TETORA上野羽有音インタビュー|12カ月の記憶や思いを詰め込んだアルバム「13ヶ月」

TETORAの通算4枚目のフルアルバム「13ヶ月」が6月19日にリリースされた。

「13ヶ月」には「1月」から「12月」まで“12カ月”をタイトルにした全12曲を収録。上野羽有音(Vo, G)が歌詞でそれぞれの月にまつわる記憶や思いを表現した、コンセプチュアルな1作になっている。本作のリリースを記念して、音楽ナタリーでは上野にインタビューし、本作に込めた思いや制作エピソード、8月に控えているバンド初となる東京・日本武道館ワンマンライブへの意気込みを聞いた。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 柏井彰太

全曲聴きたくなるようなアルバムにしたい

──約2年ぶりとなるフルアルバム「13ヶ月」には、「1月」から「12月」まで、12カ月をタイトルにした全12曲が収録されています。このコンセプトはどのように思いつきましたか?

「みんなが全曲聴きたくなるようなアルバムにしたい」という気持ちがとにかく強かったので、そのためにどうしたらいいか、聴いてくれる人にとって特別な1枚にするにはどうしたらいいかを考えて。そのときに1月から12月まで、みんなそれぞれの月に嫌でも思い出があるやろうなと思ったんです。 

上野羽有音(Vo, G)

──時間は誰にでも平等に流れるものですからね。

私が「1年が終わったな」と思うのは、12月じゃなくて1月で。私にとって1月は振り出しに戻った月じゃなくて、前の年の12カ月間で感覚も考え方も変わってから訪れる月だから、“13ヶ月目”なんですよね。「13ヶ月」というアルバムタイトルはそこから付けました。

──アルバムのラストを飾る曲は「1月」。前年を振り返ったり「今年はこうありたい」と歌ったりしていて、まさに“13ヶ月目”という感じが伝わってきます。

みんな1月にその年の目標や夢を決めるけど、目標を知らん間に忘れてたり、夢が叶わへんかったりしていると思うんです。だけどそれで振り出しに戻るわけじゃないし、結果よりも “今”が大事やなと。このアルバムの1曲目から12曲目まで聴いて、また1曲目を聴き始めたときに、最初とは違う感覚で聴いてもらえたらいいなと思ってます。

──曲順についてはいかがでしょう。「1月」から「12月」まで順番に並んでいるわけではないですよね。

1月から順に並べるという考えは最初からなかったです。自分の中の記憶って、順番通りに残ってないというか、バラバラやから。

──その感覚はすごくわかります。

曲の方向性については、アルバムやからいろんなタイプの曲を作ってバランスを取るというよりは、最初から最後まで聴いてほしいからこそ、全曲シングルでもいけるくらいの気持ちでそれぞれ作りました。

──前作「こんな時にかぎって満月か」と比べて、バンドのサウンドがパワフルになったように感じました。

ライブのときの音になるべく近付けるために、アルバム制作のときにローディーさんに来てもらったんですよ。そのおかげですね。ありがたいです。

──自分たちの演奏についてはいかがでしょう。前作とは違う手応えを感じていますか?

普段やってないようなことに挑戦しましたね。たぶん音楽やってへん人からしたら気付かへん程度のことですけど。制作中は、自分の中にイメージはあるのに普段やってないことやからなかなか形にできないということがけっこうありました。

──そういうハードルを1つひとつ乗り越えながら形にしていったんですね。

そうですね。ドラムのミユキちゃんはコーラスをがんばってくれたし、私の無理な注文も受けてくれて。例えば「12月」の大サビではドラムがだいぶ速いリズムなんですけど、スタジオでこういうふうにやってほしいとお願いしたときにちょっと嫌な空気になって(笑)。ミユキちゃんは最初は「無理やし」と言っていたけど、めっちゃがんばってくれました。ベースのいのりさんにも、いろいろ大変な思いをさせてしまったと思います。「1月」のベースリフは指の運びの難易度が高くて、私から「こうやって弾いて」とお願いしたんですけど、いのりさんは手が小さいから、弾いてるときの手の形が大変なことになっていたんですよ。だけどがんばってくれた。私自身も、自分で考えたギターのフレーズがなかなか弾けないみたいなことがけっこうありましたけど、アルバムが完成したときにはがんばってよかったなと思いましたね。3人にとって新しいことに挑戦できたし、大変だったけど、イメージを形にできたので。

