中嶋イッキュウ(tricot)× MAH(SiM)|大切なのは「変化を恐れないこと」

「tricotはこうでなければ」がなくなった

──今作を聴かせていただいても、イッキュウさんの声の表情がさらに豊かになった印象があります。

MAH(SiM)

MAH 人間としていろいろ経験したんだろうなと思いますね。何があったかは知らないけど、いろいろあったんだろうなと(笑)。自分もそうだったから。10代からバンドを始めて、20代になって……その中で「生き方を変えてみようかな」と思ったタイミングがあったんです。そのときからボーカリストとしても評価されるようになったので。

中嶋 何かあったのかなあ(笑)。

MAH 20代後半から30代に差しかかる頃にけっこうみんな何かあるんだよね。一気にレベルがポンッと上がる時期が。人から評価されるのか、私生活で何かあるのかはわからないけど。だからイッキュウにも何かが作用したんじゃないかなって勝手に思ってた。

中嶋 大事件はないけど、日々ハッとすることがあったり、新しい考え方が生まれたりすることはあったかも。あとはソロを始めたことも大きいかもしれないです(参照:tricot中嶋イッキュウがソロ始動、YouTubeでMV公開)。バンドメンバーのありがたみを改めて知ったり、逆に「1人でもこれだけできるんや」って思ったり。それまでは「tricotはこうでなければ」みたいな考えがあったんですけど、音楽以外の活動をしたり、ソロやほかの活動をすることで、考え方や表現も柔軟になったなという気はしています。

MAH それはわかるかも。俺はソロで活動をしたわけじゃないけど、「SEEDS OF HOPE」(2011年10月発売の3rdアルバム)を作ってるときに、SiMの曲とは別に自分が聴くための音楽を打ち込みで作ったことがあって。自分の中でまだまだこんなに選択肢があったんだと気付きましたね。誰にも聴かせないし、ライブでやるわけでもないからコーラスをめちゃくちゃ重ねたりしたんですけど、「このコーラス、SiMにも入れてみようかな」と思えるようになったりして。そこからSiMの曲がキャッチーになっていったんです。だからイッキュウの言ってる、tricotとしての目線しかなかったところから、ソロになって視界が開けたみたいなことはわかる。

──ソロで活動をすることで「こういう曲はtricotで、こういう曲はソロで」みたいな住み分けが行われるのかと思ってました。

中嶋 私もそうなるんかなと思ってたんですけど、やってみたらそうじゃなかったんですよね。ソロは全国流通もしてないし、ただの趣味で。ソロの曲を作っていても、いいなと思うアイデアがあったらtricotにも反映させていきたいと思ってます。

全曲がつながっている「リピート」

──MAHさん、tricotの新作「リピート」はいかがでした?

MAH それこそ、男となんかあったのかなと(笑)。歌詞、そんなんばっかじゃない?

中嶋 ええ、そうでしたっけ?(笑)

MAH うん。だから海外で何かあったのかなって(笑)。

中嶋イッキュウ(tricot)

中嶋 音楽的な刺激はありましたけど、そういった……大人の事件はなかったですね(笑)。今まではコンセプトを決めずにどんどん曲を作って、曲がたまったらアルバムを作ろうという順番だったんですけど、今回は先にコンセプトを決めて。そのコンセプトが「5曲くらいで面白いものを作ろう」「5曲全部がつながってたら面白いんじゃないか」ということで。それしか決めてなかったし、歌詞については自分の中では全然意識してなかったんですけど、5曲がつながっているほうがいいかなとかは意識の中にあったのかもしれないです。

──「5曲がつながっている」というコンセプトでの作品作りはいかがでした?

中嶋 感覚的にはライブアレンジと近かったですね。全部ドラムでつながってるのもダメだし、ギターでつながってるのもダメだし、いろんなつなぎ方を考えるのは楽しかったです。最初にできたのが3曲目の「BUTTER」で。

MAH 長い曲だよね。

中嶋 はい、5分以上あります。この曲はライブでもすでにやってるんですけど、ライブではギター持ってなくてハンドマイクで歌ってて。そういう今までとは違うことやりたいという気持ちでできた曲ですね。そこから前後の曲を作っていきました。

MAH 俺、「大発明」がすごく好き。歌がいい。椎名林檎さんっぽくて。

中嶋 うれしい!

