音楽ナタリー PowerPush - 東京カランコロン×鳥飼茜

マンガと音楽における“UTUTU”=リアリティってなんだ?

UTUTU=うつつ=リアリティ

──今の話は「UTUTU」の“うつつ=リアリティ”というテーマにもつながりそうですね。

いちろー これはいつも思ってることなんですけど、リアリティのある歌詞=ノンフィクションではないと思うんですよ。僕はミスチルが大好きなんですけど、サラリーマンを主人公にした歌とかもけっこうあるんです。でも、桜井(和寿)さんはサラリーマンを経験してないじゃないですか。

左からいちろー、せんせい、鳥飼茜。

鳥飼 満員電車にも乗ってないですよね(笑)。

いちろー でも、その曲を聴いて感動するわけですよ。だから、必ずしもノンフィクションじゃなくてもいいんだなって。今回の僕らのアルバムの歌詞も、自分のノンフィクションというよりも、それぞれの曲に主人公がいて、そこにリアリティがあればいいという感じで書いてるんです。

鳥飼 なるほど。

いちろー その主人公たちの日常にスポットを当てるというか。その中には「恋のマシンガン」みたいに妄想で恋愛している女の子もいるし、「そうだ、フェイシャルへ行こう!」みたいに日々と格闘している女性の歌もあるんですけどね。そうやって制作を進めていくうちに、ウチのギター(おいたん)が「『リアル』とか『日々』みたいなタイトルがいいんじゃないか」って言って、そこから「UTUTU」を思いついたんです。

自分の言いたいことを書くべき? 書かないべき?

──「ヒールに願いを」にも鳥飼先生の作品のエッセンスを感じます。ちなみにいちろーさんは、「おんなのいえ」の男性のキャラクターに共感できる部分はありますか?

鳥飼 あ、それは聞いてみたい。

いちろー 川谷さん(主人公・有香が惹かれる既婚者の男性キャラクター)が「1人でいて寂しさを感じるヤツは、誰かと2人でいても寂しい」みたいなことを言うんですけど、それは「すげえわかる!」って思いました。

鳥飼茜

鳥飼 私がそうなんですよ。誰といても寂しいと思ってしまうので。

──自分の感情を登場人物に言わせてる?

鳥飼 そうですね。ちょっと説教魔なんですよ、私。さっきいちろーさんが言ってた“格言めいたこと”もそうだけど。

いちろー 説教魔って(笑)。

鳥飼 「このマンガがすごい!」のランキングに入ったときもビックリしたんですよ。「こんな説教くさいマンガを“いい”って思う人がいるんだ?」って。「先生の白い嘘」でも自分が言いたいことをブチまけてますからね。

いちろー 僕は歌詞の中で、言いたいことをそのまま書かないようにしてるんですよ。

鳥飼 え、それはなぜ?

いちろー オナニーになっちゃうというか、不満をブチまけて、自分がスッキリするだけになってしまいそうな気がするので。

鳥飼 あ、それは本当にそう。私も描いてて気持ちいいですから(笑)。それでもやっぱり「思ってることを描いたほうがいい」と思うんですよ。デビューしたばかりのときって、「エンタテインメントなんだから、読者を気持ちよくさせないといけない」って教え込まれるんです。「主人公はある程度前向きで成長していく」とか。そうじゃないと載せてもらえないから、どんどん描くんですけど、そのうちに善意の意識が強くなりすぎるというか、ちょっと嘘っぽいなと思うようになってしまって。そんなときに「思ってることを描いたほうがいいよ」って言われたんですよね。それを言ったのは古谷実先生なんですけどね、皆さんご存知の。自分の名前を出して、責任を持って発言できる立場なんだから、本当に思ったことを表現したほうがいいってことだと私は解釈してて、そこからですね、「ケンカになってもいいから、言おう!」って決めたのは。

リスナーの顔色をうかがうんじゃなくてちゃんと曲に向き合えた

せんせい なるほど。私は詞先で曲を書くことが多いから、けっこう歌詞を書き貯めてるんですけど、それを2つに分けてるんですよ。カランコロンに持っていくものと、「これは持っていかないほうがいい」っていうものに。持っていかない歌詞は暗い内容のものが多くて、そっちは自分(ソロ活動)のほうに回したりとか。そうやってバランスを取ってる感じですね。

鳥飼 カランコロンに暗い歌詞を持っていかないのはどうしてなんですか?

せんせい いちろーさんが言ってたみたいに「自己満足になるかも」というのもあるし。あと、カランコロンとして活動する上で、聴き手を私自身の暗い部分に引きずり込もうという気持ちはまったくないんです。聴いてくれる人を傷付けたり、落としたりは絶対にしたくないので。自分の中のどん底というか「もう無理。オエッ」みたいなものは1人のほうでやって、「もし見たければその空間を覗いてください」という感覚なんですよ。もちろん見たくない人は流してもらっていいし。

左からいちろー、せんせい、鳥飼茜。

鳥飼 私はその中間くらいのところでやりたいのかも。引きずり込むだけではダメだと思うけど、「見たい人だけ見てくれればいい」という気持ちも少しだけ、あるので。

いちろー 僕もちょっと前までは「バンドを背負って歌詞を書いてる」という意識もかなりあったんですよ。お客さんが増えてきて、「カランコロンを生きる糧にしてます」という人たちと向かい合う機会があると、「下手なことは言えない」とか「マイナスなことは歌わないほうがいい」と思うので。ただ、2014年に入ってからちょっと意識が変わってきたんですよね。すごくキャリアのあるバンドの方と仲良くさせてもらってるんですけど、その人に「自分に嘘をついてたら、絶対長く続けられないよ」って言われて。

