ラップでも歌でもない、小林祐介ならではの新しい歌唱法
──特に「世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて」を聴いたときに感じたんですけど、小林さんのボーカリゼーションには、まだ名前が付いていない歌唱法をつかんでいる感じがあるんですよね。ワンノートで、言葉数が非常に多い。ラップでもなく、かと言ってポエトリーリーディングでもない。畳みかけるような呼吸で、ちょっと呪文っぽく歌う。そういう歌唱法は「世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて」だけじゃなくて、アルバムのいろんなところに生かされている気がします。このあたり、小林さんと中野さんの実感はどうでしょう?
小林 中野さんと言葉やメロディのやりとりをしていると、「これはどんなジャンルの音楽なんだろう」とか、発明を目の当たりにする瞬間があって。歌は言葉を大切に言うものと、バーッとアグレッシブに言うものがあるんですが、韻で押し切ってしまう快楽は、大事に歌うこととは相反するものなんです。それを同時に起こしてしまおう、というのが中野さんのアプローチで。勢いで押し切って歌うんだけど、ちゃんと言葉を届けようとしているし、その中で100%の快楽を浴びるような瞬間も作ってみたり。それは僕にとって、ラップとも歌とも違う新しい領域ですし、リスナーの皆さんにも楽しんでもらえる部分じゃないかと。この歌唱法はその都度改良してたどり着いた表現なので、僕と中野さんが出会ったからこそできたものだし、手法やジャンルを飛び越えた魅力が宿っていると思います。
──中野さんはどうですか?
中野 THE SPELLBOUNDの楽曲から感じられる神聖さは、小林くんの描く世界観や言葉選びによってもたらされるんです。高速で音符と言葉を連打していく手法は、1stアルバムに収められた「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」から使い始めたのですが、アメリカや日本のビートミュージックの中で用いられる歌唱法とは全然違うもので、驚いたんですよ。3連符とか6連符が出てくると、ヒップホップらしさが出るはずだけど、小林くんの言葉だと違うものが宿る。日常を切り取って描くストリート感ではなく、スピリチュアルなものが立ち上がってくる。それがすごく面白いし、美しい映画を観ているようでもあるので、今回のアルバムはそれをひとつの軸として積極的に取り入れ、より表現力を拡張しました。僕もそこに対して自覚的になっています。人間の情報処理能力を超えたところで展開される、イメージの走馬灯みたいな時間の中に、強烈な印象を残すひと言を置いていく。意味を持たせるところと持たせないところ、イメージだけのところと思いを伝えたいところを、かなり緻密に組み上げていて。
小林 そうですね。
中野 だから聴き終わったあと、すごい経験をしたような気持ちになれる。そういうことを意識しながら作詞作曲に取り組んだので、かなり手間がかかった分、今までの日本語のポップミュージックでは体験できないような感覚を呼び起こせるんじゃないかなと思います。
アンニュイでも力強い、JESSEのハッピーなバイブスあふれる「2Colors」
──「2Colors」はRIZEやThe BONEZのJESSEさんがフィーチャリングゲストとしてラップで参加していますが、この曲はどういう経緯で作っていったんでしょうか?
中野 まずJESSEくんをゲストに迎えるまで紆余曲折あって。もともと小林くんが作ったメロディはもっとテンポが遅くて、アンニュイなものだったんです。今回のアルバムは非常にアグレッシブでアップリフティングなものになると予測していたから、アンニュイな曲でも力強さとか華やかさが欲しかった。そこで仕上げていくにあたり、力強さやビート感を強調したい部分のボーカルを空けておき、「前後をつなげる接着剤になるような歌声を入れよう」「じゃあラップがいいんじゃないか」という話になったんです。小林くんと話し合って、若い人だったり、僕らとは縁もゆかりもない人も候補に挙がったし、周りの人にもいろいろ意見を聞いてみました。
小林 けっこう相談しましたね。
中野 そうだね。だけどなかなかしっくりこなくて。結局決められないまま、英語の仮歌を入れた状態でドラムのレコーディングを進めていたら、エンジニアの細井(智史)さんが「JESSEにやらせたらええやん」と提案してくれて。細井さんはThe BONEZの録音も長年担当していたし、JESSEくんの名前を聞いてすごくピンときたんです。そしてご本人に相談したら二つ返事で引き受けてくれました。
──小林さんとしては、JESSEさんをフィーチャーした曲ができあがって、どんな感触がありましたか?
