ナタリー PowerPush - TRUSTRICK
神田沙也加×Billy 運命の出会いが生んだ「Eternity」
“TRUSTRICKのふるい”にかけた不純物なしの「どトラトリ」成分
──ではここからアルバム「Eternity」について詳しく聞かせてください。TRUSTRICKの第一歩、いわゆる“名刺代わりの1枚”として、どのような作品にしようと思いましたか? 僕の印象では「現段階でTRUSTRICKでやれそうなことを全部やってみた」という1枚なのかなと思いました。バラエティに富んでいながら、どこか一本筋が通っていて。
神田 私の中に“ふるい”のようなものがあるんですよ。“TRUSTRICKのふるい”が。そこに漠然としたイメージだけを入れてふるったときに、TRUSTRICK成分だけが残るんです。例えば洋服でもなんでもいいんですけど、「これはTRUSTRICKか、TRUSTRICKじゃないか」って、やたらはっきりしてるんですよ。ジャンルで言うとバラバラな12曲だけど、「TRUSTRICKかどうか」で言うと全部「どTRUSTRICK」なんです。
Billy うーん、なるほど。おっしゃる通り、今回は振り幅として広げられるだけ広げることができたと思っています。次は逆にどこかに焦点を絞って作るのも面白いかなって。
──アルバムタイトルは全体像をまとめる上で重要なものだと思いますが、「Eternity」というタイトルは事前に決めていたんですか?
神田 いや……それが最後の最後で、締め切りギリギリ終わったところに「すみません、替えます」って提出したぐらい(笑)。
──“TRUSTRICKのふるい”にかけてかけてかけまくって、最終的にすくい上げられたのが「Eternity」だったと。
神田 最後の最後ギリギリまで残ってたタイトルは、限りなくTRUSTRICKだったんですけど、ほんの2、3粒、不純物が混ざってたんですよ(笑)。もっとドTRUSTRICKなもの、「どトラトリ」なものがないかなってバーッといろんな単語を書き出していって。
Billy 全然関係ないところから言葉を探してきたりもしたんだけど、「どういう思いで作ったかを単純に言葉にしたほうがいいんじゃない?」ってことで出した結論が、オフィシャルサイトにも書いてある……。
神田 「人生=個人的永遠」? でもね、最終的には語感が大きいです。エタニティ。タタタターッっていう。
──あ、音としての響きを。
神田 正直そこが大きいです。あとはイマジネーションを広げる余地がある言葉というか。不純物が混ざってたタイトルはもっと直接的な意味がある言葉だったんですよ。
──最終的に12曲で構成されたアルバムになっていますが、ここに漏れた曲もあるんですか?
Billy 実は全部で17曲ぐらいありました。詞も曲もできてたけど、時期的なものやテイストの違いを考えて12曲に絞りました。それでも十分幅を広げることはできたかなと。
──最初に作ったという「wonder」と「ATLAS」以降も、曲はスラスラとできた?
Billy できましたね。それにトラトリ用に作った曲だけじゃなく、もともと温めていた曲もあるんですよ。以前から人に曲を提供する機会はあったんだけど、なかなかぴったり合う人が見つからなかった曲があって、ようやく歌ってくれる人が現れたというか。それだけ、僕の中にもともと流れているメロディラインと、彼女の中に流れているメロディが近かったってことですよ。ずっと探してたって言ってましたけど、僕は僕でずっと探してたシンガー像が潜在的にあったんだと思います。
TRUSTRICKの初期衝動が詰まった「ATLAS」
──アルバムの大事な入口となる1曲目に、ソングライター神田沙也加の脳内をそのまま見せた「Ever Blue」が置かれているというのも大胆な構成ですよね。
神田 ホントですよ! どうなんですかね?
Billy 好きなんですよね。こういう始まり方。
──すごく実験的な楽曲だと思うんですけど、どういう発想で作ったんですか?
神田 自分の声質が好きじゃないからこそ、自分の声質はよく知ってるんですよ。「お、ちょっと気持ちいいな」ってトリップできそうな音域を探して、好きに歌ったような。ヴォカリーズ(母音のみで歌う唱法)に近いですね。
──2曲目の「If -君が行くセカイ-」はユニットのイメージを定めた初期の1曲とおっしゃってましたが、ビジュアルイメージにも合ったヨーロッパ的な匂いがあって。続く3曲目の「ATLAS」はビデオクリップも制作された、いわゆるリード曲という立ち位置ですが、なぜこの曲を選んだんですか?
