ゲーム「トワと神樹の祈り子たち」コンポーザー・崎元仁インタビュー|新たな世界を音で表現する醍醐味 (2/2)

体感速度がダイナミックに変わる体験

──崎元さんが「トワと神樹の祈り子たち」のコンポーザーのオファーを受けたのはいつ頃ですか?

だいたい3、4年前だと思います。タイトルによっては10年くらい開発に時間をかけるゲームもありますし、そういうタイトルは構想段階からどんどん細部が変わってしまうので、曲も作りながら変えなきゃいけない部分が出てきちゃう。それに比べて「トワ」は初期の構想段階から大きな軸の変更がなく作り上げられたゲームなので、大変やりやすかったですね。

──崎元さんが楽曲を手がけてきたゲームの中には、もっと苦労されたものも多かった、と。

何とは言いませんが、そういうゲームもありました。それと、意外に思われるかもしれませんが、僕のゲーム制作のキャリアはプログラマーから始まっているんです。サウンド周りのプログラムとデータ作りをやっている中で、だんだんと音楽と効果音に特化していって、気付いたら作曲家になっていました。20代の頃、取材のときに“作曲家”と言われて驚いたんですよ(笑)。僕自身はずっとゲームのプログラムを書いているつもりだったのに、言われてみれば最近曲しか書いてないなって。

コンポーザーの崎元仁。

コンポーザーの崎元仁。

──ゲーム制作のキャリアの中で「トワと神樹の祈り子たち」が特殊だった部分は?

「トワ」に限らずゲームというエンタテインメントの特殊性の話になるんですが、ゲームというエンタメは体感速度がものすごくダイナミックに変わるんですよ。いわゆる“没入感”と呼ばれるもので、例えばアクション性の強いゲームだと体感時間が遅くなる。要は頭の回転速度がものすごく速くなって時間の流れが遅く感じるところまでいってしまい、その分細部がよく見えるようになる。RPGのようなゲームだと逆にプレイ時間が非常に長くなり、時間の流れが早く過ぎるような感覚になる。この両者の要素がどちらでも成立するような構成を考えるのが僕らの仕事なのかな、と。

──「トワと神樹の祈り子たち」を試遊してみて感じたのは、意外と本格的なアクション操作が求められるというか、祈り子2人を同時に操作するのが非常に難しい印象でした。なので、戦闘中に崎元さんがおっしゃった「体感時間が遅くなる」という体験と、戦闘のないシーンで「時間の流れが早く過ぎるような感覚」がどちらも味わえるゲームなのかなと思いました。

例えばステージで流れる戦闘曲がいい例かもしれないですね。敵が出てくるマップを経て、敵が出てこない小休止ができるマップに入ると曲が切り替わるのですが、曲の構成もテンポも一緒なのに、体感としては全然違うように聞こえると思います。

ゲームプレイ画面。「法術」が繰り出されるシーン。

ゲームプレイ画面。「法術」が繰り出されるシーン。

ゲームという総合芸術を作る醍醐味

──今作に限らず、数々のゲーム音楽を手がける崎元さんにとって、ゲーム音楽制作の醍醐味はどこにありますか?

ゲームという総合芸術をいろんな人と一緒に作り上げるところですね。音楽単体の仕事としては、ディレクターさんの頭の中にあるイメージを汲み取って、それを曲という形で納品することなんですが、僕らはあくまでパーツを作っているに過ぎなくて。ディレクターさんからの要望を満たしながら、僕ら制作陣もゲーム全体をイメージしつつ、どうにかしてディレクターさんの想像を超えたものを作ろうとしています。で、ディレクターさんの想像を超えると、相乗効果が生まれることがある。例えばビジュアルを制作している人たちが音楽にインスピレーションを受けて、もっとすごいものを作り上げてくれたり。ときには想定していたものより強い球が投げられてくることもあるし、オーダー当初にはなかったものを投げ返さないといけないこともあるけど、そういうイレギュラー含めて面白い。それが醍醐味。

ゲームプレイ画面。必殺技を繰り出すシーン。

ゲームプレイ画面。必殺技を繰り出すシーン。

──崎元さんのキャリアがゲームのプログラミングから始まっているのも影響がありそうですね。

それはあると思います。この業界で仕事を長くやっていると、絵やシナリオに目を通せば大体の空気感はイメージできるんですよ。ただ、それぞれがベストを尽くしてゲームという総合芸術になった瞬間、ゲームを遊んだときの感触はいつも新鮮で。ある程度ゲームが動かないと想像できないこともしばしばあります。

──100本以上のゲーム音楽を手がけている崎元さんでも、新鮮に感じるんですね。

はい。しかもゲームを動かしてようやく理解したところで、そこからまたイメージが変わって最後まで確定しなかったりする。これは面白いし、刺激がもらえますね。

ゲームプレイ画面。本差しと脇差し。

ゲームプレイ画面。本差しと脇差し。

──本日の取材にはゲームのプロデューサーである長岡大祐さんにも同席していただいています。最後に「トワと神樹の祈り子たち」の発売を楽しみにしているユーザーに向けて、何かメッセージがありましたらお願いします。

(長岡大祐) せっかくなので音楽的な方面から物語に関することを少し話します。冒頭でお話したガムランに関することの補足ですが、僕は宗教的な知見はそこまで持っていないので詳しくないものの、ガムランという音楽はインドネシアの二元論的な宇宙観の表現が根底にあるようなんですね。ゲーム内では語られませんが、本作の世界で敵として登場する「マガツ」も、実は起源を宇宙に持つシードマスター的な存在、という設定なんです。

ゲームプレイ画面。祈り子たちの重大任務「神葬」のシーン。

ゲームプレイ画面。祈り子たちの重大任務「神葬」のシーン。

──音楽的な表現で言うとスペーシーな空気感が含まれているわけですね。

(長岡) 実際に音でそれを感じられるかはわからないですが、起源としてはそのようですね。本作は東洋・和の空気感を持ったゲームですが、実はそういった宇宙的な要素を隠し持つ側面もあるので、そういった広がりを音からも感じていただけたら、僕ら作り手としてはとてもうれしいですね。

プロフィール

崎元仁(サキモトヒトシ)

1969年生まれ。1988年発売の同人ゲーム「REVOLTER」での作曲をきっかけにゲーム音楽の作曲家としての活動を開始。ジャンルを問わず、これまでに手がけたゲームタイトルは「伝説のオウガバトル」「FINAL FANTASY TACTICS」など130以上にのぼる。2002年に有限会社ベイシスケイプを設立し、若手アーティストの育成などにも取り組んでいる。