This is LASTが3月1日に新曲「#情とは」をリリースした。
ABEMAの恋愛番組「花束とオオカミちゃんには騙されない」の挿入歌として使用されているこの曲は、バンドにとって初のタイアップソング。菊池陽報(Vo, G)の実体験をベースにつづられた歌詞はリアリティを持って多くのリスナー、番組視聴者の胸を打っている。
過去作でも“報われない恋”を歌うことを得意としてきたThis is LAST。彼らがこの持ち味を自身のものとするまでには、どのような歩みがあったのか。音楽ナタリーでは菊池と鹿又輝直(Dr)にインタビュー。This is LASTの成り立ちから「#情とは」完成に至るまでを聞いた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ
これに人生賭けようよ
──This is LASTの結成は2018年5月。それ以前はメタルコアバンドを組んでいたそうですね。
菊池陽報(Vo, G) 僕らは千葉県柏市出身のバンドで、柏にはハードコアのレジェンドバンド・ヌンチャクが作った“柏シティ・ハードコア(K.C.H.C.)”というジャンルがあるので、バンドを組むとなると自然とそういう音楽性に行き着くんです。あと僕はもともとONE OK ROCKさんやcoldrainさんが好きで、バンドを始めた当時は洋楽の激しいバンドを掘り下げ始めた時期だったので、自分のバンドでも激しい音楽がやりたいという気持ちがありました。メタルコアをやっていた頃も充実していたし、根拠のない自信はあったものの、特に反響はなく。今思えば「カッコいいことをやっていればいつか売れる」みたいな感じで、考えが浅かったんですよ。当時の自分には「自由なのはいいけど、自分の音にもっと責任を持ちなさい」と伝えたいですね(笑)。
鹿又輝直(Dr) あの頃は爆音を出しているだけで楽しかったけど、本当に「もっと音楽を知りなさい」と言いたくなる感じだったよね(笑)。当時は高校生だったので、すごくギラギラしていたと思います。
──「殺文句」(2020年4月リリース)という曲がきっかけで今のような音楽性にシフトしたんですよね。
陽報 はい。「殺文句」は、僕が当時お付き合いをしていた方に浮気されたことがきっかけで書いた曲でした。結婚したいと思っていたほど好きだった人と別れることになったので、僕の中で思うことがたくさんあったんですよね。それまでバンドで曲を演奏するときは、英語っぽく聞こえる言葉をその都度叫んでいるだけだったので、歌詞をちゃんと書いたのはこの曲がほぼ初めてでした。「殺文句」を書いたことで、「自分の弱さを歌詞に書いてもいいんだ」と思えたんです。
──サビのラスト「あなたが1番よ。」で1番が終わると思いきや、「ならなんで待つんだよ」と別のブロックがすぐに始まるのがいいですよね。主人公の相手への思いがあふれて止まらない様子が構成でも表現されているように感じます。
鹿又 僕らが“サビ2”と呼んでいる部分ですね。
陽報 「殺文句」を書いた頃の僕は洋楽ばかり聴いていたので、Aメロ、Bメロ、サビという概念が自分の中で薄かったんですよ。当時だからこそ書けた曲だと思います。
──「殺文句」を書いたことで、浮気されたショックも少しは和らぎましたか?
陽報 いや、そういうことはまったくなかったです。当時の僕は音楽と彼女を中心に生きていたんですけど、彼女を失ってしまい音楽だけが残ったから、曲を書こうという気になったんだと思います。曲を書いてショックが和らぐということは基本的にないですね。
──そうなんですね。
鹿又 ハードコアバンドをやっていた頃、「殺文句」ができるよりも前に、1曲だけ日本語詞のバラードを作ったんですよ。
陽報 「日本語詞の曲を書いてみてもいいかも」と思った時期に作ってみた曲なんです。coldrainの「Miss you」のようなバラードにしたくて。
鹿又 その曲の評判がよくて、周りの人たちからも「この路線で行ったほうがいいんじゃない?」と言われていたんです。なので、そのあとに「殺文句」ができたのも僕的には納得という感じで。バンドとしても改めて「この路線でやっていこうよ」という話になりました。
陽報 当時はギターのメンバーが脱退したり、バンド名を頻繁に変更したり、バンド内が安定していなかったんです。だけど「殺文句」をメンバーに聴かせたら、「これに人生賭けようよ」と言ってもらえて。弟の竜静(菊池竜静 / B, Cho)は当時通っていた看護学校もすぐに辞めて、バンドで生きていくという決意を固めてくれました。それで「自分たちの人生を懸ける最後のバンドにしよう」という覚悟を込めて、This is LASTというバンド名を付けたんです。
──歌詞が変化したことで、サウンドも変化していったのでしょうか?
陽報 そうですね。自分の伝えたいことを初めて書けた曲だったので、歌をしっかり届けたいという気持ちがあって。そのためにはどんなサウンドで、どんなコードで、どんなメロディがいいかと考えていった結果、今のようなサウンドに行き着きました。
できるだけハードコア精神が残ったサウンドにしたい
──ちなみに、ハードコアバンド時代に日本語詞の曲の評判がよかったにもかかわらず、歌モノ路線に踏み切らなかったのには理由があるんですか?
