TM NETWORKの功績をコラム&「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-」全曲解説で深掘り (2/2)

「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-」
全曲解説
「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-」ジャケット

「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-」ジャケット

01. SEVEN DAYS WAR / GRe4N BOYZ

映画「ぼくらの7日間戦争」主題歌として1988年にリリースされた14枚目のシングル曲。ロンドンで録音されたサウンドは、生楽器を主体とすることで温かみと広がりを感じさせる仕上がりだ。歌詞では映画の内容とリンクするように葛藤や迷いがジュブナイル的視点で描かれているが、「自分らしく生きる」というテーマは普遍的なメッセージとしてすべての人に響く強さを持っている。内に秘めた熱を感じさせる宇都宮のボーカルと、後半に挿入される中学生によるコーラスはエモーショナルな感動を呼び起こすことだろう。そんな楽曲をカバーしたのは今年3月にGReeeeNから改名し、新たなスタートを切ったばかりのGRe4N BOYZ。原曲に寄り添った冒頭でTMへのリスペクトを明確に感じさせつつ、曲が進んでいくにつれて壮大なオーケストレーションが曲を包み込んでいく。そのシンフォニックなサウンドスケープと、ボーカルグループとしての矜持を強く感じさせる個性の異なる4人の歌声が、色褪せない美しいメロディを改めて今のシーンに高らかに鳴らしてくれている。

GRe4N BOYZ

GRe4N BOYZ

02. Self Control(方舟に曳かれて) / CAPSULE

軽快なクラップを合図に展開される印象的なリフで聴き手のテンションを一気に沸騰させる、TMにとってブレイクへの起爆剤となった1987年リリースの9thシングル曲。木根による“Self Control”のサンプリングボイスと宇都宮のボーカルが掛け合っていくサビの斬新さは当時の音楽シーンに大きなインパクトを与えた。スリリングなイントロで幕を開けるCAPSULEによるカバーは、原曲の持つ強力な個性はそのままに、キラキラとしたピーキーに動くシンセ使いや、ところどころで食い気味になるビートなど中田ヤスタカらしいさまざまなギミックが満載。聴き手の耳を大きくフックする仕上がりとなっている。こしじまとしこの無機質なようで人間味を感じさせるファニーなボーカルが新たな聴き心地を生んでいることも間違いないだろう。1コーラス目のあとに挿入される「uh―」というロングトーンのフェイクは、原曲にはないアレンジとして大きな役割を担っている。

CAPSULE

CAPSULE

03. Get Wild / B'z

今回のトリビュートアルバムの詳細が発表されたときに大きな驚きを持って迎えられたのがB'zの参加だろう。ギターの松本孝弘はTM NETWORKの初期よりライブやレコーディングに参加してきた縁があるが、TMが終了宣言をした1994年以降はお互いの歩みが交わることは少なく、それだけに今回の邂逅は、往年のFANKSにとって震えるほどの出来事であるはずだ。カバー曲として選ばれた「Get Wild」は、テレビアニメ「シティーハンター」のエンディングテーマとしてTMをブレイクへと導き、リリースから37年を経た今もなお代表曲として愛され続けている。それをB'zは圧倒的なテクニックと耳をつんざくほどの音圧でリアレンジしてみせた。全編に鳴る轟音のディストーションギターや、冒頭のフェイクから聴き手の心を鷲づかみにする稲葉浩志のボーカリゼーションには、B'zとしての強靭なアイデンティティが強くにじんでいる。手加減抜きで真っ向からぶつかってみせたその姿勢に、TMへの大いなる敬意を感じることができるはず。

B'z

B'z

04. BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を超えて) / 澤野弘之 feat. SennaRin

作曲家として踏み出すきっかけに小室からの影響を公言している澤野弘之が、自らプロデュースする女性シンガー・SennaRinを迎えてカバーしたのは、1988年リリースの13thシングル曲。同年公開の映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」主題歌として、映画の監督である富野由悠季との濃密なミーティングを経て完成した、愛する者のために平和を祈り、戦う決意を歌った1曲であり、今年3月に公開された映画「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」主題歌として小室がプロデュースした西川貴教 with t.komuro名義の「FREEDOM」へとつながる重要な楽曲でもある。澤野が手がけたアレンジでは、宇宙的な広がりを感じさせる原曲の世界観を浮遊感のあるコーラスで表現しながら、強靭なビートとサウンドによってその宇宙のもとに存在する地球の大地を強く表現している。その上で圧倒的な存在感を放つSennaRinのボーカリゼーションは、力強さと儚さを同居させた繊細な表情を見せながら、曲に込められた思いを聴き手へとまっすぐに届けていく。

