tonari no Hanakoインタビュー|モヤモヤを成仏させるために作った「春めく花葬」 (2/2)

モヤモヤを成仏させるための“花葬”

──メジャー1stデジタルEP「春めく花葬」をリリースされましたが、どんな1枚にしようと思って制作されたんですか?

自分が本当に聴きたい音楽がベースにあって、かつ普通の人が飲み込んでしまうような声や思いを楽曲に込めています。「言うまでもないけど……」というモヤモヤを抱えた人って、いっぱいいると思うんです。そんな声を拾って私たちの音楽で消化して、成仏させてもらうための曲たちを作りました。“成仏”にちなんでタイトルを“花葬”にしたんです。

──1曲目の「最終解」はディスコミュージック風で面白かったです。

この曲は今までのtonari no Hanakoになかった、カッコいい曲調に挑戦したくて作りました。歌詞のテーマとしては、落ち着くことのない気持ちや恋心がたくさんあって、そこに1つの答えを見出そうと作った曲なんです。いろいろ考えて考えて考えて……でも「たどり着くところはここだよね」という気持ちを曲の中で示したくて書きました。

ame(Vo)

ame(Vo)

──すんなり右に行けばいいのに「いや、左に行きたい自分もいるんだよな」みたいな自問自答を繰り返す、混沌とした歌詞ですよね。

まさにその通りで、私自身の脳内が混沌としているんでしょうね。それをなんとかアウトプットしたくて。でも、こういう思いとか悩みを抱えてる人は少なくない気がします。

──3分とか4分の短い中で、「人生とはこうだ」「こう歩んでいこう」みたいに明確に答えを提示する楽曲が多いですけど、そんな簡単に割り切れないし、正しいと思うことに真っ直ぐ舵を切れない矛盾を抱えているのが人間ですよね。

そう、そうなんですよね!

──だからこそ「最終解」のようなセンシティブな歌詞は、リスナーの共感性が高い気がします。

自分がそうなんです。私は今まで「明るくいなくちゃいけない」「周りを楽しませなくちゃいけない」という気持ちがすごく強かったんです。だから基本的には本音を隠すタイプの人間で、そもそも本音の言い方がわからない。私みたいに表面的には明るいんだけど、めちゃめちゃダークな部分を抱えてる人もいるんじゃないかなと思って書いてます。

──共感性もそうですし、tonari no Hanakoの音楽は歌詞に対してアレンジがいい意味で裏切ってくれる感じがあるんですよね。「ヘアゴムとアイライン」のような曲はしっとり聴かせるのがセオリーだと思うんですけど、それをあえてしないのが面白かったです。

違和感はすごく大事にしています。違和感があると心に引っかかると思うんですよ。「ヘアゴムとアイライン」も歌詞通りに作れば、王道のバラードになると思うんですけど、それをせずにカラッと流すぐらいのほうがギャップがあって面白いのかなって。

──TAMATE BOXさんが手がけた編曲も素晴らしいですね。

天才なんですよ! 初めてTAMATE BOXさんにアレンジをお願いしたときに、あまり楽器を重ねすぎないでほしいとか、永遠と同じフレーズを繰り返してほしいとか、コードをあちこち動かさずに一定の流れの中でテンションコードを多く使ってほしいとか、ジャズの要素を入れてほしいとかいろいろ伝えたんですけど、それらのリクエストを汲んでくれたうえに、TAMATE BOXさんのセンスを存分に発揮してもらって。それでできたのが「パレード」なんです。アレンジが上がってきたときに「求めていたのはこの人だ!」となりましたね。私がお願いすることって、王道の編曲とはかけ離れたことが多くて、ポップスの編曲の常識に沿ったアレンジがきたときに「そうじゃないんだよな」と思っていたところ、TAMATE BOXさんにやっていただいたアレンジがズバッとハマって。そこからずっとお願いしてますね。

