The VOCALOID Collection ~2021 Spring~ | カンザキイオリ×まふまふ 二次創作を通じてリスペクトを寄せ合う クリエイター同士の関係

気持ちを躊躇なく100%入れられるのはボカロ

──カンザキさんはいろんな歌い手の方に曲を歌っていただく中で、まふまふさんというボーカリストにはどんな魅力があると感じていますか?

カンザキ 「キーを変えない」という話に近いんですが、声のレンジがすさまじいですよね。すごい高い音程でもちゃんと魂のこもった歌声を出せているのが本当にすごいと思います。「すごい」という言葉では言い表せないくらい、同じ人間なのかなと思うくらい高くて、なんだか化け物みたいな。あっ、これはもちろんいい意味での「化け物」で……。

まふまふ ありがとうございます(笑)。僕の場合は最初から高い声が出てたわけではなくて、活動を通して少しずつレンジが広がってきたんです。特にボーカロイドの曲は人間の女性のボーカル曲よりも高音域なので、キーを変えずに歌うとなると、自分ががんばるしかないんです(笑)。ボカロに出会えたから自分の声が高くなったんだと思います。

カンザキ まふまふさんはどうしてボーカロイドの曲を聴くようになったんですか?

まふまふ もともと僕はボーカルの入っていない音楽、例えばゲームのサウンドトラックとか、インストの曲ばかり聴いていました。人が歌った音楽を聴いていると、感情が自分に流れ込んでくる感覚があって、それはいいこともあるのですが、曲によっては不安になったり、押しつぶされてしまいそうになることもあります。なのでボーカルの入っていない曲を好んで聴いていたのですが、ボーカロイドの曲はそんな僕にも比較的自然に聴けました。だからボカロの音楽が出てから、それを歌っていく中で僕の音楽性が広がっていったような感覚はあります。

──お二人はボカロの魅力はどのようなところにあると考えていますか?

まふまふ 人の声には人の声にしかない魅力があるけど、限界があるんです。例えばそれは音域だったり、テンポだったり。ボーカロイドというソフトウェアが登場したことで、人の声の限界を超えた作品が生まれ、音楽における不可能が可能になったことにすごく意義がある。芸術において、枠を外すこと、可能性を広げることはすごく大事なことで、ボカロの登場はさまざまなシーンの音楽に多大な影響を与えたと思います。

カンザキ ボカロって、簡単に言えば人間ではないので、人間では無理なこともできてしまうんですよね。僕は歌詞を書くのがすごく苦手で、思い付いた言葉を全部詰め込みたくなってしまうんですよ。だから僕の曲は言葉数が多くて、普通に歌おうと思ったらブレスができなかったり、早口になってしまったりして、人間には歌いにくい曲なのかなと思っています。僕は曲に詰め込みたいものがたくさんあるタイプなので、自分が込めたい気持ちを躊躇なく100%入れられるのはボカロなのかなと思います。

まふまふ 「歌詞を書くのが苦手」というのは、すごく意外でした。

カンザキ 苦手なんですよ。詞の書き方とかをちゃんと学んだわけではないので……。

まふまふ えー! カンザキさんの曲は、1曲聴いただけで本を1冊読んだくらいのメッセージ性を感じます!

カンザキ 歌詞を考えるというより、Twitterに自分の気持ちを書くような感覚で、とりあえず言葉を書き連ねるんです。文脈とかは一切気にせず、思ったことをひたすら書くと、自分の気持ちが断片的に言葉の中に込められている気がして。ボカロの音楽ってもともと同人活動の1つと言うか、何をしても自由な気風があって、私にとってはその空気感がすごく心地いいんです。

まふまふ 今日の対談の趣旨とは少しズレてしまうかもしれないのですが、カンザキさんはどのDAWを使っていますか?

カンザキ Studio Oneを使っております!

まふまふ Studio Oneですか! 次世代だなあ。

カンザキ まふまふさんは何を使ってますか?

まふまふ 僕はCubaseなんですよ。Cubaseを作った方々がStudio Oneの制作に携わったから、けっこうソフトとしては近いみたいですね。どうしてStudio Oneにしたのですか?

カンザキ 初音ミクを動かすために必要なPiapro Studioを買ったときに、Studio Oneが付いてきたんですよ。そこからずっとStudio Oneを使っています。まふまふさんはなぜCubaseを選んだんですか?

まふまふ 僕は最初、何もわからなくて、「音楽を作るならこれ!」とアピールされていたACIDというソフトを買いました。ACIDは“ACIDized”された素材のようなものを貼り付けて曲を作るソフトで、生楽器の録音には向いていませんでした。それをあとから知って絶望して……。その後、楽器屋さんへ行って店員さんに「初心者におすすめのソフトはありませんか?」と必死になって尋ねたのを覚えています。そこで買ったのが「Cubase」でした。

カンザキ 店員さんのおかげですね。

まふまふ 実はそのときSonarというソフトとCubaseの2つを薦められていて、僕は何も知らずに「ただ名前がいいから」という理由でCubaseを選びました。カンザキさんは作曲されるときはアコギですか? エレキギターも持ってますか?

