音楽ナタリー Power Push - TRUSTRICK

“王道のJ-POP”を目指して

新曲で浮き彫りになるトラトリの陰と陽

──今作は“E.P.”と銘打って、表題曲のほかバリエーションに富んだ楽曲がType-Aには4曲、Type-Bには5曲収録されています。表題曲とカップリングからなるシングルではなくこのような形にしたのはなぜですか?

神田 「未来形Answer E.P.」(参照:TRUSTRICK「未来形Answer E.P.」インタビュー)で味を占めたんです(笑)。

Billy アルバムではないなというタイミングで、なるべくたくさんの新しい曲を聴いてほしいというときに最善の形を考えると、この「E.P.」の第2弾の出番かなと。でも全体にアルバム的な流れはあると思います。「from where to where -ため息の理由-」は僕の根っこの部分に流れている音楽をそのまま形にしたような曲で。こういうさわやかでちょっとファンキーでビートが跳ねている曲が、僕にとって一番自然に出てくる音楽なんですよね。「If -君が行くセカイ-」(1stアルバム「Eternity」収録曲)とか「Escape」(2ndアルバム「TRUST」収録曲)とか。

神田沙也加(Vo)

神田 ああ、そうだね。確かに今挙げた3曲はライブで歌っていると、どこか同じ空気を感じます。かつ歌いやすい、この曲が来ると安心するという3曲。私にとっては、TRUSTRICKになるまではなかった部分ですね。逆に「Water Lily」は私の中に昔からある感じだし、最初はこの曲をメインにしたいと言って周りをドン引きさせてたんですけど(笑)。でも朝の4時ぐらい、鬱々とした時間に聴いてくれたらわかるからって(笑)。ただTRUSTRICKはもう少しブライト寄りなユニットだと思うから、私が持っているその要素はコントラストを付ける位置にあるのかなと思います。

──確かに神田さんからはそこはかとなくダークな要素を感じますね。でもTRUSTRICKを結成することによってブライトな要素を手に入れたのは、アーティストとして何かを表現する上ですごくプラスになっているのではないでしょうか。

神田 うんうん。黙っていると逆だと思われるんですけど、TRUSTRICKのブライトな要素はBillyなんですよ。「暗い曲を書いて」ってリクエストしないと明るくてかわいい曲を書いてくる人なんです。

コラボレーションと洋楽カバー

──「from where to where -ため息の理由-」と「Water Lily」がそれぞれのディープな要素を感じさせる曲である一方、「それが奇跡だと知らない」では初めて外部のアレンジャーを導入して、これまでとはまったく違う要素を取り込んでいるという。なぜここでA-beeさんにオファーを?

Billy もともとは少しアコースティック寄りな曲だったんですけど、アニソンを数多く手がけているA-beeさんにお願いすることで、もう少しだけアニソンの世界に踏み込んでいくことができるんじゃないかなって。

──TRUSTRICKにはこれまでも打ち込みをベースにしたダンサブルな楽曲はありましたけど、ここで外部のサウンドを取り入れたのは、これから先の可能性の広がりを示唆しているのかなと思ったのですが。

神田 その通りです。歌詞は80年代がテーマで。ちょっと80年代アイドルっぽいですよね。

Billy うん。かわいい。ちょっと懐かしい感じ。

──そしてもう1曲、「Good Bye School Dayz -theme of SUPER DANGANRONPA 2 THE STAGE-」は舞台「ダンガンロンパ THE STAGE」シリーズとのコラボ第2弾ですが、独立した1つのジャンルと言えるほどダンガンロンパ×トラトリ独特の世界観ができあがっているというか。

神田 そうそうそう! DGRPっていうジャンルが存在してる(笑)。お話をもらってすぐ、ちょっと前のめり気味に曲を書き始めてしまって、あとで「こういうワードを入れてほしい」という連絡があったんですけど……私たちはゲーム版をやりこんでるから、言われるまでもなくワンコーラスの中にそれが全部入ってたんです(笑)。早めに取りかかったから制作時間には余裕があったんですけど、最初に作った状態からほとんど直すことなく。

