東京初期衝動がセルフタイトル作となるアルバム「東京初期衝動」をキングレコードよりリリースし、メジャーデビューを果たした。
2018年4月の結成以降、時に過激な表現も含んだストレートな歌詞、熱量の高い狂気的なライブで注目を浴び、インディーズシーンで強烈な個性と存在感を放ってきたガールズバンド・東京初期衝動。彼女たちはどのような思いを持ってメジャーというステージに進出するのだろうか──インタビューの最初にその質問をぶつけると、しーな(Vo, G)から「ここで自分たちの“初期衝動”は1回終了」という言葉が返ってきた。過去曲の再録音源や新曲「さよならランデヴー」「愛うぉんちゅー」が収録されたメジャーデビューアルバムについて、そして今後の野望について話を聞いた本記事を通して、その発言の真意を確かめてほしい。
取材・文 / フジジュン撮影 / 塚原孝顕
メジャーデビューは「へ~、そんなこともあるんだね」
──メジャーデビューアルバム「東京初期衝動」を完成させた東京初期衝動の皆さん、まずはおめでとうございます!
一同 ありがとうございます!
──メジャーデビューを目前にして、現在の心境はいかがですか?(※取材は8月末に実施)
しーな(Vo, G) 無事デビューできるのか、ドキドキしています!
──メジャーデビュー前に何かあったら困りますからね(笑)。インディーズで活動を続ける選択肢もあったと思うんですが、メジャーで勝負してみたいという気持ちや、メジャーへの憧れはあったんですか?
しーな 憧れはなかったんですが、ここで自分たちの“初期衝動”は1回終了ということで。初期衝動が終わったあとに何があるのかは、まだ全然わかってないです。
──初期衝動、終了宣言!? では、メジャーデビューをひとつの節目と考えてるんですね。初期衝動を終えて、メジャーで活動する自分たちをイメージできますか?
しーな いや、できないですよ。だって、「高円寺ブス集合」とか歌ってるんですよ?(笑) だから「メジャーでやりましょう」とレコード会社の人に言われても、「へ~、そんなこともあるんだね」って思うくらい、どこか他人事で。「そう言うんだったら一度、自分たちの集大成を作品にして出してみようかな?」くらいの気持ちです。
──ほかのメンバーの皆さんは、メジャーデビューを目前にしての心境はいかがですか?
あさか(B) 私はこういった取材とか、メディアの露出が多くなることが楽しみです。それでメンバーと会う機会が増えるのもうれしくって、ワクワクしてます。
なお(Dr) 確かにメディアの露出が増えて、環境も変わってきて「メジャーっぽいな!」と思ってます。ミュージックビデオの撮影で初めてロケバスに乗ったり、豪華なお弁当を出してもらったりして、すごく感動した(笑)。そういうわかりやすい変化は感じてるんですけど、メジャーデビューの実感はまだ湧かないですね。
まれ(G) レコーディングをキングレコードの大きなスタジオでやらせてもらったんですけど、すごく広いし、人がたくさんいて。今までのレコーディングは、ギリ2人入れるくらいの狭いスタジオだったんで(笑)。緊張してドキドキしたし、びっくりすることばかりでした。
──環境の変化を楽しめていると。今作では既存曲を8曲再録したんですよね?
まれ はい。でも、既存曲は今までのギリ2人のスタジオで録って、新曲の「さよならランデヴー」を大きいスタジオで録らせてもらいました。
しーな 既存曲のうち「中央線」だけは大きいスタジオで歌ったんですけど、「小さいスタジオで歌ってたときと全然違うなあ!」と実感しました。「あれからすごい月日が流れたんだなあ……」と泣けてきちゃって。今回の「中央線」は泣きながら歌ってます(笑)。
前作アルバムからのターニングポイントは
──前回、音楽ナタリーで皆さんにインタビューしたのが、2ndアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」のリリース時(参照:何かと話題のガールズロックバンド・東京初期衝動、多彩な16曲入りの2ndアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」完成)。そのときからメジャーデビューに至るまで東京初期衝動にどんなことがあって、この3年半はどんな期間だったのか、話を聞かせてください。
しーな もうすべてが行き当たりばったりで、止まることなく泳ぎ続けるマグロみたいな状態でした。その先の活動については、考えることすらできていなかったです。ずっと。
──ミニアルバム「らぶ・あげいん」、EP「pink」「pink II」とリリースも多数ありましたが、楽曲制作はどうだったんですか?
