「アイドリッシュセブン」TRIGGER「VARIANT」特集 斉藤壮馬、羽多野渉、佐藤拓也インタビュー

八乙女楽役 羽多野渉 インタビュー

誰でも主人公になりうる熱いグループ

──まず「アイナナ」に携わることになった経緯を教えてください。

作品の企画書をいただいて、八乙女楽というキャラクターのオーディションを受けさせていただく、というところが始まりでした。そのときは「アイナナ」がどういう作品で、八乙女楽がどういうキャラクターなのかはまだわからなかったです。そのときにもらったキャラクター資料にも書いてあったのですが、当時は楽のことをクールなキャラクターかと思っていたんですよね。いわゆる冷酷無比なライバルキャラ。シナリオを読み進めたときのギャップがすごかったです。

──シナリオを追うと八乙女楽さんは熱い思いを持ったキャラクターだと言うことが伝わってきますよね。そんな八乙女さんが所属するTRIGGERはどんなグループだと思いますか?

非常に情熱的なグループだと思います。センターが天、リーダーが楽というふうに決まってはいますけど、メンバー3人誰でも主人公になりうる熱いグループだなと。そしてそれぞれの役割が明確だと思いますね。

──八乙女さんのTRIGGERの中での役割とは?

楽はTRIGGERのリーダーで、ある意味グループの顔。彼は「アイナナ」の世界の中で、“抱かれたい男No1”とかいろいろな称号やイメージを持っているんです。TRIGGERメンバーの役割を車とドライバーで例えるなら、楽がピッカピカに磨かれた車のボディで、龍は前進するために必要なエンジン。天はそれを完璧に乗りこなす天才ドライバー、という感じなのかなと思います。3つの存在がそろわないとカッコいい車が走る姿を見ることはできない。それぞれがしっかりと役割を持っていて、楽はピッカピカにカッコいいTRIGGERというボディを常に磨き続けている。みんなの夢や理想を全力で表現し、そのために努力し続けている男だと思います。

──TRIGGERにまつわる特に好きなエピソードを教えてください。

今お話した3人の役割がよくわかる、TRIGGERが結成されたときのエピソード「TRIGGER -before The Radiant Glory-」ですね。3人のグループ内での役割はこのときに決まったのかなと思います。物語は龍のモノローグで始まって、そこにもTRIGGERにおけるエンジン、心臓部、エネルギー源が龍というのが表れている気がして。そこに圧倒的なセンターである天が加わることでTRIGGERの進む先がしっかり見えてくることもわかる。そして楽がしっかりとTRIGGERを守っていく存在であることも窺えるんですよね。あの結成秘話はTRIGGERを語るうえでは外せないエピソードかなと思います。

──羽多野さんご自身も音楽活動をされていますが、先日のオンラインライブでは8曲目に八乙女さんのソロ曲「アソシエイト」を歌われていましたね(参照:羽多野渉が全編バンド編成で初オンラインライブ開催、8曲目に「アイナナ」八乙女楽ソロ曲披露)。8曲目に選んだのは意図的ですか?

そうです。あれはね……ライブのプロデューサーを納得させるのが本当に大変だったんですよ(笑)。「アイナナ」に携わっている人間がいかに数字を大切にしているかというのは、きっとマネージャー(「アイドリッシュセブン」ファンの呼称)の方々もわかっていると思うんですよね。

──ライブ開催などの情報も、作品名になぞらえて7の付く日に発表されることが多いですよね。

そうですよね。楽の曲をお借りするからにはそういう運営の方々のこだわりも大切にしたいなと思いまして、なんとかあっちやこっちやパズルのようにセットリストを組み立てて、「アソシエイト」を8曲目に持ってこれました。これは自分なりの八乙女楽に対する感謝の気持ちでもあります。今でも忘れられないのが、「アソシエイト」を歌ったときに力が入りすぎちゃって左足をつるという。よりによって次がダンスをする曲で、なんとかごまかそうと逆にめちゃめちゃ激しく踊りました(笑)。

3人が集まればできないことはない

──「VALIANT」はこれまでのTRIGGERの楽曲にあまりない、ブラックミュージックやクラブミュージックの要素が入ったサウンドです。初めて聴いたときにどんな印象を受けましたか?

