音楽と言葉に導かれ続けたTHE SPELLBOUND、集大成を示した「LOTUS」とこれからの活動ビジョン (2/2)

音楽に導かれ、作為なく活動していく

──「LOTUS」は9月に始まるツアー「BIG LOVE TOUR -BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Special-」のテーマソングのような位置付けの曲なのかなと勝手に想像していました。

中野 去年のツアーはお客さんに「はじめまして」と挨拶する、プレゼンテーションのような印象がありました。その後何回かライブを重ねたことで、THE SPELLBOUNDがどんなバンドか把握してもらえた気がします。今年5月の「BIG LOVE」では、これまでとは全然違う角度からTHE SPELLBOUNDにフォーカスすることで、会場では予想できなかった感情が生まれて。このバンドでBOOM BOOM SATELLITESの楽曲を多数演奏して、初めて体感できたことが多かったです。でも、これはあくまで東京という過密都市で起きたことで、地方都市で同じライブをしたとき、どういう空気が生まれるのかわからない。それがすごく楽しみですね。BOOM BOOM SATELLITESの楽曲と僕たちの一番新しい楽曲「LOTUS」を同時に鳴らしたとき、どんな意味合いが生まれるか。2時間近いライブの中で、音楽のストーリーがどのように展開して、皆さんの気持ちに残っていくか。いろいろ想定しながらセットリストを考え、練習し、そしてライブで起きたことからインスピレーションを得ることができるので、それが次の作品に反映されるはずです。

──「BIG LOVE TOUR」は5月の自主企画「BIG LOVE」を行う前から開催が決まっていたのでしょうか?

中野 最初は想定していなかったんですが、「BIG LOVE」が終わったあと、「すごいことが起こったんじゃないか」という実感があったんですよ。さらにファンの方から「観られなかった」「自分の地元にも来てほしい」というメッセージをたくさんいただいて。「BIG LOVE」をツアー形式でやってみたら絶対にすごいことが起こると確信したし、BOOM BOOM SATELLITESの25周年ということもあって、開催に踏み切ることができました。来年以降の活動も、もっと音楽に導かれるような形で動いてもいいんじゃないかと考えています。

中野雅之(Programming, B)

中野雅之(Programming, B)

──まずやってみてどうなるかが大切だ、と。

中野 2年先までスケジュールを決めているアーティストも多い中、僕らは行きあたりばったりかもしれないけど、正直に作為なくやっていくのがいいかなって。

活動初期のヒリヒリした雰囲気は忘れちゃいけない

──「LOTUS」に付属するBlu-rayについてもお話を伺いたいのですが、本作にはライブ映像だけでなく、ツアーのドキュメンタリーも収められています。去年1月に配信されたドキュメンタリー作品「THE SPELLBOUND | Tongpoo videos vol.4」にはお二人の苦悩や葛藤、歓喜の瞬間が収められていましたが、今回のドキュメンタリーからはバンドの充実感が伝わってきました。

中野 充実した気持ちがあったのは事実ですが、初期のヒリヒリした雰囲気は今でも続いています。僕が生きてきた中でも、特に学びのある時期でした。

──観ているほうもTHE SPELLBOUNDのスタンスについて、学べることや気付いたことが多くありました。

小林 あのヒリヒリした時期は、THE SPELLBOUNDのメンバーとしてどう生きていくのかという点でギアが変わった瞬間でもあって。それを踏まえて、喜びの多い人生を過ごすこと、誰かを幸せにすること、自分も幸せになることを考え、より真剣に行動するようになりました。そういった1つの大切な通過点を、きちんとツアーの中で体験し、映像に残せたという自負があります。目の前のお客さんの笑顔を見て、心地よい疲労感と充実感に満たされるだけではなく、THE SPELLBOUNDがたどってきた集大成がドキュメンタリーとしてパッケージできてよかったです。

小林祐介(Vo, G)

小林祐介(Vo, G)

中野 ドキュメンタリー作品の評価は数年経ってから決まると思うのですが、「THE SPELLBOUND | Tongpoo videos vol.4」は観るのがつらいところがあって。例えば僕が小林くんに対して厳しいことを言っているシーンは「パワハラになるんじゃないか?」と思ったり。やっぱり「自分をよく見せよう」という心理が働くので、できれば使ってほしくないシーンはあったんですけど、穏やかな場面ばかりになるとTHE SPELLBOUNDが求めている本質に触れることができなくなってしまう。だから映像ディレクターの岩井(正人)くんにある程度判断をお任せして、小林くんにきつく言っているシーンも我慢して残しました。

──Zepp Haneda(TOKYO)のライブ映像は観直してみて、いかがでしたか?