しーな インプットもできない中で、その都度「作らなくてはいけない!」って感じで、必死で制作していました。楽曲制作はいつも苦しかったです。
──しーなさんは自分のルーツや好きなものが根底にありながらも、日々の経験や感じたことを鋭い感受性で受け止めて、それを素直に楽曲で表現できているなと思っていて。意識せずとも日々の経験から自然とインプットしているし、それを上手にアウトプットもできていると感じていたのですが、いかがですか?
しーな 恋愛を通してそういうことはできていた気はします。常に恋愛して、思ったことや感じたことを「曲にしなきゃ!」という感じで必死に書いて。むしろ、曲を作るために私生活をがんばっていた感じでした。
──あと楽器隊の演奏、サウンド面はこの3年半でものすごく成長しましたよね。
しーな それは私も思います! 私は何もしてないけど、楽器隊の3人は出す音も技術も変わったなって。今作の「ロックンロール」とかを聴いてもらうとわかると思うんですけど、ものすごくカッコよくなってる。全曲、聴きやすいサウンドになりました。
まれ 私はギターに苦手意識があったので、とにかくコツコツと毎日練習することを今も続けています。「成長した」と言ってもらえるのが、すごくうれしいです。
しーな 希ちゃん、すごいんですよ。私が一緒に遊びたくて「土日何してんの?」って聞いたら、「ギター弾いてる」って言われて。「そっか、遊んでる暇もないのか」って。
まれ 外に出れなくなっちゃったんですよ。「これで外に出ちゃったら、今日はギター触れないかも……」と思うと、怖くなって外出できない。やらなきゃいけない使命感というか。
しーな (明るい口調で)早くなくなればいいね、その使命感。
──なんでそんなこと言うんですか(笑)。なおさんはこの3年半で、印象に残ってる出来事はありますか?
なお 海外でのライブを経験したのが大きかったですね。2023年に初めて台湾でライブしたのがきっかけで、何度か海外のステージに立たせてもらって。
──これまで台湾で3回、アメリカの「SXSW」で2回ライブを行ってますね。
なお 私、日本ではなんか縮こまっちゃってる気がしていたんですけど、初めて台湾でライブをやったとき、初見の人たちが多いのにもかかわらず、すごく受け入れられて。そのときに「飾らずに演奏していいんだ」「もっと等身大でいいんだ」と思ったんです。それが私の中ですごく大きくて。2024年に初めてアメリカに行ったときも、「心が解放された!」って感じました。
──日本に戻ってきてから、ライブのスタイルや心構えは変わりました?
なお はい。私だけじゃなくて、みんな雰囲気が変わった気がしました。やっぱり海外で感じた解放感や、「等身大でいいんだ」という気持ちが影響したのかなと。海外でのライブはターニングポイントになったと思います。
しーな 台湾はまだアジアだから気持ちが楽だったんだけど、アメリカでライブをやるのは怖くて。すごい日和って、ライブ前に泣きそうになっちゃったんですよ。でも、それを乗り越えたことで自信が付いて、「私は『SXSW』も乗り越えたから大丈夫」って思えるようになりました。
あさか あと、2024年に出演した「FUJI ROCK FESTIVAL」も大きかったよね? フェスが好きなので、いろんなフェスに出させてもらえたことがうれしかったし、いい経験になったんですけど、「フジロック」は特別で。しーなちゃんもすごく緊張していました。私たち、それまであまり手をつないだことがなかったんですけど、ステージに行くまで手をつないだりして。しーなちゃんの緊張感が伝わってきたし、気合いが入ってるのがわかってうれしかった。「あ、私バンドやってるな」と思った。みんなの夢が1つ叶ってうれしかったです。
しーな 私、小心者なんで、「フジロック」はMC、全部棒読みだったんです(笑)。「今、何が起きてるんだろう?」と思いながらライブやってたし、「苗場食堂にこんな人集まるんだ!」って驚いた。出番前なんて緊張しすぎて熱出してぶっ倒れそうでしたもん! 「フジロック」も「SXSW」も全部が自分のターニングポイントで、全部が成長につながりました。