THE YELLOW MONKEY|再集結からドームツアーまで、4人が駆け抜ける奇跡の日々

12月よりキャリア最大規模のドームツアー「THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR」を開催するTHE YELLOW MONKEY。2016年1月の再集結発表に始まり、ニューアルバム「9999」のリリースや全国アリーナツアー開催、そしてドームツアー開催発表まで、彼らは精力的な活動を続け、結成当初からのファンだけでなく幅広い層に新たなサウンドを届けることに成功している。この特集では音楽ライターの宮本英夫が再集結からドームツアー発表までのTHE YELLOW MONKEYの軌跡を改めて振り返ると共に、ドームツアーへの展望を探る。

文 / 宮本英夫

再集結から19年ぶりのアルバム「9999」へ

15年間もの長い眠りから覚め、THE YELLOW MONKEYが再集結を宣言したのは2016年1月8日のことだった。全員がソロ活動の地歩を固め、もう二度と一緒にやることはないだろうという憶測を鮮やかに覆す復活劇に、ファンは狂喜した。のちに吉井和哉(Vo, G)が語ったところによると、2013年7月にロンドンのハイド・パークで行われたThe Rolling Stonesの50周年記念ライブを訪れた際、「もう一度僕とバンドをやってくれませんか」とほかの3人にメールしたのがきっかけだという。メンバーの答えは、即答でイエス。若さゆえの激情と葛藤、トップバンドであり続けるプレッシャー、音楽的志向のズレで第1期THE YELLOW MONKEYは解散したが、バンドのスピリットは死んではいなかった。この国で、ストーンズのようにロックの理想を体現し続けるバンドになれるのは、THE YELLOW MONKEYしかいないだろう。そんな吉井の思いを共有した4人は、再び夢を追うために一丸となった。

日本武道館で行われた「9999」先行試聴会の様子。

バンドはいきなりトップギアで快進撃を始める。2016年2月に配信リリースした新曲「ALRIGHT」は、「もう一度運命のタイマーを回して」と再始動の決意を力強くつづるフレッシュなロックチューン。同年10月にはドラマ「砂の塔~知りすぎた隣人」のために書き下ろした新曲「砂の塔」もCDリリースした。ライブ活動も活発で、同年5月からは16年ぶりのツアー「THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016」で全25公演を行い、11月からは再び16公演のツアーを実施。12月28日にはひさびさの東京・日本武道館公演を行い、大晦日には「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たす。15年間待ちわびたファンのみならず、不在の間に伝説化したバンドを一目見ようという新しいリスナーをも巻き込み、第2期THE YELLOW MOKEY始動の年はこれ以上ないほどに華々しい成功を収めて幕を下ろした。

翌2017年の活動は、ファンクラブ限定配信曲「ロザーナ」と、全曲新録音による「THE YELLOW MONKEY IS HERE.NEW BEST」のリリースで始まった。過去の名曲と個々の成長とががっちりかみ合った充実の出来に、バンドは正しい道を進んでいる自信を深めただろう。9月からは3カ月連続配信リリースという企画をぶち上げ、デヴィッド・ボウイの「Ziggy Stardust」のカバー、同年のドーム公演に向けた楽曲「Stars」、そして菊地英昭(G)作詞作曲の「Horizon」といった個性豊かな曲を次々と発表。またこの年のハイライトとなった12月の東京・東京ドーム公演と福岡・福岡 ヤフオク!ドーム公演にて、吉井は「来年はアルバムを作ります!」と高らかに宣言した。その後吉井は「新譜を作らなければ本当の再集結とは言えない」、菊地英二(Dr)は「ドームをやる頃になって(再集結後の)バンドのグルーヴが固まってきた」と語っている。時は来たり。ついに9枚目のアルバムへのカウントダウンが始まった。

日本武道館で行われた「9999」先行試聴会の様子。

アルバムレコーディングは2018年初夏に日本で始まり、後半は吉井和哉がソロ作品を録音してきたロサンゼルスへとスタジオを移して行われた。グラムロックなどUK色の濃かった第1期THE YELLOW MONKEYとは異なり、ドライで抜けのいい音とソリッドでざらついたガレージロックの味付けは、紛れもなく現代的なアメリカのロックサウンドであることは、2019年4月にリリースされた実に19年ぶりのオリジナルアルバム「9999」を聴けばわかる。ファンキーなロックンロール「Titta Titta」、壮大なロッキンソウル「Changes Far Away」、廣瀬洋一(B)のグラマラスなベースが炸裂するブギーロック「Love Homme」など、新曲はどれもがっちりと骨太で成熟した色気を漂わせる佳曲ばかり。そして年輪を重ねることでむしろシンプル&タイトへと向かう熟練の演奏力。「I don't Know」のように、ひたすらストイックなビートとメランコリックなメロディを自然に融合させて様になるロックバンドはそうそういない。吉井の歌詞も以前とは異なり、まっすぐに愛を歌い人生を讃えるものがぐっと増えた。待った甲斐はあった。「9999」はTHE YELLOW MONKEYの新たなデビューアルバムだ。

