音楽ナタリー Power Push - TRUSTRICK
“王道のJ-POP”を目指して
王道のJ-POPとはなんぞや
──そして2016年は新作「beloved E.P.」でスタートするわけですが、表題曲の「beloved」については年末のライブで「原点回帰の王道J-POP」と表現した上で、「苦節半年、こんなに難航したことはない」とおっしゃってましたよね。
神田 そうそう。今回はタイアップによる作品的な縛りがなかったから、TRUSTRICKそのものを表現しようというマップ作りから始まったんです。その結果「1990年代のチャートで1位を獲ってたような王道のJ-POPにしよう」とは言ったものの、その曲が王道になるかどうかは結果論であって、初めから狙って作れるものじゃないと思うんですよ。「王道のJ-POPとはなんぞや」ってめっちゃ考えました。
Billy 僕は80年代、90年代のJ-POPに大きく影響を受けているので、影響をそのまま出せばそれが王道になると思ったんです。王道を具現化できるボーカリストと出会えたと思っていますし、背伸びせず気取らずに最善を尽くせば自然とそうなるんだろうなというのが、この1年半で感じたことなんですよね。タイアップも何もないところから最初に手探りで作った「ATLAS」は僕らの原点で、「beloved」はひさびさに「ATLAS」に匹敵するバラードが書けたかなと思っています。
──Aメロ・Bメロ・サビの1番と2番があって、ギターソロを挟んでサビのリフレインという構造上の王道感も「beloved」にはあるかなと思います。さらにDメロを挟んだりするパターンもあると思うんですけど、あえて入れなかったのかなとか。
神田 サビが強いと思ったので、別のメロディを入れて曇らせたくなかったんです。5分41秒というのはオンエアのことを考えると少し長いかなと思いますけど、イントロもアウトロもギターソロも、必要じゃないところは1つもないというところまで考え抜いた結果なんです。
──最後のサビのリフレインで1カ所だけ出てくる異なるメロディ、「Recall me, beloved」のところは、コードのsus4感がすごくトラトリっぽい。「トラトリの王道」を感じました。
神田 あははは(笑)。そうですね。
Billy 今までの中で一番ストーリー性のあるメロディが書けたなと思っています。歌もエモーショナルなテイクが録れたので、そのあとに録ったギターソロも引っ張られるように叙情的なものになりました。熱いバラードができたなと。
“王道”を描くための格闘
──歌詞の部分では、最初の一言が「それでも」から始まるところに、すごくドラマチックな深みを感じました。
神田 「それでも」を思い付いたときが、苦節半年の抜け穴が少し見えた瞬間でした(笑)。
──「苦節半年」の一番の難題点はなんだったんですか?
神田 私はBillyのデモを受けて2つ目の行程、歌詞と仮歌なんですけど……歌詞が書けないということはないんですよ。難しいのは、あまりにも書きやすい曲だったとき。何パターンも浮かぶ曲はどこで止めていいかわからないというか。どれが一番合うのか、もしくはこんなにパパパと浮かぶということはどれもそんなによくないのか、そのさじ加減が自分でわからなくなるときが一番難しいんです。実はまったく別の形で歌詞ができあがってたんですけど、スタッフの方がTRUSTRICK始まって以来ぐらいの異論を唱え始めたんです。神田が書く歌詞のそもそも論を。じっくり話し合った結果ぶつかってしまい、しばらく口がきけなくなり。
──ははは(笑)。
神田 だけどそこで何回も何回も話したんですね。「途中で話を終わらせちゃダメだ!」って。「この曲のここはらしさが出てるけど、ここはもっとこうしたほうがいい」とか過去に作った曲まで引っ張り出して話し合いをしたんですよ。そうやって歌詞を書き換えては仮歌を録って……しまいには「もうこの曲は出せない」というところまで行ったんです。最初に納得していたものを変えたことが、どうしても気持ち悪くて。そもそも論は解消できていないと思ったし、スタッフにも空気を読んで「じゃあこれで行こうよ」って言ってほしくもなかったし、そういう折れ方をされるのだけはすっごくイヤなんですよ。
──本当にお蔵入りになる可能性もあったと。