カンザキ バイト代で初めて買った2万円くらいのストラトを4年ほど使っているんですけど、僕はまだギターの練習中で、最近ギター教室に通い始めたくらいなんです(笑)。もともとピアノを弾いていたので、ピアノから曲を作ることのほうが多いかもしれないですね。

まふまふ 鍵盤弾きの方で、ギター映えするロックも書けるのは本当にすごい才能だと思います。てっきりエレキギターを使ってらっしゃるものだと思っていました(笑)。

カンザキ まだ全然弾けないんですよ。

まふまふ 今度よかったらギターを見に行ったりしましょうよ。

カンザキ ええ!? じゃあそれまでにちゃんとギターのことを話せるようにならないと……。

まふまふ そんなに準備しなくても大丈夫ですよ(笑)。ギター以外にも、カンザキさんとはいろいろとお話してみたいので。

ボカロは“日常からの脱獄”だった

──まふまふさんはオリジナル曲の制作やライブ活動、カンザキさんは楽曲提供や小説の執筆といった作家業など、活動そのものが多岐にわたっている印象があります。そんな中で2人は自身の原点である活動“歌ってみた”の投稿やボカロでの曲作りを止めない理由はなんですか?

まふまふ いろいろな理由はありますが、自分でオリジナル曲を作るようになって感じるのは、自分以外の方々が作った楽曲をカバーさせていただくのは、音楽を学んでいる感覚に近いのです。先ほども話したように、僕は日常的に歌モノの音楽を聴く人間ではなかったこともあり、人様の楽曲を歌わせていただいて、実際に歌詞を口にすることで、初めて噛み砕いて理解できる瞬間がある。自分の人生において、できないことをできるようにすることこそが成長だと思っているので、自分の知らないことを知っている方たち、自分に作れない音楽を作っていらっしゃる方たちがたくさんいらっしゃるのが、この動画カルチャーだと思っています。もちろん僕は歌うことも大好きなので、充実感と満足感、幸福感を得ながら活動できているのはすごく幸せなことです。いろんな方々に「もっとアーティストとしての活動に方向を変えたら?」と言われたことはありますが、僕の始まりは歌い手で、自分であり続けることに意味があると思っています。だから僕は絶対に歌い手としての活動をやめたくないですね。

カンザキ 僕も自分の原点がボカロにあることが大きいかもしれないです。初めてボカロで曲を作り始めたとき、僕は人に何か物事を伝えるのが苦手な人間だったんです。自分の感情を表に出せないタイプの人間で、そんな自分が感情を表現できる1つのツールとしてボカロがあった。僕にとって、ボカロで曲を作ることは“日常からの脱獄”だったんですよね。今は当時とは少し違う日常になっているかもしれないけど、その感覚はあまり変わっていなくて、自分の逃げ道でもあり安心していられる場所だからボカロをやっている感覚があります。もちろん、新しいことにも挑戦したいからいろんな勉強をしていますけど、ボカロを辞めようと思ったことはないですね。

──お二人ともボカロのカルチャーを起点にいろんな活動につながっている中で、まふまふさんは5月5日に史上初となる東京ドームでの全世界配信無観客ライブを開催します。大舞台に向けて、今の心境を聞かせてください。

まふまふ「ひきこもりでもLIVEがしたい!~すーぱーまふまふわーるど2021@東京ドーム~ONLINE」告知ビジュアル

まふまふ 僕が歌い手の活動を始めて10年も経つのですが、まだ誰もやったことのないこと、誰もチャレンジしてこなかったことを成し遂げたいという思いが強くあります。いろんな方々に力を貸していただいたおかげもあって、未開拓のところまで、まふまふを連れてきてもらった感覚もあります。だったら、思いっきりやってやろうと思って、東京ドームでの無観客ライブ、しかも無料で配信するということに挑戦してみました。普通に考えたら無料でやるなんて馬鹿なことなんですが……(笑)。でもきっと、いろんな方々に「まふまふだったらやってくれる」と思ってもらえたからこそ実現できることだと思うので、絶対にやり遂げたいです。みんなへの感謝ももちろんありますが、自分のためにやります。本当はもっとお話したいことがあるのですが、それは東京ドームの公演が終わってからお話します。

カンザキ まふまふさんのような壮大な予定はないんですが、ボカロ以外の場所で自分の表現を出せるように、小説を執筆してみたり。あとは最近絵を描くことにも挑戦しているんです。曲作りの合間に動画を見ながらソファで延々と絵を描いてます。

まふまふ ペンタブで描いているんですか?

カンザキ ペンタブではなくて、iPadを買って描いています。

まふまふ iPadもすごくいいらしいですね。いろいろな機能があってすごく便利みたいで。

カンザキ すごいんですよ、滑らかで。iPadだと仕事でも使えますし、絵を描くのも楽しいので、ぜひまふまふさんも……。

まふまふ 僕は「画伯」と揶揄されてしまうくらい絵が下手なので、厳しいかもしれないです(笑)。でもカンザキさんの描く絵がどんなものか、すごく気になりますね。

カンザキ まだまだ絵描きとしては新人なので、うまくは描けていないと思いますが、将来的には自分の描いた絵でジャケットとかもデザインできたらいいなと思っています。

まふまふ すごくいいですね。僕もイラストにチャレンジしたことはあるのですが、あまりにも下手で挫折してしまい……。

カンザキ 楽しいのでいつか一緒になんか、絵かき通話とかもしてみたいですね。対談の最後なのに、音楽に関係ない話になってしまいすみません。

まふまふ とんでもないです! ぜひ今後ともいろいろとよろしくお願いします!