音楽ナタリー Power Push - 上間綾乃
やふぁやふぁと、ありのままを歌う
東京の母・加藤登紀子
──加藤登紀子さんの「命結-ぬちゆい」のカバーも収録されていますが、これはどのような経緯で?
登紀子さんには、私がメジャーデビューする前からかわいがっていただいていて。登紀子さんが沖縄でやったコンサートにゲストとして呼んでもらったこともあるんです。いつも私のことを気にかけてくれていて、相談にも乗ってくださったり、東京のお母さんみたいな感じ。そんな登紀子さんからあるとき「『命結-ぬちゆい』はあなたに合うと思うんだけど」って言っていただけたんですよ。その言葉が素直にうれしかったので、今回歌わせていただくことにしました。
──“命を結ぶ”という素敵なメッセージが込められた曲ですよね。
命のつながりを歌ってます。歌詞の中で、“どんなに離れたところにいたとしても、「ひとりだけどひとりじゃない」”って書かれているところにすごく共感しました。「命結-ぬちゆい」は、国も人も世代も選ばない曲でもあると私は思っていて。今回のアルバムに関してもそういう内容にしたいなと、この曲をきっかけに強く思いましたね。
──レコーディングはいかがでしたか?
難しかった! 自分の中でのイメージ、理想に追いつくための戦いでしたね。でも、私の場合は言葉やメロディにどれだけ共感できて、どれだけそこに思いを乗せられるかが一番大事なことだと思っているので、そこは問題なかったというか。しっかりとシンクロできたと思います。聞いた話によると登紀子さんは私の歌った「命結-ぬちゆい」を「いいね」って言ってくださったそうで。CDがリリースされたらまた改めてご報告にいければなって思ってます。
──そして今回も、上間さんならではの解釈で歌われた沖縄民謡も2曲あって。
はい。民謡は、まず「懐かしき故郷」を絶対に入れたかったんですよ。先ほどもお話にあったように、自分の原点を見つめ直したときに、本当に大切な1曲なので。やっと自分の作品としてリリースすることができるなっていう感慨もありましたね。
──すごくシンプルなアレンジだけに、上間さんの歌の魅力が全面に現れています。
三線と馬頭琴で構成されたサウンドは、ちょっと張りつめた感じがありつつも、歌っている自分をどこか異世界に連れて行ってくれるようでした。馬頭琴が生まれたのはモンゴルで、私は沖縄出身なので、国境を越えてすごく広い世界にいる気持ちになれましたね。それが歌にもちゃんと出てるなって思います。
──歌詞の受け止め方も、13歳でハワイで歌ったときとは変化しているところもありそうですよね。
歌詞を改めて読むと、この曲は沖縄に“帰りたい”ではなく“行きたい”と歌っているんですよ。沖縄移民の方たちは沖縄が故郷ではあるけど、今はもうハワイが自分の国ということ。去年、ハワイに行って移民の方とお話したときも、向こうの方々はみんな自分のことを「僕らは日本人ではなく日系です」ってはっきりおっしゃっていました。この歌はそういう方々の気持ちを歌っているんだなと、新たな発見がありました。
──自らの置かれた環境や境遇をしっかり受け入れているということですよね。
そう! そうなんですよ。そして日系である自分に誇りを持って強く強く生きている。その強さに私もハッとさせられました。
──もう1曲の民謡は「道端三世相」。こちらはにぎやかなアレンジがすごく楽しい曲です。
ちょっとトランス状態に陥りそうなアレンジですよね(笑)。サックスをはじめとした3種類くらいの楽器をたくさん重ねてもらいました。私はこの曲が大好きなのでみんなに紹介したいなと思って選んだんですけど、せっかくレコーディングするんだったら普通じゃイヤだなと思って。ちょっとサーカスみたいなイメージのある、これまた異空間に連れて行ってくれるような仕上がりになりました。
──ちなみに歌詞ではどのようなことが描かれているんですか?
三世相っていう昔の易学があって、それを記した本を売り歩くという内容なんです。「最近お客さんが来ないのは拝みが足りないからですよ、だからこれを買いませんかー」って。全部の歌詞の意味を見るとすごくあやしいんですけど(笑)、まあそこも含め、音として楽しんでもらえたらうれしいですね。歌詞が1番、2番、3番と進むにつれてだんだん長くなるところも注目です!
やふぁやふぁと吹く風に乗って飛んでいきたい
──制作期間の最後にできたという曲が「南風にのって」。作詞が上間さん、作曲が井上さんとの共作による、夏にマッチするさわやかなナンバーですね。
はい。すがすがしい曲にしたいなっていうイメージがまずあって。で、最初にいただいた曲に言葉を乗せてみたら、自分なりに歌いたいメロディが浮かんできたので、それを鑑さんにお伝えしたんです。「遠慮しないでなんでも言ってね」っておっしゃったので、いろいろ提案させていただきましたね。そうしたら自分の中でよりしっくりくる言葉選びもできたんです。
──歌詞には上間さんがここから進んで行く上での新たな決意みたいなものを感じました。
“やふぁやふぁ”と進んで行くよっていうね。歌詞にもある“やふぁやふぁ”って、イメージできます?