鳥飼 そういうこと、言われますよねー。

いちろー (笑)。自分の中でも若干、聴いてくれる人の中の自分のイメージと、僕自身の中にある自分のイメージがズレてるなって感じてた部分があって。バンド全体のイメージはたぶん、和やかな感じだと思うんですよ。でも、僕自身は口も悪いし、下ネタも言ったりするんです。ライブに来てくれる人は僕の性格もわかってくれてると思うけど、CDだけ聴いている人はまた違ったイメージを持ってるんだろうなって。「フェイシャル~」や「ヒールに願いを」みたいな歌詞も、せんせいが書いてると思ってる人も多いですからね。でも、せんせいは絶対に書かないですからね、こういう歌詞は。

せんせい うん(笑)。

いちろー 鳥飼さんのマンガを読んで「この人、絶対OLやってたことあるな」って思う人もいるだろうし。

鳥飼 1回もやってない(笑)。

いちろー それはそれでいいと思うんだけど、最近は鳥飼さんと同じで「自分がホントに思ってることを言ってもいいんじゃないか」というふうに変わってきてるんです。今回のアルバムの歌詞でも、わりと言いたいことを言ってるんですよね。リスナーの顔色をうかがうんじゃなくて、ちゃんと曲に向き合えたというか。気分的にもスカッとしているし、いい方向に踏み出せたんじゃないかと思ってます。

ニューアルバム「UTUTU」 / 2014年1月14日発売 / avex trax
CD+DVD 3780円 / AVCD-93007/B
CD 2700円 / AVCD-93008
CD収録曲
  1. 夢かウツツか
  2. 恋のマシンガン
  3. 僕の辞書
  4. ヒールに願いを
  5. ビバ・ラ・ジャパニーズ
  6. △□
  7. ネオンサインは独りきり
  8. 左耳から白旗
  9. 笑うドッペルゲンガー
  10. そうだ、フェイシャルへ行こう!
  11. かいじゅうになって
  12. 終点から始発へ
  13. 東京カランコロンカラオケメドレー ~メンバー合いの手入りスペシャルver.~(※CD+DVD盤のみボーナストラック)
CD+DVD盤 DVD収録内容
  • ビデオクリップ集(全9曲)
  • クラブでワンマ ん@SOUND MUSEUM VISIONライブ映像
  • おまけの映像
ツアー情報
東名阪でワンマ ソツアー~友達になりたい!~
  • 2015年3月4日(水)大阪府 梅田Shangri-La
  • 2015年3月5日(木)愛知県 名古屋APOLLO BASE
  • 2015年3月12日(木)東京都 WWW

※以上、全日程対バンあり

ワンマ んツアー2015
  • 2015年4月4日(土)香川県 DIME
  • 2015年4月5日(日)徳島県 club GRINDHOUSE
  • 2015年4月18日(土)長野県 ALECX
  • 2015年4月19日(日)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
  • 2015年5月6日(水・祝)北海道 札幌ペニーレーン24
  • 2015年5月8日(金)宮城県 仙台CLUB JUNK BOX
  • 2015年5月10日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
  • 2015年5月14日(木)岡山県 IMAGE
  • 2015年5月16日(土)長崎県 DRUM Be-7
  • 2015年6月6日(土)福岡県 BEAT STATION
  • 2015年6月7日(日)広島県 ナミキジャンクション
ワンマ んツアー2015~ホールでワンマ ん~
  • 2015年6月12日(金)愛知県 名古屋市青少年文化センター アートピアホール
  • 2015年6月13日(土)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2015年7月10日(金)東京都 中野サンプラザホール
東京カランコロン(トウキョウカランコロン)
東京カランコロン

いちろー(Vo, G)、せんせい(Vo, Key)、おいたん(G, Cho)、佐藤全部(B)、かみむー氏(Dr)からなる5人組バンド。2009年5月より現メンバー編成にて活動開始。翌2010年6月に自主制作音源を発表してインディーズチャートで1位を獲得。同年10月には初の全国流通盤となる「東京カランコロンe.t.」をリリースし、12月に初の自主企画ライブ「ワンマ ソ」を行う。2012年までインディーズシーンでミニアルバム、シングル2枚を発表し、8月にavex traxよりメジャーデビュー盤となるミニアルバム「ゆらめき☆ロマンティック」を発表。その後順調に作品リリースやライブを重ね、2015年1月にメジャー3rdフルアルバム「UTUTU」をリリースする。

鳥飼茜(トリカイアカネ)
鳥飼茜

大阪府出身のマンガ家。2004年、講談社「別冊少女フレンド DX ジュリエット」にてデビュー。「ドラマチック」「わかってないのはわたしだけ」を発表する。2010年、講談社「モーニング・ツー」にて「おはようおかえり」で青年誌初連載。2013年には講談社「BE・LOVE」にて「おんなのいえ」、「モーニング・ツー」にて「先生の白い噓」、2014年には祥伝社「フィール・ヤング」にて「地獄のガールフレンド」を連載開始。「おんなのいえ」は宝島社の「このマンガがすごい!2014 オンナ編」で第9位を獲得した。