鼻に抜ける感じが足りない
──で、次が「疫病退散ソング」なんですけど、これまたひどい曲で(笑)。「酔った勢いでつい作っちゃった」みたいな感じが素晴らしいですね。
やよい 完全にシラフでしたけどね(笑)。
──こういうタイプの曲って、キャリアを重ねてくると作るのが難しくなるものだと思うんですけど、この曲はすごく初期衝動的というか。
まり 自粛のたまものかしら。
やよい スタジオでふざけながら大真面目に作りました。「もっとエロく!」みたいな(笑)。
まり 最初に私が「アマビエー アマビエー」みたいな曲にしようと言い出して、やよいが「それならこんなとこでしょ」ってベースラインを弾き始めたので、「じゃあそれでいいや」と。ざっくり作ったものを中村さんに送ったら「最初からアマビエって言ったらダメでしょ。ネタバレしすぎ」なんてダメ出しが入って(笑)。それで「あいつはー あいつはー」みたいな歌い出しに変えたらキューティーハニーっぽくなったので、「じゃあ思いっきり気持ち悪くしよう」となりました。最初はもっとかわいい感じで歌ってたんですけど、だんだんエロくなってきたんです。
──掛け合いボーカルのパートもかなりの熱量ですね。
まり 「あ あ あああ ああああ あま」を言うと次が言えないので、「びえ」の部分をやよいに頼んだら、すんごい太めのエロい声が出て(笑)。
まいこ けっこうこだわりましたよね(笑)。
まり 「鼻に抜ける感じが足りない!」とか言いながら、めちゃめちゃ直しました。
やよい がんばって歌った。
──そこがこの曲のキーポイントですよね。楽曲自体は極めてシンプルなんですけど、それゆえにほかのバンドにはマネできないものになっていると思います。
まり ありがとうございます。
現金の重要性について語り合った
──ラストナンバーの「THE 給料日 -ぼくたちが本当に必要なのは現金だバージョン-」は、昨年リリースのベストアルバム「まみれマニア20」に新曲として収録された「THE 給料日」の歌詞違いバージョンです。先ほどもちらっとお話に出ましたが、この曲は「THE給与」という耳なじみのないマシンの……。
まり タイアップです!
やよい ひさびさのタイアップが「なんだそりゃ」という(笑)。
まり 「ドラEVER」という運転手さん専門の求人サイトがあって。それを運営している会社の社長が「トラックの運転手さんとかにはその日のお金が必要だから、給料日を待たずに現金を引き出せるようにしたい」ということで、ほぼ趣味みたいな感じで給料前払いマシンを開発したんです。それが「THE給与」なんですけど。
──すごく愛のあるマシンなんですね。
やよい すごいんですよ。静脈認証の機能とかもあるんです。
まり 以前「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系)の「トレンドたまご」コーナーで取り上げられたって言ってました。その社長さんが「THE給与」ってワードで検索してたらたまたま「THE 給料日」が見つかって、「バッチリじゃん」って。自粛中にZoomで会議したんですよ。現金の重要性について語り合うとか。
──「月末まで待てないんだ!」と。
まり 「今なんだよ!」と。切実な曲になりましたね。
──既存の曲の歌詞を変えて出し直すこと自体には、抵抗などはなかったですか?
まり 抵抗がなくなりました。逆に面白いなと思って。
──「THE 給料日」は原曲の時点で完成されていましたよね。しかもかなり完成度の高い曲だと個人的には思っていて、特にサビの「20日締め月末払い」というフレーズは神がかっているとすら感じていたんです。そういうものを変えてしまうことに関しても、「気にせずやるよ」という感じだった?
まり 「はい! “前払い”ですね!」って(笑)。「月末払い」のバージョンはベスト盤に入ってるし、それでいいやと。心が広くなったなと思いました。確かに「THE 給料日」はすごくよくできた曲だと自分たちでも思ってるんですけど、「私たちの曲は“月末払い”なんで! キリッ!」とは全然ならなかった。
やよい 今の世の中に合ってるなあって。あははは(笑)。
まり 「最後は“現金払い”にしましょう!」みたいな。
──なるほど。そうして作られた新バージョンのサビは、「前払い」というワードの入れ方が強引で素晴らしいですよね。そのままだと1音足りないところに「ね!」とか「うん!」とかを無理やり入れていて。とくに「イエス!」は秀逸だと思いました。
まり これも中村さんのアドバイスがあって。私は最初「ま・え・ばらーい」かなと思ってたんですけど、それだと“前払い”という言葉として伝わりづらいから、何かを頭に入れて「○・まえばらーい」にしたほうがいいよって言われて。そこらへんも素直に聞けるようになった。
──今後、ライブではどちらの歌詞を歌うんですか?
まり こないだの配信ライブでは前払いでやりました。
やよい リリースに関連するライブでは前払いをやると思うんですけど、それが終わったら……。
まり 選べるね。
──第3のバージョンが作られる可能性は?
やよい いくらでも作れます(笑)。
──まあ、「月末払い」と「前払い」のほかに何があり得るのかはわからないですけど。
やよい ……後払い?
──(笑)。だいぶ悲哀に満ちた歌になっちゃいますね。
まり つらいね。
やよい 心が苦しい曲になりそう(笑)。
うまくなりすぎるとつまらない
──つしまみれというバンドに対して、常々疑問に思っていることがありまして。いつまで経っても“うまいバンド”にならないのはなぜなんでしょう? 普通、20年もやってたら嫌でもうまくなると思うんですけど。
一同 (笑)。
──ただ、普通にうまく弾けちゃう人には絶対に出せない音を出しているところがこのバンドのカッコいいところでもあって。それは維持しようと思ってできるものでもないと思うんですけど、何か秘訣があるんでしょうか。
やよい 曲作りの段階だと、「普通にカッコいいけど、なんか聴いたことあるぞ?」ってなっちゃうとつまらないなとは思います。意図しないぶつかりを求めてしまっているところはあるかな。
──その気持ちはめっちゃわかるんですけど、求めたからと言って得られるものではないというか。
やよい 確かに(笑)。あれじゃないですかね、海外でやっていると「いろいろ気にしている場合じゃない」ってことが多いので……。
まり でも、それだとうまくなりそうだけど。
やよい ホントだね(笑)。なんでうまくならないんだろう。
まり 私けっこう自負してるんですけど、全然ギターうまくならなくて。それが肝な気がするな。
──おっしゃる通りで、冷静に演奏を聴くとリズム隊の2人はちゃんとうまいんですよ。このバンド特有のチグハグ感って、やはりギターによるところが大きいんだろうなと。
まり チグハグ感(笑)。なんか、学習しないんだよなあ……。自分が弾いたフレーズは練習するんですけど、自分が弾けないことを練習しないからいけないのかもしれないです。コードも全然覚えてないし、速弾きも「海苔」が最高峰で……なんか、言えば言うほどアレだな(笑)。「THE 給料日」の間奏くらいのことは弾けるようにはしてるんですけど。
やよい それをよしとしている私たちのおかげじゃないかな(笑)。
まり 2人の心の広さね。ツアー帰りのタイミングとかだと、さすがにうまくなりすぎて「つまらないな」ってなることもあったりしますよ。
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指が動かないことに関してはあきらめている