──作品の世界観を知り尽くしているからこその相性のよさですね。言葉選びもほかの曲とはまったく方向性が違いますが。

神田 言葉をギュッと詰め込んでるから歌詞を間違えてしまいそうだけど、自分の中ではしっかり起承転結が存在しているから全然大丈夫なんです。「ダンガンロンパ」とのコラボはまだまだやりたいなあ。

Billy(G)

Billy この曲も一緒に入れられるのは「E.P.」だからこそですね。シングルとは違って、やっぱりアルバムと同じように全体の流れを考えるんですよ。「それが奇跡だと知らない」はA-beeさんとのコラボということで本当は2曲目ぐらいに置きたいなと考えてたんですけど、仕上がった音を聴いたとき、役割として本編の締めにふさわしいものになったなと思ったんです。「それが奇跡だと知らない」で本編を締めくくったあと、少し曲間を空けて「Good Bye School Dayz」が始まるという。

──今作はさらにもう1曲、Type-Bのみの収録曲としてFranz Ferdinand「DO YOU WANT TO」のカバーが収録されています。ここでカバーを入れたのは、しかもFranz Ferdinandの曲を選んだのはなぜなんでしょう。

神田 実は別の洋楽カバーでアレンジもほとんどできあがっていたものがあったんですけど、どうも決め手に欠けるなあというところで止まっていたんです。それである日、原宿を歩いていてたまたま「DO YOU WANT TO」を耳にしたとき、これトラトリでやるのはどうかなって直感的に思ったんです。ウィスパーボイスで、もっとおバカなサウンドにしたらかわいいんじゃないかなって。その場ですぐBillyにメッセージを送ったら「試しに作ってみるよ」って簡単なトラックを作ってくれたんです。やってみたら、もう1つの曲よりも明確に形が見えてきちゃって、急遽入れ替えたんですよ。

Billy TRUSTRICKを結成するまではまったく畑違いの2人でしたけど、そんなに多くはない共通項の1つがFranz Ferdinandなんですよ。ちょっとおバカっぽいダンストラックに仕上がりましたけど、振り幅としてこのぐらい思い切り振り切ってみるのもいいかなという試みですね。

神田 「beloved」始まりで「DO YOU WANT TO」終わりってすごい振り幅だね(笑)。いい感じに若気の至り感が出せたかなと思います。こんなふうにドサクサにまぎれて洋楽カバーを入れる手法は今後もやっていきたいです。

トラトリの2016年

──全曲についてお話していただきましたが、結成からこれまでの活動を経て「だったらこれもやれるかも」という可能性の幅が見えてきて、かつ振れ幅を広げながらも「トラトリらしさ」をキープできる地盤がしっかり備わってきたのがよくわかる1枚になったなという印象です。

神田 そうですね。自分でもすごく好きな作品になりました。

Billy 僕もです。なんの外的要因もなく2人の個性が出せた作品になったかなと。

神田 ジャケットは1人になってしまいましたけど(笑)。男女ユニットだともっと早い段階でそうなりがちですけど、今回ついにそうなりました。

左から神田沙也加(Vo)、Billy(G)。

Billy 僕は裏ジャケに回ってます(笑)。ユニットであるという姿勢を十分に出せたという自信もあっての判断ですね。

──神田さんが世界各国の言葉で「愛してる」と書かれたベールをまとっている、というすごく印象的なジャケットですが、このビジュアルイメージは?