神田 あと5日でできなかったらもう無理だというときに、布団の中で突然「それでも」ってフレーズが降りてきて。「これはいけるかもしれない」と起き上がってダダダッと書いたんです。スタッフが指摘した“穴”を超計算して、ある意味ステレオタイプな王道も入れて、だけどここはトラトリらしさだと思うところも意識して。1行も隙がないと思えるところまでじっくり考えてそのスタッフに送ったら……即OKでした。それだけ苦労したから、歌入れのときは全員泣きそうみたいな(笑)。
Billy そのスタッフはずっとロック畑にいた熱い方で、音楽の力を信じてるんですよ。たぶん2つの考え方があって、「王道ならこういう節回しが重要」という思いと「でもアーティストらしさも大事にしてほしい」という思いを持っているんです。そのどちらについてもじっくり考えた上でたどり着けた初めての作品だったので……。
神田 うん。そうかもしれないね。
Billy 結果的にこのディスカッションがあってよかったなと思いますね。
神田 ディスカッションと言うにはちょっと激しかったけどね(笑)。それまでもちょっとした言い争いやケンカはありましたよ。でも「これじゃ響かない」と言われたのは初めてだったから。でも言ってることはわかったし、妥協することなく話し合えたのはよかった。
Billy 2人とも絶対に譲らないタイプなので。
神田 Billyは超間に入ってくれたよね。素晴らしいバランサーぶりを発揮してた。
Billy そんなことないよ。いいと思った判断をしただけで。自分もアーティストだから、そこでバランスを取ってたらアーティストじゃないと思うんですよ。
神田 でもあれからそのスタッフとは確実に仲良くなったし、「好かれてる?」って思う瞬間がある(笑)。感情が見えにくかったのが、表に出てくるようになったというか。TRUSTRICKのことが大事だという気持ちを隠さなくなったと思います。
Billy なんかバンドっぽい(笑)。メンバーは2人だけどスタッフを含めてバンドやってる感じですね。彼のことは3人目のメンバーだと思っています。
神田 ……。
──今すごく王道っぽいことを言いましたね。
Billy いや、今のはナシでお願いします(笑)。
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- 「beloved E.P.」2016年1月27日発売 / 日本コロムビア
- Type-A [CD+DVD]2000円 / COZP-1134~5
- Type-B [CD] 1700円 / COCP-39414
CD収録曲
- beloved
- from where to where -ため息の理由-
- Water Lily
- それが奇跡だと知らない
- Good Bye School Dayz -theme of SUPER DANGANRONPA 2 THE STAGE-(Re:GENERATION Version)
- beloved(Instrumental)
※Type-Aのみ収録
- DO YOU WANT TO(オリジナル:Franz Ferdinand)
※Type-Bのみ収録
Type-A DVD収録内容
- beloved(Music Video)
- beloved(Making Clip)
TRUSTRICK(トラストリック)
舞台女優としての活動を中心に、歌手、声優、モデルなど幅広く活躍する神田沙也加(Vo)と、Billy(G)からなるユニット。2014年4月にユニット結成を発表し、6月発売の1stアルバム「Eternity」で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たした。2015年1月にはテレビアニメ「銃皇無尽のファフニール」のオープニングテーマとなるシングル「FLYING FAFNIR」、2ndフルアルバム「TRUST」を続けて発表した。同年5月にはテレビアニメ「俺物語!!」のオープニングテーマ「未来形Answer」を含むCD「未来形Answer E.P.」を発表し、8月には国内最大級のアニメソングイベント「Animelo Summer Live 2015 -THE GATE-」に出演を果たした。2016年1月には新作CD「beloved E.P.」をリリース。