リリースの3週間前、日本武道館で行われた「世界最速先行試聴会」での体験も忘れがたい。彼らのことだから何かやってくれるだろうとは思っていたが、1曲目のイントロでステージを覆っていた白い紗幕が切って落とされ、メンバーが登場したのはさすがに驚いた。そのまま生演奏で全13曲を歌いきり、「19年も待ってもらったファンにリアルタイムで聴いてもらいたかった」と言った吉井のセリフがカッコよかった。初めて聴く新曲に踊るのも忘れて聴き入る、無料招待された「9999名」の観客の様子が新鮮だった。「新譜を作らなければ本当の再集結とは言えない」という吉井の言葉がついに現実になった。THE YELLOW MONKEYが本当に、この国のロックシーンに帰ってきた。

全国ツアー「GRATEFUL SPOONFUL」の総括

アルバムを作ったならツアーに出るのがロックバンドの生業。再集結後初となるアルバムリリースツアーは、2016年を上回る5カ月間で27公演の「THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019 -GRATEFUL SPOONFUL-」に決まった。しかしただアルバムの曲をプロモーションするだけではつまらない。THE YELLOW MONKEYが出した答えは、「♦」「♥」「♣」「♠」の4つに分けられた、まったく異なるセットリストでツアーを行うというもの。例えばツアー開幕の静岡・エコパアリーナ公演では初日が「♦」で2日目が「♥」、ツアーファイナルの熊本・グランメッセ熊本公演は初日が「♣」で2日目が「♠」と、ファンのコンプリート欲求を思い切り刺激する憎らしい仕掛けだ。

「THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019 -GRATEFUL SPOONFUL-」グランメッセ熊本公演の様子。

各マークにはそれぞれテーマがあり、「♦」は“きらびやか”、「♥」は“愛”、「♣」は“ナチュラル”、「♠」は“攻撃”ということらしい。筆者はツアー中盤の埼玉・さいたまスーパーアリーナで「♦」「♥」の2公演を観たが、2DAYSでよくある数曲の変更ではない完全別メニューに驚いた。「♦」公演はアルバム「9999」と同じく「この恋のかけら」で壮大に幕を開け、第1期の楽曲も「聖なる海とサンシャイン」「Tactics」「天国旅行」など、きらびやかと言いつつ妖しく激しくうねるディープな楽曲が重要なポイントを占める。その中心にあるのが「JAM」で、かつてない荘厳なほどの輝きに圧倒された。対照的に「♥」公演は「天道虫」「ALRIGHT」と華やかなロックンロールで豪快に幕を開け、「Love Communication」「LOVE LOVE SHOW」「楽園」などキャッチーなヒット曲に「SO YOUNG」「パール」など第1期終盤の深い思いを詰め込んだ楽曲を加え、心が温かくなったりしんみりしたり、これは確かに“愛”にまつわる歌だと納得する。どちらのメニューでも「悲しきASIAN BOY」「SUCK OF LIFE」といった定番曲があり、当時と変わらぬパフォーマンスで楽しませてくれるのもオールドファンにはうれしいだろう。

そしてファイナルの地、グランメッセ熊本の初日は「♣」。意表を突くオープニング「Love Homme」から一気にハジけて「BURN」「嘆くなり我が夜のFantasy」へ。序盤の急角度の盛り上がり曲線は「♥」にも近いが、「Changes Far Away」「球根」と続く中盤は愛と呼ぶにはあまりに切なく胸に響く。「Balloon Balloon」から「赤裸々GO! GO! GO!」へ、20数年の時を隔てた2曲が並んでまるで違和感がないのは、THE YELLOW MONKEYの根底にある歌謡とロックとのバランスがずっと変わらないから。本編を「この恋のかけら」で、アンコールを「Horizon」で締めくくった広く深い余韻は、やはり「♣」にしかないものだ。

「THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019 -GRATEFUL SPOONFUL-」グランメッセ熊本公演の様子。

ツアー全体のファイナルとなった熊本の2日目は「♠」。菊地英昭がスポットライトを浴びて神々しいイントロを奏でる「この恋のかけら」で始まり、中盤に「Tactics」「JAM」など人気曲を配した構成は「♦」に似ているが、凶暴なギターリフを持つ「サイキックNo.9」や「パンチドランカー」など強烈な楽曲を要所に配したメニューはやはり攻撃的。「ROCK STAR」「甘い経験」など泥臭いロックンロールタイプの曲もよくハマっている。アンコールで歌われた「毛皮のコートのブルース」も「♠」だけのお楽しみだ。バンド結成直後の1990年に作られ、アルバム「9999」のダウンロード盤限定特典として再録音された、退廃的に輝く美しいバラード。菊地英昭の艶っぽいギターソロが絶品だ。そして最後のサプライズ、「ドームで待ってるぜ!」という吉井の叫びに続いて歌われた、このツアー初登場の「WELCOME TO MY DOGHOUSE」。第1期ラストライブになった2001年1月8日の東京ドーム公演の最後を締めくくり、2017年12月の復活の東京ドーム公演のトップを飾った曲。THE YELLOW MONKEYという長い長い物語の1つの区切りに、これほどふさわしい1曲はない。

