the telephones インタビューbyホリエアツシ(ストレイテナー)|“DISCO病み”を乗り越え完成した5年ぶりのアルバム

the telephonesが5年ぶりのニューアルバム「NEW!」をリリースした。

活動10周年を迎えた2015年をもって無期限で活動を休止し、新たなバンドを結成するなどそれぞれの場所で活躍してきたthe telephonesの4人。2018年の「VIVA LA ROCK 2018」を境にthe telephonesとしてのライブ活動を徐々に再開し、2019年には配信シングル「Light Your Fire」をリリースした。

“DISCO”を合言葉に日本のロックシーンを席巻してきたthe telephonesだが、活動休止前には「DISCOだけのバンドと言われるのが嫌だ」という葛藤もあったという。結成15周年を機に発表されたアルバム「NEW!」はそんな“DISCO”から一度離れ、4人が改めてthe telephonesの音楽と向き合って制作した1枚。この4人で鳴らしたい音楽を追求した傑作アルバムが完成した。

音楽ナタリーでは「NEW!」のリリースを記念して、ホリエアツシ(ストレイテナー)をインタビュアーに迎えてthe telephonesに取材を実施。4人が兄のように慕うホリエに語ったこととは。

取材 / ホリエアツシ(ストレイテナー) 文 / 天野史彬 撮影 / 後藤壮太郎

5年休んでテレフォンズの特別さがわかった

──再始動してから俺がこうして4人そろったthe telephonesに会うのは今日が初めてなんですよね。活動休止中にそれぞれがやっていたバンドでは何回も会っていたけど。

石毛輝(Vo, G, Syn) 本当に、こうしてテレフォンズとして再会できてうれしいです。

──ストレイテナーの「VANISH」(2011年1月発売アルバム「STOUT」収録曲)のミュージックビデオに4人そろって本人役で出てもらったのが思い出深いね。

石毛 なぜか演奏シーンを俺たちが任されて、ドラマシーンをストレイテナーのメンバーがやるっていう(笑)。

松本誠治(Dr) 普通、逆ですよね?(笑)

──The Jon Spencer Blues Explosionが「Talk about the blues」のMVでああいうことをやっていたんだよね。ジョンスペのメンバーが刑事ドラマみたいなことをやっていて、演奏シーンを大物俳優のウィノナ・ライダーが演じて。

松本 じゃあ、僕らじゃなくて俳優に頼まなきゃダメじゃないですか(笑)。

──ホントだよね(笑)。で、話は戻るけど、テレフォンズは一昨年から徐々に活動を再開していたよね。今年活動再開だったら、新型コロナウイルスの影響で大変だったと思う。

the telephones(手前)とホリエアツシ(奥)。

岡本伸明(Syn, Cowbell, Shriek) 確かに。言われてみれば本当にそうですね。

松本 でも昨年末に「来年は15周年でいろいろやります!」と宣言したのに、結局まだ15周年の冠ライブもできていないんです。

石毛 そうなんだよね。活動再開して、15周年を迎えて5年ぶりの新譜も出したのに、肝心のライブができていない。

長島涼平(B, Cho) まあ、僕らみたいに1回走り出しているバンドは今のような状況になってもまだ体力が持つけど、これからバンドを始めようとしていた人たちは大変ですよね。ライブハウスに立つのも難しいだろうし、スタートのきっかけがないのは本当にかわいそうだと思う。

──そうだよね。5年ぶりの新譜という話が出たけれど、「NEW!」を作ったのは今年なんですか?

長島 今年の3月にマスタリングまですべて終わっていて。

──じゃあ、もっと早く出す予定だったんだ?

石毛 そうなんです。本当は5月に出す予定でした。

ホリエアツシ(ストレイテナー)

──そういえば、めちゃくちゃ前にノブから音源を送ってもらっていたもんね。

岡本 ホリエさんにはできてすぐ送りましたからね。

──もう卵から孵っていい時期なのに温め続けていた状態だったんだ。やっとリリースされたけど、やっぱりすごくいいアルバムだよね。

the telephones ありがとうございます!

──活動休止期間にそれぞれの活動があったからこそ、これだけクオリティが高い作品ができたんだと思いました。ベスト盤みたいというか、「この曲のここがすごい!」って全曲に言える部分がある。僕は特に2曲目の「Changes!!!」と3曲目「Tequila, Tequila, Tequila」のクオリティがすごいなと思ったんです。

the telephones おおー!