小林 僕も「これだ!」とすごく感じました。JESSEさんの懐の広さや兄貴感など、僕が持っていない魅力、その場にいるみんなをハッピーにさせるようなバイブスがラップに乗っていたので、改めて「人間性そのものが表現につながるんだな」って思いました。
きっと僕たちはよくなっていく、そんな予感をプレゼント
──先行配信された「Unknown」は、アグレッシブかつダイナミックな、今のTHE SPELLBOUNDらしさの真ん中にあるような曲だと思います。
中野 ライブを経てできた曲なのでフィジカルな要素が強く出ているし、小林くんのダイナミックなメロディもしっかり耳に残る。そこから連打する言葉と組み合わせて、世界観がより多面的になっていく展開は今の僕たちを象徴していると思います。
──「モンスター」についてはどうでしょうか。この曲にはわりと少年っぽいというか、すごく疎外感や焦燥感がある。今の小林さんというよりは10代の思春期性のようなイメージを感じるんですけど、この曲のメロディや歌詞を書いていくときはどんな思い、どんな感情を持っていましたか?
小林 歌詞に関しては、自分の中にある思春期性は全然自覚していなくて。人によっては持っている業が強くて、ただ生きているだけで何かを壊してしまうことがあると思うんです。でも、あえていろんなものを壊したり作ったりすることで、世の中をリードしていくエネルギーが生まれることは間違いなくあって、そういったアンビバレントな感情や価値観を表現してみたかったんです。
中野 僕もこの曲には小林くんの少年性をすごく感じました。小林くんのルーツミュージック的な要素が強い曲で、例えば歌い回しには、彼が幼少期から聴いていたL'Arc-en-Cielとか、そういうテイストが含まれているんです。それを僕だったらどう見せていくかを考えました。具体的に言うと、僕はちょっと引いた目線で、小林くんの強いありようを見ています。小林くんはすごく丁寧に言葉を考えて世界観を描いていくから、スタイルだけではない、彼なりの哲学を込めた音楽になる。それも含めて、1曲ちゃんと作り上げました。
──最後に、このアルバムのリリースを経て行われる「BIG LOVE TOUR Vol.2 2024 -Voyager-」はどういうものになりそうですか?
中野 前回の「BIG LOVE TOUR」で得られた収穫が「Voyager」には色濃く生かされているので、今度のツアーは僕にとっても小林くんにとっても、これまでの活動の集大成になる気がします。「Voyager」の再現ももちろんあるんですけど、手に入れたものがあまりにも多いので、これまでのキャリア含め、すべてをオーガニックにまとめ上げた壮大なショーにしたいです。
小林 「今日まで人生が続いてよかった」「今日ここで出会えてよかった」と感じられるようなツアーになりそうです。お互いの存在を確かめ合うことで、これからもきっと僕たちはよくなっていく、いい出来事があるんだという予感をプレゼントできるツアーにしたいなと思っています。
ライブ情報
BIG LOVE TOUR Vol.2 2024 -Voyager-
- 2024年9月23日(月・振休)福岡県 BEAT STATION
- 2024年9月28日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2024年10月6日(日)宮城県 Rensa
- 2024年10月27日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2024年10月31日(木)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2024年11月3日(日・祝)東京都 EX THEATER ROPPONGI
プロフィール
THE SPELLBOUND(スペルバウンド)
BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とThe Novembersの小林祐介によって結成されたロックバンド。2019年に行われた中野のボーカリスト募集オーディションを経て、2021年1月に活動をスタートさせた。同年7月に東京・LIQUIDROOMでバンド初のライブとなるワンマン「THE SECOND CHAPTER」を開催し、2022年2月に1stフルアルバム「THE SPELLBOUND」を発表。2023年にはBOOM BOOM SATELLITESのデビュー25周年イヤーに合わせ、同バンドをさまざまな形で再現する“BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Set”体制でライブを行った。2024年8月には2ndフルアルバム「Voyager」をリリース。このアルバムを携えての全国ツアー「BIG LOVE TOUR Vol.2 2024 -Voyager-」が9月から11月にかけて開催される。
THE SPELLBOUND (@THESPELLBOUNDjp) | X