THE ORAL CIGARETTES「MARBLES」インタビュー|コロナ禍で大切なものを失ったあなたに寄り添う歌 (2/2)

すべてを自分の糧にして前に進んでいくしかない

──「聖夜」についてはいかがでしょう。「ただそれだけのことも出来ず 立ちすくんでた」と終わる「隣花」よりも、自分の身に起きた出来事を受け入れられている印象がありました。

山中 コロナがちょっとずつ収まって、ワクチンができて、出口がどんどん見えてくるに従って、ライブの予定も決まったりして俺らのメンタルもだいぶ回復してきたんですよ。そのとき、「このつらい中、よくがんばったな」という達成感があったんですよね。コロナは全世界に影響する出来事でしたけど、個人的な出来事含め、人生って何が起きるかわからへんし、起きてしまった出来事とそれを乗り越えた経験の連続で、人の一生は形成されていくんやなと改めて実感しました。だからこそ、すべてを自分の糧にして前に進んでいくしかない。そう割り切れたからこそ書けた楽曲やと思います。

──「隣花」で始まり「聖夜」で終わる今作は、怒りや悲しみを受け入れながら前へ進めるようになるまでがパッケージングされた、コロナ禍を生きたバンドのドキュメンタリー作品と言えそうです。そして、この作品が怒りや悲しみをうまく吐き出せずにいる人に寄り添えるものになればいいと。

山中 そうですね。

──世間の淀んだ空気を感じているとおっしゃってましたが、この作品を発信することで、社会も少しはいい方向に変化するんじゃないかという可能性や希望は感じられていますか?

山中 そこが冒頭で話した「自分たちの周りから幸せにしていこう」という話ともつながってくるんです。ちょっと話が脱線しますけど、この間、松田翔太くんがニュースキャスターを演じてる「THE TRUTH」というドラマを観たんですよ。犯罪とか痴漢を取り締まっているYouTuberが「俺ら正義のヒーローなんですよ。警察がサボってるから自分たちがやってる」と言っているのに対して、「でもお前、痴漢見つけた瞬間、ニタって笑ったよな?」って松田くんが返すシーンがあって。それを観て、正義って人それぞれやし、人間である以上、承認欲求や欲望はなくせないんやって割り切ることができた。日本の総人口約1億人分の欲望をコントロールするなんて、絶対に無理な話じゃないですか。だから、自分たちが発信した作品に、世界が反応して何かが前に進むのかと言われると……俺らは「はい」と言わなきゃいけない職業かもしれないけど、正直「いや、それはきついんちゃう?」っていう感覚がある。だからこそ、「じゃあ近くにいる人、自分を愛してくれる人にはちゃんと伝えようよ」という話になるんですよね。俺らが目の前にいるファンに伝えれば、その子たちも周りにいる人に共有して、幸せになれるんじゃないかという。その連鎖くらいなら作れると思っています。

4つの円がほとんど重なってる

──欲望や守りたいものを1人ひとりが持っているというのはこの4人も同じで、皆さん1人ひとりがベン図の円だとして、重なる部分があるからこそ、同じバンドに所属しているんだと思います。4つの円は、今どんなふうに重なっていると思いますか?

山中 もう俺ら、円がほとんど重なってるんちゃうかな? 例えば、あきらに「ベースヒーローになりたい」という夢があるとするじゃないですか。20代の頃の俺だったら「そうなん。がんばって」「でも俺はオーラルで上に行きたい。だから、オーラルのためにベースヒーローになってね」という感覚だったんです。別に俺自身はベースヒーローになりたくないので。だけど今は、メンバーの幸せ=俺の幸せって感覚やから。あきらのベースヒーローになるという夢が叶ったら、自分のことのように幸せに感じられると思う。だから4つの円がほとんど重なってるし、みんな同じ1つの島にいるというか。誰かにいいことがあったら島中みんなで喜ぶし、海の外から何言われても関係ないみたいな。

あきら どうしてそういう状態になったのか、僕、めっちゃ心当たりがあって。4人それぞれの幸せに対する価値観をお互いに知った瞬間があったんですよ。拓也が突然“価値観リスト”を持ってきて。

あきらかにあきら(B, Cho)

あきらかにあきら(B, Cho)

山中 あー、あったな! 

あきら どっかのサイトからダウンロードしたんやっけ?

山中 うん、確か。コロナ禍に入りたての頃の俺は、承認欲求が強かったんですよ。今はだいぶ薄れたけど、自分の視界に入りきらない人にすら認められたいという気持ちが強すぎて、苦しくなっていました。そういう時期にSKY-HIと電話で話していたら、「それはたぶん、一生かけても無理だよ。だってお前、そんな簡単に人のこと褒める?」「別の角度からアプローチしてみたら?」と言われて。「なるほど」と思ったので、電話を切ったあとに「今まで自分が何を大事にしながら、どういうふうに過ごしてきたのか、再確認する方法ってないかな?」と考えたり調べたりしたんです。そのときにたまたま見つけたんですよね、価値観リストを。

──その価値観リストというのは、どういうものなんですか?

あきら 健康、友情、承認欲求とか、莫大な項目の中から自分にとって大事なものをピックしていくもので。「俺はお金よりも、健康のほうが大事かな」「家族のことは大事やけど、自分自身は別に長生きせんでもええかな」というふうに。そういう作業を繰り返していくと、最終的に自分にとって大事なものトップ10が決まるんですけど、それをみんなで見せ合ったんです。その日、シゲはおらんかったけど。

山中 いや、シゲにもあとでやらせたはず。

鈴木 うん、なんか大量の質問をもらった覚えがある。一夜漬けのテスト勉強みたいやった(笑)。

あきら 本当に莫大な量なので、全部終わるまでにめっちゃ時間がかかるんですよ。だけどそれをやったことで「確かに拓也はこれを大事にしてる節があったけど、ホンマにそうなんやな」って可視化できて、お互いに対する理解度が深まった気がして。自分のことも知れたし、あれはすごくよかったです。オススメですよ。

──とはいえ、価値観リストを共有しただけでは円がほとんど重なった状態にはなれない気がします。自分が大事にしていることとほかの人が大事にしていることが衝突したときは、譲り合いみたいなことをするんですか?