神田 実は「If -君が行くセカイ-」か「ATLAS」のどっちをリード曲にするかで、最後まで揺れてたんですよ。結果的に「ATLAS」を選んだのは、私たちにとって初期衝動が詰まっている楽曲だから。未知への期待だったり、2人の間で奇跡的に一致したものが、初めて一緒に作った「ATLAS」の中に強くあったんですよね。
TRUSTRICK / ATLAS【Music Video(short ver.)】
──そもそもシングルではなくアルバムが初めて世に出る作品になるからこそ、リード曲が持つ意味合いもひときわ強いと思うんです。
神田 そうですよね。Billyくんはよく「絵的なもの」って言いますけど、どういう照明で、どういう立ち姿で、どういう服を着ていて……というのが私たちははっきりしているんです。そういう意味で2人の絵が一番よく浮かぶのが「ATLAS」だったから、というのも選んだ理由の1つですね。
──次の「wonder」はロックなんだけどひねくれ方がすごくポップで。変拍子が挟まるんだけど、ゴリゴリの複雑な変拍子というよりはポップなアクセントになっていて、これがBillyさんが持っているJ-POPセンスなのだなと感じました。
Billy 変拍子は好きなんですけど、「ハイ変拍子です!」みたいなのはカッコ悪いって僕は思っていて。もともと自分の中に流れてる音に一番近いのが「wonder」ですね。
ゲインロス効果を楽しむアルバム構成
──5曲目の「TRICK or HOLIC」はタイトルにTRICKが含まれているし、歌詞の内容的にもTRUSTRICKの姿勢の1つが現れた曲なのかなと。
神田 数直線があってダークとブライトに分かれているとしたら、この曲は最もダーク寄りですね。童話が持つ怖さ、耽美的な怖さというか、ハロウィン的な感じが欲しかったんです。「怖カワイイ」みたいな。
──それを完全に耽美寄りではなく、ポップでかわいい曲として聴かせるのがTRUSTRICKの見せ方。
神田 うんうん。さじ加減が難しいんですよ。もう1さじ入れるとダークに傾いちゃうし、1さじ抜くときっとサラッとしすぎると思う。
──でもこのタイプの音楽って、おそらく神田沙也加ソロとして出たらみんなびっくりすると思うんですよ(笑)。それが成立してるのがTRUSTRICKの醍醐味なんだなって。
神田 ホントそうですね。TRUSTRICKって名前にも助けられてるし、可動域が広がったなって感じます。
──……と、ここまで目まぐるしく展開しておきながら、「恋人」と「君が居る未来のために」の2曲は、それこそ「アナ雪」から入った人にも安心して楽しめるバラード2連発を、あえて固めて置いたんだなと。
神田 このアルバムでは、カテゴリーとして同じところに分類される曲はわざと1曲挟んでワンクッション入れる組み方をしてるんですけど、この2曲に関しては気をそらす間もなく続けている唯一のオアシスポイントというか。ごゆっくりどうぞゾーンですね(笑)。
──そして唐突にエレクトロ「kissing」という。
神田 落差の大きいところに落としたときの人の様子を楽しみたいみたいな……。
Billy ゲインロス?(笑)
神田 そう。ゲインロス効果を楽しむ構成です(笑)。
──エレクトロな「kissing」と「Jealousy Jelly」の間にホーンの効いた「Calico」が挟んであったり、これはあえて形を定めない、ある程度撹乱させる“TRICK”要素なんだろうなと。
神田 その通りです。
Billy もうお見通しって感じですね(笑)。
- 1stアルバム「Eternity」 / 2014年6月25日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3456円 / COZP-859~60
- 通常盤 [CD] 2700円 / COCP-38610
CD収録曲
- Ever Blue
- If -君が行くセカイ-
- ATLAS
- wonder
- TRICK or HOLIC
- 恋人
- 君が居る未来のために
- kissing
- Calico
- Jealousy Jelly
- as one
- beautiful dreamer
初回限定盤DVD収録内容
- If -君が行くセカイ-(Music Video)
- ATLAS(Music Video)
- beautiful dreamer(Music Video)
- If -君が行くセカイ-(Making Clip)
- ATLAS(Making Clip)
TRUSTRICK(トラストリック)
舞台女優としての活動を中心に、声優、モデル、ソロシンガーと幅広く活躍する神田沙也加(Vo)と、2006~13年に上杉昇(ex.WANDS、al.ni.co)率いるバンド・猫騙のメンバーとして活動していたBilly(G)からなるユニット。2014年4月にユニット結成を発表し、6月発売の1stアルバム「Eternity」で日本コロムビアよりメジャーデビューを果たした。ユニット名は「TRUST=信頼、信用」「TRICK=いたずら、策略」の2語を合わせた造語で、少しの毒とファンタジーが共存する独自の世界を構築している。