──それこそ「大発明」はストレートな恋愛の曲ですよね。

MAH そう。ストレートな恋愛の曲も書くんだなと思った。

中嶋 確かに。前作「3」くらいからその節というか、片鱗があって。日に日にストレートに書くことが恥ずかしくなくなってきて。自分の恋愛を切り売りするのには抵抗があるんですけど、人の話を聞いて「これはわかるかも」みたいなことを書いていくのは面白いなと思うようになりました。

──3rdアルバム「3」のインタビューで「今は『なんでもやれる』という気持ち」とおっしゃっていましたが(参照:tricot「3」インタビュー|“なんでもやれる”3人組のいたってナチュラルな3枚目)、今お話を伺っていても、その“無敵感”は継続している印象を受けました。

中嶋 そうですね。やっぱりドラマーがいない時期が長かったんで、これまでは曲を作るにしてもライブをするにしても「ドラマーをどうしようか」というところから考えなきゃいけなくて。吉田さん(吉田雄介[Dr])と出会ってからはそういうところから抜けて、スムーズに活動ができるということが大きいです。

──吉田さんは「3」でもプレイはされていましたが、正式加入後、曲作りにも変化はありますか?

中嶋 全然違いますね。「3」のときはサポートメンバーだったので、“私たちが求めてそうなこと”を器用にやってくれてた感じがあって。でも正式加入してから作った、前作の「potage」と今作の「リピート」では吉田さんが本来やりたいことを100%出してくれて、本当の意味での化学反応が起こってきてる感じがします。吉田さんはアイデアもめっちゃ持ってるし、私たちよりも音楽の知識があるので「こういうときはこうしたらいいんだよ」「おー! なるほどー!」みたいな(笑)。

tricot「リピート」
2019年3月20日発売 / BAKURETSU RECORDS
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収録曲
  1. good morning
  2. 大発明
  3. BUTTER
  4. リフレクション
  5. 悪口

ツアー情報

tricot「大反射祭 Tour」
  • 2019年3月22日(金)福岡県 Queblick
  • 2019年4月5日(金)宮城県 仙台MACANA
  • 2019年4月12日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2019年4月21日(日)北海道 COLONY
  • 2019年4月26日(金)愛知県 CLUB UPSET
  • 2019年4月28日(日)東京都 TSUTAYA O-EAST
  • 2019年5月5日(日・祝)兵庫県 MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
  • 2019年5月17日(金)沖縄県 Output
tricot(トリコ)
tricot
中嶋イッキュウ(Vo, G)、キダモティフォ(G, Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(B, Cho)により2010年9月に結成される。2011年5月にサポートメンバーのkomaki♂(Dr)が正式加入。8月にライブ会場および通販限定で1stミニアルバム「爆裂トリコさん」をリリースし、11月には自主企画イベント「爆祭-BAKUSAI-」を初開催した。2012年5月には初の全国流通作品となる2ndミニアルバム「小学生と宇宙」を発売。継続的なリリースや、大型フェスなどへの出演、海外ツアーの開催など精力的に活動する中でkomaki♂がバンドを脱退する。その後も活動を止めることなく、サポートメンバーを迎えて2015年2月に4thシングル「E」、3月に2ndアルバム「A N D」を発売した。9月にバンド結成5周年を迎え、10月から翌2016年3月まで北米、日本国内、ヨーロッパツアーを実施。同年4月には2015年夏に実施したドラマーオーディションの応募者から選ばれた4名とともに制作した新作CD「KABUKU EP」を、2017年5月には3rdアルバム「3」を発売した。同年11月にはサポートドラマーの吉田雄介がバンドに正式加入。2018年5月からはアメリカ国内26都市を回るツアーをスタートさせ、ツアーに合わせて7inchアナログ「potage」をアメリカのTopshelf Recordsと日本のFLAKE RECORDSから発売した。2019年3月にミニアルバム「リピート」を発表。
SiM(シム)
tricot
MAH(Vo)、SHOW-HATE(G)、SIN(B)、GODRi(Dr)の4人からなる湘南で結成されたレゲエパンクバンド。2004年11月に結成され、数度のメンバーチェンジを経て2009年に現編成となる。2011年「KiLLiNG ME」のMUSIC VIDEOの視聴回数がインディーズバンドとしては異例の再生回数を記録。同曲を収録したアルバム「SEEDS OF HOPE」もスマッシュヒットを記録した。2013年、ユニバーサル・ミュージックに移籍し、シングル「EViLS」でメジャーデビューを果たす。その後も着実にリリースを重ね、2015年11月には日本武道館公演も完売させた。2016年4月には4thフルアルバム「THE BEAUTiFUL PEOPLE」を発売。同アルバムのリリースツアーのグランドファイナルとして行った神奈川・横浜アリーナでのワンマンライブは即日の完売となる。2017年9月には兵庫・ワールド記念ホールで対バン企画「THE EYEWALL NiGHT vol.1」を実施。12月にPlayStation4専用ソフトウェア「龍が如く 極2」のテーマ曲およびエンディング曲を収めた両A面シングル「A / The Sound Of Breath」を発表した。2019年6月には野外で5度目の開催となる主催フェス「DEAD POP FESTiVAL 2019」を開催する。