その場に佐藤くんもいたので助けを求めました。「たくちゃん、たくちゃん、これ、どうしよう!?」と。今までどういう音楽に触れてきたかというのは、世代や育ってきた環境によってだいぶ違うと思うんです。この曲は自分が触れてきていないジャンルで。仮歌を歌っている方がどんなふうに歌ってるのかもまったく分析できない。聴いたときは驚きましたが、同時にワクワクもしましたね。

──歌詞についてはどんな印象を受けましたか?

メロディを聴いたときは「異世界のTRIGGERなのかな?」と一瞬思ったんですけど、歌詞を読んだら今までのTRIGGERの物語と地続きの世界観だと気付いて。TRIGGERが大切にしている思いや、彼らが何事にも挑んでいく姿勢が表現されているんです。「変わらない為に変わり続ける類なき己へ」という部分に、変化を恐れないTRIGGERらしさが表れているのかなと思います。

──「VALIANT」のデモ音源を聴いて、羽多野さんとしては戸惑いもあったとのことですが、レコーディングをするうえでどのようにイメージ作りをされましたか?

僕は2番目にレコーディングをしたのですが、1番手のたくちゃんが設計図を書いてくれていたのでありがたかったですね。その設計図に沿って歌いつつ、八乙女楽なりの「VALIANT」を表現するという、とっても心躍る体験でした。そして自分の先には九条天と斉藤壮馬がいて、しっかりとセンターとしてこの楽曲を完成させてくれるという確信、信頼があって。自分自身は八乙女楽としてやるべきことをやれたかなと。

TRIGGER「VARIANT」初回限定盤Bジャケット

──アルバムタイトルは「異なる、変化する」を意味する「VARIANT」ですが、ライブとこの曲のタイトルには、1文字違いで「勇気ある、価値ある」などを意味する「VALIANT」という言葉が使用されています。この2つのタイトルを知ったとき、どんな印象を持たれましたか?

意味を知ったときは「なるほどな……!」と思いました。「アイナナ」ファンの方って推理力や分析力が非常に高いんですよね。それは「アイナナ」に関わるスタッフさんが意味のないことをしないからなのかなと思います。スタッフさんたちは「全力でいいものを作ろう!」という思いの強い方ばかりで、それに表現者が影響されないわけないですし、本当にありがたいことだなと思います。

──続いてもう1つの新曲「バラツユ」についても伺わせてください。TRIGGER初のバラードですが、初めて聴いたときはどう思いましたか?

羽多野渉はバラードが大好きでして。少年時代にラップは嗜んでいないんですけど、バラードはたくさん嗜んできているので。そういう意味ではこの曲をTRIGGERとして歌えることがすごくうれしかったです。今までのTRIGGERの曲にあまりなかったウェットな部分や切ない部分などの、繊細な表現に挑戦できると。「バラツユ」のレコーディングは楽からだったんですよ。自分で設計図を書いたと言うのはおこがましいですけど、「バラツユ」の表現の方向性は考えながら歌わせていただきました。実は今日の取材の直前に完成した音源を初めて聴いたのですが、うちのマネージャー……あっ「アイナナ」とかTRIGGERのマネージャーじゃなくて81プロデュースのマネージャーなんですけど(笑)。マネージャーは泣いていました。

──完成した音源を聴くのが楽しみです。ソロ曲「幸せでいて」を歌った八乙女さんが、「バラツユ」では「幸せのイメージ」というフレーズを歌っていますよね。歌割りにもこだわりを感じました。

楽は「幸せ」というワードを歌わされがちですね(笑)。そこを楽のために書いてくださったのだとするとうれしいなと思います。歌割りは作詞家さんが決めるケースもあれば、ディレクターさんが決めるケースもあって。どちらであっても楽のことを理解していなければこの結果にはなっていないので、改めて愛のあるスタッフさんたちに囲まれているんだなというのを実感しますね。

──「バラツユ」はなじみのあるメロディとのことでしたが、レコーディングはスムーズでしたか?

いいえ!(笑) むしろ逆ですね。好きだからこそ自分の中の答えが1つに絞れなくて。たくさんテイクを重ねて、それをディレクターさんにしっかり俯瞰で監督していただき、しかるべきテイクをつなげていただきました。レコーディングって答えがないというか、本当に奥の深いものだなと思いますね。

──アルバムには八乙女さんのセンター曲「Crescent rise」も収録されています。この曲は2019年7月に埼玉・メットライフドームで開催されたライブイベント「アイドリッシュセブン 2nd LIVE『REUNION』」(参照:「アイドリッシュセブン」2nd ライブ、今年は16人で!初披露含む29曲熱演)で初披露されました。

記憶に鮮明に残っているのが、本番前日のリハーサル。楽がセンターで、その後ろに三日月が映る映像演出があったのですが、三日月と楽をシンクロさせるリハーサルを何回もやったんです。「ちょっと三日月とズレちゃいました! 羽多野さん立ち位置合ってますか?」「合ってるはずです!」みたいなやりとりが何度もあって(笑)。TRIGGERのセンターは天ですが、「Crescent rise」では楽がセンターをやらせていただいたので、本番の緊張感はハンパなかったです。

──八乙女楽を演じたり、八乙女楽として歌ったりすることで、人生や仕事において影響を受けたことはありますか?