──柔らかな雰囲気がありますよね。
そう、沖縄の言葉で“柔らかい”っていう意味。まあでも意味がわからなかったとしても、“やふぁやふぁ”って聞いたときに絶対固い感じはしないじゃないですか(笑)。それがいいなと思って。やふぁやふぁと南から吹く風に乗ってどこまでも飛んでいきたいなって私は思ってるんですよね。
──曲の後半では、「何もいらない / 歌があればいい」という力強く、まっすぐなメッセージも出てきます。聴いた瞬間、グッときましたよ。
言ってみちゃいましたね(笑)。歌の中だったら言ってもいいかなって。
──でも心から出てきた本当の思いなわけですよね。
うん。歌があったからこそ今の私があるっていつも思っているので。とは言え、こうやって改めて話をすると、ちょっと気恥ずかしいんですよね(笑)歌だけあればいい? いやいやごはんも必要でしょ、おなかすくでしょ!みたいな。あははは(笑)。でも歌の世界の中だけは、本当にそういう気持ちではいますね。
──そしてアルバムのラストには上間さんが作詞作曲を手がけた「アマレイロ」が。
ハワイを含め、いろんなところを旅する中で得た経験や出会いを通して自然と生まれたのがこの曲で。さっきお話ししたハワイの沖縄移民の方々のように、自分の境遇を受け入れて、それに対して誇りを持って生きることって本当に素晴らしいことだと思うんですね。ただ現状に満足せず、さらにいい自分の居場所がどこかにあるんじゃないかなって模索し続けることも大事なことだと私は思ったんです。
──なるほど。
タイトルになっている「アマレイロ」っていうのはポルトガル語で“黄色”を意味するんですけど、私はそれを“幸せ色”と解釈して、自分なりの“アマレイロ”を探していけたらいいなっていう思いをこの曲に込めたんですよね。
──いいメッセージですね。壮大で広がりを感じさせるけど、聴き手の心にスッと染みわたるサウンドもまたすごく素敵でした。
船がゆっくりゆっくりと進んで、自分のアマレイロがあるであろう目的地に向かっていく感じをサウンドでも表現してもらうことができました。旅をするイメージにしたいですっていうことだけをお伝えしたら、鑑さんがバッチリなものを作ってきてくださったんですよ。言葉が少なくても、私の思っていることをちゃんとくみ取ってくれるから本当に不思議ですね。
──この曲の最後には歌詞として掲載されていないフレーズがありますよね。あそこはなんと言ってるんですか?
ウチナーグチで「いるじゅらさ ふきてぃお」って言ってます。“美しい色が吹き渡っていく”という意味ですね。もともとあそこは何も歌詞を乗せていないところだったんですけど、レコーディング中に鑑さんから「何か言葉ないかな?」って言われたので、その場で考えたんですよ。この曲を聴いて、それぞれのアマレイロを皆さんが見つけてくれたらいいなって思います。
──上間さんのこれまでとこれからを感じることができる全7曲。非常に濃いアルバムになりましたが、そこに「魂うた」というタイトルを付けた理由を最後に教えてください。
自分の原点からの思いが詰まった今回の作品を通して聴いてみると、すべてが心からの歌だなって思えたんです。なので、そのまま「魂うた」にしました。これもね、改めてこうやって話すと気恥ずかしいんですけど、今回は本当に飾らない、素のまま、ありのままの私の歌をどうぞっていう気持ちがすごく強いんですよね。8月と11月にはライブも決まっています。お話もたくさんしながら、やふぁやふぁと歌いたいと思っているので楽しみにしていてください。
収録曲
- 命結-ぬちゆい
- ミカヅキの夜に
- 道端三世相(みちばたさんじんそう)~創作舞踊「辻山」より
- 南風にのって
- さとうきび畑 ウチナーグチver.
- 懐かしき故郷
- アマレイロ
ツアー情報
上間綾乃4th album発売記念ツアー2016~魂うた(まぶいうた)
- 2016年8月12日(金)愛知県 名古屋ブルーノート
[1st]START 18:30
[2nd]START 21:15 - 2016年8月15日(月)大阪府 Billboard Live OSAKA
[1st]START 18:30
[2nd]START 21:30 - 2016年11月26日(土)東京都 日本橋三井ホール
START 17:00
上間綾乃(ウエマアヤノ)
沖縄県出身の女性シンガー。小学校2年生から三線を習い始め、19歳で琉球國民謡協会教師免許に合格する。インディーズでCDを発表し積極的なライブ活動を行う中、2012年5月にアルバム「唄者」で日本コロムビアよりメジャーデビュー。2013年には1stシングル「ソランジュ」、2ndアルバム「ニライカナイ」を発売し、「FUJI ROCK FESTIVAL '13」への初出演も果たした。2016年7月にニューアルバム「魂うた」(まぶいうた)をリリースする。