戸松遥がまっさらな自分で挑んだ、3年8カ月ぶりのシングル「Alter Echo」 (2/3)

限界を感じたことがない

──「Alter Echo」には、例えば今の自分に刺さるような歌詞などはありました?

サビで「弾け出した限界の先へ 不確かでも信じてる」と歌っているんですけど、「そういう気持ち、忘れちゃいけないな」と思い直しましたね。私も若かりし頃は限界の先があると信じていたし、別に30代になっても信じていいんだなと。確かに最近、ちょっと守りに入っていた部分もあったなと反省しつつ(笑)。

──戸松さんは、限界を感じることってあるんですか?

あ、ないです。たぶん、限界というものがわかっていないんじゃないかな? もちろん疲れ果ててヘロヘロになったり、精神的にズーンって落ちたりすることもありますけど、「ここが限界だ」と思ったことがなくて。過去を振り返ってみたときに「あれは、限界を超えていたかもな」と思うことはあるんです。でも、当時の私はそのことに気付いていなくて。例えば週末にライブと舞台があって、舞台が終わったら即ナレーションの収録みたいな、完全にキャパオーバーな仕事量でも、そのときはなんとかこなせちゃうんですよ。それから何年か経って「あのときの私、『情熱大陸』が取材に来てもらえてたらよかったかも」みたいな(笑)。

──忙しさの限界ではなく、可能性の限界というか「私、これ以上はできないかもしれない」みたいな限界も?

ないです。それを感じたら終わりな気がします。お芝居でも歌でも……例えば歌で「あと4オクターブ高い音を出してください」とか言われたら「いやいや、出ませんって!」となりますけど、何かを表現するにあたって「これ以上はできない」と思ったことは一度もないですね。自分で限界を決めちゃうと、それ以上は伸びませんし。

戸松遥

──今日の戸松さん、なんかカッコいいですね。

いやいやいやいや(笑)。でも、その考えは声優デビューしたときから変わらないですね。アフレコ現場で「できません」と言って泣いちゃう人も見てきたんですけど、「もったいないな」とずっと思っていて。もちろん、自分のリテイクのせいで現場が止まっていることへの申し訳なさとか、いろんな要因が絡まって涙が出てしまうこともあるだろうし、そういう気持ちもわかるんです。でも、「できません」と言ってしまったらそれ以上のものは録れないので、私だったら嘘でも「できます!」と言うし、そのマインドのまま歳をとり、今に至った感じですね。

──戸松さんが声優デビューしたのは、何歳のときでしたっけ?

16歳だから、人生の半分ぐらい声優をやっていますね。まあ、長くやればいいというものでもないのかもしれませんけど、最近は中間管理職みたいな立場になってきているんです。大先輩から見たらまだペーペーの若手でも、とっくに新人ではないから、現場で「てへ、間違えちゃいました」では済まされなくて。「お前がリテイクいっぱい出してどうすんだ!?」みたいな(笑)。アーティスト活動にしても、この「Alter Echo」は21枚目のシングルになるので、表題曲でもカップリングでも何か新しいことをしたいし、今の年齢だから、今まで培ってきた経験値があるから歌える曲を歌いたい。表現の引き出しは常に増やしていかなきゃなと思っています。

この曲で私は、どんな色に染まるのかな?

──カップリング曲の「i」では、楽曲面でも「新しいこと」をやっていますよね。

私も仮歌を聴いてびっくりしました。「マジか!?」って(笑)。

──僕は、例えば「星のステージ」(2010年8月発売の6thシングル「渚のSHOOTING STAR」カップリング曲)や「♪Make Up Sweet Girl☆」(2013年1月発売の2ndアルバム「Sunny Side Story」収録曲)など戸松さんのダンスナンバーが好きなんですが、従来はディスコやテクノポップ的な曲が多かったと思います。

うんうん。「i」は完全にEDMですもんね。さっきも言いましたけど、この曲は「Alter Echo」がシングルになることが決まってから録ったので、最新の戸松遥ではあります。

──「アテンション☆プリ~ズ」(2015年3月発売の3rdアルバム「Harukarisk*Land」収録曲)もEDMを取り入れた1曲でしたが、サウンド的にはかわいく仕上げていました。一方、「i」はシンセの音もエグいし、オートチューンもガンガンかけていて。スフィアだったら寿美菜子さんが歌いそう。

あー、確かに。美菜子だったら絶対にカッコよく歌いこなす。曲も歌詞も現代的というか、都会的で。私は港区のイメージで歌っていました。六本木とか西麻布とか。仕事以外ではあんまり行かないんですけど(笑)。

戸松遥

──戸松さんの歌もカッコいいですよ。

わあ、ありがとうございます。繰り返しになりますけど、私は自分の曲に関して「こういうことがやりたい」みたいなことをあんまり言わないタイプなんですね。そういう意味で、自分から「“20代の歌”を作りたい」と言った「ラスタート」(「Resolution」カップリング曲)は例外的な曲だったんです。もともと、私は人から与えられた曲に自分が染まりにいくほうが好きというか、「この曲で私は、どんな色に染まるのかな?」と考えるのが好きで。たぶん、自分が役者だからというのも関係しているというか、ある役に対して私から歩み寄って、その役に染まるという点でやることは同じだから。で、この「i」はいきなりドーンって私のところに来たんですよ。

──コンペではなくて。

もう、決め打ちで。「これが今の私に歌ってほしい曲なのね……やってやるわよ!」と思いつつ、あまりにも予想外だったので、珍しく「どうしよう? どうしよう?」とレコーディング前日まで緊張していて。いざスタジオに入ったら、ディレクターさんも「これ、どうしようね?」みたいな(笑)。

──「あなたがこの曲を持ってきたんでしょ?」という話ですよね(笑)。

そうそう。エンジニアさんも「仮歌聴いたけどさ、とまっちゃん、これどうすんの?」って。いやいやいや、こっちが聞きたいわ! とりあえず「闇雲に録っていこう」という感じでやりましたけど、「i」は歌詞の意味がどうこうというよりも、例えば「i 逢 哀 愛して」とか「退、退、退屈」みたいな同じ母音の反復だったり、自分の声を音としていかにリズムに乗せるかが鍵というか。リズムに乗って調子にも乗れたら勝ちみたいな。ただ、ノリと勢いだけでは越えられない技術的なハードルもあったので、自分の中にリズムを落とし込むまでがけっこうハードな戦いでしたね。