東京カランコロンは総じてキャッチーという印象

──ちなみに鳥飼先生は、東京カランコロンの曲に対してどんな印象を持っていますか？

鳥飼　私、去年の11月まで大阪に住んでいて、仕事場でFM802を聴いてたんですけど、東京カランコロンの曲もけっこうかかってたんです。例えばいちろーさんが「大阪マラソン」に出たときに作った……。

いちろー　「走れ、ナニワを」ですね。あれは「走れ、牧場を」という曲の歌詞だけをせんせいが書き換えたんです。（参照：ヤマサキセイヤ＆いちろー、FM802でDJ担当）

せんせい　替え歌ですね（笑）。

鳥飼　あれ、めっちゃイイ曲ですよね。

せんせい　歌詞の中に「モータープール」（※大阪では駐車場のことを「モータープール」と呼ぶことがある）って出てくるんですけど、東京に来たばかりのときに「モータープール」って言って、めっちゃバカにされたことがあって（笑）。

鳥飼　わかりますー（笑）。ラジオでそのあとは「恋のマシンガン」がかかってましたね。あと、いちろーさんが歌ってる、めっちゃ怒ってる曲とか……。

いちろー　あ、なんとなくわかりました（笑）。

鳥飼　歌う人が2人いて声が変わるし、曲のバリエーションも豊富で。いろんな色があって、ストレートなことを歌っていて、総じてキャッチーという印象なんですよね。

「おんなのいえ」が曲になって返ってきたみたい

──ニューアルバム「UTUTU」には、鳥飼先生の作品にインスパイアされて生まれた楽曲「ヒールに願いを」も収録されています。

鳥飼　曲聴いて泣きました。「おんなのいえ」を読んでいただいて、それが曲になって返ってきたみたいで。そんなこと、なかなかないですからね。

いちろー　うわあ、ありがとうございます。書いてよかった！

鳥飼　私は「自分が満足できるように描く」というのが大前提としてあるんですね。もちろん、その先に読んでくれる人がいるから生活できてるんですけど、さらに曲という形になるっていうのはすごいことやなって。それは私も同じなんですよね。今まで読んできたマンガ、観てきた映画、聴いてきた音楽、それから友達の話なんかもそうだけど、いろんなものを得た上で、自分のマンガを描いているわけだから。「フェイシャル～」を聴いたときも「こうやってグルグル回ってるんやな」って感動したんですよ。

いちろー　うれしいです。「フェイシャル」を書いてるときは、「こんなに（マンガの内容を）入れたら怒られるかな」って思ってたんですけどね。

鳥飼　「まんまやん」ってところもありますよね（笑）。ありちゃんの感じが浮かんでくるような。

いちろー　やっぱりバレてる（笑）。最初はもうちょっとにじませる感じだったんですけど、途中から「思いきり書いてやろう！」って思って。……すいません。

鳥飼　いえいえ（笑）。でも、「フェイシャル」っていう言葉はマンガの中にも出てこないですよ。

いちろー　あの曲のメロディができたときに、20代後半から30代くらいの女性をテーマにしようと思ったんですよ。いろいろ考えたんだけど「エステじゃないな」って。

妄想と現実

──せんせいはこの曲について、どんなふうに感じてますか？

せんせい　さっき（歌詞の書き方が）真逆という話をしましたけど、いちろーさんと違って私はけっこうボンヤリしてるというか、普段は夢見がちなことを考えてることが多くて……。

鳥飼　「夢見がち」って言われるんですか？

せんせい　歌詞がフワッとしてるとは言われるかな（笑）。「フェイシャル」もそうですけど、いちろーさんの書く言葉はすごくリアルだと思うんですよ。私たちはちょっと特殊な生活をしているけど、30歳くらいのOLさんにとっては、たぶん普通の言葉なんだろうなって。そういう歌詞を歌うことによって、現実に戻してもらえる感じがあるんですよ。「ここがリアルです」みたいな。この曲を私が歌うことで、もっと伝わるものがあると思うし。

──当然、せんせいが歌ったほうがリアリティありますよね。

いちろー　OLの知り合いはいないし、実際のことは全然わからなかったりするんですけどね。知らない世界だからこそ、知りたくなるというか。

鳥飼　その感じはすごくわかります。私は今33歳で、子供がいるんですね。離婚してるから基本的にずっと子供と2人だし、しかも家でマンガを描いていて。同じ境遇の人はまずいないんですよ。

いちろー　確かに。

鳥飼　会社に勤めたこともないし、朝の満員電車にも乗ったことないから、普通のOLの方の生活──彼氏との関係だったり、嫌な上司がいたりっていう──についてはわからないことも多いんです。そういう女性を応援するようなマンガを描きたいとは思うけど、共感しきれない部分もあるんですよね。そこを一生懸命、想像で埋め合わせてるというか。だから実はリアルじゃないと思うんですよ、私のマンガは。「おはようおかえり」というマンガで会社のことを描いたんですけど、あんなヌルい会社があったら、即潰れてますからね。社員がお菓子ばっかり食べてるし（笑）。

いちろー　ハハハハハ（笑）。

せんせい　でも、どうなんやろう？ これは私の想像でしかないですけど、例えば実際に会社に入って働いてみたとしても、「普通やん」って思うような気がするんですよ。

鳥飼　「これ、思ってた通りのヤツやん」って？

せんせい　そうそう。実際に経験しているかどうかよりも、一生懸命に想像して、妄想しながら描いたほうが、作品の世界がもっと広がるんじゃないかなって。

鳥飼　うん、わかります。以前、お祭りに子供を連れていったときに、友達のお母さんが「今日はパパにカレー作ってきた」って言ってたんですけど、私にとってはそれがすごく新鮮だったんですよね。「出かけるときは、ダンナさんにカレー作っておいたりするんや!?」って。彼女にとっては普通のことだと思うんですけど、私は頭の中で「大ウケ！」みたいになってて。そういうことが後々マンガに出てきたりするんですよね。カレーの話もたぶん、どっかに出てくると思います（笑）。