初のドームツアー~シーズン2の終わりに

2017年の東京ドーム公演「THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2017」の様子。

そう、THE YELLOW MONKEYの次のターゲットは、バンド史上初となるドームツアーだ。バンドが初めてのドーム公演を開催したのは、2001年1月4日の大阪ドーム(現:京セラドーム大阪)と1月8日の東京ドーム。ドームアーティストになることは誰もが憧れるステイタスだが、この時点でバンドはすでに活動休止を発表していた。誇らしさはあれど、メンバーもファンも晴れやかな気持ちにはなれなかっただろう。今も映像で観るそのライブは、バンドの終わりを見据えたギリギリの切実さと、すべてを超える異様なカッコよさで胸が痛くなるほどだ。吉井はMCで「野良犬に戻ります」と言った。それから3年後の2004年7月7日、バンドは正式に解散を表明する。その15年におよぶヒストリーを振り返る「ビデオフェスティバル」と題したイベントが全国で行われ、最終地点に選ばれたのが12月28日の東京ドーム。事前にメンバーからの挨拶が告知されていたが、何が行われるかは誰も知らなかった。4人はすべてのフィルムが上映されたあとに登場し、「JAM」を1曲だけ演奏してステージを去った。それを3度目のドーム公演と呼んでいいかはともかく、THE YELLOW MONKEYを終わらせるために必要な儀式として、この日のライブはバンドのヒストリーに深く刻まれることになる。

それから干支がひと回りした2016年の申年、THE YELLOW MONKEYは復活する。前述した吉井の呼びかけを発端とした、満を持しての再集結。とは言え15年間の空白は重い。それを埋めるように、バンドは精力的にライブを行って手探りで新しいグルーヴをつかみ取ってゆく。それがようやく固まってきたのが2017年12月の東京と福岡でのドーム公演の頃だったという菊地英二の話も先ほど紹介した。実際、筆者が観た12月10日のライブでもバンドは絶好調で、東京ドーム=BIG EGGという洒落で花道に大きな白いタマゴ型バルーンを置き、中からメンバーが登場するという楽しいオープニングから、ライブハウス時代を彷彿とさせる狭いサブステージでの演奏を経てメインステージへ。バンドのヒストリーを追うように演出も照明もどんどんスケールが巨大化し、ストリングスにホーンにコーラス隊まで加えたゴージャスなパフォーマンスに度肝を抜かれ、炎が噴き出しミラーボールが回りレーザーが飛び交う演出に手を叩き、何よりバンドの揺るぎない一体感に感動した。「いつまでも祝福ムードじゃいけない。我々はどんどんチャレンジしていく」という吉井のMCも頼もしかった。バンドは生まれ変わったなと、そのとき感じた。

2017年の東京ドーム公演「THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2017」の様子。

そして今、メンバー曰く「THE YELLOW MONKEYのシーズン2」の総決算とも言うべき、初のドームツアーのスケジュールがここにある。奇しくも今年は現在のメンバー4人がそろった日からちょうど30年。「THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR」の日程は、12月28日のナゴヤドーム、2020年2月11日の京セラドーム大阪、4月4日と5日の東京ドーム。現在判明しているのは日程と、そして「4カ所で4つのメニューを用意する」ということ。「THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019 -GRATEFUL SPOONFUL-」での4つのトランプマークと同じ趣向だが、もちろんセットリストは変えてくるだろう。テーマは“東西南北”か“春夏秋冬”か、はたまた“四柱推命”か。まあそんなはずはないとは思うが、おそらくバンドの30年のヒストリーを俯瞰するスケールの大きなものになることが予想される。1曲目は何か、ラストを飾るのは何か、前回ドーム公演からのつながりは、そして来たるべき次のステージへのヒントは。想像を膨らませて待っている時点ですでにライブは始まっている。

このドームツアーが終わるとバンドはまた水面下に潜るという。しかし彼らは、「またTHE YELLOW MONKEYというホームに帰ってくる」と明言している。バンドを長く支えてきたファンは、それがポジティブな意思だと知っている。THE YELLOW MONKEYが長く続くために必要な深呼吸であることをわかっている。だからこそ、ドームツアーの意味は重くなる。吉井の言う「100%出し尽くす」は、ファンの「100%楽しむ」と対にならないと価値が半減する。何より、50代になって今なお新たなピークを迎えている、この素晴らしいロックンロールを今体感しないのはもったいない。老いも若きも、古株もにわかも、いざドームへ。忘れられない体験がきっとそこにある。

2017年の東京ドーム公演「THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2017」の様子。

ライブ情報

THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary DOME TOUR
  • 2019年12月28日(土)愛知県 ナゴヤドーム
  • 2020年2月11日(火・祝)大阪府 京セラドーム大阪
  • 2020年4月4日(土)東京都 東京ドーム
  • 2020年4月5日(日)東京都 東京ドーム