神田 遺影です。叶わない恋はどこへ向かうのか、どう終わるのか。「終わる」ということについて考えたとき、燃やして終わる葬儀が浮かんで、遺影をイメージしたビジュアルにしたいと案を出しました。そしたらデザイナーからこのベールのアイデアが来て……ゾッとしましたね。満場一致で決定して、「今回は1人ずつ撮りましょう」となぜか自然に決まりました。曲のイメージが自然に導いたというか。ジャケットもMVもメイクもスタイリングも、アートワークを含めてすごく満足している作品です。

Billy 笑顔で和気あいあいとした現場ですけど、各ジャンルのプロフェッショナルがバッチバチに火花を散らして一切の妥協を許さない。ヤバいぞこの現場って(笑)。

──内容の濃い1枚になりましたね。全部で6曲なのに2枚組アルバムのインタビューをしたような気持ちです。

Billy あはは(笑)。でもそのぐらいの気持ちはこもっていると思います。これまでの作品にももちろん満足しているんですけど、ここまで自分たちらしさをしっかり出せたのは初めてですね。

──いい状態でTRUSTRICKの2016年がスタートしたようですが、今年はどんな1年にしたいですか?

神田 実は今、次のタイアップ曲を制作しているんです。しっかり作品に寄り添いつつも、「beloved E.P.」を作り終えたあとだからこそ、どこまで自分たちの持ち味を出していけるか。そのさじ加減で格闘しているところです。今年の目標を言うと……やっぱり「アニサマ」は楽しかったのでまた出たいです。あと、定番のイベントをもっと増やしていきたいです。これまでスリーショット撮影会とかをやってきて、今回はイベント化して全国を回ることにしましたけど、今年の初めにライブではなくこのイベントを持ってきたのはお礼回りの意味を込めているというか、聴いてくれるみんなと顔を合わせて「今年もよろしくね」って言いたかったんです。そういう機会をもっと増やしたいなって。

Billy 僕個人の目標としては、フェス系に出たい。「なんでこのユニットがこのフェスに出てんだろう?」みたいなアウェイ戦がやりたいんです。そこに出て行ったときにどんな反応があるのか確かめてみたい。まだまだ知られていないと思うし、初めて聴いた人にどう響くのか。これからどんどん挑戦していきたいですね。

神田 無欲なところから始まって、ラジオとかで「目標は?」と聞かれると黙っちゃう2人だったんです(笑)。でも、少しずつ欲が出てきたね。

Billy やっぱり少しずつ自信がついてきたってことなんだと思います。

左から神田沙也加(Vo)、Billy(G)。
「beloved E.P.」2016年1月27日発売 / 日本コロムビア
Type-A [CD+DVD]2000円 / COZP-1134~5
Type-B [CD] 1700円 / COCP-39414
CD収録曲
  1. beloved
  2. from where to where -ため息の理由-
  3. Water Lily
  4. それが奇跡だと知らない
  5. Good Bye School Dayz -theme of SUPER DANGANRONPA 2 THE STAGE-(Re:GENERATION Version)
  1. beloved(Instrumental)
    ※Type-Aのみ収録
  1. DO YOU WANT TO(オリジナル:Franz Ferdinand)
    ※Type-Bのみ収録
Type-A DVD収録内容
  • beloved(Music Video)
  • beloved(Making Clip)
TRUSTRICK(トラストリック)
TRUSTRICK

舞台女優としての活動を中心に、歌手、声優、モデルなど幅広く活躍する神田沙也加(Vo)と、Billy(G)からなるユニット。2014年4月にユニット結成を発表し、6月発売の1stアルバム「Eternity」で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たした。2015年1月にはテレビアニメ「銃皇無尽のファフニール」のオープニングテーマとなるシングル「FLYING FAFNIR」、2ndフルアルバム「TRUST」を続けて発表した。同年5月にはテレビアニメ「俺物語!!」のオープニングテーマ「未来形Answer」を含むCD「未来形Answer E.P.」を発表し、8月には国内最大級のアニメソングイベント「Animelo Summer Live 2015 -THE GATE-」に出演を果たした。2016年1月には新作CD「beloved E.P.」をリリース。