上野羽有音(Vo, G)
上野羽有音(Vo, G)

20代前半に感じた葛藤

──季節の曲を書く場合、季節のイベントやモチーフの扱い方に書き手の個性が出る気がします。例えば「8月」の「綺麗だとは言えない海」というフレーズにはドキッとさせられました。夏の曲といえば海を青くてきれいなものとして描いていることが多いのに、「綺麗だとは言えない」と書いてしまうんだ、と。

えっ? でもきれいな海ってあんまりなくないですか?

──実際には濁った海のほうがよく見かけますよね。だからすごくリアルな描写だなと思いました。

そんなところ褒めてもらったことなかったです。「8月」では「公園とぬるくなった缶チューハイ」「バイトの先輩」「予鈴の小走り」というふうにいろいろと言葉を並べているんですけど、これは自分の“8月”の記憶をザーッと書いていった感じで。海はきれいだとは言えなかったけど、それにまつわる記憶は私の中できれいな過去なんですよ。

上野羽有音(Vo, G)

──そういうふうに、上野さんの感性が読み取れるフレーズが今作にはたくさんあります。ほかの曲についても伺いたいのですが、「2月」は「愛の言葉も またねも ため息も あったかい言葉も 真っ白になっちゃうなら ちゃんと伝えよう」というフレーズが印象的でした。この歌詞はどのようなことを考えながら書いた曲ですか?

寒い日にしゃべっていると、息が白くなるじゃないですか。それを見ていると、息と一緒に言葉まで白くなって、自分の思いを見透かされているような感覚になるときがたまにあるんです。「見透かされてるんやったら、いっそのこと本音を言っちゃってもいいよね」「冬を口実に、普段言わへんことも言えちゃったらいいな」という思いを曲にしました。

──その季節ならではのことをきっかけに、自分の気持ちに素直になる描写は「3月」にもありますね。「桜みてなら言えるかなー」というふうに。桜にも何か思い入れが?

桜の季節は毎年ライブをいっぱいしているから、気付いたら散っていることが多いです(笑)。移動中に車の窓から見るくらいで印象的な思い出は特にないんですけど、この歌詞は「桜が“言い訳”になればいいな」と思って書きました。直接は言えへんことでも、桜を見ながらやったら言えるかなって。

上野羽有音(Vo, G)
上野羽有音(Vo, G)

──「6月」は言葉遊びが印象的でした。

(紙資料を見ながら)「6月」の歌詞、ほかの曲と並べてみるとこんなに長いんですね。この曲には、20代前半から感じてきた葛藤を詰め込みました。私は京都出身なんですけど、栄えてる地域に住んでる人からしたら「そこは京都じゃない」と言われそうな地域に住んでたんです。田んぼばっかりの田舎から、バンド活動を始めるために大阪に引っ越して、一人暮らしを始めたんですけど、バンドもやし、恋愛もやし、いろいろな悩みがあって、そのときは1人で戦っているような状態やった。当時は自分の子供っぽい部分、今まで聴いてきた音楽、おとぎ話、お兄ちゃんが聴いてた曲……そういうものが頭の中でグルグルしていて。だから、歌詞にもいろいろな要素が入ってるんやと思います。

──「7月」は「慣れない足の指より 空に下弦の月」というフレーズが素敵だと思いました。

うれしい。浴衣を着ていることを“浴衣”という言葉を使わずに伝えたかったんです。月の形の意味を調べたときに、下弦の月は飽き性という意味だと知って。一目惚れされたけど、「すぐ飽きられるんちゃうんかな?」と不安に感じているイメージを歌詞にしました。

──「10月」は「明日から君に敬語 明日からは 君は先輩」という歌い出しから、いろいろなシチュエーションが想像できますね。

この曲は説明しすぎたらダメな気がするので詳しくは言いませんけど、ちょっと怒りながら書いた曲ですね。歌い出しの部分は、「今までは普通に話してましたけど、明日からは敬語で話しますからね? もう知らないですからね?」という感じ。