澤野弘之

澤野弘之

SennaRin

SennaRin

05. Maria Club(百億の夜とクレオパトラの孤独) / ヒャダイン with DJ KOO

1987年リリースの4thアルバム「Self Control」に収録されたファンキーなグルーヴを持つナンバー。FANKSの間では、かつて福岡に存在したディスコ・マリアクラブをモチーフにして生まれた楽曲であることは有名なエピソードだろう。今回のトリビュートアルバム唯一のリミックスでTMという存在に向き合ったのはヒャダイン with DJ KOO。ヒャダインは2013年に“小室哲哉VSヒャダイン”名義で「22世紀への架け橋」をリリースした。DJ KOOは言わずと知れた、小室が生んだダンスボーカルグループ・TRFのメンバーでもある。本作への参加には納得の布陣と言えるだろう。BPMをグッと高めたサウンドは、世界的なトレンドであり、ここ最近はJ-POPシーンでも注目を集めるジャージークラブ。ラテン的な音色がちりばめられ、随所にDJ KOOのラップが挿入されていくことで、アッパーなパーティ感が色濃い仕上がりとなっている。天性のリズム感を持つ宇都宮の歌声はどんなサウンドアプローチにもマッチする。そんなことを改めて証明する意義深い1曲となった。

ヒャダイン

ヒャダイン

DJ KOO

DJ KOO

06. BE TOGETHER / 乃木坂46

原曲は1987年リリースの5thアルバム「humansystem」に収録。シングル曲ではないものの、メロウなイントロから一転、激しいロックへとなだれ込む吸引力の高い構成や、リリックのメッセージが相まってライブでは大きな盛り上がりを見せる人気曲だ。2000年代に青春時代を過ごした人にとっては、鈴木あみ(現:鈴木亜美)のカバーに親しみがあるかもしれない。そんな流れから女性シンガーによる歌唱は比較的、耳馴染みがあるものの、今回の乃木坂46のカバーには楽しい新鮮さがあった。疾走するビート、ロックなギターやオケヒットが炸裂する熱量の高いトラック。そして、そこに乗るキュートな歌声には、高い中毒性といい意味でのアンバランスさがある。次々と入れ替わるメインボーカルと、サビの英語フレーズでのユニゾン、そして間奏での「Hey! Hey!」の掛け声……と、聴き手を惹き付ける乃木坂46らしい魅力も満載されている。原曲の持ち味を損なうことなく、歌い手側の個性を最大限に盛り込んでいく、カバーとしてのあるべき形を提示している。

乃木坂46

乃木坂46

07. LOVE TRAIN / 西川貴教

「We love the EARTH」とのダブルAサイドシングルとして1991年にリリースされた曲。今回のトリビュートアルバムでは唯一のTMN名義の楽曲となる。耳馴染みのいいキャッチーさを持つ楽曲であることに加え、当時、カメリアダイアモンドのCMソングとして大量オンエアされたことも手伝って、キャリア史上最大のヒットとなった。西川貴教によるカバーでは、四つ打ちのビートにエッジィなシンセをフィーチャーしたダンスミュージック的アプローチを見せている。特筆すべきは西川による圧巻のボーカルだろう。今年、西川貴教with t.komuro名義でリリースされた「FREEDOM」で初タッグを組んだ小室が認めた、体全体を震わせながら放たれる歌声によって、まるで自らの楽曲であるかのごとく新たな「LOVE TRAIN」を響かせている。西川節とも言えるオリジナリティに満ちた仕上がりだが、デジタルを軸としたサウンドの上で生身の歌声が人間味のあるグルーヴを刻んでいくスタイルは、間違いなくTMの系譜と言えるものだろう。

西川貴教のアーティストビジュアル。

西川貴教のアーティストビジュアル。

08. Human System / 松任谷由実 with SKYE

デビュー40周年を迎えたTM NETWORKの楽曲を、まもなくデビューして52年を迎える松任谷由実がカバー。しかも、鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆によるバンド・SKYEとともに。これはもう音楽ファンにとって大きな事件と言えるだろう。選ばれた楽曲は、アルバム「humansystem」収録のタイトルナンバー。“人間同士のつながり”というアルバムテーマを最も色濃く内包した楽曲を、熟練したバンドがヒューマンな肌触りで表現している。不穏な響きを持つベースラインや心の機微をなぞるように鳴るホーンが緊張感を醸し出しつつも、チャーミングな鍵盤の音色が重なっていくことで、誰しもの心に眠る既視感のある景色が温かく呼び起こされていく。間奏のブルージーなギターソロもグッとくる。そしてもちろん、ぽつりぽつりと言葉を置くようにメロディを紡いでいく松任谷由実のボーカルが素晴らしい。聴き手のカラダに心地よく染み渡る揺らぎを持った歌声は、この楽曲に込められたメッセージを鮮やかに伝えてくれる。

