ナタリー PowerPush - TRUNK
結成12周年のすべてを絞り出した 勝負の新作「SQUEEZE」
3年3カ月ぶりのアルバム「SQUEEZE」に込めた思い
──そういえば「SQUEEZE」というアルバム名も、ユニフォームを着たジャケットも、2人のルーツである野球に関係してますね。
新井 そうなんです。野球があったからこそ僕らは出会えたし。高校3年間のハードな練習を経験してたからこそ、10年以上路上でがんばってこられた。初心に返る意味でも、何か野球にちなんだ言葉を使いたかったんです。アルバムを出すにあたって、「この貴重なチャンスを絶対モノにしたい」という思いもタイトルには込められています。
小山 あと英語の「squeeze」という言葉には「絞り出す」って意味もあるじゃないですか。結成12周年の僕たちを、余すことなく絞り出そうと思って。
──制作期間はどのくらいかかりました?
新井 実際のレコーディングは2週間くらいかな。ただ曲作りにはまるまる1年くらいかけてますね。あと音楽的には意識的にいくつかの課題に取り組んでいて。
──TRUNKの楽曲は、基本すべて新井さんが書いてますよね。意識的に取り組んだというのは、例えばどういう部分?
新井 一番大きかったのは、2人の役割分担をきっちりさせること。もっと言うと、このアルバムでは小山のボーカルをしっかり前面に出して、声の魅力でも勝負したかった。サビの部分も彼の歌が一番映えるように意識して書いたし。僕はそれをギターとコーラスで支える役に徹しています。
小山 僕は前作の「Another future」と比べるとメインを張るパートが圧倒的に増えました。今まで1曲通して自分だけで歌うことってほぼなかったんですね。でも今回は、これまで半々だった2人の割合が一気に8割くらいに増えたイメージです。2人のコーラスで盛り上げるパートは残しつつ、聴かせるところはしっかり聴かせる。そのメリハリはすごく意識しましたね。
──ソロパートが増えると、楽曲のよさがストレートに伝わりやすくなる分、歌う側の解釈力も問われそうですが。
小山 本当にそう思います。これまでは2人の勢いでガッと押し切っていたところも、1人だとそうはいかない。詞の内容をしっかり咀嚼し、フレージングのディテールまで作り込んで練習しないと、やっぱり説得力が出ないんですよね。メロディ自体も今回はファルセットが多かったりして。
新井 キーも高いしね。自分で書いておきながら、僕にはしんどすぎて歌えない(笑)。
小山 なのでレコーディングはけっこう苦労しました。ただそのぶん、今までで一番ストレートかつポップで、初めて聴いてくれた人にも「TRUNKってこういう音楽なんや」という魅力がシンプルに伝わりやすい内容に仕上がったかなと。
新機軸に挑んだ「キラキラ」「一歩」
──確かにオープニング曲「キラキラ」は思いきりキャッチーで明るくて。ライブでは間違いなく定番曲になりそうです。
新井 ありがとうございます。今回、一緒にアルバムを作ったスタッフの方から「TRUNKには、もっとポップで明るい曲がたくさんあってもいい」とアドバイスをいただいて、サビのフレーズを山ほど書いたんです。その中で小山が一番気に入ってくれたのがこのメロディで。実はこの曲、「キラキラ」っていうタイトルから先に決めて、それから歌詞を書いたんです。
──へえ。どんなイメージを伝えたかったんですか?
新井 強いて言えば、人の歌声の持つ素晴らしさかな。ちょっと恥ずかしいけれど、「キラキラ」としか表現できないようなポジティブな何か。気持ちを穏やかにしてくれたり、大事なことに気付かせてくれたり。それを共有できる曲というのが、大きなテーマとしてはありました。
小山 しかもお客さんと一緒に掛け合いできるようなね。みんなが歌いやすいように、レコーディングでは僕自身、日本武道館とか大阪城ホールみたいな会場で大勢の観客と大合唱しているようなイメージで歌っています。
──新機軸といえば、ラストから2曲目「一歩」の疾走感も今までなかったテイストですよね。
新井 今回の収録曲はどれも思い入れが深いけど、中でもこの曲は特別かもしれません。これまで僕らが作ってきたメッセージソングは、ほとんどミドルバラードだったんですね。「Calling your dream」も「スニーカー」もそう。アップテンポで明るいメロディに言いたいこともしっかり詰め込んだ曲って、なかなか作れませんでした。その意味で「一歩」は、メチャメチャ苦労して、やっと完成した曲で。自分の中で一段上がれた感覚があったというか……。レコーディングの最後に完成した曲でもあるし、達成感がありました。
自分たちのカラを破って一回り大きな存在に
──メロウなラブソングの「同じ月を見つめてる」や、アイリッシュな旋律が印象的な「ガーンとやってみよう」などは、初めての提供曲ですね。オリジナル曲にこだわってきたのに、今回あえて他のソングライターの楽曲を取り上げた理由は?