──リード曲「会いたいの、ごめんね」からも新しいtonari no Hanakoを感じました。

私は人に干渉するのが得意なタイプじゃないので、相手の立場や気持ちを考えすぎなくらい考えちゃうんです。それで「今、会いたいと言ったら迷惑かな」と思って飲み込んじゃう。でも飲み込んだら溜まるんですよね。で、溜まったものが爆発したのがこの曲です(笑)。

──ameさんは物事の表と裏の両方を見るタイプで、それを曲に投影してる印象があります。「会いたいの、ごめんね」の「幸せにだってなりたいけど あなたのためにはならないよ、ね?」というフレーズも、自分はこの人と幸せになりたいけど、自分といたらこの人は幸せにならないという2つの側面を歌っていますよね。

そうですね。よくも悪くも両方を見る癖があります。褒められても、その裏の意味を考えたりして、気持ちがあっちへ行ったりこっちへ行ったりしますね(笑)。

私の曲はストレス発散

──「ヘアゴムとアイライン」の「君が悪いわけじゃない なんて かえって傷つくのに」とか、「傷を隠して」の「空っぽの笑顔で受け流す あなたを見かけた」とか、1つの事象に対して逆の感情を持つ癖が、楽曲の随所に出てますよね。

それこそ「多様性を認めましょう」という世界に向かっていながらも、認めるのは嫌だという声もあったり、「変化が怖い」という人たちもいっぱいいると思うし。耳障りのいいことを言ってるけど「なんだかな」と感じることって、けっこうあると思うんです。そういうことを「最終解」でチクリと入れちゃいました。

──表現は、自分の中の怒りや悲しみ、もしくは陽の部分など、自分の中の何かをアウトプットする作業だと思うんですが、ameさんの表現の根幹になっているものはなんですか?

やっぱり飲み込んでるものや、その違和感でしょうね。生きていて違和感を感じることってすごく多いんですよ。「あの人は笑ってるけど、心では笑ってないな」というのが私はわかっちゃうタイプで。だからといって「あなた、今笑ってないよね」とは言えないじゃないですか(笑)。

──相手はよかれと思って、笑ってくれているかもしれないですしね。

そうなんですよ。言えないし、なんだかなと思ったら心に溜まる。その違和感は言葉にするまでもないけれど、それだと成仏しないと思うんです。私はそれを成仏させるために、作品にしていて。私と同じようにモヤモヤが溜まっている人がtonari no Hanakoを聴いて消化できたら最高だなと思っています。

──ameさんと話していると、すごく多感な方なんだろうなと感じます。

実は最近、自分がHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)という、ものすごく繊細な人間なことに気付いたんです。だからこそ人よりも気になってしまう部分が多くて。少ないかもしれないけど、そういう人は自分と同じようにいると思うし、そういう意味で私の曲はストレス発散なんですよね。

──歌詞にしたことで、特に心が楽になった曲はありますか?

学生時代にすごく腹が立つフラれ方をしたことがあるんです。ずっとその怒りが溜まっていたんですけど、その人に対してバチが当たればいいと願う気持ちを「ヘアゴムとアイライン」で吐き出しました(笑)。今でもまだ腹が立ちます! 相手に怒りをぶちまけて終われていたら、また違ったと思うんですけど、それができなくてずっとモヤモヤしてた。私は怒りを表現するのが苦手で、面と向かって怒れないから、理不尽なことをされたとしても自分の中で一旦考えるんです。「もしかして私が悪かったのかな」って。だけどいろいろ考えた末に「いや、私は悪くない!」となったときにはもう遅くて(笑)。タイミングを逃して今さら言えないなと思うことが多いので、それが曲になっています。