中野 LIQUIDROOMでの初ライブとか、STUDIO COAST公演の緊張感とは異質のムードになっているけど、リアルなものが収められていると思います。初ライブの本番前、小林くんがプレッシャーを感じて、体も心もこわばっていた様子はすごく印象に残っているんです。そこからなんとか勇気を振り絞って歌い始めた瞬間はとても感動的で、あれぐらい一生懸命がんばると、確実に何かが起きるんですよね。「こうすればいい演奏ができて、いいライブになる」と予測できると緊張感がなくなるから、最近のライブでも小林くんやサポートメンバーには「初ライブのときを思い出そうよ」と話すことがあります。去年のツアー中も「僕たち今楽しすぎるよね」「余裕すぎるよね」と思った瞬間が何回かあって。ツアーが進むにつれて演奏の不安は解消されるけど、もしかしたら大切なことを忘れちゃってるかもしれない、と。そういう意味では今後も記録として、その時々のリアルな姿を映像で残していけたらいいですね。

ハンディカメラ1台のみで撮影、岩井正人の優れた“気配消し”

──Zepp Hanedaのライブ映像は音のよさもさることながら、繊細かつ迫力を感じる編集も特徴的でした。

中野 これまで発表してきたライブ映像と同じく、今回も岩井くんに撮影してもらい、ドキュメント色の強い作品にしました。以前マルチアングルの映像を撮ったとき、いろいろな角度からバンドや会場、ファンの表情を見ることができるのはいいんですが、どうもライブの臨場感や緊張感が出てこなくて。そこで岩井くんにカメラ1台で撮影してもらったらすごかったので、THE SPELLBOUNDのライブ映像はずっと岩井くんにお願いしています。人の目線はハンディカメラで捉えると一番リアルで、まるでステージ上で演奏を観ているような臨場感がある。それがいいなと思ったんですね。今回は「岩井くんをもう2人増やしたらどうなるんだろう?」という発想で、ハンディカメラ3台をステージに用意して、自由に撮ってもらいました。

──カメラマンがステージ上で自由に動き回って撮影するのは、演奏していて気にならないものですか?

小林 僕は気にならないです。

中野 僕も気にならなかったですね。岩井くんがハンディカメラを持ち、ステージの中で撮影するスタイルは、BOOM BOOM SATELLITESのライブ「JAPAN TOUR 2010 2nd STAGE」が最初でした。幕張イベントホールにセンターステージを作って演奏したんですが、マルチアングルで撮りつつ、客席にもハンディカメラを持ったスタッフが入ったので、30台近く使ったと思います。その中で岩井くんが撮った映像がダントツでカッコよくて、岩井くん単独で撮影してもらうアイデアはずっと温めていました。それでコロナ禍に入って、みんなこぞって配信ライブをやりましたが、ライブを観た気持ちにはなれないので、すぐ食傷気味になってしまって。そんな中僕たちは初ライブを行うことになり、どうやったら臨場感のある映像を作れるか悩んでいたとき、岩井くんのハンディカメラ1台で撮影するアイデアを思い出したんです。岩井くんは撮影中に自分の気配を消すことができて、ドキュメンタリーのカメラマンとしてすごく優秀で。

──だからこそあの映像が撮れたんですね。

中野 スタジオで作業している様子を撮影したときも、岩井くんがいることをすっかり忘れてて、歌詞の議論を侃々諤々やっているときに素の僕が出ちゃって。「やべえ、撮られてた」って焦りました(笑)。

──最後に、THE SPELLBOUNDの今後の活動を教えていただけますでしょうか。

中野 いろいろありますが、今は新しいアルバムを制作中で、来年リリースする予定です。今僕らができることの集大成、1stアルバムからさらに拡張した音楽を聴いていただけるんじゃないかと。

小林 デモの段階ですごいものができあがっているので、楽しみにしていてください。

中野 相変わらず僕は作品リリースのペースが遅くて。勢いを付けて1年に1枚アルバムを出したいけど、そう簡単にはできないですね。ほかにもTHE SPELLBOUND名義でプロデュースする作品がいくつか決まっています。プロデュース業もどんどんやっていきたいですね。

THE SPELLBOUND

THE SPELLBOUND

ライブ情報

THE SPELLBOUND「BIG LOVE TOUR -BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Special-」

  • 2023年9月17日(日)北海道 cube garden
  • 2023年9月24日(日)福岡県 DRUM Be-1
  • 2023年10月14日(土)宮城県 Rensa
  • 2023年10月22日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2023年10月28日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2023年10月29日(日)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)

プロフィール

THE SPELLBOUND(スペルバウンド)

BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とThe Novembersの小林祐介によって結成されたロックバンド。2019年に行われた中野のボーカリスト募集オーディションを経て、2021年1月に活動をスタートさせた。同年7月に東京・LIQUIDROOMでバンド初のライブとなるワンマン「THE SECOND CHAPTER」を開催し、2022年2月に1stフルアルバム「THE SPELLBOUND」を発表。2023年8月にシングルCD+Blu-ray作品「LOTUS」をリリースした。同年9、10月にはBOOM BOOM SATELLITESをさまざまな形で再現する“BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Set”体制のライブツアー「BIG LOVE TOUR -BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Special-」の開催を控えている。