ナタリー PowerPush - TRUNK

結成12周年のすべてを絞り出した 勝負の新作「SQUEEZE」

ストリートライブに明け暮れる日々

──その路上ライブがTRUNK結成につながっていくわけですね。

小山貴彰

小山 はい。2001年11月13日の結成日というのは、僕らが大阪の京橋というところで、初めて人前で歌った日なんです。

新井 最初はろくに練習もせず、いきなり歌いに出かけたんですけど、だんだんお客さんが増えてきて。当時、大阪ではコブクロさんがストリートから全国区のスターになったりして、ブームもあったんでしょうね。今じゃ考えられないけど、若い子の間では「今日は路上ライブを観に行く」っていう遊びがあったんですよ。

──へえ。お目当てのミュージシャンがいなくても、ふらっと遊びに来る子が多かったと。

新井 そうなんです。僕らが最初拠点にしていた天王寺なんて、常時40、50組はいましたから。とりあえず行ってみて、「じゃあ、誰を観ようか」みたいな感じで。下手でもすぐ10人、20人のお客さんは付くような状況でした。それを半年くらい続けた頃から、ファンが急激に増え始めまして。まだオリジナル曲は数えるほどしかなく、コブクロさんやミスチルさんのカバーが大部分だったんですけど、気が付くと200人、300人は集まるようになっていました。

──本人たちとしては「あれよ、あれよ」という感じだった?

小山 うん。日々、見てる風景が変わっていく感じでした。大学3年生の頃には、路上ライブに出かける回数がさらに増えて。あるとき2人で、「これから1カ月、毎日同じ場所で同じ時間帯に歌おう」って決めたんです。それは天王寺じゃなくて梅田の地下街やったんですけど。続けてるうちに、前日は見向きもしてくれなかった人が、次の日には「あ、また同じ子らが歌ってる」と立ち止まってくれたりして。

新井寿光

新井 当時、同じように梅田で活動していた「家族」という人気デュオがいたんです。僕らが歌い始めた頃、TRUNKの前にはお客さん数人しかいなくて、向こうには100人以上集まっていた。それが最終的にはこっちも100人を超えて、トータルですごい人数になってしまったんです。それだけ人が集まると、人が人を呼ぶ状況になるんですね。それで結局、ウメチカでは演奏してはいけない決まりになってしまったんです。大阪のストリートミュージシャンの間では、ちょっとした伝説になったんですけど(笑)。

小山 自分の中での自信にもつながったし、あの経験は大きかったですね。あと阪神が優勝しそうな夜に、わざと道頓堀のひっかけ橋(戎橋)でストリートライブをやったり。

新井 そうそう。あのときは僕らのファンと阪神ファンがごっちゃになって。ノリで「六甲おろし」を歌ったら、みんな興奮して大変なことになったんですよ。警察の人には怒られるわ、コワイお兄さんには「お前ら、何やっとんじゃ!」って脅されるわで……。

小山 ストリートライブって、本当に予測不可能なことが起きるんですよ。当時は年間300日は路上に出ていましたし、他ではできない経験がいろいろありました。

──ハードですね。ツライとか、もう止めようとか思ったことは?

新井 それは一度もなかったです。「あんなシンドイこと、よう毎日やってたな」とは感じますけど。それって、野球部の練習を3年間続けられたのと同じで。がむしゃらにやってる間は、ツライとか思わないんですよ。むしろ僕は、自分らが小器用になっていくことのほうがずっと怖い。だから今後も路上ライブはできる限り続けていきたいと思ってます。

──そういえばTRUNKは、路上ではアンプを使わないですよね。

小山 そうですね。生歌にすることによって、やっぱりお客さんとの距離が一歩も二歩も近付くんですよ。その波動がいい形でお客さんに伝わって、聴いてもらえる部分もあるのかなと。

「人に勇気をもたらす存在になりたい」からプロへ

──プロになろうと決めたのはいつ頃でした?

新井 わりと早くから意識はしてましたが、真剣に考えたのは大学を卒業する直前かな。就職活動はやめて、この道一本でいこうと決めました。もともと僕、阪神の八木(裕)選手が大好きだったんです。技術はもちろんだけど、その人がいることで周囲にいい影響を与えられる選手で、僕も存在そのものが人に勇気をもたらすような選手になるのが目標でした。でも小山と同じで、僕も大学では挫折ばかりだった。小柄やし、周囲にはすごい素材がたくさんいて、満足できる結果が出せなかったんですね。でも路上で歌ってるとき、100人、200人が僕らの歌を聴いて泣いたり笑ったりしてくれてるのを見て、「あれ?」って思った。ツールが野球から音楽に変わっただけで、これって自分がやりたかったことじゃないかって。

11月10日に東京・下北沢ReGで行ったワンマンライブの様子。

小山 そこは僕も同じですね。誰かに喜んでもらったり、「元気をもらった」と言ってもらえる経験って、普通はそうないじゃないですか。でも路上でライブをやっていると、それが当たり前のように起きるんです。最初は自分の心の穴を埋めるため歌っていたのが、いつしかお客さんの笑顔が自分の喜びに変わっていきました。

新井 だからこそ結成から今まで、僕らはずっと「応援ソング」を大切にしてきたんだと思います。もちろん、ストレートなラブソングも多いけど、TRUNKの真骨頂はやっぱり聴いてくれる人を元気付けたり、肩を押してあげたりできる曲。そういうメッセージを込めた曲を書かなきゃとは、常に意識しています。そのためには自分たちが1日、1日をきちんと生きてなあかんし……。

小山 今回のアルバムは、サウンド面では新機軸に挑戦しつつ、気持ちの上ではそういう原点にもう一度帰ろうと。

ミニアルバム「SQUEEZE」/ 2013年10月26日発売 / 2000円 / FIL / FLCD-1001
収録曲
  1. キラキラ
  2. 同じ月を見つめてる
  3. スニーカー(squeeze mix)
  4. Flying to you
  5. ガーンとやってみよう
  6. 一歩
  7. シアワセノカギ
「SQUEEZE」発売記念ワンマン
  • 2014年2月23日(日)大阪府 knave
    OPEN 16:30 / START 17:00
  • 2014年3月1日(土)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
    OPEN 17:30 / START 18:00
  • ※チケットの一般発売は12月14日(土)スタート
TRUNK(とらんく)
TRUNK

小山貴彰(Vo)と新井寿光(G, Vo)による関西ストリート出身のアコースティックデュオ。2001年11月13日に結成し、大阪や広島での路上をライブ中心に活動を行う。2010年自主制作の1stアルバム「Another future」を発売。2011年に上京後、原宿アストロホール、Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE、渋谷duo MUSIC EXCHANGEなどでワンマンライブを行う一方で、ストリートライブも精力的に行う。2013年10月にFILよりアルバム「SQUEEZE」をリリース。