あきら 譲り合いというより、認め合いですかね。

中西 みんな根本にオーラルへの思いがあったうえで言葉を発したり、アイデアを提案したりしているので、意見が分かれたとしてもそもそも否定する必要もないんですよ。衝突って言うとお互いがエネルギーを消耗するようなマイナスなイメージがあるけど、そうじゃなくて、一旦話し合いのテーブルに出すって感じですかね。どこかで考えのズレがあったとしても、自分が修正すれば解決するのであれば、別に修正すればいいだけやし。

中西雅哉(Dr)

中西雅哉(Dr)

「俺らにはまだ見てない景色がある」と思い出した

──今の話を踏まえて、「IZAYOI」について聞きたいです。「夢の話をしようか 灯を灯せばまだ間に合うはずさ 僕を待って」というバラバラな状態を表しているような歌詞から、「この先で僕ら誓った 必ず見せたい景色の果て 行こう無限の果て」と複数人で同じ方向を見ているような歌詞へ変化していく過程がドラマチックですが、どんなところから生まれた曲ですか?

山中 バンドとして何を大切にしていくか、最終的にどこを目指していくかという、THE ORAL CIGARETTESの価値観リストのド真ん中を音楽に放り込むみたいな感覚で書いた曲ですね。コロナ禍で「いいものをいいと言える自分でありたい」という感覚がどんどん強くなっていった結果、視界がちょっと狭まってしまった瞬間があったんですよ。その時期は「俺はこうしたい」ということばかりに意識が行っていたので、会議であきらから「いや、俺はアリーナツアーをずっとできるバンドでありたいで」って言われたとき、ハッとして。「メンバーはこう思ってる」ということを完全に忘れてしまっていたことに気付かされたんですよね。この曲は最後まで歌詞が決まらなかったんですけど、あきらの言葉をきっかけに「俺らにはまだ見てない景色がある」と思い出したときに、このことを歌詞に書こうと思いました。

あきら 聴けば聴くほど、拓也の声で歌うからこそ響く曲やなって思うし、僕はこれから先、この曲に何度も救われるんだろうなって思います。

中西 オーラルらしいダークなサウンドの曲ですけど、歌詞はポジティブで、光とか無限の可能性をすごく感じさせてくれるんですよね。きっとオーラルのファンはそういうところも汲み取りながら、一緒に楽しんでくれるだろうなと。

鈴木 まだライブでやり始めたばかりですけど、次やるのがすでに楽しみですね。この曲に詰まってるストーリー含め、ライブを通して積み重なっていくものが必ずあると思います。

THE ORAL CIGARETTES

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ライブ情報

THE ORAL CIGARETTES presents "WANDER ABOUT 放浪 TOUR 2023 中国・四国 編"

  • 2024年5月31日(金)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2024年6月2日(日)山口県 周南RISING HALL
  • 2024年6月4日(火)島根県 アポロ
  • 2024年6月5日(水)鳥取県 米子AZTiC laughs
  • 2024年6月7日(金)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2024年6月10日(月)徳島県 club GRINDHOUSE
  • 2024年6月11日(火)高知県 CARAVAN SARY
  • 2024年6月14日(金)香川県 高松festhalle
  • 2024年6月15日(土)愛媛県 niihama Jeandore

THE ORAL CIGARETTES「PARASITE DEJAVU 2024 ~2DAYS OPEN AIR SHOW in IZUMIOTSU PHOENIX~」

  • 2024年10月5日(土)大阪府 泉大津フェニックス(ワンマン)
    OPEN 15:30 / START 17:00
  • 2024年10月6日(日)大阪府 泉大津フェニックス(オムニバスイベント)
    OPEN 9:30 / START 11:00

プロフィール

THE ORAL CIGARETTES(ジオーラルシガレッツ)

山中拓也(Vo, G)、鈴木重伸(G)、あきらかにあきら(B, Cho)、中西雅哉(Dr)からなる4人組ロックバンド。2010年に奈良で結成される。2012年にオーディション「MASH FIGHT!」にて初代グランプリを獲得し、2014年7月にシングル「起死回生STORY」でメジャーデビュー。2017年6月に初の東京・日本武道館公演、2018年2月に大阪・大阪城ホール公演を開催。2019年5月には初のアジアツアーを開催し、8月に初のベストアルバム「Before It’s Too Late」をリリース。9月には大阪・泉大津フェニックスにて初の野外イベント「PARASITE DEJAVU ~2DAYS OPEN AIR SHOW~」を実施し、2日間で約4万人を動員した。2022年には主催イベント「PARASITE DEJAVU 2022 ~2DAYS ARENA SHOW in SAITAMA~」を埼玉・さいたまスーパーアリーナで2日間開催。2023年はツーマンツアー「MORAL PANIC」「THE ORAL CIGARETTES presents "WANDER ABOUT 放浪 TOUR 2023 九州・沖縄 編”」を行い、ライブハウスを中心に活動した。2024年2月から東名阪Zeppツアー「東名阪 Zepp Tour 2024 "MARBLES”」を実施し、3月にEP「MARBLES」を発表。10月には大阪・泉大津フェニックスで主催イベント「PARASITE DEJAVU 2024 ~2DAYS OPEN AIR SHOW in IZUMIOTSU PHOENIX~」を開催する。