──リフで聴く人の心をつかんでいきながら、メロディもちゃんと立っているなと。それにダンスチューン的な爆発力がありながらも、キュンとしちゃうような切なさもあって。自分たちとしては、前のテレフォンズと今のテレフォンズで変わった部分はあると思いますか?

石毛 僕としては意識して変えたことはないんですよね。どちらかというと、5年休んだことで、テレフォンズの特別さがより自分でもわかった感じだと思います。

“DISCO病み”完治のための助走期間

──活動休止前の最後のほうは、テレフォンズのパブリックイメージに対しての葛藤がすごくあったよね? 俺とひなっち(日向秀和)は、それを勝手に“DISCO病み”と呼んでいたんだけど(笑)。

the telephones (笑)。

石毛輝(Vo, G, Syn)

石毛 その時期、ホリエさんにはプライベートでよく悩み相談をさせてもらっていましたもんね(笑)。

──うん。でもさ、活動休止期間を経たことによって、当時はDISCO病みの原因になってしまったパブリックイメージもまた素敵なものだと思えてきた?

石毛 まさにその通りで、5年経って、DISCO病みは完治しました。当時は「DISCOだけのバンドと言われるのが嫌だ」とホリエさんにも話していたと思うんですけど、僕らは自分たちの意志で曲を作って、レコーディングをして、ライブをしているわけで、自分たちが作るものを好きであることは間違いなかったはずで。ただ、もっとテレフォンズの違う部分にも目を向けてほしいっていう気持ちが当時は強くあったんですよね。あれから5年経って、そういう気持ちが完全になくなったわけではないけど、今はもうそういうことに対して変にがんばらなくていいのかなと思えるようになりました。この4人がやりたいことをやれればいいのかなと。お客さんが5人とか10人しかいなかった結成当時の頃の感覚に戻っていったような気がします。

──俺が初めてテレフォンズに出会ったのは2000年代の半ばで、当時俺はポストパンクにハマっていて。Liarsの曲をDJでかけていたら、神(啓文 / 元Getting Better)が「このバンド好きだと思うよ」ってテレフォンズの音源をくれたのがきっかけだったんだよね。今回のアルバムはあのとき俺がハマっていたポストパンクの雰囲気を思い出す感じもあって。

石毛 ああ、その頃の感じはあるかもしれない。「NEW!」は最近の流行を取り入れるよりも、4人が単純に好きなものをミックスできればいいんじゃないかと思いながら作ったんです。

──石毛の場合は、活動休止中にlovefilmとYap!!!をやっていたけど、あそこでは意識的にテレフォンズと違うことをやろうと試みていたんじゃないかと思っていて。だからこうしてホームに帰ってきたときに、テレフォンズというものにまっすぐに向き合えた部分もある?

石毛 まさにその通りです。ホリエさんもソロでentをやられていますけど、俺がほかのバンドで違うことをやろうとしたように、ソロでは意識的にストレイテナーとは違うものをやろうとしていますか?

──そうだね。なんでもかんでもストレイテナーでやろうとするとファンは付いてこれないかもしれないし、個人的な趣味の音楽を全開に表現する場としてentを始めたんだよ。そこで試したことはバンドに持ち帰ることができているから、結果としてストレイテナーの可能性を広げることになったのかなと思っていて。活動休止前と今との違いでいうと、ノブはどうですか?

岡本伸明(Syn, Cowbell, Shriek)

岡本 去年、テレフォンズとしていっぱいライブをやったんですけど、そこで活動休止前には感じなかったことをたくさん感じることができたんです。来てくれるお客さんにも、スタッフさんに対しても、今まで以上に「ありがたい」と思えた。そうやって当たり前だったものとしっかり向き合って感謝の気持ちを持てたのが大きかったと思います。もしこの経験がなかったら、アルバムを出すまでもうちょっと時間がかかっていた気がするんですよね。去年の長い助走があったからこそ、このアルバムは完成させることができたんじゃないかなと。

石毛 去年、一昨年とライブをやっていなかったら、DISCO病みは完治しなかったかもしれない。この4人でもう一度テレフォンズをやれるかどうかを、再始動を始めた段階ではまだちゃんと確かめきれていなかったし、いきなり新曲を作るのも違うなと思ってた。だから慎重にいきたかったというのもあって、結果として助走期間を長く取ることになったというか。

