなあ。軍歌のCDであったり、「青春歌年鑑」のいろんな年のバージョンであったり。洋楽は最近になってからだから当時は聴いてなかったし……あっ、KRAFTWERKは聴いてました。あと父が好きだったPINK FLOYDも。

──そしてその後「祖国は我らのために」に出会う、と。

そういえば、あの曲も洋楽ですね(笑)。

「あんな広大な土地に住んでおいて、なんで日本人に似てるんだろう?」

──ただ今回のアートワークからもわかるように上坂さんは国歌をきっかけにロシアやソ連の音楽以外の文化にもハマってますよね。その魅力って?

私、どんなものでも興味を持つと、まずその対象についてある程度までは調べてみるんですよ。で、調べた結果、私がどのくらいハマれたか、そのハマり具合によってそれをライフワークにするか否かを決めるんです。

──じゃあソ連がライフワークになった理由は?

何を調べてもどストライクだったので。なんかもう、文学ももちろん面白いし、建築や芸術も素晴らしすぎて。ロシア帝国時代のちょっと仰々しいくらい豪華な建造物とか、民衆を描いたイリヤ・レーピンの絵画もいいし、ウラジーミル・マヤコフスキーやアレクサンドル・ロトチェンコの時代のロシア構成主義ももちろんカッコいいし、明らかに抑圧された人々の笑顔を描いた、スターリン時代の絵画とかも大好きですし。だからなんて言うんでしょう、そういう文学や絵画やポスターや建築物を生み出すロシア人のメンタリティがすごく私の肌にあったんだと思います。特にソ連って70年も続いたのに、私が生まれた年になくなっちゃっているっていうところにノスタルジー……とは違うな(笑)。なんですかね? 「あんなに私の好きなものばっかり生み出してくれた国が今はもうない」っていうところにもロマンを感じてハマったんじゃないかと思ってます。まあヒマだったんですよね、要するに(笑)。

──あはははは(笑)。ヒマに飽かせて国歌や芸術作品、国の歴史、政治について調べているうちに、そこから垣間見えたロシア人気質にハマった、と。

上坂すみれ

はい。例えばソ連のコンテンツっていうとチェブラーシカが有名だと思うんですけど、オリジナルのチェブラーシカってちょっと泥臭いんですよ。日本で作られたチェブラーシカはすごくキュートなんですけど、ソ連版のチェブラーシカってなんか街は寂れてるし、BGMもすごく切ないんです。

──たぶん体制批判の意味もあったんでしょうけど、ソ連や東欧のコマ撮りアニメってアコーディオンやバンドネオンやバイオリンの悲しい音色が似合う作品が多いですよね。

ですよね。ワニのゲーナは「オレは動物園で働くサラリーマンだから……」みたいなことを、ものすごくやるせない感じでつぶやくし。なんかそういう、かわいいものの中にもの悲しさを漂わせちゃう感覚って実は日本人にも共通するところがある気がするんです。その「あんな広大な土地に住んでおいて、なんで日本人に似てるんだろう?」っていうところも興味深いんですよね。

「一般教養、手強いです……」

──で、ソ連趣味が高じて、進学先には大学のロシア語学科を選んだんですよね?

ロシアやソ連について調べているうちに「ロシアやソ連に関する日本語の資料が少なすぎる」「これから新しい本が出版される見込みもそんなにないから、原典を読めるように勉強しておこう」って思いまして。でも語学って大学にでも行かないとちゃんと身につかないじゃないですか。

──語学を修得するならたぶん現地に住むのが一番手っ取り早いんだけど、高校3年生の進路相談のときに「ロシア人になります!」とは……。

さすがに言えないので(笑)。でも大学になら権威の方がいっぱいいるので、国内にいてもゼミとか受けたらいろいろわかるんじゃないかと思って。だって実際にソ連やロシアがどこかの国と結んだ条約なんて自力ではまず探せないのに、教授が配るレジュメには普通に載ってたりしますから。で、ロシア語学科の公募推薦の入試を受けたんです。

──公募推薦入試ってどんなことをやるんですか?

小論文を提出して、テストと面接を受けました。

──ちなみに小論文のテーマって?

ロシアン・アバンギャルド。ロシア構成主義です。

──さっき言っていたマヤコフスキやロトチェンコなんかについて?

はい。ちょうど折よく、高校3年生のときに京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターでソビエト無声映画のポスター展をやっていたので、それを観に行って資料集を買って、参考文献にしつつ「構成主義に惹かれました」っていう論文を書いたら、おかげさまで通りました。

──受験生の中でもそこまでロシアやソ連に情熱を傾けていた子って珍しいんじゃないですか。偏差値だけを基準に大学を選ぶ子も多いだろうし。

でも勉強って好きじゃないと続かないじゃないですか。だから私、一般教養の授業がしんどくてしかたがないんです。

──教育学や刑法なんてロシアに関係ないし(笑)。

「先生になれるキャラクターじゃないしなあ」「絶対教え子とケンカしちゃうよお」って(笑)。一般教養、手強いです……。

1stシングル「七つの海よりキミの海」 / 2013年4月24日発売 / STARCHILD
「初回限定盤」[CD+DVD] / 1700円 / KICM-91447
「期間限定アニメ盤」[CD] / 1500円 / KICM-91448
「通常盤」[CD+DVD] / 1200円 / KICM-1449
初回限定盤 CD収録曲
  1. 七つの海よりキミの海
  2. 我旗の元へと集いたまえ
  3. 七つの海よりキミの海(off vocal ver.)
期間限定アニメ盤 CD収録曲
  1. 七つの海よりキミの海
  2. 我旗の元へと集いたまえ
  3. 七つの海よりキミの海(off vocal ver.)
  4. 七つの海よりキミの海(TV size mix)
通常盤 CD収録曲
  1. 七つの海よりキミの海
  2. 我旗の元へと集いたまえ
  3. 我らと我らの道を
  4. 七つの海よりキミの海(off vocal ver.)
初回限定盤 DVD収録内容
  • 「七つの海よりキミの海」PV
上坂すみれ(うえさかすみれ)
上坂すみれ

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優。小学生時代よりジュニアモデルとして活動。2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューし、同年「中二病でも恋がしたい!」や「ガールズ&パンツァー」など注目作に立て続けに出演する。その一方でラジオ、イベント、アニメ誌、カルチャー誌などを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。