新井 やっぱり、自分たちのカラを破って一回り大きくなりたいという気持ちが大きいかな。僕ら2人とも体育会系なんで、「大きく成長するためには、まず信頼できる人のアドバイスを素直に丸呑みすべし」っていう信念があるんですよ。これは理屈じゃなく、経験則として身体に染み込んでいて。
小山 まずは受け入れてみる。もし自分に合わなかったら、そのときまた別の方法を考える。
新井 実際、「ガーンとやってみよう」みたいなアイリッシュのテイストなんて、初めて聴いたときは衝撃でしたから。自分たちの演奏スタイルに合うのか不安だったし、実際レコーディングにも時間がかかった。でも自分らでは作られへんだけに、ライブで演奏するとお客さんがすごく新鮮に感じて盛り上がってくれるんです。バックのアレンジも前はセルフにこだわってましたが、今回は同じチームのアレンジャーさんにお願いして。僕は曲を作る、小山は歌う、アレンジは基本任せる、とはっきり決めて作っています。
小山 2つの提供曲については、僕も歌っていてすごく発見がありました。なんだろう……新井が書いてくる曲って、たとえ新曲であっても、ベストな力の入れ具合が体感的にわかるんですね。親しみやすくて耳に残る、彼にしか書けないメロディというのがあって。僕の仕事は、その魅力を歌でなるべく素直に届けることだと思っています。でも他の方の書かれた曲だと、まずキー設定から違うし、旋律の感覚も全然異なる。それをじっくり聴き込んで自分のものにしていく過程は、かなり苦労しました。それだけに今までとは違った味も出せたかなと思います。
──ニューアルバムを引っさげ、来年2月には大阪、3月には東京で単独ライブが決まっています。最後に、未来に向けた抱負を聞かせてください。
小山 そうですね。なんと言っても「SQUEEZE」は、たくさんの出会いから生まれたアルバム。本当にいろんなことにチャレンジさせてもらい、気持ちも充実しているので、新しい自分たちを表現できるライブにしたいですね。
新井 僕はせっかく小山がいい歌を歌ってくれてるので、それに恥ずかしくない楽曲をもっと書きたい。あとライブハウスと同じくらい、今後もストリートを大事にしていきたいと思ってます。僕らが歌を届けたい相手って、やっぱり目の前にいる人たちなんですよね。どんなに忙しくても、流れ作業みたいに音楽を作りたいとは思わない。生歌で、もっともっとお客さんと近い距離で、みんなの心に響く曲を生みだす努力をしていきたいと思っています。
収録曲
- キラキラ
- 同じ月を見つめてる
- スニーカー(squeeze mix)
- Flying to you
- ガーンとやってみよう
- 一歩
- シアワセノカギ
「SQUEEZE」発売記念ワンマン
- 2014年2月23日(日)大阪府 knave
OPEN 16:30 / START 17:00 - 2014年3月1日(土)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
OPEN 17:30 / START 18:00 - ※チケットの一般発売は12月14日(土)スタート
TRUNK(とらんく)
小山貴彰(Vo)と新井寿光(G, Vo)による関西ストリート出身のアコースティックデュオ。2001年11月13日に結成し、大阪や広島での路上をライブ中心に活動を行う。2010年自主制作の1stアルバム「Another future」を発売。2011年に上京後、原宿アストロホール、Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE、渋谷duo MUSIC EXCHANGEなどでワンマンライブを行う一方で、ストリートライブも精力的に行う。2013年10月にFILよりアルバム「SQUEEZE」をリリース。