岡本 その助走期間で、バンドとしてのチャレンジ精神も増したんですよ。例えばひさしぶりにフェスに出たりすると、勢いのある若いバンドの中に俺たちが入っていくことになる。そうすると、お客さんのほとんどの人がテレフォンズのことを知らないような状況でライブをすることになるんです。これが、なんというか本当に……楽しい状況なんですけど(笑)。

一同 (笑)

長島 今、だいぶ言葉を選んだなあ(笑)。

岡本 でもその状況が俺らにとってはよかったと思うんです。中途半端にお客さんが入って中途半端に盛り上がるよりは、ほとんどのお客さんが自分たちを知らないくらいの状況のほうが、今のテレフォンズにとってはやりがいがあるというか。新しいお客さんにも自分たちのことを知ってもらいたいし、「これは、やるしかないでしょう!」という気持ちになれるんですよね。

──帰ってきたというよりも、「ここから新しく始められるな」っていう感覚なんだ。

岡本 そう、まさに「NEW!」なんです。

それぞれがテレフォンズに向き合い濃度が増した

長島涼平(B, Cho)

──涼平はどうですか? 今回のアルバムはすごくリズムが面白いと思ったんだけど、涼平は、フレンズではテレフォンズでのダンスロックとは違った、もっとファンク的なものをやってきましたよね。このダンスロックとファンクには「踊れる」という共通項はあったとしても、ノリは全然違うでしょ。でもこのアルバムにはその両方のいいところがしっかり出ている気がして。

長島 わあ、その感想はめちゃくちゃうれしいです。僕の場合、活動休止中はフレンズ以外にも、ソロアーティストさんたちのレコーディングに参加したりもしたんですけど、そういう活動をする中で自分の“できないこと”がわかってきたんですね。今までは全方位的にがんばらなきゃいけないと思っていたんですけど、「ここは、俺はがんばらなくてもいいところなのかもしれない」みたいなことが、自分の中で整理されていった感じがあって。だから、5年前と今の音を聴き比べると、外からのインプットが入ってきたというよりは、テレフォンズが洗練されたということなんだろうなと思ってます。余計なものが削ぎ落とされてテレフォンズが濃くなったというか。

──フレンズとテレフォンズではスタイルが違う、みたいな話でもないということだよね。

長島 そうなんです。結局自分ができることは同じなんだなとフレンズをやって気付きました。もちろん練習や勉強はずっと続けていきますけど、でも自分が聴いて育ってきたジャンルに嘘はつけないじゃないですか。例えば、僕はメタルをまったく通ってきていないんですけど、急に「メタルのベースを弾け」と言われたところで、それっぽいものは弾くことができても、本当の意味でのメタルのロー感は出すことはできないと思うんです。アンプでいくら低音を上げても、本当のメタルの音はきっと僕には出せない。この活動休止期間でそういうことに気付いたんです。それは諦めというよりは、できないことがわかるからこそ、自分の色に気付いたという感覚で。

松本誠治(Dr)

──同じリズム隊……かつ、まぜそば担当の誠治はどうですか?(参照:テレフォンズ松本誠治、大宮でラーメン店開業「愛すべき街に食の楽しみを増やせたら」

松本 やめてください(笑)。

──うちの(ナカヤマ)シンペイが「誠治のところのまぜそばはうまいけど、ホリエには味が濃いんじゃないかな」と言っていたよ。

松本 まぜそばの話はいいですよ!(笑)

──(笑)。じゃあ、音楽の話を。

松本 僕も意図的に外からのエッセンスを入れたわけではないんですけど、楽曲制作を始めた段階では、まだ自分の自己顕示欲を曲に入れようとしていた気がするんですよね。でもレコーディングするまでの間に、自分のエゴと楽曲にとっての必要不必要って、まったく別物なんだなと思うようになって。無理やりこういうことをしてやろうみたいなこともなく、曲がよくなる道だけを選択していこうと思えるようになりました。みんなで曲を合わせたり、ネタを出し合っていく中で「ここのフィルはもうなくていいな」とか「これをずっとキープしているほうがカッコいいよな」とか、そういうことを考えることが多くなって。今回の制作はフレーズやメロディ、楽器の在り方に注視していることが多かった気がします。