陽報 ギターが歪んでないからですね。確かに「なんかウケいいな」とは思いましたよ。だけど「こっちは付け合わせで、激しいほうがメインなんですよ」という気持ちでした。そのときの僕にとっては、重厚でジューシーなサウンドであることが絶対だったんです。
鹿又 僕は「このメンバーでバンドをやれればどんな音楽でもいいや」と思っていたんですけどね。「殺文句」のドラムは手数が多くて、ツインペダルもけっこう入れているので、ハードコア時代の名残が出ているんじゃないかと。でも今は手数も減らして、あき(陽報)の歌に寄り添うドラミングができていると思います。
陽報 はい、そう意識してくれているなと僕も感じています。だけど、こう言っているものの、彼のドラミングはけっこう化け物じみていますよ(笑)。
鹿又 あはははは!
陽報 ライブを観てもらえればすぐにわかると思うんですけど、できるだけハードコア精神が残ったサウンドにしたいと思っているんです。実際、観る人が観ると「もしかして、昔ハードコアやってた?」とわかるみたいで。
──となると、今のサウンドバランスに行き着くまでに葛藤や試行錯誤があったんでしょうか?
陽報 そうですね。例えば、僕らがそれまでやっていたハードコアとは“歪み”の感覚がまったく違ったりして。クランチだと思っていた音を周りから「それはディストーションだよ」と言われたり……つまり、歪みをかけているはずのサウンドも、僕にはすごくきれいなサウンドに聞こえていたんです。それに気付いてからは、歌を邪魔せずに僕の出したい音を出すにはどうしたらいいのかとすごく葛藤しましたし、その葛藤は今でもずっと続いていますね。
違う視野を持つ3人が混ざり合うことで、面白い曲が生まれる
──個人的には、2021年5月リリースのシングル「ポニーテールに揺らされて」からバンドのフェーズが変わったように感じていました。まず作曲面ですが、J-POPのセオリーをすごく勉強されたんじゃないかと。
陽報 そうですね。僕らは日本で活動しているバンドなので、J-POPのセオリーを一度勉強しておく必要があるなと思って。言っていただいた通り、「ポニーテールに揺らされて」以降、メロディの起伏やダイナミクスの付け方、セクションの作り方などを意識的に変え始めたんです。さっき話したように、「殺文句」はセオリーを知らなかったからこそ自由に書けた曲なので、セオリーを勉強すると、表現の幅が狭まっちゃうかなと思っていたんですよ。だけど、むしろ広がりましたね。「普通こうするよね」というセオリーを理解できるようになると何が異常なのか理解できるようになるから、セオリーをすっぽかして作るよりも、面白いものがもっと作りやすくなるんですよ。それが知れたのは、自分にとって1つの成長でした。
──また、編曲面も洗練されたように感じました。「この曲はこういう曲だから、こんな音色で鳴らそう」という選択を冷静にできているというか。
陽報 僕らは3ピースバンドであることに対してプライドを持って活動しているんですけど、同時に1stフルアルバム(2020年11月リリースの「別に、どうでもいい、知らない」)を作り終えた頃から、3ピースであるがゆえの縛りみたいなものを感じるようになったんです。「僕の頭の中で鳴っている音楽はもっと広いんだよな」と窮屈に感じてしまって。アレンジは主に弟が考えてくれているんですが、僕がそういった違和感を持ち始めたので、メンバーにも共有し、バンドとしてより自由な方向へとシフトしていきました。
──縛りをなくしたからこそ、採れる選択肢が増えて、最初の段階で頭の中で鳴っていた音楽をよりイメージ通りに表現できるようになったという感じでしょうか?
陽報 まさにそうですね。僕ら的には「バンドの音楽性を広げていこう」というよりも、「初めにあった衝動を大事にするためには、もっといろいろな選択肢から選べたほうがいいよね」という感覚です。例えば「カスミソウ」(2022年11月配信リリース)は、今までのThis is LASTとは違う、聴いてくれた人の背中を押せるような曲にしたいと思ったんですよ。その話をメンバーにしつつ、弾き語りのデモを聴いてもらった結果、りゅう(竜静)から「ホーンを入れよう」という返答があって。僕はシンプルなバンドサウンドにまとめるつもりだったので、そう言われてびっくりしたんですけど、りゅうは曲から僕の意図を汲み取ったうえで、「強さや元気な感じ、明るさをわかりやすく出すのであれば、ホーンを入れてみようよ」と提案してくれたんですよね。だから「こいつは俺よりも視野が広いな」と思って(笑)。
鹿又 あははは。「カスミソウ」を制作していた時期くらいから、バンドの空気感がまたガラッと変わった気がしています。
陽報 違う視野を持つ3人が混ざり合うことで、面白い曲が生まれるような環境になりつつあるよね。
鹿又 そうそう。それに、ライブの雰囲気も変わったと思います。今まではヘビーなライブになりがちだったけど、楽曲の幅が広がったことによって、きらびやかさや華やかさも加えられるようになったので。
陽報 そもそも僕らは、This is LASTというバンドをジャンルでくくる気はないんですよ。僕が歌って、てる(鹿又)が叩いて、りゅうが弾けば、どんな音楽をやってもThis is LASTの音楽になる。それをより体現できるようになってきていると思います。
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