テレビ朝日ミュージック代表取締役CEO 吉田真佐男|来たれ、創造的破壊者 音楽業界の革命児が見据える“アフターコロナ”

音楽配信と配信ライブ

吉田真佐男

──近年は定額制の音楽配信サービスが日本でも定着して、テレビ朝日ミュージック所属の平井大さんも昨年「Stand by me, Stand by you.」などのデジタルシングルがチャートを賑わせましたが、そのあたりはどう捉えていますか?(参考:平井大、躍動の2020年を語る

アメリカやヨーロッパではずいぶん前から活況を呈していて、日本でもようやくサブスクが盛り上がってきましたが、欧米のレベルに達することはないと思います。なぜかと言うと、これは僕の持論なんですが、音楽配信ビジネスというのはユーザーの母数が2000万人を超えて初めて成立するんです。少子高齢化の日本でユーザーの母数が増えることはないですよね。平井大は非常にうまくいっていますが、日本のアーティストで音楽配信だけで食べていけるのは本当に一握りだと思いますね。

──コロナウイルスの影響で昨年急速に広まった配信ライブについてはどのようにお考えでしょう?

配信ライブもビジネスとして成立させるのは難しいと思います。ここにマネタイズポイントを求めず、アーティストの認知拡大やリアルライブの価値を上げる方向に舵を切ったほうがいいと思いますね。

──いかに生で観たいと思わせるかが重要で、配信ライブはそのための導線にするべきだと。

そうです。そのためにファンクラブのあり方も重要で、BtoCにして1つのコミュニティ作りをしていかないといけないですね。すぐ目移りするような浮動票しか集まらないということがないように体制を作っておかないと。

子供関連ビジネスへの参入

──最近はファンベースという言葉が頻繁に使われるようになりましたが、テレビ朝日ミュージックはそれを音楽業界で実践しようとしている印象を受けます。

他業界から学ぶことは本当に多いですよ。例えばベビーウェア・子供服メーカーでは産休・育休から戻ってきた女性社員がヒット商品を作るらしいですね。自分が実際にお客さんの立場になってニーズがわかり、結果的にスキルが上がって戻ってくるということです。子供関連ビジネスはすごく伸びていて、実はうちも5年くらい前から参入したいと考えていたんですが、やっと去年スタートさせたんですよ。日本の童謡にフォーカスして、子供たちが聴いて歌いたくなったり、踊ったりしたくなるような楽曲アレンジと映像制作をして、YouTubeに動画をアップしています。例えば「おにのパンツ」とか。周辺ビジネスの展開も視野に入れて、これからどんどん広げていこうと思っています。

──「おにのパンツ」、子供は大好きですよね。ビジネスモデルとしてはどういうやり方になるのでしょうか?

まずはパブリックドメインという権利のない童謡で、どんどんこういう動画を作っています。そのうちスポンサーが付いたら地上波テレビで展開していって、同時に保育園、幼稚園などでイベントをやり、最終的にすべての周辺ビジネスができたらいいなと思っています。

──なるほど、今はコンテンツを作っている段階ということですね。

そう、大元をまず作っている最中です。この手のビジネスで圧倒的な勝ち組はNHKエンタープライズさんですね。「おかあさんといっしょ」などの番組イベントは、さいたまスーパーアリーナを2日間借りて1日3公演やるらしいです。しかも抽選なんだとか。うちももっと早くやりたかったんですけど、ようやく去年始めたので徐々に展開していこうと思っています。なので、子供ビジネスへの参入とグローバル化への施策をコロナ禍の中で始めました。あとは先ほど申し上げた既存のビジネスモデルの切り替え。いろいろあって忙しいですよ(笑)。

人材採用、求める人物像

──そうなってくるとやはりスキルを持った人材の確保が非常に重要になってくるわけで、それで新卒に限らず中途採用も積極的に進めていらっしゃるんですね。

その通りです。

──求める人物像はありますか?

今後はどんどんジョブ型にならなくちゃいけないと思っています。人物像で言えば、任務を請け負ってそれを成功させることができる個人事業主っぽい考え方の人。仕事に対してどんな成果を出すかを考えて、自分でどんどん進められる人がいいですね。例えばアーティストのディレクション業務は音楽を作ることが目的じゃなくてヒットさせることが目的なので、ヒットさせられないっていうのは任務に応えられていないということになります。逆に言うと請け負ったものに対して答えを出せる人に対してはどんどん評価していきますよ。まあなかなかそういう人材って難しいですけど、常にトライ&エラーを恐れないでやることが大事です。成功の裏には必ず失敗がありますから。ただしこの失敗がどういう失敗なのかにもよって、独自に切り開いたもので失敗したなら絶対に役に立つと思うんですけど、マネをして失敗したことはなんの役にも立たない。

吉田真佐男

──そのあたりは先ほども出た「創造的破壊」の話にもつながると思うのですが、御社の社風やカルチャーについて教えていただけますか?

「創造的破壊」というのが僕のテーマだし、社員もそうであってほしいと思います。それができない人にはまず今持っているものを破壊しちゃえば何かせざるを得ないだろうみたいな理屈もあって(笑)。特にこのコロナ禍が明けたときというのはそういう固定観念にとらわれない柔軟な考え方がものすごく重要だと思っていますね。社会が変わりますから。

──では、吉田さんが考えるこの仕事の醍醐味は?

この仕事で面白いのはルールがないところですね。放送局系音楽出版社だけどレコード会社の仕事やプロダクションの仕事もできて、進め方も自分のやりたいようにできる。何か創造したい人には持ってこいだと思いますよ。特にコロナで大転換が起きていて、極論を言うとキャリアを持った人も新入社員も全員が同じスタートラインに立たされるので、そこは非常に面白い。過去の経験が生きると言ったら逆で、むしろいらなくなってくる。大チャンスですよ。

──最後に、吉田さんのバイブル的な本があったら教えてください。経営者として何か指針にしているものはありますか?

バイブルは特にはないですね。ただ今年、社員に向けてメッセージを出しました。「今やるべきことをやらなければ、将来の夢は遠のく」「言うだけなら誰でもできます、自らが動かないと」という。僕は毎年年明けに高尾山の薬王院にかれこれ45、6年くらい行ってるんですね。そこで護摩祈祷をしてもらって、帰りにことわざみたいなものが書かれた名刺大の紙をいつももらうんですけど、その2つだけは自分の家の神棚にずっと飾ってありますね。これだけは忘れないでおこうと思ってね。あとはもう1つ、「『最も強い者』が生き残るのではない。『最も賢い者』が生き延びるのでもない。『変化できるもの』が生き残るのだ!!」というメッセージも社員に送りました。コロナによって時代がどんどん変わるので、そこに対応できないとダメだと思いますね。100年に一度と言われているこの大変革のとき、「創造的破壊」の精神で、自らも能動的に変化しながら、共にイノベーションを起こせる人材に出会えるのを楽しみにしています。

特集公開時より、一部表現を変更いたしました。


2021年3月29日更新