2年もあれば時代も変わる
──ここからは3月1日に配信リリースされた新曲「#情とは」について聞かせてください。ABEMA「花束とオオカミちゃんには騙されない」の挿入歌に決まったんですよね。
陽報 はい。素直に驚きましたし、すごくうれしかったです。
──浮気された人目線の恋愛ソングはThis is LASTの王道ですが、10~20代の男女が出演する恋愛リアリティ番組の挿入歌にしては……。
鹿又 ちょっとヘビーですよね(笑)。
──特に「日本一偉くなったら 六法全書に浮気するなと 書き足し、罰も重くする」というフレーズはインパクト抜群です。こういった言い回しはどこから浮かんでくるんでしょう?
陽報 何かきっかけがあって思い浮かんだわけではないんですよね。普通に降りてきました。
鹿又 いや、なかなか降りてこないワードだよ(笑)。
陽報 あはは。今回も僕の実体験から書いたんですけど、曲自体は2年前からあったんですよ。
鹿又 メロディがすごくいいし、歌詞も重たくてあきらしいし、「早く形にしたいね」とみんなで話していた曲なので、やっとリリースできてうれしいです。
陽報 実はレコーディングも2年前にしていたんです。だけど今回リリースするにあたって、ベースとギターとストリングスはアレンジを変えて録り直しました。2年前はストリングスは打ち込みだったんですが、今回は生のストリングスを入れることができたのでうれしかったですね。
──どうして録り直したんですか?
陽報 やっぱり2年もあれば時代も変わるじゃないですか。聴いてくれた人……特に若い層に刺さる曲にするためにはどういうふうに作るべきか、イチから考え直した結果、リアレンジしたほうがいいだろうという結論になったんです。2年前のアレンジはもっとシンプルだったんですけど、今回のアレンジでは盛り上がりをすごく意識しました。あとはイントロでわかりやすくフレーズをループさせたり、若い層に刺さりそうなポイントを研究しながらアレンジを考えていきましたね。
──研究は具体的に何をしましたか? トレンドの曲を掘り下げて聴いたりしたのでしょうか?
陽報 そうですね。ジャンルに縛られず、K-POPとかも含めてトレンドの曲を聴きました。あとは音楽に限らず、いろいろなものを研究しましたね。今流行っているものを研究して音楽に影響しているものを見つけていくプロセスは、この時代で戦っていくためには絶対に必要ですから。普段から気を付けて目を配るようにはしています。
こんなに残酷な恋愛が、世界中で当たり前のように起きているんだ
──歌詞についてもう少し聞かせてください。「殺文句」の頃からずっと、浮気はThis is LASTにとって因縁のようなテーマになっていますよね。すごく言いづらいんですが、「殺文句」も「#情とは」も実体験から書いているということは、陽報さんは浮気されがちなタイプなんでしょうか?
陽報 みんな浮気していったんですよね……。何回目かの浮気をされたとき、ふと特殊能力に目覚めまして、相手が浮気しているとわかるようになったんですよ。わかるようになると、今度は気付かないフリをし続けるか、ツッコむかの2択になるんですけど、僕は気付かないフリをするタイプで。だけどそれも苦しくなり始めた頃、だいたい相手の人が自白をし始める。まあ、そんなことばっかりですよね。
鹿又 彼が浮気されてしまう理由、僕はわかりますよ。優しすぎるからです。
陽報 確かに「優しすぎるからつまらない」と相手の人からよく言われます。「もっと引っ張ってほしかったんだよ」と言われて、浮気されたのに僕が謝っているパターンがけっこうあって。「わかってくれればいいよ。じゃあ戻ろっか」「あ、はい……」みたいな(笑)。
──なんでそうなっちゃうんでしょうね。
陽報 「浮気されちゃったな、でも好きなんだよな」という気持ちが大きいからですかね。
──先ほど「この3人で鳴らせばThis is LASTの音楽になる」「だからジャンルでくくるつもりはない」という話もあったように、This is LASTというバンドはこの3人で鳴らす音にアイデンティティを見出しているように思いますが、一方、歌詞には自己肯定感の低さがにじみ出ているのが興味深いです。陽報さんはご友人から「もっと自分を大切にしたほうがいいよ」と言われることはありませんか?