アイドルと声優でやっている仕事の内容は違うかもしれないけど、八乙女楽の生き様からはいろいろなことを教わっています。少し話がそれるかもしれないんですけど、よく仲のいい役者仲間から「羽多野さんがやることで、楽がすごく面白くなりましたね」と言われるんです。楽を演じ始めた当初は「完璧なアイドルになるためにはどういう表現をしたらいいんだろう?」と頭で考えていたのですが、徐々に楽の内面や生き様がわかってきたら、頭で考える必要はなかったんだと気付いたんです。心の赴くままにスパンっと表現することで八乙女楽になれるんだと。面白いと思ってくださる方がいるとするなら、それは八乙女楽の人間性と羽多野渉の人間性が溶け込んだ瞬間なのかな、なんて思いました。

──コミカルなシーンで言うと、アニメ「アイドリッシュセブン Second BEAT!」の第5話で、八乙女さんが蕎麦屋に扮していたシーンが印象に残っています。

楽が5分で2回フられるシーンですね(笑)。監督さんやディレクターさんに「彼からしたらごくごく真面目にやっていることなので、別におちゃらけなくて大丈夫ですから! ギャグシーンと捉えなくて大丈夫ですから!」と言われて真面目に演じた結果、監督さんに「それそれ!」と言われましたね。ある意味あのシーンは究極のコメディなのかもしれない。笑わそうとしてやっていないからちょっと笑ってしまうというか。そういう意味ではお芝居の真髄みたいなところも楽から教わっているのかもしれませんね。

──7月にTRIGGERのオンラインライブが開催されます。「アイナナ」に登場するグループの中で、単独ライブを行うのはTRIGGERが初です。ライブについて聞いたときはどんな気持ちでしたか?

「REUNION」の打ち上げで、「アイナナ」のメインプロデューサーがここから先の展望、野望を話されていたんです。「マネージャーの皆さんにより『アイナナ』の世界を楽しんでいただくためにも、ここから先は全体でのライブというよりも個々の世界観を打ち出すライブができたら」と。だからいつかそういうことができたらいいなと思ってたんですけど、まさかやれるとは思わなかったので驚きました。でもその状況をTRIGGERだったらどう思うかな?と考えるとワクワクしてくるんですよね。不安や緊張がないと言えば嘘になりますが、こういう機会をいただけたことにまず感謝をして、それぞれのキャラクターをしっかりと背負って3人で力を合わせてやりたい。3人が集まればできないことはないと本心で思ってるんですよね。世の中は大変な状況ですが、TRIGGERのライブ中は夢の世界にどっぷり浸かっていただけるようなパフォーマンスをできたらいいなと思っています。

羽多野渉が選ぶ八乙女楽の好きなセリフ

おまえが何を背負ってても、俺達はTRIGGER。運命共同体だ。
おまえが伝説になるなら、俺達が引き金になってやる。
おまえを守ってやる。

これは天に対して言ったセリフで、彼は恥ずかしげもなくこの言葉を言うんですよ。演じながら「この人すごいな」と思いました。でも言われたほうはうれしいですよね。ネットでアイナナの名言がまとめられているサイトを見ると、楽のセリフがたくさん入ってるんですよ。周りの人からすると少し気恥ずかしくなるようなセリフも、楽は全力で言う。それが彼の魅力なのかなと思いますし、だからこそ名言とされるセリフが多いのかなと。文字にするとけっこうキテレツなことを言っているんだけど、そこに温度が乗ることで周りの人を納得させてしまうんです。演じるときは恥ずかしいとかそういう気持ちはどこかに捨て去りますね(笑)。印象に残っているセリフはまだまだあります。三月に言った「ノイズは消せ。自分の声だけ探せ。100人に愛されるお前じゃなくて、お前に愛されるお前になれ」というセリフなんかはアニメで放送されたときにすごく反響をいただいて、ありがたかったですね。