──その一方で「傷を隠して」は“癒やし”の曲だとインタビュー動画で言っていましたよね。

この曲はコロナ禍の緊急事態宣言が発令されたときに作ったので、メンタル的にもほかの曲とは少し違いました。コロナでしんどいことがいっぱいあったけど、そういう痛みとかネガティブな経験に何かしらの意味を見出していかないとやってられないなと思って。何かプラスに働くことがあるんじゃないかと考えた結果、同じ経験をした人の痛みがわかるということは間違いなくプラスで得たものだなと思って、自分を慰めるように書きました。

ame(Vo)

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ame(Vo)

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今が人生で一番人に恵まれています

──tonari no Hanakoの楽曲はストーリー性があるので、作家的な視点で書いてると思っていたんですけど、実はドキュメントの要素が強いんですね。

基本的に自分が経験したことを軸に書いてるので、まさにドキュメントみたいな感じですね。ドキュメントをもとに物語に落とし込んでいます。

──「春めく花葬」の制作を通して印象的に残っていることはありますか?

「最終解」のレコーディングでは、スタジオがライブ会場みたいになったんです。「こんないい演奏を私たちだけで聴いていいの?」とみんなで盛り上がりながら録ってましたね。ピアノソロを毎回何パターンも弾いてもらうんですけど、採用したテイク以外もすごくいいんですよ。「傷を隠して」は6テイクぐらい録ってもらったんですけど、もはや選べなくて。アレンジが毎回想像を超えてくるんです。

──3月24日のライブは原曲と違うアレンジもできるし、特別なステージになりそうですね。

曲によってはライブアレンジを加えようかなと考えてます。絶対にいいんですよ。だって演奏するミュージシャンが本当にいいので。

──ライブは何人編成なんですか?

次のライブに関してはバンドメンバー4人と、私とsobueを含めた6人です。普通の演奏ではないから、これはぜひ聴いていただきたいです。

──今日は僕のほうからいろいろと質問させていただきましたけど、ameさんの中で話しておきたいことはありますか?

子供の頃に勝ち気で元気だったのは、ちゃんとしないと居場所がなくなると思っていたからなんです。誰からも求められなくなるのがずっと怖かった。音楽を始めて自分の素直な気持ちをアウトプットできるようになってから、自分が素直でいれる時間がすごく増えたんです。そうすると、本当の自分がだんだんわかってきて。今までは明るくて陽気な付き合いができるタイプだと思っていたんですけど、本当はかなりの超絶陰キャの引きこもりでした(笑)。それに自分が繊細なことにも気が付きました。だからこそtonari no Hanakoの音楽が作れるのかなと感じているので、この陰キャで引きこもりなところと、繊細で考えすぎなところを大事にしつつやっていきたいと思います。幼少期は無理していただけなので、本当の自分ではないんですよね。自分の本音がわからなくて、世の中に本音を出せる相手がいなかったんです。それが音楽と出会ったことで少しずつ雪解けしていきました。そのことに気付いてからtonari no Hanakoの表現も深くなった気がします。

──それだけ今の環境が温かい場所なんでしょうね。

そう! 今が人生で一番人に恵まれています。(スタッフを見て)本当にありがとうございます! この環境に出会えて本当に幸せです!

ame(Vo)

ame(Vo)

ライブ情報

tonari no Hanako メジャーデビュー記念SECRET LIVE「春めく花葬」

2023年3月24日(金)東京都 渋谷区
※詳細はチケット購入者にのみ案内

プロフィール

tonari no Hanako(トナリノハナコ)

作詞、作曲、ボーカル担当のameと映像ディレクターのsobueをメインメンバーとするマルチクリエイティブユニット。顔出しをしない2人に代わり、ビジュアル面を担当する“Hanako”という立ち位置のメンバーを迎えた3人編成で活動し、初代“Hanako”をモデルのアイビー愛美が務める。2022年9月に配信シングル「ヘアゴムとアイライン」でメジャーデビュー。同年11月にメジャー2ndシングル「傷を隠して」、2023年1月に3rdシングル「ぜんぶ忘れてしまうって」を配信した。3月に初のデジタルEP「春めく花葬」をリリース。