陽報 毎回言われます。だけど僕は自分を犠牲にしている感覚はなくて。「この子のことが好き」という自分の感情を何よりも優先することで、むしろ自分のことを大切にしているつもりなんですよね。
──なるほど。陽報さんの恋愛観、鹿又さんは理解できますか?
鹿又 うーん……(笑)。
陽報 そうなるよね(笑)。恋愛をしているときは、その子のことだけを考えちゃうんですよ。その後の人生なんてどうでもいいというくらいの勢いで。だから周りの人から「その子はやめとけ」と言われても全然聞かない。そうすると、声をかけてくれる人も少しずつ減っていって……。そのせいで僕から離れて行ってしまった人もたくさんいますし、自分の恋愛観はちょっと特殊なんだろうなと思います。
──でも今は、自分の恋愛観を赤裸々に書いた曲に対して、リスナーから共感の声を寄せられることもありますよね。
陽報 それまでは「こんなに真面目に恋愛をして傷付いているのは俺くらいだろうな」と思いながら生きてきたので、「共感しました」と言ってもらえたときは本当に驚きました。こんなに残酷な恋愛が、世界中で当たり前のように起きているんだ!って。
──残酷と言いつつも恋愛の歌を歌い続けるのは、恋愛はきっと美しいものだと心のどこかで信じているからなんじゃないかと想像しますが、いかがでしょう。
陽報 本当にその通りですね。人を好きだと思う気持ちって、ある意味危うい感情じゃないですか。好きな人からのひと言で感情がすごく浮き沈みするし、それによって振り回したり振り回されたりして、ときには人生だって変わってしまう。だけど感情を大きく動かされる出来事から学べることは多いし、僕もそうですが、大切な人がいるおかげでがんばれるという人もたくさんいると思います。なので、恋愛はすごく尊いものだと思っていますね。
これだけワンマンをやっていると、さすがに強くなる
──最後に、ライブについて聞かせてください。現在はワンマンツアー中ですが、最近の自分たちのライブに対して、どんな手応えを感じていますか?
鹿又 最強だと思います。これだけワンマンをやっていると、さすがに強くなりますね。
陽報 今は身近にいる同世代のバンドよりも、化け物のような先輩バンドの皆さんをこれからどう倒していこうかと考えるほうに意識が向いています。
──先輩との対バンは直近だと、UNISON SQUARE GARDEN、GRAPEVINEとのスリーマン「VINTAGE ROCK std.×UNISON SQUARE GARDEN presents "VG" vol.3」がありますね(※取材時はライブ開催前)。
陽報 UNISON SQUARE GARDENのメンバーの皆さんに知っていただけていたみたいで、呼んでもらえてうれしいです。ぶっ倒しに行こうと思ってます!
鹿又 とんでもない発言だな!
陽報 でも負けない音を出していると思うので。
鹿又 そうだね。いざご本人を前にしたら震え上がると思いますけど(笑)。
陽報 震えながらでもがんばるよ、俺は!
ツアー情報
This is LAST HALL TOUR 2023
- 2023年9月2日(土)大阪府 NHK大阪ホール
- 2023年9月9日(土)愛知県 名古屋市公会堂 大ホール
- 2023年9月23日(土・祝)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
プロフィール
This is LAST(ディスイズラスト)
菊池陽報(Vo, G)、菊池竜静(B, Cho)、鹿又輝直(Dr)による、千葉県柏市発の3ピースロックバンド。2018年5月に結成された。2022年8月にデジタルシングル「もういいの?」をリリース。11月 に「カスミソウ」を配信リリースすると、同曲のミュージックビデオが公開1カ月で50万回再生を突破するなど、大きな反響を得る。また「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 」「RUSH BALL」「FM802 RADIO CRAZY」などフェスやイベントにも精力的に出演し、高い集客力を誇った。同年秋に実施した対バンツアー「This is LAST アウィナイトツアー 2022」では、全8カ所の公演がすべて完売。2023年1月から全国23カ所を巡るワンマンライブツアー「OVER」を行っている。3月にABEMA「花束とオオカミちゃんには騙されない」の挿入歌「#情とは」を配信リリースした。
This is LAST : Official Website