松任谷由実

松任谷由実

SKYE

SKYE

09. TIMEMACHINE / 坂本美雨

TM NETWORKがデビュー前に作ったラブソング「TIMEMACHINE」は、ライブではたびたび披露されてきたが、長らく音源化されてこなかった。1994年に東京ドームで開催された「TMN 4001 DAYS GROOVE 1987-1994」でラストにプレイされた、TMN終了を象徴する重要な1曲でもある。2023年にリリースされたアルバム「DEVOTION」に初めてのスタジオ録音音源が収録された際に多くのFANKSが歓喜したことは記憶に新しい。今回、この楽曲をカバーしたのは坂本美雨。生粋のTMフリークであり、今年放送されたテレビ番組「The Covers」でも同曲をカバーした経緯からも、納得のチョイスと言えるだろう。ほぼピアノと弦のみで構成された美しいアレンジメントは、原曲の持つアコースティックな温かみのある質感をさらに増幅させ、感動的な広がりを生んでいる。全編、トーンの異なる2声でユニゾンされるボーカルには、儚い切なさと凛とした意志が同居している。宇都宮が語るように歌うラストフレーズ「いつまでも」を、坂本も感情を込めてオマージュしている点にもぜひ注目してほしい。

坂本美雨

坂本美雨

10. STILL LOVE HER(失われた風景) / くるり

1988年リリースのアルバム「CAROL ~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~」収録のナンバー。テレビアニメ「シティーハンター2」エンディングテーマや、2019年公開の映画「劇場版シティーハンター<新宿プライベートアイズ>」挿入歌およびエンディングテーマに使用されたことで、「Get Wild」とともに「シティーハンター」と縁の深い楽曲となっている。音楽ナタリーの連載コラム「アーティストの音楽履歴書」において(参照:岸田繁のルーツをたどる)、1歳上のいとこの影響でTM好きになり、アルバムを集めたことを告白しているボーカル・岸田繁擁するくるりのカバーは、原曲が想起させるロンドンの冬の1日を異なるアプローチで表現。四つ打ちのビートにザイロフォンをはじめとするさまざまな音が折り重なる中、リバーブの効いたボーカルが柔らかな景色を描き出している。楽曲の重要な要素である「ラララ」のコーラスを丁寧に再現しつつ、アウトロではアルバム「humansystem」に収録されたクリスマスソング「THIS NIGHT」のフレーズを引用する粋なサプライズも。TMへの大きな愛にあふれたカバーとなった。

くるり

くるり

11. ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予言者) / 満島ひかり

初期のライブではエンディングに必ずパフォーマンスされ、それ以降のライブにおいても重要な位置に配置されることの多い1曲。ギリシャの島々の名前が登場するリリックと、それを語りかけるように伝えていく宇都宮のボーカル、そして雄大な情景を想起させるサウンドを持った8分を超えるこの曲は、1885年リリースのミニアルバム「TWINKLE NIGHT」に初めて収録された。FANKSからの人気も高いこの楽曲をカバーしたのは、MONDO GROSSOや女王蜂とのコラボで存在感のある歌声が高い評価を集めた俳優・満島ひかり。編曲はTM NETWORKから多大な影響を受け、TMフリークとしても知られるミト(クラムボン)が手がけた。オルゴールのネジを巻くSEで幕を開け、まるで組曲のようにさまざまな景色を展開していくサウンドの中、原曲同様にレイドバックしたボーカルを響かせていく満島。「今夜のような夢を見せてあげるよ」というキラーフレーズをはじめ、細部にわたってたっぷりの情感を注ぎ込んだボーカリゼーションは、もはや演じるという言葉こそがふさわしい。役者としての感性で楽曲を再解釈した仕上がりに唸らされること必至だ。

満島ひかり

満島ひかり

プロフィール

TM NETWORK(ティーエムネットワーク)

小室哲哉(Key)、宇都宮隆(Vo)、木根尚登(G)による音楽ユニット。1984年にシングル「金曜日のライオン(Take it to the Lucky)」、アルバム「RAINBOW RAINBOW」でデビューを果たし、1987年に「Self Control」「Get Wild」が大ヒットを記録した。1990年にはTMNとして「TIME TO COUNT DOWN」「Love Train」などを発表し、1994年5月の東京ドーム2DAYSを最後に活動を終了した。1999年7月にTM NETWORK名義で再始動し、デビュー30周年にあたる2014年には全国ツアー「TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end」「TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30」の開催、さらに12枚目のオリジナルアルバム「QUIT30」の発表など精力的な活動を展開した。2022年にはアリーナ公演を含む全国5都市を回るツアーを実施し、計4万人の動員を記録。2023年6月にはニューアルバム「DEVOTION」をリリースし、全国ツアーを行った。2024年4月にデビュー40周年を迎え、ライブ映像作品「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~ LIVE Blu-ray」を発表。5月にはトリビュートアルバムがリリースされた。

※記事初出時、タイトルの一部に誤字がありました。お詫びして訂正いたします。

2024年5月16日更新